1問1答 論文 エンド

スメア層は根管壁の「表面だけ」?——一部の象牙細管へ最大40 µmまで詰め込まれていた

1問1答 論文 エンド

エンド|それまで「上から」しか見られていなかったスメア層を、割った根の断面から「横から」見て、細管の中への詰め込みを根管壁で初めて記載したと著者らが述べる古典(Mader・Baumgartner・Peters 1984・J Endod)

「スメア層」と聞くと、根管壁に貼りついた1枚の薄い膜を思い浮かべる人が多いはずです。それまでの走査型電子顕微鏡(SEM)研究が、壁を真上から見下ろしていたからです。米陸軍歯科研究所のMaderらは1984年、K型ファイルで形成し5.25%次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)で洗浄した抜去歯5本の根を縦に割り、象牙細管が壁面ちょうどで縦に割れた場所を探して、スメア層を「横から」観察しました。上から見た像はそれまでの報告と同じでした。ところが横から見ると、壁の表面の層(おおむね1〜2 µm)とひと続きになった細かい粒子状の物質が、一部の象牙細管の中へ詰め込まれていました。深さは数µmから、密に詰まった場所では最大40 µm。器具が当たっていない面には表面の層がなく、1本の標本では、その下の細管にも詰め込みが見られませんでした。著者らは、形成で生じるスメア物質を「表面の薄い層」と「細管内に詰め込まれた物質」という2つの連続した成分からなる立体として考えるべきだと結論しています。ただし、詰め込みがどのくらいの頻度で、典型的にどの深さまで起きるかは、この研究では判定できなかったと著者ら自身が書いています。

論文
Scanning electron microscopic investigation of the smeared layer on root canal walls
著者
Carson L. Mader(US Army Institute of Dental Research・電子顕微鏡室長)、J. Craig Baumgartner(同・エンド研修プログラム責任者)、Donald D. Peters(US Army Dental Activities)
掲載
Journal of Endodontics 1984;10(10):477-483
種類
抜去歯を使った実験室研究(in vitro)・SEMによる形態観察。臨床歴不明の抜去ヒト下顎大臼歯5本(2%グルタルアルデヒド保存)の、単根管の遠心根を使用。作業長は#10 K型ファイルが根尖孔に見えた長さから1 mm短く設定し、根尖側1/3の外側をワックスで覆ってマネキンに装着。#10〜#25を作業長まで、その後#50まで0.5〜1 mmずつ短くするステップバック法(各ファイル30秒・#25で5秒のリキャピチュレーション)。ファイルごとに5.25% NaOCl 3 ml(23ゲージの先端が平らな針・計30 ml)で洗浄し、最後に滅菌水3 mlで洗い流してペーパーポイントで乾燥。形成は同一術者。根を縦に割ってSEMで「上から」と「横から(細管が壁面で縦に割れた部位)」の2方向から観察。数値の測定や統計解析はなく、所見は記述的
PMID
6593410

スメア層は「膜」だと思っていませんか

根管形成のあと、「スメア層を落とすかどうか」はエンドでよく話題になります。そのとき頭に浮かぶのは、根管壁の上に薄く貼りついた1枚の膜ではないでしょうか。

結論を先に言うと、1984年のこのSEM観察は、その像に奥行きを足しました。壁の表面を覆う層はおおむね1〜2 µm。ところが同じ削りかすが、一部の象牙細管の中へ最大40 µmまで詰め込まれていたのです。器具が当たっていない面には表面の層がなく、1本の標本では、その下の細管にも詰め込みが見られませんでした。

それまで、スメア層は「上から」しか見られていなかった

形成した根管壁に、SEMの高倍率でしか見えない層ができることは、McCombとSmithの1975年の報告以来くり返し確かめられていました。主成分は石灰化組織の細かい無機粒子と考えられ、歯髄組織・象牙芽細胞突起・細菌・血球といった有機物も含むと推測されていました。形成していない根管や、形成し残した壁には見られないため、器具そのものが作る層と考えられていました。

臨床的な意味は、当時から両論ありました。象牙細管の開口部を塞いで象牙質の透過性を下げ、細菌の侵入を防ぐ拡散バリアになるという見方。反対に、薬剤や充填材が細管へ入るのを妨げ、壁に触れることすら邪魔するうえ、生きた細菌を含むかもしれないという見方です。

著者らが引っかかったのは、除去の方法ばかりが研究され、層そのものの形はあまり調べられていないことでした。しかもそれまでのSEM観察は、壁を真上から見下ろすものばかりでした。

