1問1答 論文 歯周病

エナメル突起を削るなら、どの器具を選ぶか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

分岐部を開けたとき、歯頸部エナメル突起(CEP)が見えることがあります。突起が伸びた範囲には歯根膜線維が真に付着していない——だから取る、というのが従来の考え方です。では何で取るのか。2016年、韓国のグループが抜去大臼歯60本を使い、3つの回転器具を電子顕微鏡で比べました。滑沢さと安全は、両立しませんでした。

論文
Characteristics of the molar surface after removal of cervical enamel projections: comparison of three different rotating instruments
著者
Ko MJ, Cho CM, Jeong SN
掲載
Journal of Periodontal & Implant Science 2016;46(2):107-115
種類
実験室研究(抜去大臼歯60本/走査型電子顕微鏡による観察)
PMID
27127691

「取るべき」とされてきた理由

慢性歯周炎が進行すると、大臼歯では分岐部が露出します。その分岐部病変の局所的な原因として、古くから名前が挙がってきたのが歯頸部エナメル突起(cervical enamel projection、CEP)です。

CEPはセメントエナメル境を越えて、根尖側の分岐部方向へエナメル質が伸びたもの1949年にAtkinsonがエナメル突起と歯周ポケットの関連に触れて以来、局所的な歯周組織破壊の原因として注目されてきました。CEPの有病率と分岐部病変の有病率に正の相関を示す研究が複数あり、Masters & Hoskins は「エナメル質が根分岐部に入り込む領域では、歯根膜線維が真に付着していない」と指摘しています。Machtei らはClass II 分岐部病変の患者で、CEPのある歯はない歯よりポケットが深かったと報告しました。

歯周組織との結合が不完全である——だから除去を推奨する意見がある。ここまでは筋が通っています。

ただし現場には難所があります。著者らはこう書いています——歯周外科の際、とくにグレードIIIのCEPでは、エナメル突起が完全に除去されたかどうかを判断するのはほぼ不可能である。だから著者らは、従来の回転器具がどれだけ有効に突起を除去できるのか、そして処理後の歯面がどうなるのかを、実験で確かめに行きました。

先に結論: ダイヤモンドバーは最も滑沢な面を作ったが、CEP近傍の歯質にかなりの害を与えた超音波スケーラーは最も粗い面だったが、害は少ない歯周用バーは超音波より滑沢で、しかも隣接歯質を侵襲しなかった

3つのグレードと、3つの器具

グレード I グレード II グレード III

分岐部の入口へ 向かって伸びる 入口に接近するが 中には入らない 分岐部の中へ 水平に入り込む

破線=セメントエナメル境。着色部が、そこを越えて分岐部へ伸びたエナメル突起 突起が伸びた範囲には歯根膜線維が真に付着していない(Masters & Hoskins の分類)
Masters & Hoskins によるCEPの分類。伸びた範囲には歯根膜線維が付着していない

分類はこうです。グレードI=セメントエナメル境から分岐部の入口へ向かってエナメル質が伸びる。グレードII=分岐部の入口に接近するが、中には入らない(水平成分がない)。グレードIII=エナメル質が分岐部の中へ水平に伸びる。

材料は歯周病の既往があり、歯頸部の摩耗に対する修復処置を受けていない抜去大臼歯60本。すべて明らかなCEPを持ち、グレードごとに20本ずつに振り分けられました。Gracey 11/12で根面に残る軟組織と歯石を除去し、石膏に埋入して分岐部を露出させ、口腔内に似た条件を作っています。

器具は3つ。①ピエゾ式超音波スケーラー(H4Rチップ)②歯周用バー(低速・25,000rpm未満)③細いテーパー状ダイヤモンドバー(高速・注水下)。除去は圧縮空気で繰り返し乾燥させながら、肉眼で突起が完全に消えたと判断できるまで慎重に行われました。

その後、CEJを含む5×6×2mm³の標本を作り、金コーティングして走査型電子顕微鏡(SEM)で除去前後を観察。評価軸は面の粗さ突起が完全に除去されたかです。

滑沢さと安全は、両立しなかった

3つの器具で、何がどう違ったか(SEMによる評価)

