カリフォルニアの歯科医師1,842人に聞いたら、咬合面では40.7%が「すぐ削る」と答えた(Rechmann 2016・JADA)
低リスク・清掃良好な20歳の患者。エナメル質にとどまるう蝕を見つけたとき、あなたは「今日削る」と決めますか、それとも経過を見ますか。同じ質問を各国で使われてきた同じ図版で投げ、1,842人の答えを集めた調査があります。
①「削るかどうか」は、どこまで揃っているのか
非切削で管理できるう蝕がある——これは今や共通認識です。非窩洞性の病変は再石灰化で管理でき、フッ化物とシーラントによる経過観察が第一選択とされています。
ところが実際の診療室では、判断が分かれます。同じレントゲンを見て、ある人は「今日削る」と言い、ある人は「半年見る」と言う。この差はどれくらいあるのか。そして、その差はどこから来るのか。
この問いに対しては、各国で同じ調査票が使われてきました。Espelidらが作り、Tveitらが用いた質問紙は、う蝕の進行段階を示す図版を見せて「これ以上は絶対に先送りしない、最小の病変はどれか」を尋ねる形式です。ノルウェー、スウェーデン、フランス、クウェート、ブラジル、クロアチア……と比較データが積み上がっています。
②カリフォルニア州の歯科医師16,960人に投げる
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のグループが、2013年5月にカリフォルニア州免許の歯科医師16,960人へウェブ調査を配信しました。
グレードの定義は次のとおりです。隣接面=1: エナメル質外層/2: エナメル質内層/3: エナメル象牙境(DEJ)/4: 象牙質外1/3/5: 象牙質中1/3/6: 象牙質内1/3。咬合面=1: 白色または褐色の変色のみ(窩洞なし・X線所見なし)/2: 表層の軽度の実質欠損またはエナメル質にとどまるう蝕(X線所見なし)/3: 中等度の実質欠損またはX線で象牙質外1/3/4: 象牙質中1/3/5: 象牙質内1/3。
③隣接面では18%が、咬合面では40.7%が「エナメル質で削る」
窩洞形態と材料の選択も聞いています。隣接面では従来型のII級窩洞が54.1%、最小限侵襲の窩洞(トンネルまたはソーサー型)が45.9%。一方咬合面では64.6%が「う蝕のある部位に限局する」と答え、小窩裂溝系全体を含める人は31.5%でした。材料は隣接面92.6%・咬合面94.6%が歯冠色材料です。
興味深いのは、窩洞形態と材料の選択が、閾値の深さとは独立していたこと。「深くなるまで待つ人が、削るときも最小限にする」という相関はありませんでした。
④実際の症例写真では、もっと踏み込む
図版の質問に続いて、実際の症例写真2例が提示されました。
症例2の数字は考えさせられます。半数が「エナメル質にとどまる」と診断したうえで、半数以上が削る。ガイドライン上はシーラントとフッ化物の適応です。原著はシーラントが非窩洞性病変に推奨されていることに触れつつ、この症例では「大半の術者が、より保存的なシーラントやフッ化物・無処置よりも修復的介入を選んだ」と記しています。
なお原著が「この実践は、これらの病変が再石灰化し可逆でありうるという文献とは整合しない」と明言しているのは、隣接面でエナメル質にとどまる段階(グレード1・2)を削ると答えた約20%についてです。
卒後年数の効果も出ました。卒後20年以内の世代のほうが、隣接面では深い段階(象牙質外1/3)まで待つ傾向にあり(P<.0001)、卒後20年を超える世代はエナメル質にとどまる段階で削る傾向でした(グレード1・2は20.2%対14.8%、グレード4は32.3%対34.8%)。小児歯科医は一般開業医より遅い段階で削る(P<.0001)。性別との関連はありません。咬合面については、結果本文が「どの背景要因とも関連しなかった」と述べる一方、表3の卒後年数とのP値は.05と、有意水準の境界にあります。
