1問1答 論文 虫歯

リスク評価シートを導入して2年。2,351人分のカルテを開いたら、再評価まで届いていたのは89人だった

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|CAMBRA・カリエスリスク評価・成人・導入の現実

カリエスリスク評価のシートを作ったことがある先生なら、この結末に見覚えがあると思います。項目は妥当。研修もした。1ページに収めて使いやすくもした。それでも、続かない。UCSF歯学部が2003年にCAMBRAのリスク評価票を全面導入し、2年後に2,351人分の紙カルテを1人で開いて確かめた研究です。シートの中身は見事に機能していました——シート「以外」が、ほとんど動いていませんでした。

論文
Caries Risk Assessment in an Educational Environment
著者
Sophie Doméjean-Orliaguet, Stuart A. Gansky, John D. Featherstone(クレルモンフェラン大学歯学部/カリフォルニア大学サンフランシスコ校歯学部)
掲載
Journal of Dental Education 2006;70(12):1346-1354
種類
後ろ向きカルテ調査(2年間・2,351人分の紙カルテを全数レビュー)
PMID
17170326

リスク評価シート、作ったあと何人分が残っていますか

カリエスリスク評価を院内に入れようとしたことがあれば、必ず同じ壁に当たると思います。シートは作れる。研修もできる。でも、書かれなくなる。書かれても、次に開かれない。

この研究は、その壁を数字にしました。UCSF歯学部が2003年7月からCAMBRA(Caries Management by Risk Assessment)のリスク評価票を学生診療室に全面導入し、2年後に2,351人分の紙カルテを研究者1名が全部開いて、何がどこまで実施されたかを数え上げています。

先に結論: 票の中身は機能していた——窩洞形成に至ったう蝕と、ほとんどの項目が有意に関連した。だが運用は動かなかった。ベースラインで票が書けたのは68.8%、再評価まで届いたのは2,351人中89人(3.8%)、細菌検査は46人

2年間・6,848人の初診から、紙カルテ2,351人分へ

  • 対象:2003年7月1日〜2005年6月30日に初診(NPV)を受けた6歳超の患者6,848名。うち基本検査(BE)まで進んだのが3,659名ベースラインのリスク評価(CRA)があったのが2,516名(68.8%)
  • カルテ閲覧:総義歯の82名を除外し、83名分はカルテそのものが見つからず、最終的に2,351名分の紙カルテを1名(第一著者)が全部読んでExcelへ入力
  • 患者層:小児は別の小児歯科クリニックに行くため、成人が中心の集団(サンフランシスコの国勢調査と比べて35〜64歳が多く、考察では「患者の50%が20〜54歳」とも述べられている)。成人を対象に、教育機関の日常診療下でCRAを検証した最初の研究である
  • アウトカム「肉眼で見える窩洞、またはX線で象牙質に達するう蝕」——高リスクの最も明白なサイン
  • 解析:χ²検定(有意水準5%)と、前進ステップワイズのロジスティック回帰。欠測が20%を超えた項目は解析から除外

「学生が票を書いたかどうか」ではなく、「カルテに何が記録されていたか」を数えている点が、この研究の性格です。書いたつもり・やったつもりが混じらない。

票の中身は、成人でもちゃんと働いていた

0 4.7 9.3 14 効果の大きさ 13.55 2.3 3.26 1.52 2.75 1.52 1.91 1.27 隣接面エナメル質病変 白斑・咬合面の着色 見える多量のプラーク 間食の頻度 いずれも表4の粗い値。アウトカム(窩洞形成に至ったう蝕)が約6割と高頻度の集団では、オッズ比はリスク比よりはるかに大きく出る。濃い棒=オッズ比、淡い棒=リスク比
窩洞形成に至ったう蝕と、リスク項目の関連。この図は表4の「粗い」オッズ比で、下の箇条書きに挙げる調整後オッズ比とは別の数字である

まず、良い知らせのほうから。票に載せた項目は、成人でもきちんと的中していました。ステップワイズのロジスティック回帰で、他の因子を調整しても残ったのは次の4つです。

