エンド|根尖部の詰まりを防ぐために使うパテンシーファイル。「狭窄部を広げずに受動的に通す」という定義どおり、根尖孔の形は保たれるのか。ステンレスとニッケルチタンを比べた抜去歯の実験(Goldberg 2002・Journal of Endodontics)
根尖部がデブリで詰まるのを防ぐパテンシーファイル。Buchananの定義は「根尖狭窄部を、広げることなく受動的に通り抜ける小さくしなやかなKファイル」です。では実際に、根尖孔の形は保たれるのでしょうか。著者らは上顎側切歯30本の根尖側4mmだけをシリコンに埋め、#10→#15→#20→#25と順に狭窄部を1mm越えて3回動かし、各サイズの後に根尖孔を10倍で撮影して重ね描きで比べました。結果、30本中18本(60%)で根尖孔のトランスポーテーション(変形・移動)が起きました。ステンレス群9/15・ニッケルチタン群9/15で差はなし(p=1.00)。しかも#10の時点で30本中10本(33.3%)、#20まで使うと17本(56.6%)。著者らは根尖孔は根尖の側方に開くことが多く、ファイルはどうしても片側の壁に当たるため、形を変えずに使うのは難しいと述べ、使うなら可能な限り細いサイズでと結んでいます。
①「広げずに通す」——そのとおりに通っている?
根管形成の途中で、根尖部が象牙質のデブリで詰まる。それを防ぐために細いファイルを狭窄部の少し先まで通すパテンシーファイルは、多くの先生が日常的に使う手技です。
Buchananの定義ははっきりしています。「根尖狭窄部を、広げることなく受動的に通り抜ける、小さくしなやかなKファイル」。広げない——ここが肝心です。
結論を先に言います。上顎側切歯30本で試すと、18本(60%)で根尖孔の形が変わりました。しかも#10を1mm越えて3回動かしただけで、すでに30本中10本(33.3%)で始まっていました。
②なぜ「詰まらせない」ことが目標になったのか
根管形成中に象牙質と歯髄のデブリが根尖側1/3への道を塞ぐと、レッジ・トランスポーテーション・穿孔が起きやすくなる——これは以前から指摘されていました。詰まる前に細いファイルで道を通しておけば、その連鎖を断てる。パテンシーファイルはその発想から生まれた手技です。
パテンシーファイルは①②を助ける手技ですが、③④を壊していないかは別に確かめる必要がある——それがこの研究の問いです。
③今回の一手:根尖側4mmだけを切り出して、同じ穴を5回撮る
無作為に15本ずつの2群。A群=ステンレス製Kファイル#10・#15・#20・#25(原著は「あらかじめ湾曲を付けた」と記載)。B群=ステンレス#10のあと、ニッケルチタン製Kファイル#15・#20・#25。原著はB群もA群と同じ手順で行ったと書いています。
使い方は各サイズで狭窄部を1mm越えて3回動かす。サイズ交換ごとに2.5%次亜塩素酸ナトリウム2mLで洗浄しました。
判定の方法が面白いところです。器具操作前(対照)と各サイズの後、計5枚を10倍で撮影。スライドを同じ紙に投影し、歯根の外形を手がかりに重ね合わせて根尖孔の輪郭を描き、5枚の絵を見比べて変形の有無を決めました。統計はFisherの正確確率検定です。
④結果①:ステンレスでもニッケルチタンでも、結果は同じだった
30本中18本(60%)にトランスポーテーションが見られました。内訳はA群9本(60%)・B群9本(60%)で、ステンレスとニッケルチタンの間に統計学的な差はありません(p=1.00)。
しなやかなニッケルチタンなら根尖孔にやさしいのでは、という期待は、少なくともこの条件では支持されませんでした。
⑤結果②:#10で3割、#20まで使うと6割弱
いつ変形が始まったのか。原著は群ごとに内訳を出しています。
・B群(ニッケルチタン):#10で5例(55.5%)・#15で1例(11.1%)・#20で2例(22.2%)・#25で1例(11.1%)
※ 割合は、各群で変形が起きた9例の中での内訳
・そして両群とも、いったん始まるとファイルサイズを上げるにつれて変形は大きくなった
合わせると、#10の時点で30本中10本(33.3%)。著者らはさらに、#20をパテンシーファイルに使った場合、根尖孔を変形させる可能性は56.6%(30本中17本)まで上がると述べています。
⑥なぜ細くても変形するのか——根尖孔は真上に開いていない
著者らの説明は明快です。KuttlerとGreenの報告では、根尖孔の自然な直径は0.50〜0.65mm(#50〜#65に相当)。#10や#15はそれよりはるかに細い。それでも形が変わるのはなぜか。
だから著者らは、とくに湾曲根管で、根尖孔の形や太さを変えずにパテンシーファイルを安全に使う方法を考えるのは難しいと書いています。
別の研究(Gutiérrezら1999)でも、#15を根尖孔から突き抜けさせた後の根尖にセメント質の破折と象牙質片が観察されており、この結果と矛盾しません。
⑦明日の臨床へ
・材質を変えても解決しない。ニッケルチタンに替えても発生率は同じ(60% vs 60%)でした。
・米国53歯学部を対象にした調査(Cailleteauら1997)では、回答者のうち24がパテンシーファイルの概念を教えており、#10を42%・#15を33%・#20を25%が教えていました(原著はこの割合の分母を明記していません)。この研究の数字に照らすと、#20を使う流儀では根尖孔の変形が起きる歯の割合が半数を超える計算になります。
・著者らの見立ては、手技そのものに対して慎重です。とくに湾曲根管では、根尖孔の形や太さを変えずにパテンシーファイルを安全に使う方法を考えるのは難しいと述べたうえで、使うなら可能な限り細いサイズをと結んでいます。
なお、変形が「始まってから」はサイズを上げるほど大きくなる、という所見も実務的です。細いファイルで通した後に、同じ感覚で太いファイルを通さない。それだけでも意味があります。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:パテンシーファイルを使うなら、可能な限り細いサイズを選ぶ。数字で言えば、30本中18本(60%)で根尖孔のトランスポーテーションが起き、ステンレス(9/15)とニッケルチタン(9/15)で差はありませんでした(p=1.00)。しかも#10を1mm越えて3回動かしただけで、すでに30本中10本(33.3%)で始まっており、#20まで使うと17本(56.6%)。著者らは、根尖孔は根尖の真上ではなく側方に開くことが多いため、ファイルはサイズや動かし方にかかわらず片側の壁に当たると説明し、とくに湾曲根管では、根尖孔の形や太さを変えずにパテンシーファイルを安全に使う方法を考えるのは難しいとまで述べています。そのうえでの「細く使う」という結論です。「広げずに通す」という定義が、実際には成り立ちにくい場面がある——この論文の持ち帰りはそこです。ただし根尖側4mmだけを切り出した抜去歯の実験で、根管の湾曲や歯種も限られており、臨床の予後を見た研究ではありません。


