カリオロジー|う蝕の病因(糖と食習慣)
「甘いものを控えましょう」と言うとき、頭にあるのは量でしょうか、それとも食べ方でしょうか。1954年に報告されたヴィペホルム研究は、この問いに人での実験で答えた、いまも引かれ続ける古典です。歯に残りにくい形で食事時に摂るかぎり、総糖量が1日30gから330gまで広がっても、う蝕活動性はほとんど動きませんでした。増えたのは、粘つく形で、食事と食事のあいだに摂ったときです。ただしこの研究には、いまなら決して許されない代償が伴っていました。
①「甘いものを控えて」の、どこを控えるのか
患者さんに食生活の話をするとき、量を減らす話をしていますか。それとも食べ方を変える話をしていますか。
この問いに、人での実験で正面から答えた研究があります。1954年に報告されたヴィペホルム研究。スウェーデンで436人を5年間追いかけた、カリオロジーの土台となる論文です。
当時の状況はこうでした。砂糖がう蝕に関係していることは、動物実験でも疫学でも、ほぼ確実だと考えられていた。戦時の砂糖配給下でう蝕が減ることも知られていた。ところが「では砂糖の何が効いているのか」——量なのか、形なのか、タイミングなのか——は決着していなかったのです。
②436人に、5年間、決められた食事を出す
設計はこうです。ヴィペホルム病院に長期入院していた成人が対象。全員に同じ基本食を出し、群ごとに補食(実験変数)だけを変えます。解析に用いられた436人は、1951年6月時点の在院964人のうち、ビタミン研究と炭水化物研究I・IIを通じて同じ病棟=同じ食事群にとどまり続けた約3分の2にあたります。
- 1945年開始。最初の1年は準備期間、1946〜47年の18か月はビタミンの検討に充てられた
- その後、群ごとに補食を加えてう蝕活動性=1人あたり年間の新規う蝕面数を追う
- 診査は少なくとも年1回、通算9回まで行われた
問いは3つに整理されていました。
- 食事時に、歯に残りにくい形(溶かした砂糖)で摂ったらどうなるか
- 食事時に、歯に残りやすい形(粘つく形・高糖パン)で摂ったらどうなるか
- 食事のあいだに、粘つく形(キャラメル・トフィー等)で摂ったらどうなるか
そして「増やす要因が分かったら、それを取り除いたらどうなるか」まで設計に入っていました。
③量を増やしても、動かなかった
まず驚くのがこちらです。
この第1のカテゴリ——歯に残りにくい形で、食事時に砂糖を摂る——には6条件が含まれます。マーガリンを足しただけの対照群(総糖量30g・110g)、基本食のみ(90g)、高糖パンを1食だけ加えた条件(80g)、そして溶かしたショ糖を75g/300g加えた条件(190g・330g)です。
この6条件のあいだで、総糖量が30gから330gまで開いても、年間の新規う蝕面数は0.27〜0.74にとどまりました。ショ糖の年間摂取量にすると、0.4kgから110kgまでの開きです。
著者らの表現はこうです。「1日300gまでの摂取量、4年までの観察期間では、この集団の基礎的なう蝕活動性0.3〜0.5に明確な影響はなかった」。当時のスウェーデンの1人あたり砂糖消費量が年45kgですから、その2倍以上を、溶かして食事と一緒に摂っても大きくは動かなかったということになります。
④形とタイミングを変えると、跳ね上がった
同じ研究で、条件を変えるとまったく違う絵が出ます。
- 高糖パン(毎食時・食間ではない):1.30
- ミルクチョコレート65g:1.17
- キャラメル22個:3.02
- トフィー8個:3.18
- トフィー24個:4.02
基礎活動性が0.3〜0.5であることを思えば、トフィー24個の群はその8〜13倍にあたります。この第2カテゴリ全体(7条件)について、活動性クラスの分布の差は統計的に有意でした(χ²=55.61、自由度12、P<0.1%。7条件×3クラスの検定です)。
さらに効くのが、次の観察です。間食として摂った糖が、総摂取量のわずか13%にすぎなくても、う蝕活動性は上がりました(トフィー8個+溶かした砂糖250gの群:総320g/日のうち間食は40g=13%、活動性3.03)。
⑤やめたら、1年で戻った
この研究がただの観察で終わらないのは、補食をやめたあとまで追っているからです。
キャラメル群と24トフィー群を含む3群で補食を中止したところ、すべての群で、1年以内にう蝕活動性が基礎レベルまで下がりました。
著者らはこう書いています。「これは、活動性の増加を引き起こしたのがこの補食であったことを証明する」。加えたら増え、やめたら戻る——因果を主張できる形になっています。