⑤国際比較のなかで見ると
原著は、他国の同じ調査と並べています。フランスやブラジルでは、大多数がエナメル質にとどまる隣接面う蝕を削ると答え、クウェート・米国・イランではそれぞれ象牙質の外1/3・中1/3に達してからという報告があります(咬合面については、スウェーデンとクウェートがさらに深い段階まで待つと記されています)。とくにスカンジナビアは16年以上前から閾値が高く、ノルウェーでは調査を重ねるたびに閾値が一貫して深いほうへ動いてきた、と記されています。
窩洞形態でも差があります。ノルウェーとフランスではソーサー型(斜面を大きく取るスロット窩洞)が主流なのに対し、カリフォルニアとクウェートは従来型II級が主流。原著は、トンネル窩洞は視野が塞がれ二次う蝕が問題になって成功しなかった一方、ソーサー型は歯質を保存でき、長期研究で良好な成績が示されていると整理しています。
そして原著が最後に置くのは、「修復だけでは口腔の健康は担保されない」という一点です。2012年のう蝕臨床試験では、対照群に修復処置を行ってもミュータンスレンサ球菌の菌量は有意に減らず、う蝕リスクの区分も有意には変わらなかったと引用されています。
⑥明日の臨床へ
第一に、自分の閾値を言葉にしてみる。「DEJに達したら」なのか「象牙質外1/3から」なのか。この調査で最も多かったのは隣接面のDEJ(42.6%)ですが、それが正解というわけではありません。まず自分がどこに線を引いているかを自覚することが出発点です。
第二に、医院の中で線を揃える。同じ医院で術者によって閾値が違えば、患者から見れば「担当で説明が変わる」ことになります。図版を使って院内で答え合わせをしてみるだけでも、差の大きさが見えます。
第三に、非窩洞性の病変には、削る以外の選択肢を明示的に置く。症例2で56.9%が削ると答えたのは、選択肢がないからではなく、削らない選択を積極的に選ぶ運用になっていないからかもしれません。フッ化物塗布・シーラント・次回の再評価日を、カルテ上の「処置」として書けるようにする。
第四に、「削れば片づく」という前提を外す。原著が引くとおり、修復処置そのものは細菌学的な負荷もリスク区分も変えません。閾値の議論は、リスク評価と予防処置とセットにして初めて意味を持ちます。
最大の限界は回答率11.3%です。原著自身、郵送調査なら40〜80%が普通で、ウェブ調査は低くなると認めています(米国の別のウェブ調査は6.3%)。回答者の性別・年齢構成は母集団とよく似ていた一方、小児歯科医は5割ほど多く回答していました。そして、これは「そう答えた」であって「そうしている」ではありません。原著も、「X線で象牙質外1/3に及ぶ」と文字で添えたことが、画像だけを見せた場合より積極的な回答を引き出した可能性に触れています。用いた調査票は10年以上前のもので、noncavitated(非窩洞性)という語も組み込まれていません——それでも各国比較のために意図的に変更しなかった、と説明されています。ひとつ付け加えると、結果本文は「咬合面の判断はどの背景要因とも関連しなかった」と書いていますが、表3では咬合面と卒後年数のP値は.05——本論文の有意水準そのものの境界です(実際、卒後20年以内では42.6%がエナメル質にとどまる段階で、49.9%が象牙質外1/3で削ると答え、卒後20年超では39.3%と50.0%でした)。隣接面ほど明確な差ではありませんが、「まったく関連しない」と読み切るには微妙な位置にあります。
今日のひとこと
削る/削らないの線引きは、思っているより人によって違う。同じ図を見て、隣接面では18%が「エナメル質の段階で削る」と答え、33.4%が「象牙質外層まで待つ」と答えた。咬合面では40.7%がエナメル質の段階で削ると答えている。卒後20年以内の世代のほうが、隣接面では深い段階まで待つ傾向にあった。


