1問1答 論文 保存修復

象牙質のひびは、どこで曲がる?——細管を入れた20μm四方の2次元数値モデルでは、歯髄側ほどき裂が細管に引き寄せられて曲がり、細管周囲象牙質の微小き裂が増えた。髄室天蓋の3層で比べると、全体の吸収エネルギーは外層が最も大きかった(Maghami 2021)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|下顎第一大臼歯の象牙細管の文献データから20μm四方の2次元モデルを作り、フェーズフィールド法でき裂の発生と進み方を計算した数値シミュレーション研究(Maghami・Pejman・Najafi 2021・Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials)

深い窩洞の底、歯髄に近い象牙質。同じ象牙質でも、外側とはひびの入り方が違うのでしょうか。Maghami らは2021年、象牙細管と細管周囲象牙質を描き込んだ2次元のモデルで、き裂の進み方を計算しました。歯髄側のモデルほど、き裂は細管に引き寄せられて曲がり、細管周囲象牙質から出る微小き裂が増えました。髄室天蓋の歯髄側・中層・外層の3モデルで比べると、壊れるまでに吸収した全体のエネルギーは外層が最も大きく、歯髄側は壊れ始めの荷重が最も低いという結果でした。ただし20μm四方の2次元の数値シミュレーションで、細管周囲象牙質の割れにくさは仮定の値です。実際の歯の破折や修復の成績を測った研究ではありません。

論文
Fracture micromechanics of human dentin: A microscale numerical model
著者
Ebrahim Maghami、Reza Pejman、Ahmad R. Najafi(米国・ドレクセル大学 機械工学・力学科)
掲載
Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials 2021;114:104171
種類
2次元の数値シミュレーション研究(ヒト・動物・抜去歯の実験は含まない)。下顎第一大臼歯の象牙細管の文献の計測値(Chu 2010)から、20μm四方・初期き裂1.5μmの平面ひずみモデルを作り、細管(穴)・細管周囲象牙質(PTD)・管間象牙質(ITD)を描き込んだ。4部位×3層の12モデル、細管の配置を比べる3モデル、細管を入れない参照モデルについて、PTDの弾性率と割れにくさ(臨界エネルギー解放率)を変え、フェーズフィールド法(Abaqus)で完全に割れるまで計算した。PTDとITDの割れにくさは測られておらず、他の数値研究の提案にもとづく仮定の値
資金・利益相反
ドレクセル大学の着任時研究費と、米国ペンシルベニア州の助成(損傷に強いUHPC複合材料の設計という研究課題・カーネギーメロン大学経由)の記載あり。利益相反は無いと記載
PMID
33218927

①歯髄に近い象牙質、ひびの入り方は外側と同じ?

深い窩洞の底に残った、歯髄に近い象牙質。顕微鏡で見ると、外側の象牙質より象牙細管が多く、太いことはよく知られています。では、この「細管の多さ」は、ひびの入り方を変えるのでしょうか。

この問いを、実験ではなく計算で調べたのが、米国ドレクセル大学の Maghami・Pejman・Najafi が2021年に Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials に出した論文です。象牙細管と、その周りを囲む細管周囲象牙質を描き込んだ小さな2次元のモデルを作り、き裂がどう生まれ、どう進むかを計算しました。

結論を先に書きます。
・20μm四方の2次元モデルによる数値シミュレーション研究(下顎第一大臼歯の細管の文献データで作成。ヒトや抜去歯の実験は含まない)
・歯髄側のモデルほど、き裂は細管に引き寄せられて曲がり、細管周囲象牙質(PTD)から出る微小き裂が増えた。細管の少ない外層のモデルでは、き裂はほぼまっすぐ進んだ
・髄室天蓋の歯髄側・中層・外層の3モデルで比べると、壊れるまでに吸収した全体のエネルギーは外層が最も大きく、歯髄側は壊れ始めの荷重が最も低かった
・PTDの割れにくさを低く設定するほど微小き裂が増え、PTDの弾性率(硬さ)を変えても影響は小さかった。ただしPTDの割れにくさは測られておらず、仮定の値

②なぜこの研究が必要だったか

象牙質の中を、象牙細管が歯髄から外へ放射状に走っています。細管の周りは、薄くて石灰化の強い細管周囲象牙質(PTD)が袖のように囲み、その間を、コラーゲンを含む管間象牙質(ITD)が埋めています。著者らは序論で、文献にもとづき次のように整理しています。

