ペリオ|Phase1 初期治療
歯を磨かなければプラークがつき、歯肉炎になる。この当たり前を最初に実験で示したのがLöeらの実験的歯肉炎モデルでした。では、磨かない代わりにうがいだけをしたらどうなるのか。イェーテボリ大学のLindheらが、2週間ブラッシングを完全に止めるという少し大胆な設計で、この問いに答えています。
①磨かずに、うがいだけで2週間過ごしたら
「歯を磨かなければプラークがつき、歯肉炎になる」。この当たり前を最初に実験で証明したのが、Löeらの実験的歯肉炎モデルでした。健康なボランティアに数週間まったく歯を磨かないでもらい、歯肉が炎症を起こしていく過程を追った、歯周病学の古典です。
その系を使って、次の問いに答えたのがこの研究です。磨かない代わりに、うがいだけをしたらどうなるのか。
実務的には、外科後や外傷後、あるいは開口障害で磨けない期間そのものです。イェーテボリ大学のLindheらが、2週間ブラッシングを完全に止めるという設計で測りました。
②設計:4つの2週間
成人10名によるクロスオーバー試験で、連続する4つの2週間で構成されています。
第1・第3期(準備期):プロフェッショナルクリーニングを繰り返し、プラークも歯肉炎もない状態にリセット。
第2・第4期(試験期・対照期):歯磨きを一切禁止し、リステリンまたはプラセボ洗口液で1日3回うがいのみ。
評価は0・2・4・7・14日目に、プラーク指数(PlI)・歯肉炎指数(GI)・歯肉溝滲出液量・歯肉溝白血球数。さらに7日目と14日目には、片側の顎からプラークを採取して湿重量を測定し、そのプラークが持つ走化活性までBoyden chamberで調べています。1975年としては、かなり手の込んだ研究です。
③結果:たしかに遅らせた
プラーク指数は、14日目でプラセボ1.87に対しリステリン0.93。部位別に見ると、頬側・舌側で効果が最も強く、14日間の上昇はリステリン0.52に対しプラセボ1.48。隣接面でも上昇はリステリン1.16、プラセボ1.98と抑えられていました。しかも各評価時点すべてで有意差(p<0.001)が出ています。
歯肉炎指数は、プラセボ期で0.11から1.29へ(上昇1.18)。ほとんどの歯肉に軽度の炎症が現れた状態です。リステリン期では0.08から0.71へ(上昇0.63)。著者らの言葉を借りれば「およそ2面に1面だけが軽度の炎症を示した」ことになります。
もっとも劇的なのはプラークの実重量です。
プラセボ期は7日で8mg、14日で19mg。対してリステリン期は7日で2mg、14日で1mg。桁が違います。指数のような順序尺度ではなく、実際に量ったグラム数でこの差が出ている点が、この研究の説得力です。
④それでも歯肉炎は起きた
ここが読み落とせない点です。リステリン群でも歯肉炎指数は0.08から0.71へ上がっています。ゼロではありません。
つまり洗口液は、プラークの蓄積を遅らせる(retard)ことはできても、止める(prevent)ことはできませんでした。著者らの表現も「rate of formation を有意に低下させた」であって、「形成を防いだ」ではありません。
もうひとつ興味深いのは、隣接面での効果が頬舌側より小さかったことです。液体は歯間部の深いところまで届きにくく、届いても滞留しません。歯間ブラシやフロスが必要な理由が、ここにも表れています。
⑤明日の臨床へ
1.「磨けない期間の被害を半分にする道具」と位置づける。この研究の数字はまさにそれです。ゼロにはできないが、半分にはできる。外科後の説明としては、これがいちばん正直だと思います。
2.うがいの回数を伝える。この研究は1日3回です。1日1回の洗口でこの結果が出たわけではありません。処方するなら回数まで具体的に。
3.再開できたらすぐ機械的清掃へ戻す。14日で1mgとはいえ、ゼロではありません。磨ける状態になったら、洗口液は補助へ格下げします。
4.隣接面は別腹。洗口液がいちばん苦手な場所です。ここは道具でしか届きません。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
2週間まったく歯を磨かず1日3回うがいだけをすると、プラセボ群のプラーク指数は1.87、リステリン群は0.93。歯肉炎指数の上昇はプラセボ1.18に対しリステリン0.63でした。採取できたプラークの湿重量は、14日目でプラセボ19mgに対しリステリン1mg。それでも歯肉炎はゼロにはならず、洗口液は機械的清掃の代わりにはなりません。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


