保存修復|歯頸部の非う蝕性病変(NCCL)に2種類以上の接着材を18か月以上比べた臨床試験87本を集め、修復物の脱落を年間失敗率にして接着の分類ごとに比べたシステマティックレビュー(Peumans・De Munck・Mine・Van Meerbeek 2014・Dental Materials)
くさび状欠損に詰めたCRやグラスアイオノマーが、数年後に外れていた。歯頸部はアンダーカットが少なく、接着の差がそのまま脱落に出ます。Peumans らは2014年、この部位の臨床試験87本を集め、接着の分類ごとに1年あたりの脱落の割合を比べました。年間失敗率の平均はグラスアイオノマー系2.0%、2ステップのマイルドなセルフエッチ2.5%、3ステップのエッチ&リンス3.1%、1ステップのマイルドなセルフエッチ3.6%で(マイルド=pH1.5以上)、この4つの間に有意差は検出されませんでした。2ステップのエッチ&リンス5.8%と2ステップのストロングなセルフエッチ(pH1.5より低い)8.4%は高く、同じ分類の中でも製品ごとの差が大きかったのです。ただし評価は脱落だけで、15本は学会抄録だけの試験です。
①くさび状欠損の修復、どの接着材が外れにくい?
歯頸部のくさび状欠損や摩耗のくぼみ(非う蝕性の歯頸部病変)にCRを詰めたら、数年後にきれいに外れていた。そんな経験はありませんか。この部位はアンダーカットが少なく、接着が弱いと、そのまま修復物の脱落につながります。
では、どの接着材を選べば外れにくいのか。ベルギー・ルーヴェン大学の Peumans らのグループ(共著者の Mine は大阪の歯学研究科の所属)が2014年に Dental Materials に出したシステマティックレビューは、歯頸部の非う蝕性病変(NCCL)の臨床試験87本を集め、接着材の分類ごとに「1年あたりどれだけ外れたか」を比べました。
・歯頸部の非う蝕性病変に、2種類以上の接着材を18か月以上比べた臨床試験87本(72本は論文、15本は学会抄録だけ)を集めたシステマティックレビュー。評価したのは修復物の脱落だけで、年間失敗率(脱落した割合÷追跡年数)で比べた
・分類ごとの年間失敗率の平均は、グラスアイオノマー系 2.0%、2ステップのマイルドなセルフエッチ 2.5%、3ステップのエッチ&リンス 3.1%、1ステップのマイルドなセルフエッチ 3.6%で、この4つの間に有意差は検出されなかった。2ステップのエッチ&リンス 5.8%と、2ステップのストロングなセルフエッチ 8.4%は、それらより有意に高かったと著者らは書いている
・同じ分類の中でも製品ごとの差が大きく、3回以上試された製品どうしの検定では、グラスアイオノマー系と2ステップのマイルドなセルフエッチ以外は、製品の間に有意差があった(マイルド=pH1.5以上、ストロング=pH1.5より低いセルフエッチ)
・マイルドなセルフエッチを調べた7試験では、エナメル質だけを先にリン酸でエッチングしても、脱落に有意差は検出されなかった
②なぜこの研究が必要だったか
接着材は、実験室では健全な歯を使って試されることが多く、作った直後は強く付いても、人工的に劣化させると接着強さが大きく落ちる製品が多いと報告されてきました。実験室の値がそのまま臨床の成績を表すとは限りません。
著者らは、歯頸部の非う蝕性病変が接着材の臨床での実力を測るのに最も向いた場だと書いています。よくある病変で、頬側にあって処置しやすく、エナメル質と象牙質の両方にかかり、何よりアンダーカットなどの機械的な保持がほとんど無いため、接着が効かなければ修復物が外れるからです。脱落は、研究グループが違っても比べやすい、最も客観的な指標でもあります。
接着材は製品の入れ替わりが速く、著者らのグループが以前(1998〜2004年の試験を対象に)まとめたレビューも古くなっていました。そこで改めて、接着の方式ごとに臨床成績をまとめ直したのがこの論文です。
③何をどう調べたか
・探した範囲:MEDLINE(Ovid、1950〜2013年)と、国際歯科研究学会(IADR)の全学会の抄録(1965〜2013年)。採用した試験と関連する総説の文献リストも調べた。言語の制限なし