・細管の密度と太さは、歯髄の近くのほうがエナメル象牙境の近くより大きい。PTDの厚みは、歯髄側から外側へ向かって増える
・これまでの実験では、き裂がPTDとITDの境目でそれる、コラーゲン線維が橋渡しをする、微小き裂ができる、割れ残った部分が橋になる、といった「割れにくくする仕組み」が報告されてきた
・数値計算の研究もいくつかあるが、PTDとITDが微小き裂やき裂のそれ・枝分かれにどう関わるかは、まだ十分には分かっていなかった

そこで著者らは、複雑な割れ方も追いやすいフェーズフィールド法(き裂を「割れ具合」の連続した分布として計算する方法)を使って、象牙質の部位ごとの割れ方を調べました。

③何をどう調べたか

表2 この研究のモデルと設定(2次元の数値シミュレーション) 項目 設定 モデル 2次元(平面ひずみ)・20μm×20μm・初期き裂1.5μm 形のデータ 下顎第一大臼歯の文献の計測値(Chu 2010) 細管とPTD 細管径0.7〜1.9μm・PTD厚0.12〜0.45μm・配置はランダム 領域別のモデル 4部位×3層=12個(C1〜C12) 配置を比べるモデル 髄室天蓋の歯髄側のデータで3個(CR1〜CR3) 参照モデル 細管とPTDを入れずITDだけ(CRef) 弾性率 ITD 12GPa・PTDはその1.5・2・3倍 割れにくさ ITD 0.55N/mm・PTDはその0.8・0.5・0.1(仮定) 計算 フェーズフィールド法・上の辺を少しずつ変位させ完全に割れるまで 4部位=髄室天蓋・髄室壁・歯根の歯冠側・歯根の中央。3層=歯髄側・中層・外層。CR1〜CR3 は細管の数と、PTD・細管 の面積の割合(12%・17%)をそろえ、細管の太さ・PTDの厚み・配置だけを変えた。 割れにくさ=臨界エネルギー解放率。ITDの値は外層の象牙質の破壊靭性の文献値から計算。PTDとITDの割れにくさは測ら れておらず、PTDの値は他の数値研究の提案にもとづく仮定。PTDとITDの境界は、はがれない設定。
表2:この研究のモデルと設定(原著の方法の節 2.1〜2.3 から筆者が整理)。2次元の数値シミュレーション。

・モデル:細管の長軸に直交する断面を、2次元(平面ひずみ)で表した20μm×20μmの正方形。細管は円い穴、その周りにPTD、外側をITDとし、長さ1.5μmの初期き裂を入れた。細管の位置はランダムに置き、PTDとITDの境目は、はがれない設定
・形のデータ:下顎第一大臼歯の象牙質を計測した文献(Chu 2010)の値。細管の直径0.7〜1.9μm、PTDの厚み0.12〜0.45μm。細管の数は、部位ごとの密度の中央値から決めた
・比べたもの:(1) 髄室天蓋・髄室壁・歯根の歯冠側・歯根の中央の4部位それぞれの、歯髄側・中層・外層の12モデル(C1〜C12)。(2) 髄室天蓋の歯髄側のデータで、細管の数とPTD・細管の面積の割合をそろえ、細管の太さ・PTDの厚み・配置だけを変えた3モデル(CR1〜CR3)。(3) 細管とPTDを入れず、ITDだけにした参照モデル(CRef)
・材料の設定:ITDの弾性率を12GPaとし、PTDはその1.5・2・3倍。割れにくさ(臨界エネルギー解放率)は、ITDを0.55N/mm(外層の象牙質の破壊靭性の文献値から計算)とし、PTDはその0.8・0.5・0.1に設定。PTDとITDの割れにくさを測った研究は無く、PTDのほうが割れやすいという他の数値研究の提案にもとづいた仮定
・計算:モデルの上の辺を少しずつ変位させ、完全に割れるまで計算した。壊れ始めの荷重(DIL)、割れ始めるまでと割れ始めた後に吸収したエネルギー(We・Wf)、その合計の全体の吸収エネルギー(Wtot)を求め、参照モデルとの比で比べた

④結果1:歯髄側のモデルほど、き裂は細管へ曲がった

まず、12の部位のモデルを同じ材料の設定(PTDの割れにくさ=ITDの0.8、弾性率=ITDの1.5倍)で、最後まで割りました(原著の図6)。

・微小き裂:PTDから出る微小き裂が、割れにくくする仕組みの1つとしてよく見られた。微小き裂は、細管の数が増えるにつれて、外層から歯髄側へ向かって増えた
・き裂のそれ:細管には応力が集中するため、主き裂は細管に引き寄せられた。細管の密度の高い歯髄側と中層では、き裂が元の道筋からそれて細管のほうへ進んだ
・外層:き裂は大きくそれずにまっすぐ進み、細管がき裂の先端の近くにある所だけでそれた
・参照モデル(細管なし):き裂はまっすぐ進み、き裂のそれも、微小き裂も、割れ残りの橋渡しも見られなかった

