ペリオ|Phase1 初期治療
「1日2回、2分以上」——これは歯科界の常識です。ですが、その回数を支える証拠はどれくらいあるのでしょうか。2016年、ブラジルのグループが39名を12時間・24時間・48時間の3群に分け、30日間の歯肉の炎症を測りました。分かれ目は、想像より後ろにありました。
①「1日2回」の根拠は、どこにあるのか
セルフケア(自分で行う機械的プラークコントロール、SPC)は、歯肉炎に対する最も重要な予防手段です。そして歯肉炎は歯周炎の予防可能な重要リスク因子。ここは揺るぎません。
問題は頻度です。歯科界は長らく「う蝕と歯肉炎を防ぐために1日2回」と唱えてきました。2015年のヨーロッパ歯周病学会のコンセンサスレポートも「少なくとも2分間、1日2回磨くという普遍的な推奨」を支持しています。ところが同じレポートの根拠になったメタレビューは、こう書いていました——「歯ブラシによる念入りな機械的プラーク除去に、24時間ごとの歯間プラーク除去を組み合わせれば、歯肉炎と歯間カリエスの発症を防ぐのに十分と述べるのは妥当に思える」。
過去の直接的な検討は5件しかなく、しかも古い。Langら(1973)は12時間ごとの歯磨きなら低いレベルの歯肉炎を維持できるが、72時間・96時間に延ばすとGIが有意に増加すると報告。Kelnerら(1974)は24時間ごとと72時間ごとを比べ、30日で有意差を認めなかった。ただしどちらも歯学生の小サンプルで、監督下のブラッシングという限界がありました。
そこで著者らは、医療・歯科の訓練を受けていない被験者による、監督なしのセルフケアという条件で、この問いをやり直します。
②39名を、12時間・24時間・48時間に分ける
単盲検・並行群間のランダム化比較試験。ブラジル・サンタマリア連邦大学の大学生が対象で、歯学・医学・薬学・看護の学生は除外されています(専門知識の影響を排除するため)。
組み入れはADA基準に沿って厳格です。歯間乳頭が歯間空隙を完全に満たしている、24歯以上ある、BOP部位が15%未満。除外は口腔乾燥・妊娠・喫煙・糖尿病・精神運動障害・3か月以内の抗炎症薬または抗菌薬の使用・矯正装置・歯周炎。76名を評価して39名がランダム化され、脱落はゼロでした。
全員がまず個別の口腔衛生指導(歯ブラシ+フロス)を受け、GIが2または3の部位が5%以下になるまで毎週指導を繰り返す——全員が1か月以内に達成しています。つまりスタートラインを揃えてから頻度を振り分けた。
与えられたのは軟毛歯ブラシ、フロス、フッ化ナトリウムのみを含む歯磨剤で、1回約0.5gの標準化量。フロスはSPCのときだけ使用します。48時間群には隔日で「今日は磨かないでください」とリマインドの連絡が入りました。
評価はプラーク指数(PlI)、歯肉炎指数(GI)、歯肉溝滲出液(GCF)の量。1歯6か所を、群を知らない検者が測ります。コンプライアンスは歯磨剤チューブを秤で量って確認——実際の使用量は12時間群30.6g、24時間群19.2g、48時間群12.9gで、指示どおりに使われていたことが裏づけられました。
③分かれ目は、24時間の先にあった
主要評価項目のGIを見ます。12時間群 0.51→0.45(-0.06)、24時間群 0.48→0.54(+0.05)。両者の差は有意ではありません(p=0.11)。
対して48時間群は 0.52→0.86(+0.33)。他の2群と比べて有意に高い変化(p=0.001)でした。
プラーク指数も同じ形です。12時間群 +0.11、24時間群 +0.28で両者に有意差なし(p=0.15)。48時間群は +0.39で他の2群より有意に高い(p<0.001)。
臨床的な手触りに近いのは、こちらの数字でしょう。GIが2以上の部位の割合は、48時間群でベースライン3.0%→30日13.0%へ増加。他の2群は2.7〜3.3%でほぼ不変です。
組織の反応を見る歯肉溝滲出液の量も一致します。12時間群 30.61→23.28(-7.32)、24時間群 31.48→31.13(-0.34)、48時間群 40.51→57.96(+17.44、有意に増加)。炎症の指標が3つとも同じ方向を指したことになります。
興味深いのは自覚です。48時間群のうち、歯肉出血・口臭・味の異常を自分で申告したのは2名だけでした。数字の上では明らかに悪化しているのに、本人はほとんど気づいていない。
④抗菌成分では埋められなかった
「24時間を越える間隔でも、抗菌成分入りの歯磨剤や洗口剤で補えるのではないか」——自然な疑問です。
著者らは、同じ方法論で行われた自分たちの別のRCT(Pinto 2013)を引きます。そこでは塩化第一スズ(stannous fluoride)配合の歯磨剤を使って12・24・48・72時間の間隔を比較しました。結果、48時間間隔においては上乗せの利益がありませんでした(本研究の +0.33±0.17 対 Pinto の +0.35±0.22、p=0.80)。著者らは理由として塩化第一スズの口腔内での残留性が6〜12時間程度であることを挙げています。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「1日2回」が守れない人には、「1日1回を確実に」と伝える。この研究が示したのは、1日1回でも歯肉の健康は保たれたということです。回数を増やせないなら、1回の確実さと、24時間を空けないことに照準を合わせる。これは実行可能性の高い指導になります。
2つ目。ただし歯間清掃も同じ頻度で。この研究のSPCは歯ブラシとフロスの両方です。「1日1回でよい」は「歯ブラシだけで1日1回」ではありません。
3つ目。「自覚がないこと」を前提に説明する。48時間群で明らかな炎症部位が4倍以上に増えたのに、自覚したのは2名だけ。「痛くも痒くもないから大丈夫」が成立しないことの、具体的な数字として使えます。
今日のひとこと
軽度の歯肉炎で臨床的アタッチメントロスがほぼない大学生39名を、12時間・24時間・48時間ごとのセルフケア(歯ブラシ+フロス)に振り分けて30日追跡。歯肉炎指数(GI)の変化は12時間群 -0.06、24時間群 +0.05で両者に有意差なし(p=0.11)。ところが48時間群は +0.33(p=0.001)と有意に悪化しました。GIが2以上の部位は48時間群でベースライン3.0%→30日13.0%へ増加、他の2群は2.7〜3.3%でほぼ不変。歯肉溝滲出液の量も48時間群だけ有意に増えています。結論は「12時間または24時間ごとのセルフケアは、アタッチメントロスがないか限られた人では歯肉の健康を維持するのに十分」。1日2〜3回でなければならない、という前提に数字で疑問符が付きました。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