根を割って「横から」見る

歯:臨床歴がわからない抜去ヒト下顎大臼歯5本(2%グルタルアルデヒドで保存)。いずれも遠心根が1根管のものを使いました。
形成:#10 K型ファイルが根尖孔に見えた長さから1 mm短く作業長を設定。根尖側1/3の外側をユーティリティワックスで覆って洗浄液が根尖から抜けないようにし、マネキンに装着して臨床に近づけました。ステップバック法で、#10〜#25は作業長まで、その後は#50まで0.5〜1 mmずつ短く。各ファイルを30秒使い、#25を超えてからは毎回#25で5秒、作業長までリキャピチュレーションしています。
洗浄:ファイルを替えるたびに5.25% NaOCl 3 mlを、23ゲージの先端が平らな針で注入(1根管あたり計30 ml)。最後にNaOClの作用を止めるため滅菌水3 mlで洗い流し、ペーパーポイントで乾燥。形成はすべて同じ術者です。
観察:遠心根を切り離し、縦に溝を入れてペンチで半分に割り、SEMで2方向から観察しました。
同じ根管壁を、2つの方向からSEMで見た

① 上から見る(それまでの研究)

見えるのは表面の層だけ 不定形・顆粒状、ところどころ 亀裂やデブリ 結果は既報と同じ

② 横から見る(この研究)

根管

割れた象牙質の断面

細管が壁面ちょうどで縦に割れた 偶然の場所を探して撮影 細管の中への詰め込みが見えた

この研究の2つの視点(原著の方法の記述を筆者が図にした概念図。寸法は模式)

「横から」の像は狙って作れません。割れた断面と根管壁の境目を丹念に走査し、象牙細管がちょうど壁面のところで縦に割れている、偶然の場所を見つけて撮影しています。

結果:表面の層と、細管の中の詰め物

スメア物質は「表面の層」と「細管の中」がひと続き(模式図)

根管 の中

表面の層 おおむね1〜2 µm

密に詰まった細管 最大40 µm

節に分かれた見た目

ゆるく数µmだけ

空に見える細管 (割断で抜け落ち  たと著者らは推測)

器具が当たって いない面 表面の層なし 細管の詰め込みなし (詰め込みは1標本の所見)

斜めに割れて細管の奥が乱れていない部位では、大半の細管に10 µm以上の詰め込み(Fig. 10)。寸法は模式

横から見たスメア物質の模式図。1〜2 µmと最大40 µmは原著の結果・結論の記述、「10 µm以上」は斜めに割れた部位(Fig. 10)についての考察の記述。寸法は模式で縮尺どおりではない
上から見ると(それまでと同じ所見):形成した部分では根管壁の本来の形が見えなくなり、表面は不定形で凸凹した顆粒状。場所によって層が厚く目立つ部位があり、ところどころに亀裂(試料作製と観察時の真空によると推定)とデブリが見られました。
横から見ると(新しい所見):表面の層と同じような細かい粒子状の物質が、一部の象牙細管の中に押し込まれていました。著者らは、それまで文献に報告のない所見としています。
深さ:密に詰まった場所では最大40 µmで、壁から細管の中へ指が伸びたような形。ゆるく短く詰まっているだけの場所もあり、数µm程度のこともありました。
形:しばしば節に分かれたような見た目で、少しずつ押し込まれたかのよう。細管内の物質の奥側が、壁面を覆う層とそのままつながっている場所もありました。
表面の層の厚さ:部位により違うものの、おおむね1〜2 µm

ただし、縦に割れた細管の多くは空っぽに見えました。著者らはこれを「割ったときに中身が抜け落ちた」ためと読んでいます。実際に、詰め物が細管からこぼれ落ちかけている像があり、細管の奥が割断で乱されていない斜めに割れた部位では、大半の細管に10 µm以上の詰め込みが見られました。詰め込みは、周囲の半分未満しか割れていない細管でよく見られ、半分以上が割れた細管ではまれでした。

器具が当たっていない面では、どちらもなかった

ある標本では、割れた断面が、たまたま形成されずに残った広い面を通っていました。そこには表面のスメア層がなく、ところどころデブリが載っているだけ。その下の細管にも、詰め込みは1か所も見つかりませんでした