⑤結果2:髄室天蓋の3層では、外層の全体の吸収エネルギーが最も大きかった

表1 髄室天蓋の歯髄側・中層・外層の3モデルの割れ方(2次元の数値シミュレーション) 見たもの 歯髄側(C1) 中層(C2) 外層(C3) モデルの中の細管の数 多い 中間 少ない き裂の進み方 細管から発生し合流 初期き裂から細管へ ほぼまっすぐ 壊れ始めの荷重(DIL) 3つで最も低い C1より高い C1より高い 割れ始めた後の吸収エネルギー(Wf) 3つで最も大きい C1より小さい C1より小さい 全体の吸収エネルギー(Wtot) 3つで最も小さい 中間 3つで最も大きい DIL・Wf・Wtot は、細管を入れない参照モデル(CRef)に対する比で比べたもの。原著の図10は棒グラフで数値の記載が 無いため、本文と図から読める大小関係だけを載せた(筆者が整理)。 3モデルとも、細管周囲象牙質(PTD)の割れにくさ=管間象牙質(ITD)の0.8、弾性率=ITDの1.5倍の設定。細管の数は 下顎第一大臼歯の文献の計測値(中央値の密度)から決めた。20μm四方のモデルで、実際の歯の破折を測った研究ではない。
表1:髄室天蓋の歯髄側(C1)・中層(C2)・外層(C3)の3モデルの比較(原著の図10と結果の本文から筆者が整理)。数値の記載の無い棒グラフのため、大小関係だけを載せた。

次に、髄室天蓋の3層のモデルを詳しく比べました(原著の図10)。

・割れ方:歯髄側(C1)では、損傷が主に細管から生まれ、微小き裂どうしが合流して主き裂になった。き裂のそれと微小き裂も見られた。外層(C3)では、損傷は初期き裂から始まり、大きくそれずにまっすぐ進んだ。中層(C2)では、初期き裂から始まり、先にある細管のほうへ進んだ
・壊れ始め:壊れ始めの荷重(参照モデルとの比)は、歯髄側が中層・外層より低く、歯髄側の損傷が早く始まることを示した
・割れ始めた後:割れ始めた後に吸収したエネルギー(Wf)は、歯髄側が中層・外層よりずっと大きかった。著者らは、微小き裂・き裂のそれ・割れ残りの橋渡しが起きたためとしている
・全体:全体の吸収エネルギー(Wtot)は、外層から歯髄側へ向かって小さくなった。力と変位の曲線も、外層と中層は参照モデルに近い脆い割れ方で、歯髄側だけが降伏点の後も一気には割れなかった

つまり歯髄側のモデルは、割れ始めた後に「粘る」分のエネルギーは大きいものの、壊れ始めが早く、全体としては外層より少ないエネルギーで割れた、という結果です。

⑥結果3:PTDを割れやすく設定するほど微小き裂が増え、配置でも割れ方が変わった

歯髄側(髄室天蓋)のモデル C1 で、材料の設定を変えて比べました(原著の図7〜図9)。

・硬さだけを変えた時:PTDの割れにくさを0.8に固定し、弾性率を1.5・2・3倍に変えても、力と変位の曲線と損傷の広がりへの影響は小さかった
・割れにくさだけを変えた時:弾性率を1.5倍に固定し、PTDの割れにくさを0.8・0.5・0.1と下げると、力と変位の曲線とき裂の道筋が大きく変わった。0.1では割れ方が大きく変わり、微小き裂の数が増え、降伏点の後も脆い割れ方にならなかった
・吸収エネルギー:弾性率と割れにくさを組にして変えた3つの設定(1.5倍と0.8、2倍と0.5、3倍と0.1)では、割れ始めた後の吸収エネルギーは3倍と0.1の設定が最も大きく、2倍と0.5の設定が最も小さかった。全体の吸収エネルギーは、PTDの割れにくさを下げた設定ほど小さくなった

さらに、細管の数とPTD・細管の面積の割合をそろえた CR1〜CR3 の3モデルでは、割れる前の力と変位の傾きは同じでしたが、割れ始めた後の挙動と、完全に割れるまでの吸収エネルギーは、細管の配置などの違いで異なりました(原著の図12)。

⑦結果の読み方(著者らの考察)

