1問1答 論文 虫歯

口呼吸を「癖」で片づけない──1953年の論文が示した、紙片1枚から始まる診査の順番

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|口腔環境(口呼吸)

口呼吸のお子さんを見たとき、何から確かめていますか。「口が開いているから口呼吸」で止まっていないでしょうか。1953年、イリノイ大学のMasslerとZwemerは、当時ばらばらだった口呼吸の議論を整理し、診査の順番を示しました。鍵は「閉塞なのか、癖なのか」を先に切り分けること。使う道具は、薄い紙片1枚から始まります。

論文
Mouth breathing. II. Diagnosis and treatment
著者
Massler M, Zwemer JD
掲載
The Journal of the American Dental Association 1953;46(6):658-671
種類
臨床総説(ナラティブレビュー)。原因と影響を扱った第I報に続く、診断と治療の解説。比較試験ではない
対象
口呼吸の子ども(歯科・小児科・耳鼻科・矯正の各領域にまたがる臨床問題として)

「口が開いている」から先に、何を確かめるか

お口ポカンのお子さんを前にしたとき、どこから手をつけていますか。

口唇閉鎖不全、上顎前突、上顎前歯部の歯肉炎——気になる所見はいくつも並びます。ただ、そこから「では口を閉じる練習を」と進む前に、確かめておかなければならないことがあります。

1953年、イリノイ大学のMasslerとZwemerが書いたこの総説は、そこを正面から扱っています。当時すでに、口呼吸をめぐる文献は専門ごとにばらばらの見解で埋まっていました。耳鼻科医、矯正医、小児歯科医、小児科医——それぞれが自分の側から論じ、原因も治療も食い違っていた。

先に結論: 最初にやるべきは、「鼻が詰まっているのか、癖なのか」を切り分けること。理由は単純で、治療を担う人が変わるからです。閉塞性なら耳鼻科医、習慣性なら小児歯科・矯正。ここを飛ばすと、全員が空回りします。

85%と20%という数字

0 33.3% 66.7% 100% 子どもに占める割合(%) 85% 20% 何らかの鼻腔通気の不足 習慣的に口で呼吸 この論文が測った値ではなく、原著が他文献から引用した当時の推計。85%は機能検査による評価
この論文が測った値ではありません。原著が他文献から引用している、当時の有病推計です

著者らはまず、この問題の広がりを2つの数字で示します。

  • 子どもの85%が、機能検査で見ると何らかの程度の鼻腔通気の不足を持つと推計されていた
  • 20%習慣的に口で呼吸していた

つまり「鼻が完全に通っている子ども」のほうが少数派だ、という前提から議論が始まっています。だからこそ、程度を測ることが要るのです。

紙片1枚から始まる、診査の順番

安静時の呼吸を観察する 薄い紙片を鼻の前に置き、息の動きを見る

「鼻で息をして」と指示する 求めに応じて鼻呼吸できるかを見る

できる できない・苦しい

習慣性の口呼吸を疑う 歯科側で介入しうる

鼻の閉塞を疑う 耳鼻科へ紹介する

機能検査(運動負荷) 短距離を走らせ、呼吸が荒くなった 状態でもう一度確かめる

口で息をしはじめたら 部分的な閉塞を疑う。安静時は足りても 運動時には足りない気道がある

原著が示す診査の順序を図にしたもの(本記事で作成)

原著が示す診査の順序を図にしたもの

手順はきわめて実際的です。

第1段階:安静時の呼吸を見る。まず、検査の目的を知らないリラックスした状態で観察します。目を閉じさせ、静かで浅い通常の呼吸をしているときに。使う道具は3/8インチ×1.5インチ(およそ1×4 cm)の薄く長い紙片。これを鼻と口の前に持ち、動きの勢いで呼吸される空気の量を測ります(薄い綿や冷やした鏡でも可)。

ここで著者らは、見落としやすい点を挙げています。吸気と呼気を分けて見ること口から吸って鼻から吐く患者が少なくなく、鼻腔が部分的にしか塞がっていない場合はとくにそうだ、と。これも口呼吸です。