  • 隣接面のエナメル質病変・透過像:オッズ比 11.83(95%CI 8.62–16.23)
  • 目に見える多量のプラーク:オッズ比 2.03(1.58–2.62)
  • 間食での糖・調理でんぷんの頻回摂取:オッズ比 1.57(1.19–2.05)
  • 白斑または咬合面の着色:オッズ比 1.50(1.12–2.01)

そしてフッ化物は守る側でした。フッ化物配合歯磨剤の毎日の使用はオッズ比 0.67(0.47–0.94)、フッ化物洗口は 0.74(0.59–0.92)。どちらも1を下回ります。

数字の読み方に注意。この集団は、窩洞形成に至ったう蝕を持つ人が約6割という高頻度の集団だ。アウトカムが多い集団では、オッズ比はリスク比よりずっと大きく出る。隣接面病変のオッズ比 11.83 に対して、表4の割合から計算したリスク比は約2.3(隣接面病変ありの90%、なしの39%に窩洞形成があった)。「11.8倍なりやすい」ではない。

一方で、関連が出なかった項目もあります。固定式・可撤式装置の有無(p=0.927)・露出根面(p=0.285)・水道水フッ化物化(p=0.213)・キシリトールガム(p=0.805)・クロルヘキシジン洗口(p=0.797)。著者らは露出根面について、患者の半数が20〜54歳という年齢分布のためだろうと述べています。装置に関連が無かったことは「意外だった」と正直に書いています。

そして、運用の数字

0 1333.3 2666.7 4000 患者数(人) 3659 2516 2351 89 初診+基本検査 ベースラインCRA カルテを閲覧 再評価CRA 2003年7月〜2005年6月の2年間。ベースラインでリスク評価票が書けたのは68.8%だが、再評価まで届いたのはカルテを閲覧した2,351人中89人(3.8%)
2年間の実施の内訳。左から右へ、届いた人数が落ちていく
  • ベースラインCRA:3,659名中2,516名(68.8%)。現金払いの患者のほうが実施率が高かった(71% 対 Denti-Cal 66%・その他65%、p=0.004)
  • 「総合リスク判定」の欄:1年目は42%が空欄、2年目は20%に改善。つまり1年目は個々の項目は埋めているのに、総合判定だけしていない学生が4割いた
  • 再評価CRA:2,351名中わずか89名(3.8%)。実施までの平均は14か月(SD 4.5)
  • 細菌検査(MS・LB)2年目(1,218名)のうち46名。理由は明快で、約10ドルの自己負担が、どの保険でもカバーされないから
  • 患者への推奨事項:2年目1,218名のうち記録があったのは674名(55%)だが、509名分は記録そのものが欠測(41.8%)で統計解析ができなかった

細菌検査の一行が重いと思います。「高リスクと判定したら細菌検査を行う」と手順書に書いてあった。学生も指導医も研修を受けていた。それでも1,218名中46名だった。著者らは「専門家が行う予防的ケアの多くが償還の対象外であり、それが予防を妨げ、不適切な介入を促している」と書いています。実施率は意識の問題ではなく、支払いの構造だった——というのがこの研究のいちばん重い所見です。

予測モデルとしては成立した。リスクモデルとしては検証できなかった

再評価まで届いた89名だけを見ると、ベースラインの所見は、1〜2年後をちゃんと当てていました

  • ベースラインで窩洞形成があった患者:再評価時にも窩洞形成があったのは67%(28/42)。無かった患者では22%(8/37)。オッズ比 7.25(2.64–19.95)
  • ベースラインの総合リスク判定:低リスク31%(5/16)→中等度42%(10/24)→高リスク70%(14/20)と段階的に上がった。オッズ比 2.31(1.13–4.73)
  • ベースラインの隣接面エナメル質病変:ありで70%(16/23)、なしで33%(16/48)。オッズ比 4.57(1.57–13.35)

ここから著者らは、「予測モデル(prediction model)としては妥当性が示された」と結論します。高リスクと判定された人は、実際に再来時にう蝕を持っていた。

ただし「リスクモデル」としては検証できなかったとも明記しています。理由は、89名のうちベースラインで推奨事項を渡されていたのは16名だけだったから。介入をほとんど渡していないので、介入の効果を測りようがない。著者らはこう書いています——「削って詰めるだけでリスク因子を扱わなければ、う蝕の問題は解決せず、約70%の患者が1〜2年で新しい病変を持って戻ってくる」

