保存修復|乳歯・Er:YAGレーザー・せん断接着強さ。抜去乳臼歯を使った実験室研究(Bahrololoomi, Kabudan, Gholami 2015・Journal of Dentistry (Tehran))
レーザーなら麻酔の注射を減らせて、タービンの圧・振動・音もない——小児の保存治療でレーザー形成に期待する声は少なくありません。一方で、乳歯はもともと永久歯よりレジンが接着しにくいとされます。では、Er:YAGレーザーで削った乳歯の面に、コンポジットレジンはどれだけ接着するのか。イランの研究グループが、抜去した乳臼歯75本(150試料)で、バーとレーザーによる形成を比べました。著者らの結論は、エナメル質でも象牙質でも、レーザーによる形成はバーによる形成より、せん断接着強さを低くした、というものです。
①レーザーで削った乳歯に、レジンはつく?
小児の保存治療でレーザーに期待されるのは、麻酔の注射を減らせる、タービンの圧・振動・音がない、形成が保存的、といった点です。著者らも、このうち注射・快適さ・圧や音の3つは、子どもの行動管理にとって大事だと書いています。
一方で、乳歯は永久歯よりレジンの接着強さが低いとされます。エナメル質と象牙質が薄い、象牙細管が細い、ミネラル含有量が低い、といった違いのためです。そこへ「レーザーで削った面」の接着がどうなるかは、報告が割れていました。スミア層がとれて粗い面になるので接着は上がるという主張もあれば、バーのほうが勝るという報告もあります。乳歯での情報は少なかった、というのが著者らの出発点です。
結論を先に言うと、この研究ではエナメル質でも象牙質でも、レーザーで形成した面の接着強さはバーより低い結果でした。リン酸エッチングを足しても、バーには届きませんでした。
②抜去乳臼歯で、6つの群を比べた実験
群:エナメル質・象牙質それぞれで、3群にランダムに割り付け。①バーで形成+37%リン酸エッチング、②レーザーで形成+エッチング、③レーザーで形成のみ(エッチングなし)。
形成:表面を0.5 mm削る。レーザーはEr:YAG(波長2.94 μm)で、エナメル質300 mJ・象牙質200 mJ、10 Hz、注水7 mL/分、面から17 mm離した非接触照射。
接着:Single Bond 2 と Z250(3M ESPE)。エッチングはエナメル質20秒、象牙質10秒。
評価:37℃の生理食塩水に1日浸けたあと、サーモサイクル1000回(5〜55℃)を経て、せん断接着強さを測定。試験前にエッチングなしのレーザー群から試料が抜け(エナメル質2・象牙質4)、計144試料で測りました。
③結果:バー+エッチング > レーザー+エッチング > レーザーのみ
エナメル質では、バー+エッチングが18.17 MPa、レーザー+エッチングが14.13 MPa、レーザーのみが4.89 MPa。象牙質では、それぞれ14.53、10.69、3.53 MPaでした。どちらの組織でも3群の差は有意で(P<0.001)、高い順番も同じでした。
エナメル質と象牙質を比べると、同じ処理ならエナメル質のほうが有意に高い値でした。例外はエッチングなしのレーザー群で、エナメル質4.89 MPaと象牙質3.53 MPaのあいだに有意差はありませんでした。
表2の平均から計算すると、エッチングを併用したレーザー群はバー群より、エナメル質で約22%、象牙質で約26%低い値です。エッチングなしのレーザー群は、バー群の約4分の1(エナメル質27%・象牙質24%)にとどまりました。
④なぜレーザー面は接着しにくいのか(著者らの考察)
著者らがEr:YAGを選んだのは、ほかのレーザーより歯への熱の影響が小さく、波長がハイドロキシアパタイト・コラーゲン・水の吸収ピークに一致するためです。そのうえで、接着が低かった理由として、先行研究をもとに次の説明を挙げています(この研究自体は、削った面の顕微鏡観察をしていません)。
・パルス照射のため、エッチングされたような模様が不規則になり、面は粗くても有効なアンダーカットができにくい
・照射で面のカルシウム・リン比が上がり、炭酸・リン比が下がって、酸に溶けにくい構造になる
・象牙質では、削る過程でコラーゲン線維が融合して線維間の隙間が減り、象牙細管の開口もふさがれて、レジンが入り込みにくくなる
エッチングなしのレーザー群が、エナメル質でも象牙質でも同じように低かったことから、著者らはレーザー単独では十分な接着強さは得られず、レーザーで形成するならリン酸エッチングの併用が欠かせないと考察しています。
一方、結果が食い違った先行研究もあります。乳歯のエナメル質で調べたRosimeyriらは、エルビウムレーザーはエナメル質の前処理として適した選択肢になりうる、としていました。著者らはこの違いの理由として、歯の種類(乳犬歯)とレーザーの出力(60〜100 mJ)の違いを挙げています。また、レーザー群の接着強さは水中保管期間やサーモサイクルの条件にバー群より左右されやすく、テクニックセンシティブだという研究も紹介しています。
⑤明日の臨床へ
①接着強さだけで比べれば、バー形成+エッチングが最も高い値でした。エナメル質でも象牙質でも同じ順番です。
②レーザーで形成するなら、エッチングを省かない。エッチングなしの群は、バー群の約4分の1でした。著者らもエッチングの併用が欠かせないと考察しています。
③レーザーの利点と、接着強さの差をてんびんにかける。エッチングを足したレーザー群の差は約2〜3割(表2の平均から計算)。この差が、口の中での脱落や辺縁の問題にどう表れるかは、この研究からは分かりません。
補足(筆者の読み):レーザーの出力や照射距離が変われば面の性状も変わりうるので、結果はこの設定に限った話です。著者らも、ほかのレーザーや照射条件での研究を勧めています。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
乳歯のエナメル質でも象牙質でも、Er:YAGレーザーで削った面のせん断接着強さは、バー+エッチングより低かった(著者らの結論)。エッチングなしでは最も低く、著者らはレーザーを使うならエッチングを省かないよう考察している。健全な抜去乳臼歯での実験室研究で、口の中での修復の成績は調べていない。