第2段階:指示に応じられるか。安静時に口呼吸が確認できたら、次に「鼻で息をしてごらん」と言ってみる

  • できない、または非常に苦しそう鼻閉塞の推定的証拠。ただちに耳鼻科へ紹介する
  • 楽にできる習慣性の口呼吸の証拠

著者らは「この2つを区別するのは難しくない」と書いています。

いちばん効く一手は、走らせること

この総説でもっとも実用的なのが、機能検査です。

患者に短い距離を走ってもらう(できれば階段を上る)。呼吸が荒くなったところで、もう一度呼吸を調べる

  • 鼻腔が正常なら、荒い呼吸も鼻で行える
  • 部分的な閉塞があると、あえぐようになり、完全に口呼吸に切り替わる
ここが要点: この検査は、「明らかな閉塞ではない」口呼吸を拾うためのものです。著者らは繰り返し警告しています——「いわゆる習慣性口呼吸の多くの例は、実際には部分的な閉塞である」。安静時の浅い呼吸には足りても、体を動かせば足りない気道。それを見つける方法が、走らせることでした。

もうひとつ、病歴が語るとも書かれています。鼻の通りが悪い子どもは激しい遊びを避ける傾向がある。運動が苦しいからです。いびき・のどの渇き・夜間の落ち着かなさも、閉塞を示唆する所見として挙げられています。

顔の形が、素因になる

診査は呼吸だけでは終わりません。著者らは鼻腔・咽頭・顔貌・口腔内の順に見ていきます。

とくに強調されるのが顔型の違いです。

  • 広顔型(brachyfacial):鼻腔は卵円形で広く、中鼻甲介と鼻中隔のあいだに相当の空間がある
  • 狭顔型(dolichofacial):鼻腔はごく細いスリット状で、甲介がしばしば鼻中隔に接し、通気路がほとんど残っていない

だから著者らはこう書きます。「閉塞物は、丸顔の人では鼻腔のわずかな狭窄しか生じないのに、狭顔型では完全な閉塞をもたらす」。粘膜のわずかな炎症性腫脹だけで塞がってしまう。この解剖学的な素因が、習慣性・閉塞性のどちらの口呼吸にも関与するのだ、と。

著者らは要約で、「口呼吸は、呼吸器感染症・肥厚性歯肉炎、そしてう蝕の発生率の増加に、子どもを陥りやすくしうる」と述べています。口腔内の所見については、こう記されています。唾液の停滞・細菌の増殖・上皮の乾燥が重なり、10代の子どもに特徴的な肥厚性の辺縁性歯肉炎が生じる。鮮やかな赤色で、上顎前歯部の唇側・舌側の歯肉を侵す。ただし著者らは「この像は口呼吸がなくても起こりうるが、その関係は、軽く退けるのでも過度に頼るのでもなく、きちんと鑑別して除外すべきである」と書いています。「関係ないだろう」で流すのでもなく、「口呼吸のせいだ」と決めつけるのでもなく、確かめよということです。

治療は三部構成、そして「待つ」という選択

治療の設計も明快です。前提として、治療は小児科医による「子ども全体の評価」に先立たれるべきとされています。そのうえで——

  1. 耳鼻科医が鼻・咽頭の閉塞を取り除く
  2. 小児歯科医が癖を遮断する
  3. 矯正医・小児歯科医が歯列への影響を是正する

順序も明示されています。歯科的な治療の前に、必ず耳鼻科の診察を受けさせること。「口の通り道を塞ぐことによる低酸素の危険は、軽く見てはならない」と書かれています。

癖の遮断にはオーラルスクリーン——口腔前庭に収まり、口からの空気の通過を防ぐ簡単な装置——が推奨されます。夜間に装着して習慣性の夜間口呼吸を直す用途で、著者らは50例以上での使用経験を報告しています。なお上顎前歯の突出を誘導する用途(アクティブ・スクリーン)では、理想的な年齢は6〜12歳とされています。協力の得られない子ども——3歳未満や知的障害のある子ども——には通常は禁忌で、年齢を問わず本人が望まない場合も適応外です。

