1問1答 論文 エンド

レシプロックのファイル1本で、根管の感染はマルチファイルと同じだけ落ちる?——大腸菌で汚染した抜去歯40本で、細菌は4システムとも99%超・エンドトキシンは79〜92%減り、有意差はなかった(2014年)

1問1答 論文 エンド

エンド|「1本で終わる」レシプロケーティングファイルは、何本も使うロータリーより感染除去で劣らないか。大腸菌で21日間汚染した下顎小臼歯40本を、Reciproc・Mtwo・ProTaper・Raceの4群で形成し、細菌数とエンドトキシン(LPS)を前後で測った抜去歯の実験(Marinho 2014・International Endodontic Journal)

Reciprocはファイル1本で根管形成を終えるレシプロケーティング(往復回転)システムです。本数も手順も少ない分、「感染はちゃんと取れるのか」が気になるところ。著者らは、まっすぐな単根管の下顎小臼歯40本を滅菌したうえで大腸菌(E. coli)で21日間汚染し、Reciproc R25・Mtwo・ProTaper Universal・Raceの4群(各10本)で形成しました。洗浄は次亜塩素酸を使わず、エンドトキシンを含まない水(1根管20mL)だけ=器具と洗浄の機械的な効果だけを見る設計です。形成の前後にペーパーポイントで採取し、細菌数(CFU)とエンドトキシン(LAL法)を測ったところ、細菌は4群とも99%超(99.34〜99.99%)、エンドトキシンは78.56〜91.69%減少し、どちらもシステムの間に有意差はありませんでした。一方、どのシステムでも根管は細菌・エンドトキシンともゼロにはなりませんでした。

論文
Does the Reciproc file remove root canal bacteria and endotoxins as effectively as multifile rotary systems?
著者
A. C. S. Marinho, F. C. Martinho, L. M. Gonçalves, H. R. C. Rabang, B. P. F. A. Gomes(ブラジル・カンピーナス州立大学ピラシカバ歯学部 ほか)
掲載
International Endodontic Journal 2015;48(6):542-548(オンライン先行公開 2014年)
種類
抜去歯を使った実験室研究(in vitro)。まっすぐな単根管で、初期の根尖径が#15以下の下顎小臼歯40本を使用。歯冠をCEJで切断し根長15mmにそろえ、ガンマ線照射とオートクレーブで滅菌したのち、大腸菌(ATCC 25922)で21日間汚染。無作為に4群(各10本)へ割り付け:GI=Reciproc R25(25/.08)、GII=Mtwo(10/.04→25/.06)、GIII=ProTaper Universal(SX→F2)、GIV=Race(40/.10→25/.04)。洗浄はエンドトキシンを含まない水(LAL水)のみ・1根管20mLにそろえた。形成の前(s1)と後(s2)にペーパーポイントで採取し、細菌は培養でCFU、エンドトキシンはLAL法(比濁法)で定量。各群2本の汚染していない根管を陰性対照とした。統計は対数変換後にpaired t検定(群内)と一元配置分散分析(群間)
PMID
25070009

①ファイル1本で、感染は本当に取れる?

根管形成をReciprocのようなレシプロケーティングファイル1本で終える先生は増えました。手順は短く、ファイルの本数も少ない。便利な一方で、「本数が少ないと、根管の中の感染を削り取る量も少ないのでは?」と気になったことはないでしょうか。

この論文は、その疑問を実験室で確かめたものです。結論を先に言います。大腸菌で汚染した抜去歯の根管で、Reciproc 1本でも、マルチファイルの3システムと同程度に細菌(99%超)とエンドトキシン(8割前後〜9割強)が減り、システムの間に有意差はありませんでした。ただし、どのシステムでも根管はゼロにはなりませんでした。

②なぜ「エンドトキシン」まで見る必要があったのか

感染根管の主役はグラム陰性菌です。その外膜の成分であるLPS(リポ多糖)=エンドトキシンは、菌が増えるときや死ぬときに放出され、根尖周囲の炎症や骨吸収を引き起こします。著者らは、初発の感染根管には100%エンドトキシンが存在し、量が多いほど根尖病変の臨床症状・X線所見と関係するという既報を挙げています。つまり、菌を殺すだけでなく毒素そのものを取り除けるかが大事になります。