・採用した試験:歯頸部の非う蝕性病変で、2種類以上の接着材(グラスアイオノマー系を含む)を比べ、追跡が18か月以上の比較臨床試験。方法の節には無作為化試験と非無作為化の比較試験と書かれている(抄録には無作為化比較試験だけとある)。う蝕と非う蝕の混在、メーカーの指示どおりに使っていない、追跡率が極端に低い(18か月で75%を下回るなど)試験は除いた
・接着材の分類:3ステップのエッチ&リンス(3E&R)、2ステップのエッチ&リンス(2E&R)、2ステップのセルフエッチ(2SE)、1ステップのセルフエッチ(1SE)、グラスアイオノマー系(GI。接着材ではなく修復材そのもので、CRを付けるための接着材とは使い方が違う)、自己接着性CR(臨床試験が無く対象外)。セルフエッチはさらに、pH1.5以上の「マイルド」(-m)とpH1.5より低い「ストロング」(-s)に分けた
・評価:修復物の脱落だけを、年間失敗率(脱落した割合÷追跡年数)にして、製品ごと・分類ごとに求めた。試験ごとの評価基準や患者の選び方の違いを一部補正するため、試験ごとの補正値を足し、長期の試験に重みを付けた平均を使っている
・解析:分類の間の差は一般線形モデルと Tukey の多重比較、同じ分類の中の製品差は、3回以上試された製品だけで Kruskal-Wallis 検定。エナメル質の選択的エッチングの影響は、Mantel-Haenszel 法のオッズ比で見た
・集まった試験:87本(論文72本・抄録だけ15本)。ほとんどが大学で行われ、開業医での試験と病院での試験が1本ずつ。78の接着材(材料)が試されていた
④結果1:分類で年間失敗率に差があった
分類ごとの年間失敗率の平均(標準偏差)は、低い順に次のとおりでした(%/年)。
・グラスアイオノマー系:2.0(1.4)
・2ステップのマイルドなセルフエッチ:2.5(1.5)
・3ステップのエッチ&リンス:3.1(2)
・1ステップのマイルドなセルフエッチ:3.6(4.3)
・1ステップのストロングなセルフエッチ:5.4(4.8)
・2ステップのエッチ&リンス:5.8(4.9)
・2ステップのストロングなセルフエッチ:8.4(7.9)
著者らは結果の本文で、グラスアイオノマー系・2ステップのマイルドなセルフエッチ・3ステップのエッチ&リンス・1ステップのマイルドなセルフエッチの4つの間に有意差は検出されず、この4つは2ステップのエッチ&リンスと2ステップのストロングなセルフエッチより有意に低かった(p<0.05)と書いています。1ステップのストロングなセルフエッチは、グラスアイオノマー系との間にだけ有意差がありました(p=0.02)。
ただし、原著の図1(分類ごとの平均と標準誤差の図)は、点の位置が本文の平均値と一致せず、有意差を示す記号では1ステップのマイルドなセルフエッチと2ステップのエッチ&リンスが同じ記号を共有しています。この点について原著に説明はありません。上の図は本文の値で描いています。
追跡の長さで分けると、グラスアイオノマー系・3ステップのエッチ&リンス・2ステップのマイルドなセルフエッチの平均は短期(18か月〜3年)・中期(3〜5年)・長期(5年を超える)で比較的安定していました。1ステップのセルフエッチと2ステップのストロングなセルフエッチは長期で下がっていますが、著者らは、長期の試験2本で脱落が少なかった影響だと説明しています(長期の試験での評価は分類ごとに3〜11回と少数)。
⑤結果2:同じ分類でも製品で大きく違った
同じ分類の中でも、製品によって年間失敗率は大きく違いました。3回以上試された製品で比べると、3ステップのエッチ&リンス(p=0.002)、2ステップのエッチ&リンス(p=0.001)、1ステップのマイルド(p=0.01)とストロング(p=0.02)なセルフエッチ、2ステップのセルフエッチ(p=0.009)で製品の間に有意差がありました。グラスアイオノマー系(p=0.7)と2ステップのマイルドなセルフエッチ(p=0.1)だけは、製品の間に有意差を検出しませんでした。