ここで見落とせないのが、自然改善についての記述です。

著者らの但し書き: 「口呼吸が小児期に治されなければ生涯続く、と考えるべきではない」。口呼吸と開口癖は成人ではずっと少ない。思春期を過ぎると自然に直る例が多い。理由として、咽頭・口蓋のリンパ組織(扁桃・アデノイド)が思春期後に急速に萎縮すること、成長期に鼻腔・咽頭腔そのものが広がること、口輪筋の緊張が成熟すること、そして思春期の自意識(とくに女児)が、突出した前歯を隠すために下唇を持ち上げる習慣を促すことが挙げられています。この「オトガイ筋の習慣」は、一種の筋機能療法として働く、と。

ただし著者らは、放置してよいとは言っていません。混合歯列期のあいだに是正すべきで、永久歯列が安定する15歳ごろまでに直さなければ、影響は永久的になりうるとしています。

明日の臨床へ

  • 「口が開いている=口呼吸」ではない。開口癖と実際の口呼吸は別物で、原著も明確に分けている
  • まず「鼻で息をして」と言ってみる。楽にできるかどうかで、紹介先が変わる
  • 安静時だけで判断しない。走らせてから見る——安静時には足りても運動時には足りない気道がある
  • いびき・のどの渇き・夜間の落ち着かなさ・激しい遊びを避けるを病歴で拾う
  • 顔型を見る。細長い顔の子どもは、わずかな腫れでも塞がりやすい
  • 歯科的介入の前に耳鼻科へ。順番を守る(著者らは、その前に小児科医による全身の評価も置いている)

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: これは1953年の臨床総説であり、比較試験ではありません。「85%」「20%」という数字も、当時引用されていた推計であって、この論文が測ったものではない。オーラルスクリーンの有効性も著者らの50例以上という使用経験に基づく記述で、対照群との比較はありません。また、口呼吸と歯肉炎・不正咬合の関係は、当時から議論があり、著者ら自身が「関係は否定はしないが、重く寄りかかるべきでもない」と書いています。70年以上前の論文であり、睡眠時無呼吸の概念も、現代の気道評価の技術もありません。また著者らは要約で、「口呼吸は、Class II Division 1 の不正咬合を増悪させることはあっても、おそらく原因ではない」と述べています。①で並べた所見も、そのまま原因と読むべきではありません。それでも診査の順番——安静時に見る、指示に応じられるか確かめる、走らせて確かめる、そして専門科の役割を決める——という骨格は、いまも古びていません。「癖でしょう」で片づけないための道具立てとして読む価値があります。

今日のひとこと

口呼吸の診断と治療を整理した1953年の臨床総説。核心は「閉塞性か、習慣性か」を最初に切り分けることで、その理由は治療の担い手が変わるから——閉塞性は耳鼻科医が、習慣性は小児歯科・矯正が扱う、と役割を明示している。診査は、薄い紙片(約1×4 cm)を鼻の前に置いて息の動きを見るところから始まり、次に「鼻で息をして」と指示して求めに応じて鼻呼吸できるかを確かめる。できなければ鼻閉塞を疑い、耳鼻科へ。できるなら習慣性を疑う。さらに短距離を走らせてから再検査する機能検査を勧めており、これは「安静時には足りるが運動時には足りない気道」=部分的閉塞を拾うためのもの。著者らは「いわゆる習慣性口呼吸の多くは、実は部分的な閉塞である」と繰り返し警告している。細く長い顔型(dolichofacial)は、わずかな腫脹でも鼻腔が塞がりやすい素因として重視される。口腔内所見としては、唾液の停滞・細菌増殖・上皮の乾燥が重なって、上顎前歯部の唇側・舌側に鮮紅色の肥厚性辺縁性歯肉炎が生じるとする。治療は「鼻・咽頭の閉塞除去(耳鼻科)→ 癖の遮断(小児歯科)→ 歯列への影響の是正(矯正)」の三部構成で、癖の遮断にはオーラルスクリーン(口腔前庭に置く簡単な装置)が推奨されている(著者らの使用経験は50例以上)。ただしこれは1953年の総説であり、比較試験の裏づけはない。思春期以降に自然に改善する例が多いことも同時に述べられている。

出典:Massler M, Zwemer JD. Mouth breathing. II. Diagnosis and treatment. J Am Dent Assoc 1953;46(6):658-671. PMID: 13052372
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。