1問1答 論文 歯周病

縁下に3年間いっさい触れずに、再発は防げるのか——歯周炎ハイリスク40名の36か月

1問1答 論文 歯周病

歯周病|再発性歯周炎・縁上プラークコントロール・トリクロサン/コポリマー

「メインテナンスに来ているのに、また深くなっている」。歯周治療を終えた患者さんで、これほど悔しい場面はありません。1997年、イエテボリ大学のRoslingらは、まさにその「再発を繰り返す人たち」40名を集め、3年間いっさい縁下に触れずに、歯磨剤だけを変えて何が起きるかを見ました。

論文
Effect of triclosan on the subgingival microbiota of periodontitis-susceptible subjects
著者
Rosling B, Dahlén G, Volpe A, Furuichi Y, Ramberg P, Lindhe J
掲載
J Clin Periodontol. 1997;24(12):881-887
種類
無作為化並行群間比較試験(検者・歯科衛生士は盲検・40名・36か月・縁下処置なし)
PMID
9442424

「来ているのに、また深くなっている」

歯周治療を終えて、3か月ごとのメインテナンスに通ってくれている。それでも一部の部位で、また深くなる。再発しやすい人は確かにいます。

当時わかっていたのは、縁上のプラークコントロールが縁下の細菌叢に影響することでした。ただし報告は割れており、「浅い(3mm以下)〜中等度(4〜6mm)のポケットでは変わる」(Smulow ら 1983、Dahlén ら 1992、McNabb ら 1992。なおサルの実験では Siegrist & Kornman 1982)という研究と、「深いポケットではほとんど効かない」(Lindhe ら 1983、Loos ら 1988、Heijl ら 1991)という研究が並んでいました。

そこで著者らは、条件を極端にしました——再発を繰り返してきた人だけを集め、3年間いっさい縁下に触れない。その上で歯磨剤だけを変える

先に結論: 縁上のプラークコントロールを丁寧に続けても、対照群は36か月で平均0.5mmの付着をさらに失った。トリクロサン/コポリマー配合歯磨剤を使った群では付着の喪失は起きず、ポケットは平均0.4mm浅くなった(群間差 p<0.05)。

3年間、縁下には触れない

  • 対象40名3〜5年前に進行した歯周炎を非外科的に治療し、その後3か月ごとのSPTを受けてきた人たち。全員が、その間に再発部位(ポケットの増加と2mm以上の付着喪失)を経験している
  • 組み入れ基準:16歯以上/4象限すべてに歯肉炎各象限で2歯以上に5mmを超えるポケット歯根長の40%を超える骨吸収。かなり重い集団です
  • 割付無作為に20名ずつ。テスト群はトリクロサン/コポリマー配合のフッ化物歯磨剤、対照群はそれを含まない同等の歯磨剤白い無地のコード化されたチューブで配布され、検者もメインテナンスを担当する歯科衛生士も中身を知らない
  • 介入:ベースラインで詳細な口腔衛生指導3か月ごとにリコールして清掃状態を確認し、必要なら指導を修正する
  • ここが肝ベースラインから36か月まで、歯肉縁下の専門的処置は一切行わない
  • 安全弁:6・12・24か月で付着レベルを測り、2mm以上の追加喪失が出た部位は、その場でデブライドメントを行って以後の観察から外す(外れるのは部位であり、被験者は40名全員が36か月まで残っています)
  • 評価部位:各象限の最も深いポケット1部位(1人4部位)。ここから細菌サンプルを採取

ベースラインは両群でよく揃っていました——BoP陽性 35〜46%PPD 4.2mm(テスト)/3.8mm(対照)骨レベル 7.2/7.1mm付着レベル 7.2/6.9mm。臨床指標のいずれにも有意差はありません。

36か月後——ポケットは浅くなったか、深くなったか

0 4% 8% 12% 7mm以上の深いポケットの割合(%) 9% 5% 6% 9% テスト群 (n=20) 対照群 (n=20) テスト群では浅いポケット(3mm以下)が40→41%、中等度(4〜5mm)が32→36%へ増え、7mm以上が9→5%へ減った。対照群は逆に、浅いポケットが46→41%へ減り、7mm以上が6→9%へ増えた
7mm以上の深いポケットの割合。各群の左(濃い棒)がベースライン、右(淡い棒)が36か月後
  • ポケット深さの変化:テスト群 −0.4mm/対照群 +0.1mm群間差 p<0.05
  • 付着レベルの変化:テスト群 変化なし/対照群 0.5mmの追加喪失(対照群のみ有意)
  • ポケットの分布(テスト群):3mm以下 40→41%、4〜5mm 32→36%、6mm 19→18%、7mm以上 9→5%
  • ポケットの分布(対照群):3mm以下 46→41%、4〜5mm 30→35%、6mm 18→15%、7mm以上 6→9%