著者らはこれを、表面の層も細管内の詰め物も、根管壁を形成した器具が直接つくったものという強い示唆と受け取っています。

なぜ、細管の奥まで入るのか

似た現象は、1974年にBrännströmとJohnsonが、バーで削った象牙質で「ときおり、削りかすの栓が細管に数µm入り込んでいる」と記載していました。今回はそれよりずっと程度が大きかったことになります。

著者らの推測は2つです。根管内が洗浄液で湿っていること、そして手用ファイルの切削と、壁をこする(バニッシュする)動きが、詰め込みを強めたのだろう、というものです。いずれも検証した結果ではなく、考察での見立てです。

もう1点、観察の性質にも触れています。スメア物質はもろいため、詰め込みの頻度と程度は評価できなかった、と。結論では別に、スメア物質は細管にゆるく付いているだけに見えるとまとめています。ゆるく付いているとされたのは細管の中の物質で、反対に細管と細管の間の断面を覆う表面の層は、下の象牙質に密着しているように見え(著者らの考察)、断面ではほとんど識別できませんでした。

明日の臨床へ

著者らの結論:
・K型ファイルと5.25% NaOClでの形成で生じるスメア物質は、根管壁表面の薄い層と、象牙細管に詰め込まれた物質という、ひと続きの2つの成分として考えるべきである。
・表面の層はおおむね1〜2 µm。細管内には一部で最大40 µmまで詰め込まれていた。
・詰め込みの実際の頻度と典型的な深さは、この研究からは判定できない。
・スメア物質はもろく、細管にゆるく付いているだけに見える。
補足(筆者の読み):
・「スメア層を落とす」と言うとき、思い描いているのが表面の1〜2 µmだけなのか、細管の入口に押し込まれた部分まで含むのかで、話が変わってきます。この論文は、その2つを分けて考える土台をくれます。
・ただし、どう落とすか・落とすべきかはこの研究では調べていません。著者ら自身、スメア物質が治療に有益か有害かという臨床上の問いには答えていない、と書いています。
・観察したのはK型ファイルによる手用形成と5.25% NaOClの組み合わせだけです。著者らは、器具や洗浄液が変われば詰め込みの起こり方も変わりうると断っています。今のロータリー/レシプロのNi-Tiファイルや、別の洗浄液にそのまま当てはめるには、別の裏付けが要ります。
・著者らは今後の研究として、除去法だけでなく、スメア物質を逆に活かす(強める)方法も挙げています。当時から「落とすのが正解」と決めつけていなかった点は、覚えておきたいところです。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、抜去歯5本の実験室研究で、歯は臨床歴も歯髄の状態も不明、グルタルアルデヒドで保存されていました。生活歯で象牙芽細胞突起や組織液があるときに同じことが起きるかは推測の域だと、著者らも明記しています。第二に、数値は測定値の集計ではありません。1〜2 µmや最大40 µmは、測定方法の記載はなく、観察からの記述で、本数・部位ごとの内訳や統計は示されていません。第三に、「横から」見える場所は偶然見つかった部位で、しかも割断で詰め物が抜け落ちるため、見えている像が全体を代表しているとは言えません(著者らが頻度と典型的な深さを「判定できない」とした理由です)。第四に、表面の亀裂は試料を真空にかけた影響と推定されており、SEM用の処理そのものが形を変えうる手法です。第五に、器具はK型ファイル、洗浄液はNaOClに限られています。それでも、同じ根管壁を「上から」と「横から」の2方向で見比べ、スメア層に奥行きがあることを示したこの観察は、スメア層を「膜」から「奥行きのあるもの」へと見直すきっかけをくれます。40年前の白黒写真ですが、根管洗浄を考えるたびに思い出したい1本です。

今日のひとこと

著者らの結論:K型ファイルと5.25% NaOClによる形成で生じるスメア物質は、根管壁の表面を覆う薄い層(おおむね1〜2 µm)と、一部の象牙細管に詰め込まれた物質(最大40 µm)という、ひと続きの2つの成分として考えるべきである。詰め込みの頻度と典型的な深さは判定できず、スメア物質はもろく、細管にゆるく付いているだけに見える。筆者の読みでは、この論文の値打ちは数字そのものより、スメア層を「面」ではなく「奥行きのある立体」として見直した視点にあります。それが治療に有益か有害かは、著者ら自身が「答えていない」と明言しています。

Mader CL, Baumgartner JC, Peters DD. Scanning electron microscopic investigation of the smeared layer on root canal walls. J Endod. 1984;10(10):477-483. PMID: 6593410
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。