1問1答 論文 保存修復

ボンドは系統ごとに、どこでつまずく?——工程の少ないボンドの弱点と、HEMAを含まない1ステップのセルフエッチへの「強いエアブロー」の提案(2005年の総説・著者らの研究室の実験室知見が中心)

1問1答 論文 保存修復

エッチ&リンス・セルフエッチ・グラスアイオノマーの3系統について、接着の仕組みと「術者の手技で結果が変わりやすい点(テクニックセンシティビティ)」を、著者らの研究室の電子顕微鏡・化学分析の知見を中心にまとめたナラティブ総説(Van Meerbeek ら 2005・Dental Materials Journal)

ボトル1本・1回塗るだけのボンドは確かに楽です。一方で「工程を減らすと接着は弱くなるのでは?」という疑問も、臨床ではずっと付きまといます。ベルギー・ルーヴェンのグループが日本の研究者と組み、3系統の接着材それぞれで何が起きていて、どこでつまずきやすいのかを整理しました。系統別の弱点と、著者らが提案する対処を読み解きます。

論文
Technique-Sensitivity of Contemporary Adhesives
著者
Bart Van Meerbeek, Kirsten Van Landuyt, Jan De Munck, Masanori Hashimoto, Marleen Peumans, Paul Lambrechts, Yasuhiro Yoshida, Satoshi Inoue, Kazuomi Suzuki(ベルギー ルーヴェン・カトリック大学、北海道大学、岡山大学)
掲載
Dental Materials Journal 2005;24(1):1-13. PMID: 15881200
種類
ナラティブ総説(系統的な文献検索の手順の記載なし。著者らの研究室の電子顕微鏡〔TEM・SEM〕・X線光電子分光〔XPS〕・光学顕微鏡の観察を中心に、既報の実験室研究と臨床研究を引用して論じている。臨床の数値として、歯頸部のClass V修復の系統別の年間失敗率〔同じルーヴェンのグループのPeumansらによる臨床試験レビュー、当時印刷中〕の図を1枚載せている)
PMID
15881200

ボンド、1本で済むなら楽。でも本当に同じ?

接着材は、登場からずっと「工程を減らす」方向に進化してきました。エッチング・プライマー・ボンディングを別々に塗る時代から、2本、そしてボトル1本・1回塗りへ。チェアタイムは短くなり、手順も覚えやすくなりました。

一方で臨床では、「工程を減らすと接着は弱くなるのでは?」「同じボンドなのに、人によって結果が違うのはなぜ?」という疑問が消えません。この総説は、その疑問に接着の仕組みの側から答えようとしたものです。

結論を先に書くと、著者らの整理はこうです。系統ごとに、つまずきやすい場所が違う。そして簡略化した接着材は、今のところ使いやすさと引き換えに接着の効きを落としているように見える——ただし最終的な物差しは長期の臨床成績だけだ、と著者ら自身が締めくくっています。

この総説がしたこと——接着材を3系統に分けて、弱点を並べた

著者らは、接着の戦略にもとづく分類として、エッチ&リンス/セルフエッチ/グラスアイオノマーの3系統を採用しています。どの系統も、歯質を脱灰し、そこへレジンなどを染み込ませて固める「ハイブリッド化」で接着する点は共通です。

接着材の系統と、著者らが挙げた主な弱点エッチ&リンス 3ステップゴールドスタンダードとされる。乾かすとコラーゲンがつぶれるエッチ&リンス 2ステッププライマーとボンドを1液に。3ステップより手技の影響を受けやすいセルフエッチ 2ステップ洗い流し不要。マイルド型はアパタイトが残り化学的結合もセルフエッチ 1ステップ水と溶媒が残りやすい。HEMAなしでは相分離が観察された原著本文をもとに作図。3系統目のグラスアイオノマー系は、弱酸での前処理と化学的結合で接着する(本文参照)
原著の本文をもとに、接着材の系統と、著者らが挙げた主な弱点を整理した概念図(数値の比較ではない)
この総説の性格:系統的に文献を集めて統合した「システマティックレビュー」ではなく、ナラティブ総説です。根拠の中心は、著者らの研究室の電子顕微鏡(TEM・SEM)やX線光電子分光(XPS)、光学顕微鏡での観察で、ほかの実験室研究・臨床研究の報告を引用しながら論じています。臨床の数値として載っているのは、次の③の図1枚です。

