1問1答 論文 保存修復

フッ酸は「濃く長く」効かせるほど強いのか——40秒で頂点、60秒で落ちた

1問1答 論文 保存修復

リチウムジシリケート(IPS e.max Press)の内面処理を、フッ酸の濃度2段階×時間3段階+リン酸追い足しの10条件で比べ、表面粗さと微小せん断接着強さを測ったin vitro研究(Sudré 2020・Int J Prosthodont)

5%で20秒、10%で60秒、そのあとリン酸で5秒——セラミックの内面処理は、聞くたびに数字が違います。底にあるのは「濃く長く効かせるほどザラザラになって、よくくっつくはず」という感覚。ブラジルのグループが、その感覚を10通りの条件で正面から確かめました。

論文
Influence of Surface Treatment of Lithium Disilicate on Roughness and Bond Strength
著者
Sudré JP, Salvio LA, Baroudi K, Sotto-Maior BS, Melo-Silva CL, Assis NMSP
掲載
The International Journal of Prosthodontics 2020;33(2):212-216(doi:10.11607/ijp.6453)
種類
in vitro 実験研究(IPS e.max Press ディスク100枚・10群・共焦点顕微鏡による表面粗さとSEM観察・微小せん断接着試験 各群n=30)
PMID
32069346

「フッ酸は何秒?」で、答えが揃わない

セラミックの内面処理。講習会でも文献でも、聞くたびに数字が違います。5%で20秒。10%で20秒。長めに60秒。そのあとリン酸で5秒洗う。どれももっともらしく聞こえます。

底にある感覚はたぶん共通していて、「濃く・長く効かせたほうが、ザラザラになって、よくくっつくはずだ」——そう思いたくなる。

ブラジルのグループが、この感覚を10通りの条件で正面から確かめました。濃度2段階(5%・10%)× 時間3段階(20・40・60秒)、さらにリン酸を追い足す群。粗さと接着強さを、同じ試料セットで測っています。

10通りの条件を作って、粗さと接着を測る

研究の骨格: IPS e.max Press(リチウムジシリケート・A2・直径7.0mm × 厚さ2.0mm)のディスク100枚を、10群(各10枚)に分けた。①無処理(対照)②5%フッ酸 20/40/60秒 ③10%フッ酸 20/40/60秒 ④10%フッ酸 20/40/60秒+37%リン酸5秒。全群とも表面は事前に50µmアルミナブラスト+耐水研磨紙(#300→#600→#1200)で規格化し、中和処理を行った。表面粗さ(Ra)は共焦点顕微鏡で1枚につき45度ずつ3か所を測定、形態は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察。接着強さは、全群にシランプライマー(RelyX Ceramic Primer)を1分塗布→5秒乾燥し、自己接着性レジンセメント(RelyX U200)を内径0.8mm・高さ3mmのチューブに充填して60秒光照射、37℃の脱イオン水に24時間保管後、微小せん断試験(クロスヘッド速度1mm/分・各群n=30)で測定した。

ここで大事なのは、粗さと接着強さを別々に測っている点です。「ザラザラ=よくつく」という前提そのものを検証できる設計になっています。

結果——40秒が頂点で、60秒は落ちた

0 0.8 1.6 2.4 表面粗さ Ra(µm) 1.449 2.05 1.785 10% HF20秒 10% HF40秒 10% HF60秒 10%フッ酸で処理したときの表面粗さ(実測値は 1.449/2.05/1.785 µm。図中のラベルは丸めて表示)。40秒が頂点で、60秒まで伸ばすと下がる。無処理群の粗さは本文に数値の記載がない(フッ酸群より有意に低い・P=.0015)
10%フッ酸で処理したときの表面粗さ。40秒が頂点で、60秒まで伸ばすと下がる

粗さは、濃度(P=.0012)・時間(P=.002)・その組み合わせのいずれにも有意に影響されました。フッ酸で処理した群は、無処理より有意に粗いという結果でした(P=.0015。群ごとの多重比較の内訳は本文に示されていません)。そして最も粗かったのは10%フッ酸40秒(Ra 2.05 ± 0.107 µm)です。

