ペリオ|Phase1 初期治療
分岐部を開けたとき、歯頸部エナメル突起(CEP)が見えることがあります。突起が伸びた範囲には歯根膜線維が真に付着していない——だから取る、というのが従来の考え方です。では何で取るのか。2016年、韓国のグループが抜去大臼歯60本を使い、3つの回転器具を電子顕微鏡で比べました。滑沢さと安全は、両立しませんでした。
①「取るべき」とされてきた理由
慢性歯周炎が進行すると、大臼歯では分岐部が露出します。その分岐部病変の局所的な原因として、古くから名前が挙がってきたのが歯頸部エナメル突起(cervical enamel projection、CEP)です。
CEPはセメントエナメル境を越えて、根尖側の分岐部方向へエナメル質が伸びたもの。1949年にAtkinsonがエナメル突起と歯周ポケットの関連に触れて以来、局所的な歯周組織破壊の原因として注目されてきました。CEPの有病率と分岐部病変の有病率に正の相関を示す研究が複数あり、Masters & Hoskins は「エナメル質が根分岐部に入り込む領域では、歯根膜線維が真に付着していない」と指摘しています。Machtei らはClass II 分岐部病変の患者で、CEPのある歯はない歯よりポケットが深かったと報告しました。
歯周組織との結合が不完全である——だから除去を推奨する意見がある。ここまでは筋が通っています。
ただし現場には難所があります。著者らはこう書いています——歯周外科の際、とくにグレードIIIのCEPでは、エナメル突起が完全に除去されたかどうかを判断するのはほぼ不可能である。だから著者らは、従来の回転器具がどれだけ有効に突起を除去できるのか、そして処理後の歯面がどうなるのかを、実験で確かめに行きました。
②3つのグレードと、3つの器具
分類はこうです。グレードI=セメントエナメル境から分岐部の入口へ向かってエナメル質が伸びる。グレードII=分岐部の入口に接近するが、中には入らない(水平成分がない)。グレードIII=エナメル質が分岐部の中へ水平に伸びる。
材料は歯周病の既往があり、歯頸部の摩耗に対する修復処置を受けていない抜去大臼歯60本。すべて明らかなCEPを持ち、グレードごとに20本ずつに振り分けられました。Gracey 11/12で根面に残る軟組織と歯石を除去し、石膏に埋入して分岐部を露出させ、口腔内に似た条件を作っています。
器具は3つ。①ピエゾ式超音波スケーラー(H4Rチップ)②歯周用バー(低速・25,000rpm未満)③細いテーパー状ダイヤモンドバー(高速・注水下)。除去は圧縮空気で繰り返し乾燥させながら、肉眼で突起が完全に消えたと判断できるまで慎重に行われました。
その後、CEJを含む5×6×2mm³の標本を作り、金コーティングして走査型電子顕微鏡(SEM)で除去前後を観察。評価軸は面の粗さと突起が完全に除去されたかです。
③滑沢さと安全は、両立しなかった
ダイヤモンドバー。SEM画像で最も滑沢な面を作りました。高速回転+注水で、削れ方が均一になる。ただし——この器具はCEP近傍の歯の構造にかなりの害を与えました。
ピエゾ式超音波スケーラー。最も粗い面になりました。しかし分岐部近くの歯質への害は少なかった。振動によるチッピング状の削れ方が、面としては粗い代わりに、周囲を巻き込みにくい。
歯周用バー。ここが実務的に効きます。超音波スケーラーで処理した面より滑沢で、しかも隣接する歯の構造を侵襲しませんでした。低速で、歯周組織側の形態に沿って使える設計だからです。
そして結論。グレードIIのCEP除去に最も有効なのはダイヤモンドバー。ただしグレードIIIの突起を除去するときには、ダイヤモンドバーは隣接する歯質と歯周組織の両方を破壊しうる。そうした場合には、歯周用バーの慎重な使用が適切な代替となりうる——著者らの言い方は、こう抑制的です。
④明日の臨床へ
1つ目。分岐部病変を見たら、突起の有無を確認する。CEPは発生学的な形態のバリエーション(口蓋歯肉溝、エナメル真珠と並ぶ)で、プラークの蓄積を誘発し、患者にも術者にも除去を難しくする。原因側の因子として、最初に見る対象になります。
2つ目。グレードIIIでは「取り切れたか分からない」を前提に置く。著者ら自身が、術中の完全除去の判定はほぼ不可能だと書いています。削り続けて確認しようとすること自体が、歯質と歯周組織を失うリスクになる——この研究はその構造を示しています。
3つ目。器具を1本に決めない。分岐部の入口までならダイヤモンドバー、中に入り込んでいるなら歯周用バーを慎重に。使い分けの基準を持っておくと、迷う時間が減ります。
今日のひとこと
歯周病により抜去された大臼歯60本を、Masters & Hoskinsの分類でグレードI・II・IIIに20本ずつ分け、ピエゾ式超音波スケーラー・歯周用バー(低速)・細いテーパー状ダイヤモンドバー(高速+注水)でCEPを除去してSEMで観察しました。結果は明快に分かれます。ダイヤモンドバーは最も滑沢な面を作ったが、CEP近傍の歯質にかなりの害を与えた。超音波スケーラーは最も粗い面になったが、分岐部近くの歯質への害は少ない。歯周用バーは超音波より滑沢な面を作り、しかも隣接する歯質を侵襲しなかった。結論は「グレードIIのCEP除去には最も有効なのはダイヤモンドバー。ただしグレードIIIの突起では隣接歯質と歯周組織の両方を破壊しうるため、歯周用バーの慎重な使用が適切な代替になりうる」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


