1問1答 論文 エンド

治らない根尖病変、細菌は根管の「外」にもいた——難治症例11検体を走査電顕で見ると、9検体にバイオフィルムがあった(2002年)

1問1答 論文 エンド

エンド|何度治療しても消えない根尖透過像。原因は根管の中だけなのか。難治性・慢性根尖性歯周炎の抜去歯6本と、根尖から突き出たガッタパーチャ5本を走査電顕で観察した形態学研究(Noiri 2002・Journal of Endodontics/大阪大学)

根管治療を繰り返しても消えない根尖病変。原因は根管内に残った細菌と感染歯髄の残渣——側枝・象牙細管・根管壁と充填材の隙間にひそむ菌——と説明されてきました。では根管の外はどうでしょう。当時は慢性の根尖病変の中に生きた微生物はいないと考えられており、根尖孔の外に細菌を見つけた報告と、見つからなかった報告が並び立っていました。著者らは難治性の根尖性歯周炎で抜去した歯6本と、再治療時に取り出した根尖から突出したガッタパーチャポイント5本の計11検体を走査電顕(SEM)で観察しました。結果、11検体中9検体根管外にバイオフィルムが見つかりました(原著は9検体の内訳までは報告していません)。ガッタパーチャの表面はグリコカリックス様構造でほぼ覆われ、フィラメント状・長桿菌・スピロヘータ様の菌が優勢。その構造からプランクトニック(浮遊)細胞が遊出している像も捉えられました。著者らは、根管外に形成されたバイオフィルムが難治性の根尖性歯周炎に関わっていると結論しています。

論文
Participation of Bacterial Biofilms in Refractory and Chronic Periapical Periodontitis
著者
Yuichiro Noiri(野杁由一郎)、Atsushi Ehara、Takashi Kawahara、Naoki Takemura、Shigeyuki Ebisu(大阪大学大学院歯学研究科 保存科・歯内療法学)
掲載
Journal of Endodontics 2002;28(10):679-683
種類
ヒト検体の走査電子顕微鏡による形態学的観察研究(症例シリーズ)。対象=計11検体。①慢性根尖病変の再治療で取り出した根尖から突出していたガッタパーチャポイント5本、②難治性の根尖病変で抜去した歯6本(患者10名・16〜63歳、全例で以前に根管治療歴と根尖透過像あり、全例で同意取得)。採取時、瘻孔が5例にあり、歯周ポケットは全例3mm未満で根尖病変は歯肉溝から隔離、治療中に抗菌薬・抗炎症薬を全身投与したのが6例。周囲の細菌で汚染しないよう注意して採取し、マイクロ波照射下で即時固定(2%パラホルムアルデヒド+2.5%グルタルアルデヒド)、エタノール系列で脱水、t-ブチルアルコール凍結乾燥、オスミウム約5Åコーティングののち15kVのSEMで観察。細菌の同定(培養・PCR)は行っていない
PMID
12398163

根管の中はきれいにした。それでも消えない透過像

再根管治療をして、貼薬も丁寧にして、緊密に詰めた。それでも根尖の透過像が残る症例に、誰でも出会います。

難治性・慢性の根尖病変の主な原因は、細菌とその代謝産物、そして感染歯髄の残渣——側枝・象牙細管・根管壁と充填材の隙間に残ったもの、と説明されてきました。どれも根管の中の話です。

結論を先に言います。難治症例の11検体(抜去歯6本・突出ガッタパーチャ5本)を走査電顕で見ると、9検体で根管の「外」に細菌バイオフィルムがありました。見つかった場所は、突出したガッタパーチャの表面と、病変の中にあった根尖部の根面です(原著は9検体の内訳までは報告していません)。

「病変の中に生きた菌はいない」という前提が揺れていた

当時のエンドの教科書的な理解では、慢性の根尖感染では病変内に生きた微生物は存在しないとされていました。一方でTronstadらは、細菌が根尖病変の中で生き続け感染を維持しうると報告していました。

ところが反証もあります。WaltonとArdjmandがサルで作った根尖病変では、根尖部に細菌のコロニーは見られませんでした。彼らは「手術や抜歯のときに表層の細菌が根尖組織を汚染し、ヒトの微生物学的サンプリングで偽陽性を生んでいるのではないか」と結論しています。
つまり「本当に病変の中にいるのか、採取のときに付いたのか」——ここが長く決着しない論点でした。

