カリオロジー|加糖飲料の導入時期・う蝕の増加軌跡・スコットランド出生コホート
「まだ1歳だから、ジュースくらいは」——乳幼児健診でよく聞く言葉です。甘い味の好みは人生の早い時期に形づくられ、その後まで続くことが知られています。では最初の1年で加糖飲料を覚えた子は、そのあと4歳までのう蝕の増え方が変わるのか。フッ化物添加のないスコットランドで、1,111人を12〜48か月に最大4回診た記録があります。
①「まだ1歳だから、ジュースくらいは」
乳幼児健診でよく聞く言葉です。そして僕らも、はっきり否定しきれずにいます。「なるべく控えてくださいね」で終わってしまう。
否定しきれない理由の一つは、「いま飲ませている量」と「1歳で始めたこと」が、頭の中で分離できていないからではないでしょうか。3歳でよく飲む子はう蝕が多い。それはわかる。でも「1歳で始めたこと自体」に、そのあとの飲む量とは別の意味があるのか——これは、ふつうの横断研究では答えられません。
そこを、時間を分解して見た研究です。
②ダンディーで生まれた子を、12〜48か月に最大4回診る
スコットランド・ダンディーの出生コホートです。スコットランドの水道水にはフッ化物が添加されていません——ここは読むうえで重要な前提です。
- 1993年4月〜1994年3月に生まれた1,981名の家族に参加を呼びかけ、1,455名(73%)が最初の調査に参加
- 12・24・36・48か月の計4回、質問紙と歯科検診を実施。歯科データが1回以上ある1,419名のうち308名(21.7%)を欠測で除外し、解析対象は1,111名。各回の人数は1,099/1,019/871/957で、4回すべてにデータがあるのは781名(70.3%)
- アウトカムはdmfs(う蝕・喪失・充填歯面数)。う窩に至っていない病変(d1)も数えているのがこの研究の特徴で、検査は1人の歯科医師が全て担当(毎年3日間の較正パックを受講、検者内一致κ=0.75/初期病変のみで0.67)
- 曝露は加糖飲料(SSB)の1日あたりの回数。保護者が「甘い温かい飲み物」「甘い冷たい飲み物」の回数を報告し、その合計
肝はこの曝露を2つに分解したことです。
- 初期のSSB摂取=1歳時点(sweep 1)の回数。子ども”どうし”の差を表す
- 初期値からのずれ=その後の各回で、最初の値からどれだけ増減したか。同じ子の”中”での変化を表す
この2つを同時にモデルへ入れることで、「1歳で始めたこと」と「その後たくさん飲んだこと」を切り分けられる——というのが設計の狙いです。
実際の摂取回数は、1歳で1日1.8±1.7回、2歳以降は4.3・4.3・4.1回と一気に増えていました。dmfsのほうは0.1 → 0.7 → 1.5 → 3.7歯面、う蝕のある子の割合は2.1% → 10.8% → 23.4% → 45.8%です。
③1歳の差が、4歳の傾きに残った
混合効果モデルでは、初期のSSB摂取も、初期値からのずれも、どちらもう蝕の増え方(傾き)と有意に関連していました(年齢との交互作用:初期の摂取 係数0.01[95%CI 0.005–0.02]p=0.002/初期値からのずれ 係数0.01[0.005–0.01]p<0.001)。
面白いのは、12か月の時点では、加糖飲料を多く摂っている子のほうがdmfsはむしろ低かったことです(主効果 −0.10[−0.17, −0.03]p=0.006)。差は最初からあったのではなく、その後の傾きとして生まれています。原著は切片と傾きの共分散が負(−0.07)であることにも触れ、「ベースラインのdmfsがもっとも低かった子が、もっとも急な軌跡を辿った」と書いています。
予測値で示すと、48か月時点のdmfsは、
- 1歳の摂取が少ない群(0.2回/日):2.55歯面(95%CI 1.74–3.36)
- 平均(2.2回/日):3.41(2.87–3.96)※図の予測に使われた平均は2.2回/日で、記述統計の1.8回/日とわずかに異なります
- 多い群(4.2回/日):4.28歯面(3.47–5.08)
両端の差は1.73歯面。その後の増減で切ると差は1.17歯面で、「1歳の時点の差」のほうが大きく開いていました。著者らはこう書いています——「う蝕の軌跡は、初期値からのずれよりも、初期のSSB摂取の水準によって大きく分かれた」。
そして重要なのは、これが母親の年齢・喫煙・学歴、両親の就労、地域の貧困度、性別、出生体重、母乳、歯みがき回数を調整したうえでの結果だという点です。
④読み手として、隣に並ぶ数字も見ておく
原著はこの比較をしていませんが、同じFigureに並ぶ数字として見ておく価値はあります。48か月時点の予測dmfsは、親の就労が「なし」6.08/「1人」3.21/「2人とも」2.82(差3.26歯面)、母親の学歴は無資格4.42から高等教育2.07(差2.35歯面)、妊娠中の喫煙ありで4.39・なしで2.87でした。
ただし物差しは揃っていません。加糖飲料の1.73歯面は連続量の平均±1SD(0.2回/日と4.2回/日)という控えめな幅で、就労の3.26歯面は3カテゴリの両端です。単純に「こちらが大きい」とは言えない——それでも、この研究の中で社会経済的な因子がはっきり効いていることは読み取れます。著者らは、介入は生後1年の授乳・離乳の実践そのものに向けるべきだと結んでいます。
もう一つ、細かいけれど面白い所見があります。母乳で育った子は、どの時点でも加糖飲料の摂取回数が少なかった(6か月未満でも6か月以上でも、母乳経験なしより低い)。著者らは、調製乳にはスクロースやグルコースが含まれ、母乳の乳糖より甘いことを挙げ、味の好みの形成という観点から今後の研究課題としています。
⑤明日の臨床へ
- 「1歳までに始めない」を、独立した目標として伝える。この研究の芯は、その後の摂取量を調整してもなお、最初の1年の差が残ったという点にあります。「量を減らせばいい」ではなく「そもそも始める時期」の話として渡せる
- 数字は”歯面”で言う。1.73歯面は、乳歯列を思い浮かべれば決して小さくありません。ただし4歳時点の平均dmfsが3.7歯面である中での1.73だ、という前提もセットで
- 初期病変を見逃さない前提の数字である。この研究はう窩に至っていない病変も数えています。1歳では病変の82.6%が非う窩性——僕らが「まだ大丈夫」と流している段階が、この研究では数えられています
- 指導の相手を見る。同じモデルの中で、親の就労状況で3.26歯面、母親の学歴で2.35歯面の差がついています。個人へのアドバイスだけでは埋まらない部分があることも、頭の隅に置いておきたいところです
- 母乳の話は「う蝕を減らす」ではなく「甘い飲み物が少なくなる」の文脈で。この研究が示したのはSSB摂取との負の関連であって、母乳がう蝕を減らしたという結果ではありません
今日のひとこと
1歳時点の加糖飲料の多さは、その後の摂取量とは独立に、4歳までのう蝕の増え方が急な軌跡と関連していた。ただし追跡研究であり、著者ら自身が「因果は言えない」と明記している。