面の滑沢さ 隣接する歯質への害

ピエゾ式超音波スケーラー 最も粗い 少ない

歯周用バー(低速) 超音波より滑沢 侵襲しなかった

ダイヤモンドバー(高速) 最も滑沢 かなりの害があった

グレードIIまではダイヤモンドバーが最も有効。グレードIIIでは歯質と歯周組織の両方を壊しうる その場合は歯周用バーの慎重な使用が適切な代替になりうる(抜去歯60本のSEM研究)
SEMによる3器具の比較。滑沢さを取るか、歯質を守るか

ダイヤモンドバー。SEM画像で最も滑沢な面を作りました。高速回転+注水で、削れ方が均一になる。ただし——この器具はCEP近傍の歯の構造にかなりの害を与えました

ピエゾ式超音波スケーラー最も粗い面になりました。しかし分岐部近くの歯質への害は少なかった。振動によるチッピング状の削れ方が、面としては粗い代わりに、周囲を巻き込みにくい。

歯周用バー。ここが実務的に効きます。超音波スケーラーで処理した面より滑沢で、しかも隣接する歯の構造を侵襲しませんでした。低速で、歯周組織側の形態に沿って使える設計だからです。

そして結論。グレードIIのCEP除去に最も有効なのはダイヤモンドバー。ただしグレードIIIの突起を除去するときには、ダイヤモンドバーは隣接する歯質と歯周組織の両方を破壊しうるそうした場合には、歯周用バーの慎重な使用が適切な代替となりうる——著者らの言い方は、こう抑制的です。

ここが要点: 「どれが一番いいか」という問いには答えが出ない。グレードによって、選ぶ器具が変わる。滑沢さを最優先すると歯質を失い、安全を最優先すると面が粗くなる。

明日の臨床へ

1つ目。分岐部病変を見たら、突起の有無を確認する。CEPは発生学的な形態のバリエーション(口蓋歯肉溝、エナメル真珠と並ぶ)で、プラークの蓄積を誘発し、患者にも術者にも除去を難しくする。原因側の因子として、最初に見る対象になります。

2つ目。グレードIIIでは「取り切れたか分からない」を前提に置く。著者ら自身が、術中の完全除去の判定はほぼ不可能だと書いています。削り続けて確認しようとすること自体が、歯質と歯周組織を失うリスクになる——この研究はその構造を示しています。

3つ目。器具を1本に決めない。分岐部の入口までならダイヤモンドバー、中に入り込んでいるなら歯周用バーを慎重に。使い分けの基準を持っておくと、迷う時間が減ります。

ここだけ、冷静に補助線。 これは抜去歯を使った実験室(in vitro)の研究です。治癒や予後を見た研究ではありません——面が滑沢であることが臨床的にどれだけ有利なのか、突起を除去したことで分岐部病変の経過がどう変わるのかは、この研究からは分かりません。評価はSEMによる見た目(粗さと残存の有無)の比較にとどまり、粗さを数値化した定量指標は示されていません。除去の判定も肉眼で行われています。また著者らは、細胞接着の追加実験を行う予定があったためエナメル質の残存を明瞭に検出するための薬剤を意図的に使っていないと述べています。それでも、「滑沢さを取るか、歯質を守るか」という選択が存在すること自体を可視化した点で、分岐部を開ける機会がある人には手元に置いておきたい一本です。

今日のひとこと

歯周病により抜去された大臼歯60本を、Masters & Hoskinsの分類でグレードI・II・IIIに20本ずつ分け、ピエゾ式超音波スケーラー・歯周用バー(低速)・細いテーパー状ダイヤモンドバー(高速+注水)でCEPを除去してSEMで観察しました。結果は明快に分かれます。ダイヤモンドバーは最も滑沢な面を作ったが、CEP近傍の歯質にかなりの害を与えた超音波スケーラーは最も粗い面になったが、分岐部近くの歯質への害は少ない歯周用バーは超音波より滑沢な面を作り、しかも隣接する歯質を侵襲しなかった。結論は「グレードIIのCEP除去には最も有効なのはダイヤモンドバー。ただしグレードIIIの突起では隣接歯質と歯周組織の両方を破壊しうるため、歯周用バーの慎重な使用が適切な代替になりうる」

出典:Ko MJ, Cho CM, Jeong SN. Characteristics of the molar surface after removal of cervical enamel projections: comparison of three different rotating instruments. J Periodontal Implant Sci 2016;46(2):107-115. PMID: 27127691
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。