同じ指導を受け、同じ3か月ごとのリコールを受けていても、方向が逆になった。テスト群では浅い側へ、対照群では深い側へ、3年かけて分布が動いています。

細菌叢は、量でも質でも動いた

0 6.7 13.3 20 総生菌数 TVC(×10⁶ CFU/輸送培地1mL) 17 9 15 12 テスト群 (n=20) 対照群 (n=20) テスト群の減少は統計的に有意。対照群の減少(15×10⁶→12×10⁶)は有意ではなかった
サンプル部位の総生菌数(TVC)。各群の左(濃い棒)がベースライン、右(淡い棒)が36か月後
  • 総生菌数(TVC):テスト群は17×106 から 9×106 CFU/mL へ有意に減少。対照群は15×106 から 12×106有意差なし
  • P. gingivalis 陽性者:全体で17名→6名(p<0.05)。テスト群では陽性者数だけでなく、検出された試料中の割合も減った
  • A. actinomycetemcomitans 陽性者11名→5名
  • P. intermediaテスト群でより大きく減少した
  • 一方で腸内細菌やカンジダが検出された人は、ベースラインの2名から36か月の7名へ増えていました

対照群でも菌は減っている——縁上のプラークコントロールだけでも、縁下は動くのです。しかし、それは進行を止めるには足りなかった。著者らの結論はこの一点に尽きます。

明日の臨床へ

  • 「よく磨けているのに再発する人」は実在する。3か月ごとにチェックし、指導を修正し続けても、対照群は3年で0.5mm失いました。患者さんの努力不足のせいにしないための根拠になります
  • だからこそ、縁下への定期的な介入に意味がある。この研究は縁下処置を止めた条件での話です。裏を返せば、私たちが3か月ごとにやっている縁下のデブライドメントが、この0.5mmを防いでいるとも読めます
  • ハイリスク者では、家庭で使うものの選択が上乗せになりうる。ただしこれは1つの試験の結果であり、成分そのものへの評価は後述のとおり変わりました
  • 菌が減っても油断しない。対照群でもP. gingivalis陽性者は減っていました。細菌の指標の改善と、付着の維持は別に追う
ここだけ、冷静に補助線 — まず利益相反です。著者の1人はColgate Technology Centerの所属で、テスト群に使われたのは同社のトリクロサン/コポリマー配合歯磨剤(Total)、歯ブラシも両群40名全員に同社製品が支給されています。コード化した無地のチューブで検者も衛生士も盲検という設計はしっかりしていますが、この点は差し引いて読む必要があります。各群20名と小さく、評価したのは各象限の最深部位1つずつ(1人4部位)——口腔全体の代表ではありません。悪化した部位は途中でデブライドメントされて観察から外れるため、36か月の値は「3年間まったく手をつけないまま経過した部位」だけの値ではありません——「縁下に触れない」という条件は、部位の単位では完全には保たれていません。そしてトリクロサンをめぐる状況は、この論文の後で変わりました——日用品への使用が見直され、この試験で使われた製品も後年トリクロサンを含まない処方に変更されています。「だからこの歯磨剤を」という読み方はできませんそれでもこの研究が価値を持つのは、「丁寧な縁上プラークコントロールだけでは、再発しやすい人の進行を止められない」ことを、3年という長さと、縁下に触れないという厳しい条件で示した点にあります。メインテナンスで私たちが何をしているのか——その意味を裏側から照らす一本です。

今日のひとこと

縁上のプラークコントロールを丁寧に続けるだけでも、縁下の細菌叢はある程度変わる。しかし再発しやすい人では、それだけでは進行を止められなかった——対照群は36か月で平均0.5mmの付着をさらに失った。トリクロサン/コポリマー配合歯磨剤を使った群では、付着の喪失は起きなかった。

Rosling B, Dahlén G, Volpe A, Furuichi Y, Ramberg P, Lindhe J. Effect of triclosan on the subgingival microbiota of periodontitis-susceptible subjects. J Clin Periodontol. 1997;24(12):881-887. PMID: 9442424
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。