臨床の数字——Class V修復の年間失敗率(引用された図)

0 3.3% 6.7% 10% 平均の年間失敗率(%) 5.4% 6.3% 7.9% 5.2% 1.8% 3ステップエッチ&リンス 2ステップエッチ&リンス 1ステップセルフエッチ 2ステップセルフエッチ グラスアイオノマー 原著Fig. 17(同じグループのPeumansらによる臨床試験レビュー〔当時印刷中〕からの図)。歯頸部のClassV修復(原図の表記)。誤差棒の上端の値(4.2・5.4・10.6・6.0・1.6)は誤差棒の長さで、標準偏差とみられるが定義の記載なし。試験の本数・統計検定の記載なし
歯頸部のClass V修復における、系統別の平均の年間失敗率(原著Fig. 17。同じルーヴェンのグループのPeumansらによる臨床試験レビュー〔2005年、当時印刷中〕からの図。原図の表記は Class-V cervical restorations)

引用された図では、平均の年間失敗率は3ステップのエッチ&リンス5.4%、2ステップのエッチ&リンス6.3%、1ステップのセルフエッチ7.9%、2ステップのセルフエッチ5.2%、グラスアイオノマー1.8%でした。

同じ系統の中で見ると、エッチ&リンスは3ステップ→2ステップで5.4%→6.3%、セルフエッチは2ステップ→1ステップで5.2%→7.9%と、工程を減らした方が高い並びです。ただし、2ステップのセルフエッチ(5.2%)は3ステップのエッチ&リンス(5.4%)とほぼ同じ水準で、「工程が少ないほど一律に悪い」という並びではありません。

いちばん低かったのはグラスアイオノマー系で、著者らは本文でも、非う蝕性歯頸部病変で最長5年まで90%を超える保持率の報告を挙げ、その接着の良さを「際立っている」と表現しています。

読むときの注意として、図には大きな誤差棒があります。誤差棒の上端に4.2・5.4・10.6・6.0・1.6と書かれていて、値は誤差棒の長さに当たり、標準偏差とみられますが定義の記載はありません。1ステップのセルフエッチは平均7.9%に対し10.6と、特にばらつきが大きい並びです。この総説の中では、元になった試験の本数や「失敗」の定義、統計検定は示されていません。また図の説明は「歯頸部のClass V修復」とだけあり、直前の本文は非う蝕性歯頸部病変での報告を引用しています。

エッチ&リンスの弱点——乾かすとコラーゲンがつぶれる

エッチ&リンスは、30〜40%のリン酸で象牙質を3〜5 µmほど脱灰し、ハイドロキシアパタイトがほぼ抜けたコラーゲンの網目にレジンを染み込ませます。3ステップ型は、著者らによれば実験室でも臨床でも成績がよく、しばしば接着材の「ゴールドスタンダード」とみなされています。2ステップ型はプライマーとボンドを1液にまとめた分、3ステップ型より手技の影響を受けやすいとされます。

著者らが挙げる弱点の中心は、脱灰した象牙質を乾かすと、コラーゲンの網目がつぶれて(虚脱して)レジンが染み込みにくくなることです。エナメル質は乾いている方が接着しやすいのに、象牙質はある程度の水が要る——ここに難しさがあります。

  • ウェットボンディング:象牙質を湿らせたまま、水を追い出す力のあるアセトン系プライマーを使う方法。ただし「どのくらい湿らせればよいか」があいまいで、水が多すぎる「オーバーウェット」の問題が報告されています。
  • ドライボンディング:エッチング後に乾かし、つぶれたコラーゲンを再び膨らませられる水系のプライマーを使う方法。

著者らは、引用した研究をもとに、ドライボンディングの方が手順のばらつきの影響を受けにくく接着の効きも落とさないとして、標準化しにくいウェットボンディングより優先すべきだと述べています。

もう一つは、エッチングしすぎて深く脱灰すると、レジンが底まで届かずハイブリッド層に隙間(ナノリーケージ)が残りうることです。著者らはこれが長期的に接着の耐久性を損ないうると述べています。