図を見てください。20秒(1.449 µm)→ 40秒(2.05 µm)→ 60秒(1.785 µm)。40秒で頂点を打って、そこから下がっています。「長いほど粗くなる」ではありませんでした。

そして接着強さ。ここが本題です。

0 8 16 24 微小せん断接着強さ(MPa) 5.25 22.75 無処理(対照) 5% HF40秒 本文に数値が明記されている2群のみを抜き出した(他の8群の値は原著の図にしか無い)。対照が最低(5.25±1.29MPa)、5%フッ酸40秒が最高(22.75±1.97 MPa)。なお同じ40秒の10%フッ酸群も、5%と並んで最も高い平均値を示したと著者らは記している。いずれもシラン処理+自己接着性レジンセメント、24時間後の測定
本文に数値が明記されている2群。無処理と、最も高かった5%フッ酸40秒

最も低かったのは無処理の 5.25 ± 1.29 MPa。最も高かったのは5%フッ酸40秒の 22.75 ± 1.97 MPaでした。処理するかしないかで、4倍以上の差がつきます。

ここからが面白いところ。接着強さを動かしていたのは「酸の作用時間」と、時間と濃度の組み合わせでした(P=.001)。濃度そのものは、単独では接着強さを動かしていません(この点の原著の記述は少し読み取りにくく、⑥で触れます)。

つまり——いちばん粗かった条件(10%・40秒)が、いちばん強かったわけではない。最高値を出したのは5%・40秒のほうで、著者らは考察で「濃度は違うが時間が同じ5-40群と10-40群が、最も高い平均接着強さを示した」と書いています。共通していたのは濃度ではなく、40秒という時間でした。

60秒まで伸ばすと、粗さも接着強さも下がりました。著者らの解釈は「露出したリチウムジシリケート結晶そのものが、長時間の酸で部分的に壊されたのではないか」。40秒の群では結晶が無傷のまま残っていた、と。

リン酸の追い足しは、粗さを増やさなかった

もうひとつ、多くの人がやっている手順の話です。フッ酸のあとに37%リン酸を5秒——「残った塩を洗い流すため」という理屈で、講習会でも紹介されます。

この研究の結果は、そっけないものでした。まず前提として、リン酸を追い足す群が設けられていたのは10%フッ酸のあとだけです(5%フッ酸にリン酸を足した群はありません)。そのリン酸追い足し群の粗さは、フッ酸だけの群と「同程度」でした(なお原著の結果本文は「5%および10%フッ酸のあとにリン酸処理を行った群で同程度の値が得られた」と書いていますが、Table 1に5%+リン酸の群はありません。原著の中で表と本文が食い違っている箇所です)。粗さの面では、追い足しで何かが増えたわけではありません。

SEMの所見はもう少し踏み込んでいます。10%・60秒+リン酸の表面は、10%・40秒+リン酸より山と谷が少なかった。著者らはこれを「リン酸が、フッ酸で細くなった結晶の山をさらに削った」と読んでいます。削られた材料が谷に再配置されたか、あるいはリン酸由来の化合物は表面に残らず洗い流されたか——いずれにせよ、粗さと表面形態の面では、足したぶんの見返りは見えなかったということです。

そして著者らの結論には、リン酸の一手が入っていません。結論の文は「10%フッ酸という濃度と、20〜40秒という時間が最も良い結果を示した」——濃度も名指しで推奨されています。本文の解析では濃度が単独では接着強さを動かさなかったのに、結論では濃度が指定されている。この点は、原著の中でも整理しきれていない部分です。

明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、3つです。

①「処理するかしないか」の差が、いちばん大きい。無処理 5.25 MPa に対し、最良条件は 22.75 MPa。内面処理を省く、あるいは適当に済ませることのコストは、条件の微調整より圧倒的に大きい。ここを外さないことがまず第一です。

