1問1答 論文 歯周病

2週間まったく磨かずに、うがいだけで

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

歯を磨かなければプラークがつき、歯肉炎になる。この当たり前を最初に実験で示したのがLöeらの実験的歯肉炎モデルでした。では、磨かない代わりにうがいだけをしたらどうなるのか。イェーテボリ大学のLindheらが、2週間ブラッシングを完全に止めるという少し大胆な設計で、この問いに答えています。

論文
Effect of Listerine® on dental plaque and gingivitis
著者
Fornell J, Sundin Y, Lindhe J
掲載
Scandinavian Journal of Dental Research 1975;83(1):18-25.
種類
クロスオーバー試験(成人10名・実験的歯肉炎モデル)
PMID
1094528

磨かずに、うがいだけで2週間過ごしたら

「歯を磨かなければプラークがつき、歯肉炎になる」。この当たり前を最初に実験で証明したのが、Löeらの実験的歯肉炎モデルでした。健康なボランティアに数週間まったく歯を磨かないでもらい、歯肉が炎症を起こしていく過程を追った、歯周病学の古典です。

その系を使って、次の問いに答えたのがこの研究です。磨かない代わりに、うがいだけをしたらどうなるのか

実務的には、外科後や外傷後、あるいは開口障害で磨けない期間そのものです。イェーテボリ大学のLindheらが、2週間ブラッシングを完全に止めるという設計で測りました。

先に結論: 2週間後のプラーク指数はプラセボ1.87 対 リステリン0.93。歯肉炎指数の上昇は1.18 対 0.63。採取できたプラークの湿重量は14日目で19mg 対 1mg。ただし歯肉炎はゼロにならない=洗口液は歯ブラシの代わりにならない。

設計:4つの2週間

成人10名によるクロスオーバー試験で、連続する4つの2週間で構成されています。

第1・第3期(準備期):プロフェッショナルクリーニングを繰り返し、プラークも歯肉炎もない状態にリセット。
第2・第4期(試験期・対照期)歯磨きを一切禁止し、リステリンまたはプラセボ洗口液で1日3回うがいのみ。

評価は0・2・4・7・14日目に、プラーク指数(PlI)・歯肉炎指数(GI)・歯肉溝滲出液量・歯肉溝白血球数。さらに7日目と14日目には、片側の顎からプラークを採取して湿重量を測定し、そのプラークが持つ走化活性までBoyden chamberで調べています。1975年としては、かなり手の込んだ研究です。

結果:たしかに遅らせた

0 0.7 1.3 2 2週間後の指数 1.9 1.2 0.9 0.6 プラセボ リステリン 淡い棒=歯肉炎指数の上昇(プラセボ 0.11→1.29/リステリン 0.08→0.71)
2週間の無清掃期間後の値。プラーク指数はリステリン群で約半分、歯肉炎指数の上昇も約半分に抑えられた(いずれも有意差あり)。

プラーク指数は、14日目でプラセボ1.87に対しリステリン0.93。部位別に見ると、頬側・舌側で効果が最も強く、14日間の上昇はリステリン0.52に対しプラセボ1.48隣接面でも上昇はリステリン1.16、プラセボ1.98と抑えられていました。しかも各評価時点すべてで有意差(p<0.001)が出ています。

歯肉炎指数は、プラセボ期で0.11から1.29へ(上昇1.18)。ほとんどの歯肉に軽度の炎症が現れた状態です。リステリン期では0.08から0.71へ(上昇0.63)。著者らの言葉を借りれば「およそ2面に1面だけが軽度の炎症を示した」ことになります。

もっとも劇的なのはプラークの実重量です。

0 6.7mg 13.3mg 20mg 採取したプラークの湿重量 (mg) 8mg 2mg 19mg 1mg 7日目 14日目 淡い棒=リステリン期。1人あたりの平均(p<0.001)
採取したプラークの平均湿重量(1人あたり)。プラセボでは7日から14日にかけて2倍以上に増えたが、リステリン期はほとんど増えなかった(p<0.001)。

プラセボ期は7日で8mg、14日で19mg。対してリステリン期は7日で2mg、14日で1mg桁が違います。指数のような順序尺度ではなく、実際に量ったグラム数でこの差が出ている点が、この研究の説得力です。

それでも歯肉炎は起きた

ここが読み落とせない点です。リステリン群でも歯肉炎指数は0.08から0.71へ上がっています。ゼロではありません。

つまり洗口液は、プラークの蓄積を遅らせる(retard)ことはできても、止める(prevent)ことはできませんでした。著者らの表現も「rate of formation を有意に低下させた」であって、「形成を防いだ」ではありません。

もうひとつ興味深いのは、隣接面での効果が頬舌側より小さかったことです。液体は歯間部の深いところまで届きにくく、届いても滞留しません。歯間ブラシやフロスが必要な理由が、ここにも表れています。

明日の臨床へ

1.「磨けない期間の被害を半分にする道具」と位置づける。この研究の数字はまさにそれです。ゼロにはできないが、半分にはできる。外科後の説明としては、これがいちばん正直だと思います。

2.うがいの回数を伝える。この研究は1日3回です。1日1回の洗口でこの結果が出たわけではありません。処方するなら回数まで具体的に。

3.再開できたらすぐ機械的清掃へ戻す。14日で1mgとはいえ、ゼロではありません。磨ける状態になったら、洗口液は補助へ格下げします。

4.隣接面は別腹。洗口液がいちばん苦手な場所です。ここは道具でしか届きません。

ここだけ、冷静に補助線

10名という小さな研究で、対象は健康な成人です。2週間まったく磨かないという条件は、日常生活とはかけ離れています(だからこそ薬剤の力だけを取り出せるのですが)。また、ふだんどおり磨いている人が洗口液を足したときにどうなるかは、この設計では答えられません。それでも、実際に量ったプラーク重量で19mg対1mgという差を示したことと、それでも歯肉炎は進んだという事実を同時に記録したことが、この論文を50年後も引用される古典にしています。効果を認めることと、過信しないこと。その両方を同じ論文が教えてくれます。

今日のひとこと

2週間まったく歯を磨かず1日3回うがいだけをすると、プラセボ群のプラーク指数は1.87、リステリン群は0.93。歯肉炎指数の上昇はプラセボ1.18に対しリステリン0.63でした。採取できたプラークの湿重量は、14日目でプラセボ19mgに対しリステリン1mg。それでも歯肉炎はゼロにはならず、洗口液は機械的清掃の代わりにはなりません。

出典:Fornell J, Sundin Y, Lindhe J. Effect of Listerine® on dental plaque and gingivitis. Scand J Dent Res 1975;83(1):18-25. PMID: 1094528
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。