セルフエッチの強みと弱点——化学的な結合と、残る水

セルフエッチは、酸性モノマーが脱灰とプライミングを同時に行うため、洗い流しと乾燥の工程がありません。著者らは酸の強さで、マイルド(pH≧2)・中間(pH≒1.5)・ストロングに分けています。マイルドなものはごく浅く脱灰し、ハイブリッド層は1 µm未満と薄いものの、コラーゲンの周りにハイドロキシアパタイトが残ります。

ここで著者らが強調するのが、機能性モノマーとハイドロキシアパタイトのカルシウムとの化学的な結合です。合成ハイドロキシアパタイトでのXPS分析(著者らの共同研究)では、10-MDPは30秒の作用で最も強い信号を示し、30分に延ばしても強まらなかった(結合部位が短時間で埋まったと解釈)一方、4-METは30秒でも信号が上がり30分でさらに強まり、phenyl-Pは30分でようやく弱い信号が出た、と説明されています。著者らは、化学的な結合の意味は「急な力への抵抗」より耐久性にあると考えられている、と述べています。

弱点は水と溶媒です。セルフエッチには、モノマーを働かせるために水が欠かせません。とくに1ステップ型は、水に馴染む成分と馴染まない成分を溶媒に溶かした「難しい混合物」で、著者らは次の点を挙げています。

  • 実験室の接着強さ試験で、1ステップ型は多段階のセルフエッチやエッチ&リンスより接着強さが一貫して低いと報告されている(2005年時点の引用文献)
  • 硬化後も水を通す半透膜のように振る舞うと報告されている
  • 接着層の中に、水が抜けきらなかった跡とされる網目状の「ウォーターツリー」が見つかっている(その意味はまだはっきりしない)
HEMAを含まない1ステップ型で観察された相分離ボンドを塗る水と成分が溶媒に溶けている溶媒が蒸発水が液滴として分かれ始めるそのまま光照射すると液滴が接着層に閉じ込められる代わりに強くエアブロー液滴が吹き飛び透明な膜が残った原著Fig. 13と本文をもとに作図。ガラス板上の光学顕微鏡とTEMでの観察。耐久性と臨床での確認は未了(著者ら)
HEMAを含まない1ステップのセルフエッチで観察された「相分離」と、著者らが述べる強いエアブローの効果(原著Fig. 13の説明をもとに作図。ガラス板上の光学顕微鏡・電子顕微鏡での観察)

著者らの研究室は、HEMAを含まない1ステップ型で、溶媒が蒸発し始めると水が液滴として分かれる「相分離」を観察しました。そのまま光照射すると、液滴は接着層の中に閉じ込められます。HEMAは水を他の成分から分かれにくくする役割をもつため、HEMAを含む接着材では起きにくい、という説明です。

そのうえで著者らは、非常に強いエアブローで液滴を吹き飛ばせた(光学顕微鏡で透明な膜だけが残り、TEMでも液滴の閉じ込めが見られなかった)と述べ、HEMAを含む接着材より界面の水を多く除けるかもしれない、と考えています。似た組成の市販品が、1年の水中保管と2回の熱サイクルのあとの辺縁適合で、調べた1ステップ型の中で最もよく、2ステップのセルフエッチや、一般に成績の最もよい3ステップのエッチ&リンスと同等だったという学会抄録の報告も挙げ、そこでの前提は「全力でエアブローする」ことだったと紹介しています。

ただし著者ら自身が、耐久性の試験で確かめる必要があること、そして複雑な窩洞の中で臨床的にどこまでうまくできるかは、まだ分からないことを明記しています。

著者らの結論と、残された宿題

著者らは、3系統の分類は単純で科学的な根拠がある点が強みだとしたうえで、接着の効きは系統だけでなく、個々の製品の成分でも大きく変わると述べています。簡略化した接着材は、今のところ使いやすさと引き換えに接着の効きを落としているように見え、利点と弱点をはかりにかける必要がある。そして、接着材の質を決める唯一の本当の物差しは長期の臨床成績だ、と締めくくっています。