②迷ったら「長く」ではなく「規定どおり」。60秒は粗さも接着強さも落としました。この研究の推奨は20〜40秒です。ただし第一の基準は、あくまで製品の使用説明書であることは変わりません(IPS e.max Press では5%フッ酸20秒——これは原著に出てくる数字ではなく、製造元の使用説明書の値です)——濃度も時間もそれを超えて自己流に伸ばす根拠には、この論文はなりません(理由は次の項)。

③リン酸の追い足しについては、この研究は「粗さは増えなかった」までしか言っていない。この一手が語られるときの本来の理屈は、原著の緒言にあるとおり「フッ酸で生じる不溶性のフッ化物塩がレジンセメントの重合を妨げうるので、それを洗い流す」——つまり接着側の話です。ところがこの研究は、リン酸追い足し群の接着強さの数値を本文に示していません(図に含まれるのみ)。したがって「リン酸は省いてよい」とは、この論文からは言えません。言えるのは「粗さを増やす目的でリン酸を足す理由は見当たらなかった」ところまでです。

ちなみに破断面の観察も、結果と一致しています。接着強さが高かった群ほどセメントの凝集破壊が多く、低かった群(対照を含む)は界面破壊と混合破壊でした。「セメントのほうが先に負ける」=界面が十分に強い、という状態です。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 in vitro(実験室)研究で、平らなディスクにチューブでセメントを立てた微小せん断試験です。実際の窩洞やクラウン内面の形態でも、口腔内の力でもありません。保管は24時間の水中のみで、熱サイクルも長期保管もかけていない——耐久性については何も言えません。セメントは自己接着性の1製品(RelyX U200)だけで、これは著者ら自身が限界として挙げています。そして最も注意したいのが、この研究はセラミックの強度を測っていないことです。フッ酸を濃く・長く効かせると曲げ強さが落ちうることは別の研究で指摘されており(著者らも引用しています)、「10%40秒がいちばん粗い」ことを、そのまま「10%40秒で処理すべき」とは読めません。修復物は接着だけで生きているわけではないからです。数値が本文に明記されているのは一部の群だけで、残りは図から読む形になっている点も、そのまま鵜呑みにしない理由になります。さらに原著の中で記述が揺れている点も押さえておきたい——抄録は「接着強さは酸の作用時間のみに影響された」と書く一方、本文の結果では「時間と、時間×濃度の交互作用が影響した」と書かれ、結論では濃度が名指しで推奨されています。本文にある「60秒という条件に限れば濃度単独では影響しなかった」という一文も、英文自体が読み取りにくい書き方です。利益相反は「なし」と申告されていますが、資金提供についての記載はありません。そして使われたセラミック・埋没材・中和材・プレス炉・光照射器はいずれも同じ製造元(Ivoclar Vivadent)の製品です。それでも——「濃く・長く」が単調に効くわけではなく、40秒あたりに折り返し点があると、粗さと接着強さの両方で示した価値は小さくありません。

今日のひとこと

フッ酸の内面処理は「濃く長く」効かせるほど良い、ではなかった。10%フッ酸の表面粗さは20秒 1.449 µm → 40秒 2.05 µm → 60秒 1.785 µm と、40秒で頂点を打って下がる。接着強さを動かしていたのは時間(と時間×濃度の組み合わせ)で、最高値は5%フッ酸40秒の 22.75 MPa、最低は無処理の 5.25 MPa。つまり最も粗い条件が最も強いわけではなく、共通していたのは「40秒」という時間だった。37%リン酸の追い足し(設定されたのは10%フッ酸のあとだけ)では粗さが増えず、SEMではむしろ結晶の山が削られていた——ただしリン酸群の接着強さの数値は本文に示されておらず、「リン酸は省いてよい」とまではこの研究から言えない。著者らの結論は「10%フッ酸・20〜40秒が最も良い」で、濃度も名指しされている。まず外してはいけないのは、処理するかしないか——そこで4倍以上の差がついている。

Sudré JP, Salvio LA, Baroudi K, Sotto-Maior BS, Melo-Silva CL, Assis NMSP. Influence of Surface Treatment of Lithium Disilicate on Roughness and Bond Strength. Int J Prosthodont. 2020;33(2):212-216. doi:10.11607/ijp.6453 PMID: 32069346
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。