原著の表6から、何回も試された製品の例を挙げます。2ステップのマイルドなセルフエッチで最も多く試された Clearfil SE Bond(クラレノリタケ)は12回で年間失敗率2.2%、3ステップのエッチ&リンスで最も多く試された Adper Scotchbond Multi-Purpose(3M ESPE)は13回で3.9%、2ステップのエッチ&リンスで最も多く試された Scotchbond 1(3M ESPE)は17回で3.8%でした。同じ2ステップのエッチ&リンスでも、One-Step(Bisco)は4回で17.1%でした(表6の値。考察の本文では17.4%と書かれています)。
著者らは、マイルドなセルフエッチやグラスアイオノマー系が歯質のハイドロキシアパタイトと化学的に結合できることが、良い成績の理由だろうと考察しています。ただしこれは実験室の知見にもとづく著者らの解釈で、このレビューが直接確かめたものではありません。
⑥結果3:エナメル質の選択的エッチングは有意な差にならなかった
マイルドなセルフエッチ(1ステップ・2ステップ)の前に、エナメル質の辺縁だけをリン酸でエッチングした群としなかった群を比べた試験が7本ありました。年間失敗率の平均は、エッチングなし 1.43%(標準偏差1.77)、エッチングあり 0.43%(0.49)でした。
まとめたオッズ比(Mantel-Haenszel 法)は0.439(括弧内の区間 0.133〜1.45。原著に信頼水準の記載なし)で、エッチングありの方向に傾いていましたが、有意差は検出されませんでした(p=0.167)。7本のどの試験も、単独では有意差を示していません。
なお著者らは、セルフエッチではエナメル質の辺縁に小さな辺縁欠損や着色が早く出やすいという他の臨床研究を引いています。このレビューは脱落だけを解析しており、辺縁の着色や適合は解析していません。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・分類だけでなく製品を見る:同じ分類の中でも製品で大きく違った。著者らは、歯頸部での中期〜長期の臨床成績が示された製品を選ぶよう勧めている
・エナメル質の選択的エッチングは、脱落については有意な差にならなかった:辺縁の着色や欠損まで含めた判断は、このレビューの外にある
グラスアイオノマー系は脱落が最も少なかった一方で、著者らは、表面の粗さ・色の安定性・摩耗といった見た目や強さの面ではレジン系の修復材に劣ると書いています。脱落だけで材料を決めず、見た目の要求や部位と合わせて選ぶ材料にしたい一本です。
(2)年間失敗率は「脱落した割合÷追跡年数」で、毎年同じ割合で外れることを前提にした指標です。87本の試験は評価基準も患者もばらばらで、著者らの補正もその違いを一部しか吸収できません。15本は学会抄録だけの試験で、個々の試験の質(偏りのリスク)を評価した記載はありません。
(3)原著の中に食い違いがあります。採用した試験は抄録では無作為化試験だけ、方法では非無作為化の比較試験も含むとされています。抄録の有意差の書き方(p>0.05)や、図1の点と記号は、本文の数値・有意差の記載と合わない所があります。
(4)2014年の論文で、扱われた製品の多くは古く、著者らがマルチモード(ユニバーサル)として触れた接着材の臨床データは、18か月の1試験だけでした。採用された試験には著者らのグループの試験も含まれます。資金・利益相反の記載はありません。
(5)同じ問いを扱った別のシステマティックレビュー3本は、選んだ試験や評価の指標が違い、結論も異なる(2ステップのセルフエッチが最も良い・分類の間で同程度・根拠が足りない)と、著者ら自身が紹介しています。
「歯頸部の修復物が外れるかどうかは、接着の方式と製品の両方で変わり得る」ことを、87本の臨床試験から数字で示してくれた点で、材料選びの物差しになる一本です。今の製品での続報も見ていきたいところです。
今日のひとこと
歯頸部の非う蝕性病変の修復物の脱落は(グラスアイオノマー系は修復材そのものの成績)、グラスアイオノマー系・2ステップのマイルドなセルフエッチ・3ステップのエッチ&リンス・1ステップのマイルドなセルフエッチで年間失敗率が低く、2ステップのエッチ&リンスと2ステップのストロングなセルフエッチで高かった。しかも同じ分類の中でも製品で大きく違いました。評価は脱落だけで、試験の条件もばらばらなので、「接着の方式で選び、さらに歯頸部での中期〜長期の臨床成績がある製品を選ぶ」という物差しとして受け取るのが、この論文に合った読み方です。


