カリオロジー|CPP-ACP(MIペースト等)とホワイトスポットの再石灰化
初期う蝕の白斑に、MIペーストを勧める場面は少なくありません。矯正のブラケットを外したあとの白い痕にも、よく使われます。ですが「フッ化物より効くのか」と正面から問われると、僕らは急に歯切れが悪くなる。12本のランダム化比較試験を集めたレビューが、その歯切れの悪さの正体を教えてくれます。
①「MIペースト、効きますか」に歯切れよく答えられない
初期う蝕の白斑に、CPP-ACP(MIペースト、GC トゥースムース等)を勧める場面は少なくありません。矯正のブラケットを外したあとの白い痕にも、よく使われます。
ですが「フッ化物より効くのか」と正面から問われると、急に歯切れが悪くなる。「プラセボより良いのはわかる。でもフッ化物に上乗せする意味があるのか」——ここが、はっきりしないからです。
12本のランダム化比較試験を集めたレビューが、その歯切れの悪さの正体を教えてくれます。
②ペースト型に絞って、12本を集める
インド・チェンナイのRagas Dental Collegeによるシステマティックレビューです。
- PubMedとGoogle Scholarを2005〜2016年で検索。英語論文のヒトRCTのみ。動物実験・in vitro は除外
- 介入はペースト型のCPP-ACPに限定。シュガーレスガム・ロゼンジ・フッ化物ゲル・洗口液・抗菌ゲルの形は除外している——ここは読むときに効いてくる条件です
- 重複を除いた295件から、タイトルで251件、抄録の査読で29件、全文の査読で3件を除外し、12研究が残った(※原著の記載は途中の件数が整合しない部分があります)
- 内訳は自然発生の早期う蝕が4研究、矯正後のホワイトスポットが8研究
- バイアスリスクは低い7研究・中等度3研究・高い2研究。主な問題はサンプルサイズの不十分さ・割付の隠蔽が不明・脱落率の記載欠如
評価法は研究ごとにばらばらで、ICDAS II(5研究)・DIAGNOdent(3研究)・DMFS(2研究)・定量光誘導蛍光法QLF(3研究)・写真(3研究)・エナメル脱灰指数EDI(2研究)が使われています。著者らは「単独で十分な信頼性を持つ方法はないので、今後は少なくとも2つを組み合わせるのが望ましい」と書いています。
もう一つ、気になる点。12研究のうちCPP-ACPの濃度を報告していたのは6研究だけで、その濃度も0.2%・0.2%・2%・10%・10%・1gとばらばらでした。市販製品の最高濃度が10%w/wであることを考えると、0.2%から10%まで50倍の開きがある製品が、同じ「CPP-ACP」として集計されていることになります。
③プラセボには勝つ。フッ化物とは並ぶ
自然発生の早期う蝕を扱った4研究のうち、3研究がプラセボと比べて有意なう蝕増加の抑制を示しました。代表的なのがインド・バンガロールのう蝕ハイリスク児(12〜15歳)を24か月追ったRao 2009です。
- 新しい病変ができなかった人の割合:2% CPP-ACP 72.3%/0.76% SMFP(フッ化物) 53.2%/プラセボ 31.1%(3群 計139名。原著は群とnの対応を明示していません)
- 有意差が報告されているのはう蝕の増加量についてで、CPP群とSMFP群のどちらもプラセボより有意に小さかった。ただしCPP群とSMFP群の間に有意差はなかった
残る1研究(Sitthisettapong 2012)は、2歳半〜3歳半の乳歯列で10% CPP-ACPペーストを1年間使い、フッ化物配合歯磨剤/プラセボと比べて病変の移行スコアに差なし(オッズ比 1.002、95%CI 0.86–1.17)でした。150名対148名という、このレビューでもっとも大規模な試験です。
矯正後のホワイトスポットを扱った8研究では、著者らの整理はこうです。4研究が「CPP-ACPの補助はフッ化物バーニッシュと比べて臨床的な優位性がない」と結論し、もう4研究は「CPP-ACPは表層下病変の再石灰化を促す」と報告した。
個別に見ると、こうなります。
- Bailey 2009(10% CPP-ACPクリーム 対 プラセボクリーム):12週で移行スコアの分布に有意差なし(オッズ比 1.67、p=0.16)
- Beerens 2010(CPP-ACP+NaF 対 フッ化物無配合ペースト+カルシウム+フッ化物歯磨剤):両群とも病変深さは改善したが、群間差なし(12週で 7.52±1.78 対 7.96±2.76)
- Huang 2013(MIペーストプラス 対 5%フッ化物バーニッシュ 対 ホームケア):8週で群間差なし
- Vashisht 2013(CPP-ACP 対 1450ppmフッ化物歯磨剤):DIAGNOdent値は両群で低下したが、試験群では統計的に有意でなかった(p=0.217)
- 一方でAndersson 2007(CPP-ACP 対 0.05%NaF歯磨剤):両群とも改善したが、CPP-ACP群のほうが有意に良かった(63% 対 25%、p<0.01)。ただしこの研究は各群13名です
- Bröchner 2011(CPP-ACP 対 1100ppmフッ化物歯磨剤):病変面積が58%減少(対照は26%)。ただし報告されているのは「介入群でベースラインと比べて有意」(p<0.05)であり、群間比較の記載ではありません
④原著の結論文は、読み方に注意が要る
ここは正直に書いておくべきところです。原著の結論文はこうです。
そしてもう一つ。このレビューにはメタ解析がありません。研究ごとに濃度も評価法も追跡期間(1か月〜2年)もばらばらで、統合された効果量は存在しない。著者らは「これらの違いが試験結果に影響しうる」と自ら書き、「この領域のエビデンスレベルを上げるには、よく設計されたRCTが必要である」と結んでいます。
つまりこの論文は、「CPP-ACPが効く」を証明した論文ではなく、「まだ決着していない」を丁寧に示した論文として読むのが正確です。
⑤明日の臨床へ
- 「フッ化物の代わり」としては勧められない。フッ化物歯磨剤・フッ化物バーニッシュとの比較で有意差が出た研究は限られ、矯正後では4研究が「優位性なし」と結論しています
- 「フッ化物に加えて」なら、否定する理由もない。プラセボとの比較では3研究で有意差が出ており、有害事象の報告も軽微な消化器症状が1研究にあるだけです(ただし副作用について報告していたのは12研究中2研究だけで、安全性の記載自体が乏しい)
- 製品の濃度を確認する。市販の最高濃度は10%w/wですが、このレビューには0.2%の製品も含まれています。「CPP-ACP配合」という表示だけでは、同じものを比べていることになりません
- 効果判定には3か月以上を見る。著者らは「脱灰・再石灰化の変化を観察するには通常3か月以上の追跡が必要」と書いています(治療期間の指示ではなく、観察期間の話です)。4週や8週で「効かない」と判断するのは早い
- ガム・タブレット型の話ではない。このレビューはペースト型に限定しています。同じCPP-ACPでも、剤形が違えば別の話です
今日のひとこと
自然発生の早期う蝕では、4研究中3研究でプラセボより有意に良かった。しかしフッ化物歯磨剤・フッ化物バーニッシュとの比較では、統計的に有意な差は示されなかった。「フッ化物の代わり」ではなく「フッ化物に加えて」という位置づけのまま、証拠はまだ動いていない。