マルチファイルのロータリーでは、形成によって細菌・エンドトキシンとも90%以上減ることが示されていました。一方Reciprocは、細菌の減少を調べた研究はあっても、エンドトキシンの除去を調べた研究はありませんでした。

著者らが立てた帰無仮説は、「Reciprocとロータリーのシステムで、細菌とエンドトキシンの減り方に差はない」というものです。

③今回の一手:40本の根管を、4つのシステムで形成する

対象=下顎小臼歯40本(歯髄や歯周の理由で抜いた歯)。まっすぐで細い単根管、根尖が完成、初期の根尖径が#15以下の歯だけを選び、歯冠をCEJで切って根長を15mmにそろえました。
滅菌(ガンマ線照射・オートクレーブ)で、もともとあった菌とエンドトキシンを消したうえで、大腸菌を入れて21日間培養し、根管を汚染させました。
そのうえで無作為に4群(各10本)に分けて形成:
・GI Reciproc R25(25/.08・1本)
・GII Mtwo(10/.04→15/.05→20/.06→25/.06)
・GIII ProTaper Universal(SX→S1→S2→F1→F2)
・GIV Race(40/.10→30/.06→25/.04)
形成の前(s1)と後(s2)に、ペーパーポイントを根管に1分入れて採取し、細菌は培養でCFUを、エンドトキシンはLAL法で量を測りました。

設計でいちばん大事なのは洗浄です。次亜塩素酸などの薬液は使わず、エンドトキシンを含まない水(LAL水)だけで洗い、ファイルの本数が違っても1根管あたり20mLにそろえました。つまりこの研究が見ているのは、器具の切削と水による洗い流しだけでどこまで落ちるかです。最終の根尖サイズは、どの群も#25でした。

④結果①:4群とも、細菌は大きく減った

0 3 6 9 根管内の細菌数(Log10・平均) 5.98 1.80 6.32 2.38 6.55 2.74 8.26 2.20 Reciproc Mtwo ProTaper Race 形成前(s1) 形成後(s2) 原著Table 1の平均値(Log10)。各群10根管。淡い棒=形成後。4群とも形成前後で有意に減少(paired t検定)、減少量に群間差なし(ANOVA)。標準偏差は各群とも平均を上回り、ばらつきが大きい
形成前後の根管内の細菌数(Log10の平均値)。原著Table 1。各群10根管。4群とも形成後に有意に減少し、減少に群間差なし

形成前の時点で、40本すべての根管から細菌とエンドトキシンが検出され(40/40)、汚染がきちんと成立していたことが確認されました。

形成後、細菌数(Log10の平均)はReciproc 5.98→1.80、Mtwo 6.32→2.38、ProTaper 6.55→2.74、Race 8.26→2.20。4群とも形成前後で有意に減りました。

減少率にするとReciproc 99.34%・Mtwo 99.86%・ProTaper 99.93%・Race 99.99%。どの群も99%を超えて減り、システムの間に統計学的な差はありませんでした。
著者らは、Reciprocの99.34%について、薬液を使っていないので器具の機械的な作用と水の洗浄だけで得られた減少だと述べています。

⑤結果②:エンドトキシンは8割前後〜9割強の減少、ここでも有意差なし

0 33.3% 66.7% 100% 形成による減少率(%・平均) 99.34% 91.69% 99.86% 83.11% 99.93% 78.56% 99.99% 82.52% Reciproc Mtwo ProTaper Race 細菌 エンドトキシン 原著Fig. 1・2の減少率(PR)。濃い棒=細菌、淡い棒=エンドトキシン。どちらもシステム間に有意差なし。減少率は根管ごとの減少率の平均で、表のLog平均から直接は計算できない
形成による減少率(原著Fig. 1・2の平均値)。濃い棒=細菌、淡い棒=エンドトキシン。どちらもシステム間に有意差なし

エンドトキシンの減少率はReciproc 91.69%・Mtwo 83.11%・ProTaper 78.56%・Race 82.52%。Log10の平均でみると、形成前→後はReciproc 1.16→0.19、Mtwo 2.02→1.18、ProTaper 2.39→1.42、Race 2.28→1.35で、形成前の量はReciprocがいちばん低い出発点でした。減少率だけ見るとReciprocがいちばん高く見えますが、システムの間に有意差はありません。

