ペリオ|Phase1 初期治療
「歯間ブラシとフロス、どちらを使えばいいですか」。患者さんによく聞かれます。私たちは「歯間が広いなら歯間ブラシ」と答えますが、その根拠はどこから来たのでしょうか。東京医科歯科大学の歯周病学講座が1975年に行った実験は、この問いにきわめて素直な形で答えを出しています。50年前の論文ですが、数字はいまも指導の土台になります。
①「歯間ブラシとフロス、どっちですか」
患者さんからよく聞かれます。歯科衛生士さんからも「この方にはどちらを勧めますか」と相談されます。私たちの答えはたいてい決まっていて、「歯間が広いなら歯間ブラシ、狭いならフロス」。
この基準は臨床的に定着していますが、そもそもの根拠はどこにあるのでしょう。そしてそもそも歯ブラシだけでは、どれくらい足りないのか。この2つに、50年前の日本の研究がまっすぐ答えています。
東京医科歯科大学の歯周病学講座(木下四郎教授)による、歯間空隙が開いた部位を対象にした清掃効果の比較実験です。
②実験の組み立て
対象は成人10名。補綴物が試験部位やその隣にある人、歯並びに異常がある人は除外しています。
試験歯は第一大臼歯と側切歯で、いずれも隣の歯と正常に接触しながら歯間空隙が開いている部位です。ここが肝心で、この研究が答えているのは「歯間が開いた部位ではどうか」という限定つきの問いになります。
参加者は2群に分かれ、1週間の間隔で交互に2つの方法を実施しました。
①歯ブラシ+歯間ブラシ(Denticator社)
②歯ブラシ+ワックスなしのデンタルフロス(Gudebrod Bros. Silk社)
歯ブラシの方法は改良スティルマン法。評価は試験歯の頬側・近心面のプラーク除去率です。
③結果:58%と、95%と、86%
まず歯ブラシ単独で58%。ここが出発点です。ふつうに磨いて、隣接面のプラークは4割以上が残る。改良スティルマン法という、決していい加減ではない方法でこの数字です。
そこに補助清掃具を足すと、歯間ブラシで95%、フロスで86%。どちらも劇的に改善します。数字だけ見れば歯間ブラシのほうが約9ポイント高いのですが、統計学的に有意な差ではありませんでした(10名という規模を考えれば妥当です)。
著者らの結論は2つ。「歯ブラシだけで隣接面を清掃するのは困難である」、そして「歯間空隙が開いた部位では歯間ブラシが有効である」。
④「有意差なし」をどう読むか
ここは丁寧に扱いたいところです。95%と86%に有意差がなかったことは、「どちらでも同じ」を意味しません。10名では差を検出できなかった、が正確な読み方です。
それでも著者らが歯間ブラシを推した理由は、数字だけではないと考えられます。歯間が開いた部位では、フロスは接触点を通す道具としての持ち味を活かせず、広い空隙の側面や凹面に届きにくい。歯間ブラシは空隙の形に合わせて毛が広がるので、面で当たります。
逆に言えば、接触点が締まっている部位では、この理屈は成り立ちません。歯間ブラシが入らない場所にはフロスしかない。「歯間が広いなら歯間ブラシ」という指導は、この研究の設定そのものに由来しているわけです。
⑤明日の臨床へ
1.58%という数字を、そのまま患者さんに伝える。「歯ブラシだけだと歯と歯の間は6割くらいしか落ちません」。抽象的に「補助清掃具を使いましょう」と言うより、はるかに動機づけになります。
2.部位ごとに道具を変える。同じ口の中でも、臼歯部は歯間ブラシ、前歯部はフロス、ということはよくあります。「1つ選ぶ」ではなく「場所で使い分ける」と伝えるほうが実態に合います。
3.サイズ選定を丁寧に。この研究の95%という数字は、空隙に合った歯間ブラシが正しく使われた場合のものです。細すぎれば当たらず、太すぎれば入りません。
4.歯周治療後こそ出番。治療によって歯間乳頭が退縮すると、多くの患者さんが「歯間が開いた部位」を持つことになります。この研究の対象そのものです。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
歯間が開いている部位では、歯ブラシ(改良スティルマン法)だけで落ちた隣接面のプラークは58%でした。ここに歯間ブラシを足すと95%、フロスを足すと86%まで上がります。歯間ブラシとフロスのあいだに統計学的な有意差はありませんでしたが、著者らは「歯間空隙が開いた部位では歯間ブラシが有効」と結論づけています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