著者らが注目したのが、根尖から突き出たガッタパーチャポイントです。多くの研究でこれは組織学的にも形態学的にも調べられてこなかった。そしてガッタパーチャは根管壁との間に微小な隙間があるため比較的容易に引き抜ける——外科的生検や抜歯に比べて、採取時に汚染される可能性が低いのです。

今回の一手:難治症例の11検体を、汚染に気をつけて電顕で見る

対象=計11検体。①慢性根尖病変の再治療で取り出した根尖から突出したガッタパーチャポイント5本、②難治性の根尖病変で抜去した歯6本。患者は10名(16〜63歳)、全員が以前に一般開業医で根管治療を受けており、全例に根尖透過像がありました。
瘻孔が5例歯周ポケットは全例3mm未満で根尖病変は歯肉溝から隔離されていました(=歯周ポケット経由の細菌侵入ではない、という担保です)。治療中に抗菌薬・抗炎症薬を全身投与したのが6例
採取は周囲の細菌で汚染しないよう慎重に行い、マイクロ波照射下で即時固定(2,450Hz・500W・15秒)したうえで、脱水・凍結乾燥・オスミウムコーティングを経て15kVの走査電顕で観察しています。

なお、この研究は形を見る研究であり、培養やPCRによる菌種の同定は行っていません。「何がいたか」ではなく「どういう構造で、どこにいたか」を見た研究です。

結果:11検体中9検体、根管の外にバイオフィルムがあった

走査電顕で観察された4つの所見(原著の観察所見を模式化)

根尖病変の本体(サンプル2では病変内で歯根膜が消失していた)

①突出したガッタパーチャの表面 グリコカリックス様構造でほぼ完全に覆われる

②病変内にあった根尖部の根面 大半がバイオフィルムに覆われ、長桿菌とフィラメントが優勢

③遊出するプランクトニック細胞 スピロヘータ様菌・フィラメントが構造から出ていた

④残存歯根膜の隣の健全セメント質 わずかなフィラメント・桿菌・紡錘菌が小さなコロニーを作る

原著Fig.2〜9の観察所見をもとに作図した模式図。位置関係を示すためのもので、実際の縮尺・形状ではない

走査電顕で観察された4つの所見(原著Fig.2〜9の観察所見をもとに作図した模式図)

見つかったものを順に並べます。

突出したガッタパーチャの表面(サンプル1では突出部が約2mm):グリコカリックス様構造でほぼ完全に覆われていた。根管外の部位ではフィラメント状菌・スピロヘータ様菌が密に集まり、グリコカリックスの表面や隙間には少数の球菌と短桿菌。
遊出するプランクトニック細胞:バイオフィルムの構造からフィラメントとスピロヘータ様菌が出ていく像が捉えられた。
抜去歯の根尖部の根面:病変の中にあった根面の大半がバイオフィルムに覆われ長桿菌とフィラメントが優勢。根尖孔の内壁にも紡錘菌とフィラメントが見られた。
健全なセメント質の側:残存歯根膜の隣では、わずかな桿菌・フィラメント・紡錘菌が小さなコロニーを作る程度にとどまっていた。
このほか、抜去歯6本中2本に外部吸収が見られました。サンプル2では、病変の本体の中で歯根膜が消失していました。

スピロヘータ様の菌は20µmを超える大きさで、著者らはこれまで検出されてこなかった口腔スピロヘータが根管外の感染に関わっている可能性を示唆しています。

なぜ「治らない」につながるのか

なぜ「治りにくい」のか——著者らが引用したバイオフィルム感染の性質

ゆっくり育つ バイオフィルム感染は はっきりした症状が 出るまで時間がかかる

免疫と薬に抵抗する 抗菌薬は急性症状を 和らげるが、構造の中の 菌は殺しきれない

菌を送り出す 浮遊細胞が構造から 遊出し、急性感染の 病巣として働きうる

この研究が示したのは、その舞台が「根管の外」にもあるということ 11検体中9検体で、病変内の根面と突出ガッタパーチャの表面にバイオフィルムが見つかった

左の3つはCostertonらの報告として原著の緒言・考察に引用された、バイオフィルム感染一般の性質。この研究自体が 薬剤抵抗性や症状の経過を測ったわけではなく、形態観察から得られた状況証拠である点に注意(原著考察)