著者らは、結果を次のように考察しています。

・PTDの割れにくさを下げると微小き裂が増え、弾性率の違いが微小き裂に与える影響は小さかった。細管から生まれた微小き裂が周りの微小き裂と合流して主き裂になる
・外層の全体の吸収エネルギーが大きいのは、外層ではITDの割合が大きく、ITDはタンパク質を多く含むためPTDより割れにくいから、という説明が妥当と考えられる(ただし、PTDとITDの割れにくさはまだ測られていない、と著者ら自身が書いている)
・厚いPTD(外層)は、薄いPTD(歯髄側)より損傷の始まりに強く、微小き裂がITDへ広がるのを抑える。PTDが盾のように働くという先行の数値研究と一致する
・細管がき裂をそらす様子は、骨の中の骨単位(オステオン)がき裂をそらす現象に似ている

著者らは結論として、PTDはき裂の発生と進み方に大きな役割を持ち、その割れにくさが微小き裂を大きく左右すること、割れ方は象牙質の部位で違い、外層は歯髄側より割れにくいことを挙げています。考察では、こうした知見は象牙質に修復材料を接着させる接着材の開発にも必要だ、とも書いています。ここで言う「割れにくい」は、髄室天蓋の3モデルで比べた、このモデルの中の全体の吸収エネルギーのことです。

⑧明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・歯髄に近い象牙質は、構造の上で、外側の象牙質とひびの振る舞いが違うかもしれない:このモデルでは、細管の多い歯髄側ほどき裂が細管へ曲がり、微小き裂が増え、髄室天蓋の3層の比較では壊れ始めも早かった
・「細管が多い=割れ方が複雑になる」は、「割れにくい」と同じではない:歯髄側のモデルは割れ始めた後に粘る分は大きかったが、全体の吸収エネルギーは外層より小さかった
・臨床の判断の根拠にはしない:歯の破折、窩洞の深さと破折の関係、修復の成績は測っていない。深い窩洞の扱いを考える時の背景知識にとどめ、実験やヒトの研究と合わせて考えたい

なお、著者らは付録で、モデルの大きさによって壊れるのに必要な応力が変わることを示し、この20μm四方の計算と、文献の実験の試験片の力と変位の結果は、大きさが違いすぎて直接比べられない、と書いています。

ここだけ、冷静に補助線(1)20μm四方の2次元の数値シミュレーションです。細管の長軸に直交する断面だけを扱い、き裂が細管と平行に進む場合などの3次元の向きは扱っていません。
(2)PTDとITDの割れにくさは測られておらず、PTDの値は他の数値研究の提案にもとづく仮定です。割れ具合の幅を決める長さのパラメータも結果に影響し、実験で決める必要があると著者らは書いています。
(3)形のデータは下顎第一大臼歯の文献の計測値だけで、すべての歯の象牙質には当てはめられないと著者ら自身が書いています。PTDとITDの境目は、はがれない設定で、加齢や動的な荷重も扱っていません(静的な荷重の計算)。
(4)細管の数と面積の割合をそろえ、細管の太さ・PTDの厚み・配置を変えた3モデルで割れ方が変わった一方、12の部位のモデルは各1つの配置で計算しています(筆者の読み)。また原著の図9では、C1の全体の吸収エネルギーが3つの設定とも参照モデルより小さく描かれています(図の目盛りから筆者が読み取り)。
(5)読んだのは掲載前の受理原稿(Journal Pre-proof)です。利益相反は無いと記載されています。
「細管とPTDが、き裂の進み方をどう変えるか」を部位ごとに見せてくれる、見取り図として面白い一本です。実際の象牙質での実験や、PTDの割れにくさの計測が進むと、さらに読み方が確かになりそうです。

今日のひとこと

細管を入れた20μm四方の2次元モデルでは、歯髄側ほど、き裂が細管に引き寄せられて曲がり、細管周囲象牙質の微小き裂が増えました。髄室天蓋の3層で比べると、全体の吸収エネルギーは外層が最も大きく、歯髄側は壊れ始めの荷重が最も低いという結果です。細管周囲象牙質の割れにくさは仮定の値で、実際の歯の破折を測った研究ではありません。「歯髄に近い象牙質は、構造の上でひびの振る舞いが外側と違うかもしれない」という見取り図として持っておく、という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。

Maghami E, Pejman R, Najafi AR. Fracture micromechanics of human dentin: A microscale numerical model. J Mech Behav Biomed Mater. 2021;114:104171. doi: 10.1016/j.jmbbm.2020.104171. PMID: 33218927
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。