残された宿題は、著者らの記述から少なくとも3つ読み取れます。強いエアブローが臨床の窩洞で再現できるか、化学的な結合が長期の耐久性にどれだけ効くか、そして1ステップ型に見られるウォーターツリーが何を意味するかです。

明日の臨床へ

①まず、手元のボンドが「どの系統の何ステップか」を確かめる。著者らはエッチ&リンスについて「術者は弱点を知り、それに合わせて手順を調整すべき」と述べ、総説全体で系統ごとに違う弱点を並べている。
②エッチ&リンスでは、象牙質の乾燥とエッチング時間に気を配る。乾かしすぎるとコラーゲンがつぶれ、エッチングしすぎると底までレジンが届きにくい、というのが著者らの整理。著者らは水系プライマーでのドライボンディングを、ウェットボンディングより優先すべきとしている。
③1ステップのセルフエッチの「強いエアブロー」は、著者らの提案の段階と心得る。根拠はガラス板や切片での実験室観察と学会抄録で、HEMAを含まない製品での話。臨床での確認は未了と著者ら自身が書いている。実際の手順は各製品の添付文書に従い、この知見は「なぜ溶媒をしっかり飛ばす指示があるのか」を理解する材料にとどめたい(この点は筆者の読み)。
④Class Vの年間失敗率の数字は、歯頸部のClass V修復に限った、20年前の時点のまとめ。今の製品(ユニバーサルアドヒーシブなど)にそのまま当てはまるとは限らない(この点は筆者の補足)。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、これはナラティブ総説で、文献の集め方の手順は書かれておらず、根拠の多くが著者らの研究室の実験室研究です(引用文献には著者らのグループの論文が多く含まれます)。第二に、相分離や強いエアブローの効果は、ガラス板上の液滴や切片を顕微鏡で見た観察が中心で、接着強さや臨床成績で確かめたものではありません。似た製品の辺縁適合の結果は学会抄録からの引用です。第三に、唯一の臨床の数値である年間失敗率の図は同じルーヴェンのグループによる臨床試験レビュー(Peumansら、当時印刷中)からの引用で、この総説の中では試験の本数・失敗の定義・誤差棒の意味・統計検定が示されていません。第四に、2005年の論文で、その後に広まったユニバーサルアドヒーシブなどは扱われていません(この点は筆者の補足)。研究の一部は、ルーヴェン・カトリック大学の Toshio Nakao Chair for Adhesive Dentistry の基金の支援を受けています。それでも、「系統ごとに、どこでつまずくか」を仕組みから説明した点は、ボンドの手順書を読むときの見取り図になります。

今日のひとこと

著者らは接着材を、エッチ&リンス・セルフエッチ・グラスアイオノマーの3系統に分け、それぞれの弱点を整理した。エッチ&リンスは乾かすとコラーゲンがつぶれる点、セルフエッチは水と溶媒が残りやすい点が、手技で結果が変わりやすい理由として挙げられている。同じルーヴェンのグループによる臨床試験レビューから引用された図(歯頸部のClass V修復)では、平均の年間失敗率は3ステップのエッチ&リンス5.4%、2ステップのエッチ&リンス6.3%、1ステップのセルフエッチ7.9%、2ステップのセルフエッチ5.2%、グラスアイオノマー1.8%だった(誤差棒は大きく、1ステップのセルフエッチでは平均7.9%に対し10.6と特に大きい。統計検定の記載はない)。HEMAを含まない1ステップのセルフエッチでは水が液滴として分かれる「相分離」が実験室で観察され、著者らは強いエアブローで液滴を吹き飛ばせると述べる——ただしこれはHEMAを含まない1ステップ型について、光学顕微鏡・電子顕微鏡での観察に基づく提案で、耐久性の試験と、複雑な窩洞での臨床での確認は「これから」と著者ら自身が書いている。

Van Meerbeek B, Van Landuyt K, De Munck J, Hashimoto M, Peumans M, Lambrechts P, Yoshida Y, Inoue S, Suzuki K. Technique-Sensitivity of Contemporary Adhesives. Dental Materials Journal. 2005;24(1):1-13. doi:10.4012/dmj.24.1. PMID: 15881200
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。