著者らが引用したバイオフィルム感染一般の性質と、この研究の位置づけ

バイオフィルムというかたちを取ると、細菌にとって環境は有利になります。著者らはCostertonらの報告を引いて、次の3点を挙げています。

バイオフィルムはゆっくり育ち、はっきりした臨床症状が出るまでに時間がかかる
抗菌薬は急性症状を和らげるが、バイオフィルムの中の細菌を完全には殺せない(原著は、抗菌薬療法が急性症状を和らげ、それが浮遊細胞の放出につながる、と書いています)。
浮遊細胞が構造から離れるのは、遺伝的にプログラムされた自然な振る舞いであり、バイオフィルムは急性感染の病巣として働きうる

原著は、う蝕と辺縁性歯周炎がプラークバイオフィルムによって起こることに加え、骨髄炎・嚢胞性線維症・壊死性筋膜炎・細菌性前立腺炎にもバイオフィルムが関与していると挙げています。その舞台が根管の外にもあった——というのが、この研究の主張になります。

著者らはまた、採取・作製の過程で付いた汚染ではない根拠として、抜去歯とガッタパーチャの両方で同じようなバイオフィルム構造が見られ、それらは長い時間をかけて築かれたものだったことを挙げています。

明日の臨床へ

治らない根尖病変では、根管の外に細菌の足場がある可能性を考慮に入れる。この研究の症例は、全例で歯周ポケット3mm未満=歯周組織からの侵入経路が無い状態でした。
根尖から材料をはみ出させることには、感染の足場を作る側面がある。著者らはオーバーフィリングの症例では、ガッタパーチャのような充填材が感染の始まりに関与しうると述べています。
抗菌薬の全身投与で症状が和らいでも、それは根管外のバイオフィルムを消したことにはならない——これはCostertonらのバイオフィルム感染一般の性質からの帰結で、この研究が検証したことではありません(なお本研究でも治療中に6例で抗菌薬が使われていました)。
・ただし、この論文は「だから外科処置をすべきだ」とは言っていません。むしろ、根尖切除時の操作で根尖部のバイオフィルムが乱され、過去の組織学的研究で菌が検出されなかった一因かもしれない、と考察しています。

臨床に落とすなら、「根管の中をきれいにする」という一本足で説明しきれない症例があると知っておくこと。その先の術式の選択は、この論文の範囲を超えます。

ここだけ、冷静に補助線

いちばん大きな注意点は、これが11検体の形態観察であり、対照群が無いことです。治癒した症例や健全な根尖と比べたわけではないので、「根管外バイオフィルムがあるから治らない」という因果は示されていません。著者ら自身、この所見を病変内に細菌が存在することの「状況証拠(circumstantial evidence)」と慎重に書いています。菌種の同定も行われておらず、見えているのは形だけです。採取時の汚染についても、著者らは複数の根拠を挙げていますが、電顕観察という方法では完全には否定できません。難治性という定義の基準や、治療歴の詳細も揃っていません。それでも、ガッタパーチャという「取り出しやすく汚染されにくい検体」に着目して、根管外のバイオフィルムを実物の像で示したことは、この分野の議論を一段進めた仕事です。日本学術振興会の科学研究費による研究です。

今日のひとこと

著者らの結論:根管外に形成された細菌バイオフィルムが、難治性の根尖性歯周炎に関わっている。数字で言えば、11検体中9検体で根管外のバイオフィルムが見つかりました。突出したガッタパーチャの表面はグリコカリックス様構造でほぼ完全に覆われフィラメント状菌とスピロヘータ様菌が優勢。抜去歯では病変の中にあった根尖部の根面の大半がバイオフィルムに覆われ6本中2本に外部吸収が見られました。ここから遊出するプランクトニック細胞が捉えられたことも重要で、著者らはバイオフィルムが宿主の免疫に抵抗し、急性感染の病巣として働きうるという一般知見(Costertonら)と重ねて考察しています(この研究自体が薬剤抵抗性や症状の経過を測ったわけではありません)。「根管の中をきれいにしたのに治らない」の裏に、根管の外という舞台があるかもしれない——この論文の持ち帰りはそこです。ただし11検体の形態観察で、対照群も細菌の同定もなく、因果を示した研究ではありません。

Noiri Y, Ehara A, Kawahara T, Takemura N, Ebisu S. Participation of bacterial biofilms in refractory and chronic periapical periodontitis. J Endod. 2002;28(10):679-683. PMID: 12398163
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。