カリオロジー|病因・予防
フッ素歯みがきを使えば、間食は1日何回までOK?──「脱灰が始まる回数の境目」が上がる
「間食は1日何回まで?」その答えは、フッ素入り歯磨き粉を使っているかで変わる。同じ糖の量で回数だけ変えると、フッ素なしは3回超で脱灰、フッ素ありは7回まで正味の脱灰なし。脱灰が始まる「回数の境目」が押し上げられた、8人のin situ研究。
①「間食は1日何回まで?」と聞かれて、即答できますか
「だらだら食べはむし歯のもと」「間食は回数を決めて」。患者さんへの説明で、誰もが一度は口にする言葉です。でも、いざ「じゃあ1日何回までならいいんですか?」と聞かれると、ピタッと答えに詰まる——そんな経験はないでしょうか。
じつは「むし歯になる糖の摂取回数」には、ひとつ大きな前提があります。それはフッ素入り歯磨き粉を使っているかどうか。今日は、その「回数の境目」がフッ素で動くことを、実際に測った研究を紹介します。
②「回数が増えるほど悪い」は本当。でも、どこから?
糖をとる回数が増えるほどむし歯リスクが上がる——これは古典的なVipeholm研究以来、繰り返し確かめられてきた事実です。一方で、いまや世界の多くの国でフッ素入り歯磨き粉が当たり前に使われています。フッ素を毎日使う前提なら、「回数」の効きかたも変わるはず——でも、その両方を同時に測ったデータは、ほとんどありませんでした。
そこで著者らはこう問いました。「同じ量の糖を、回数だけ変えて与えたとき、フッ素のあり・なしでエナメル質の脱灰はどう変わるのか?」
③同じ糖の量を、回数だけ変えて口の中で測る
8人の成人ボランティアが、取り外し式の装置にエナメル質のスラブ(白斑=初期むし歯の小片)をはめて装着。120 g/Lの砂糖水500 mLを、1日1回・3回・5回・7回・10回のいずれかの頻度で(1回あたり30秒間)口に含み、これを5日間続けました。糖の総量は同じで、変えたのは「回数」だけ。並行してフッ素入り(1450 ppm NaF)かフッ素なしの歯磨き粉で1日2回ブラッシングし、両方を比べました。
④結果:フッ素ありなら「回数の境目」がぐっと上がる
フッ素なしの歯磨き粉では、1日3回を超えた時点(5回以上)で統計的に有意な脱灰が現れました。ところがフッ素入りの歯磨き粉では、5回どころか、正味の脱灰が見え始めたのは7回・10回から(しかもその脱灰量は統計的に有意ではない=ns)。同じ回数を食べても、フッ素があると脱灰が起きにくくなり、「脱灰が始まる回数の境目」が3回台から7回台へと押し上げられたのです。
フッ素入り歯磨き粉
1日1回・3回までなら、どちらの歯磨き粉でも脱灰は見られませんでした。差が出るのは、その先。フッ素は「脱灰が始まる回数の閾値」を引き上げる——この研究が示したのは、まさにこの一点です。
⑤なぜフッ素で「境目」が動くのか
糖をとるたびに、プラークの中では酸ができてエナメル質が少し溶けます(脱灰)。食間にはだ液が酸を中和し、ミネラルが戻ります(再石灰化)。1日の中で「溶ける」と「戻る」がせめぎ合い、戻るほうが上回れば正味の脱灰はゼロ。回数が増えるほど溶ける時間が長くなり、やがて戻りきらなくなる——そこが「境目」です。
フッ素は、この戻る力(再石灰化)を後押しし、溶ける反応そのものも抑えます。だから同じ回数でも、フッ素があると天秤が「戻る」側に傾いたまま保たれる。結果として、脱灰が始まる回数の境目が後ろにずれる、というわけです。
⑥明日の臨床へ:フッ素は前提、回数は減らすに越したことはない
この研究の使いどころは、患者さんへの説明にあります。「間食を完全にゼロにするのは難しい」という現実的な相手に、こう言えます——「1450 ppmのフッ素入り歯磨き粉で1日2回しっかり磨くこと。それが、間食の影響を受け止める土台になります」。フッ素は"ぜいたく品"ではなく、脱灰の境目を押し上げる前提条件です。
これは8人・5日間という小規模なin situ研究で、見ているのは装置上のエナメル質スラブの脱灰量であって、実際のむし歯発生そのものではありません。だ液量や口腔内環境には個人差があり、「フッ素を使えば7回まで間食して大丈夫」と数字を独り歩きさせるのは危険です。読み取るべきは回数の上限ではなく、「フッ素という土台が、間食の影響をどれだけ受け止めてくれるか」という前向きな事実のほうです。
今日のひとこと
フッ素入り歯磨き粉(1450 ppm)を1日2回。それだけで、糖をとっても「正味の脱灰が始まる回数の境目」は3回台から7回台へ上がった。フッ素は間食の影響を受け止める土台。ただし「何回でもOK」ではなく、回数は少ないほど安全側。