もうひとつ、チョコレート群とトフィー8個群の対比も興味深い。食間に摂った糖の量はほぼ同じ(30gと40g)なのに、活動性は1.17と3.18と大きく違いました。ただし著者らは、「トフィー8個群は他群より開始時の値が高く、増加分そのものはどの群も同程度である」とも書いています(1.23と2.78という2つの活動性の値が、ほぼ同じ糖消費量に対応する、と)。著者らは理由の候補を挙げています——トフィーのほうが粘着性が高いこと、チョコレートは脂肪を多く含むこと(動物実験で糖のう蝕促進作用を減らすと示されている)、チョコレートの糖濃度がやや低いこと、抗酵素・抗菌作用のある成分を含む可能性。そして「最も大きいのは、両群のう蝕感受性の違いだろう」と結論しています。
⑥著者らが示唆した6つの結論
- 砂糖の摂取は、う蝕活動性を高めうる
- 歯面に残りやすい形で摂ると、その危険は大きい
- 食間に、歯面に残りやすい形で、表面の糖濃度が一時的に高くなる摂り方をしたとき、危険は最大になる
- 同じ実験条件でも、活動性の増え方は人によって大きく違う
- う蝕を促す食べ方をやめれば、増加分は消える
- 精製糖を避け、天然の糖も炭水化物も最大限に制限しても、新しいう蝕は生じうる
6番目は見落とされがちですが、重要です。炭水化物を最大限に減らした条件でも新しいう蝕が現れた——著者らはここから「砂糖や炭水化物が原因として小さな役割しか果たさないタイプのう蝕が存在することを示唆する」と書いています。なお6項目の前文も「本研究で行われた観察は、以下の結論を示唆した」という書き方です。
⑦明日の臨床へ
- 「量を減らす」より「形と回数を変える」。同じ量でも、粘つく形で食間に摂るかどうかで、まったく違う
- 「甘いものを控えている」と言う患者さんに、何をいつ食べているかを聞く。総量の13%でも動く
- やめれば戻る、と言える。この研究では1年以内に基礎レベルへ戻った。行動変容の後押しになる
- 反応は人によって大きく違う。同じ食習慣でも、う蝕になる人とならない人がいる(著者らの結論4)
- 食生活を完璧にしてもう蝕は起こりうる。だからフッ化物・清掃・定期管理を並行させる(著者らの結論6)
⑧ここだけ、冷静に補助線
方法論の限界もあります。無作為化は行われていません。群は病棟単位で構成されており、④で触れたように群間のう蝕感受性の違いが結果に影響しています(著者ら自身がチョコレート群と8トフィー群の差の主因をそれと考えています)。また炭水化物を最大限に制限した検討では、カロリーを脂肪で補ったため、減少が炭水化物制限によるものか、過剰な脂肪によるものか、その組み合わせかは分けられないと著者らは書いています。それでも、加えたら増え、やめたら戻ったという観察の強さは、70年経ったいまも色褪せていません。
今日のひとこと
砂糖の摂り方とう蝕活動性の関係を、436人・5年という規模で調べた介入研究。全員に同じ基本食を与え、群ごとに補食を変えた。結果は明快で、歯に残りにくい形で食事時に摂る6条件(砂糖無添加の対照群からショ糖300g溶解まで)では、総糖量が30gから330gに開いても、年間の新規う蝕面数は0.27〜0.74にとどまった——基礎的なう蝕活動性0.3〜0.5から大きく動かなかった(ただし著者らは、糖の多い側3条件では新生窩洞が3つを超える人の頻度が有意に高く、わずかな増加を生じうると書いている)。一方、粘つく形で食事のあいだに摂ると活動性は跳ね上がる——高糖パン1.30、ミルクチョコレート1.17、キャラメル22個3.02、トフィー8個3.18、トフィー24個で4.02(群間差は χ²=55.61、自由度12、P<0.1%)。しかも間食で摂った糖が総量のわずか13%でも、活動性は上がった。そして補食をやめると、1年以内にう蝕活動性は基礎レベルまで戻った——これが「その補食が原因だった」ことの証明になっている。著者らの結論は6項目で、「歯に残りやすい形で、食間に、表面の糖濃度が一時的に高くなる摂り方をしたときにリスクが最大になる」こと、そして「砂糖を最大限減らしても、う蝕は生じうる」ことの両方を述べている。ただし対象は、知的障害のある長期入院患者であり、研究に同意する能力があったとは考えにくい。意図的にう蝕を発生させる介入が行われた。現在の倫理基準では決して実施できない研究である。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