一方で、小さな希望も記録されています。ベースラインでは推奨事項を渡していなかった41名が、再評価時には渡されていた。著者らはこれを「削って詰めるだけでは解決しない、という提供者側の受け入れが進んだ証拠」と読んでいます。

明日の臨床へ——シートを作る前に決めておくこと

票の項目は、そのまま使える。隣接面のエナメル質病変・見える多量のプラーク・間食の頻度・白斑や咬合面の着色。この4つは、成人2,351名で調整後も残った。逆にキシリトールガム・クロルヘキシジン洗口・装置の有無は、この集団では関連が出なかった。項目を絞る材料になる。
  • 「総合リスクの判定欄」を空欄にできない形にする。1年目の42%空欄という数字は、紙のフォームの構造的な弱点です。UCSFは2005年7月からフォームを電子化し、指導医と学生の入力を助けるプロンプト(促し)を組み込み、「明らかな窩洞があれば高リスクであり細菌検査が必要」という改善を加えたと書かれています。人の意識ではなく、フォームの設計で埋めさせる
  • 自費の追加検査を手順に組み込むなら、その費用の話を先に設計する。約10ドルの自己負担が、1,218名中46名という実施率を生んだ。これは日本の自費のリスク検査にもそのまま当てはまります
  • 再評価の予約を、その場で入れる。再評価CRAが3.8%・平均14か月というのは、「次回やりましょう」で終わった結果です
  • 指導医(院内なら先輩スタッフ)の較正から始める。著者らは「大学教員のあいだでも、う蝕の治療判断には大きなばらつきがあることが複数の研究で示されている」として、標準化された基準による較正の必要性を強調しています

この研究がありがたいのは、失敗した数字をそのまま出しているところです。「CAMBRAは有効でした」で終わらせず、3.8%・46人・42%空欄と書いた。導入を検討する側にとっては、成功事例より遥かに使えます。

ここだけ、冷静に補助線
まず後ろ向きのカルテ調査であり、著者ら自身が欠測の多さを限界に挙げています。「無かったこと」は、しばしばカルテに書かれない——記録が無いことが「実施しなかった」なのか「記録し忘れた」なのかを区別できません。実施率3.8%は、実施率そのものというより「記録された実施率」です。
唾液流量の評価も弱点です。2年目に実測(パラフィン3分咀嚼・0.7 mL/分未満を不足と判定)できたのはわずか51名で、1,038名は目視による主観的な判断でした(考察では「1年目と2年目を合わせて物理的測定は80件のみ」と、別の数え方も出てきます)。「唾液不足」の項目のオッズ比 1.37 は、この土台の上に乗っています。
再評価の解析は89名という小さな集団です。オッズ比7.25の95%信頼区間が2.64–19.95と広いことが、その不確かさを示しています。
そしてUCSFの学生診療室という特殊な場です。著者らは「予測モデルの妥当性は、対象集団のう蝕有病率と特性に強く依存する」と引用したうえで、「他の集団で使い、試される時が来た」と締めています。窩洞形成の頻度が約6割という集団の数字を、そのまま自院に持ってくることはできません。
それでも——「有効性」と「定着」を分けて測ったという設計そのものが、この論文の値打ちです。良いツールを作ることと、それが使われることは、別の課題である。20年近く経った今も、そのまま効きます。

今日のひとこと

リスク評価票の項目は、成人でもきちんと働いていた。窩洞形成に至ったう蝕と関連したのは、隣接面エナメル質病変(オッズ比 11.83)・目に見える多量のプラーク(2.03)・間食の頻度(1.57)・白斑や咬合面の着色(1.50)で、フッ化物歯磨剤は逆に守る側(0.67)だった。だが導入の実態は別だ。ベースラインで票を書けたのは68.8%、再評価まで届いたのは2,351人中89人(3.8%)、細菌検査は2年目の1,218人のうち46人。理由は約10ドルの自己負担が保険でカバーされないこと——予防に金が付かない仕組みが、そのまま実施率になった。項目の妥当性と、運用の定着は別の問題である。

Doméjean-Orliaguet S, Gansky SA, Featherstone JD. Caries Risk Assessment in an Educational Environment. J Dent Educ. 2006;70(12):1346-1354. PMID: 17170326.
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。