細菌が99%超減ったのに比べると、エンドトキシンは8割前後〜9割強の減少にとどまり、1〜2割前後が残ったことになります。そしてどのシステムでも、細菌・エンドトキシンがゼロになった群はありませんでした。

⑥なぜ1本でも差が出なかったのか

著者らの考察はシンプルです。エンドトキシンの除去には、ファイルの本数よりも、器具が象牙質を削る機械的な作用と、たっぷりの洗浄のほうが効いているのだろう、と。ここからは筆者の解釈ですが、今回は洗浄量をどの群も20mLにそろえていたことも、本数による差が出なかった一因と読めます。

もう一つの読みどころは「ゼロにならなかった」ことです。著者らは、根管系の複雑さのために器具も洗浄液も届かない場所に菌と毒素が残ると述べ、機械的な形成だけでは不十分で、次亜塩素酸やクロルヘキシジンゲルなどの化学的な補助を組み合わせる必要があると結んでいます。

⑦明日の臨床へ

・抜去歯の実験では、シングルファイルでもマルチファイルと感染除去に有意差はなかった(まっすぐな単根管・各群10本の条件。同等だと証明されたわけではない)。
・著者らの考察では、効いているのは本数より「削る」と「洗う」。ファイルの本数が減っても、洗浄の量と回数は減らさない。この研究でも1根管20mLの洗浄を確保している。
・形成だけで根管は無菌にならない。薬液を使わない条件で、エンドトキシンは1〜2割前後が残った。臨床では次亜塩素酸などの化学的洗浄を組み合わせる前提で考える。

ここは筆者の読みですが、「どのファイルを選ぶか」と同じくらい「どう洗うか」に目を向ける価値がある——そう感じさせる結果です。

⑧ここだけ、冷静に補助線

これは抜去歯を使った実験室研究で、実際の患者の治療成績を見たものではありません。汚染は大腸菌1種だけ(著者らも、大腸菌は壊死歯髄の根管では一般的ではないと認めています)で、対象はまっすぐで細い単根管に限られ、湾曲根管や楕円形の根管にそのまま当てはまるとは限りません。各群10本と少数で、形成前の細菌数にも群によって差がありました(Log10でReciproc 5.98に対しRace 8.26)。エンドトキシンの形成前の量もReciprocが最も低く(Log10で1.16、他の3群は2.02〜2.39)、出発点がそろっていません。さらに細菌数では標準偏差が各群とも平均を上回り、各群10本では差を見つける力は弱いと考えられます。「有意差がなかった」ことは「同等だと証明された」こととは別で、同等性を確かめる検定は行われていません。また有意水準の記載(P<0.001/P<0.01、P>0.01/P<0.05)が抄録・本文・図表の間でそろっていない点もあります。著者らは利益相反なしと申告し、研究はブラジルの公的研究費(FAPESP・CNPq)で行われています。それでも、シングルファイルの感染除去を、エンドトキシンまで含めて比べた(著者らによれば、Reciprocのエンドトキシン除去を調べた研究はそれまでなかった)点で、ファイル選びと洗浄の優先順位を考える材料になる研究です。

今日のひとこと

大腸菌で汚染した抜去歯の根管では、Reciprocのファイル1本でも、Mtwo・ProTaper・Raceのマルチファイルと同程度に細菌(99.34〜99.99%減)とエンドトキシン(78.56〜91.69%減)が減り、システムの間に有意差はありませんでした。著者らは、エンドトキシンの除去にはファイルの本数より、器具による切削と十分な洗浄のほうが大事だろうと述べています。一方でどのシステムでも根管はゼロにならず、形成だけでは足りない=次亜塩素酸やクロルヘキシジンを併用する前提で考える、というのがこの論文の持ち帰りです。ただし大腸菌1種・まっすぐな単根管・各群10本の実験室研究で、患者の治療成績を見たものではありません。

Marinho ACS, Martinho FC, Gonçalves LM, Rabang HRC, Gomes BPFA. Does the Reciproc file remove root canal bacteria and endotoxins as effectively as multifile rotary systems? Int Endod J. 2015;48(6):542-548. doi:10.1111/iej.12346. PMID: 25070009
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。