ペリオ|Phase1 初期治療
歯間部は見えません。だから私たちは出血を手がかりにします。「出なくなった、よし」——ですがそれは、中の炎症が本当に減ったことを意味しているのでしょうか。1989年、Catonらは出血が止まった歯間乳頭を実際に切り出し、炎症の量を体積として測りました。
①見えない場所を、出血で読む
歯間部は、見えません。コンタクトポイントより根尖側は、視診も届かず、器具も入りにくい。それでいて、歯周病の病変が最も起こりやすい場所です。
だから私たちは、出血を手がかりにします。木製の歯間清掃具を入れて、出るか出ないか。プローブを入れて、出るか出ないか。「出なくなりましたね、よかった」——そう記録して、次の再評価へ進みます。
ここで一度立ち止まります。出血が止まったことは、中の炎症が減ったことを意味しているのか。表面が止血しただけということはないのか。あるいは逆に、まだ深いところには炎症が残っているのではないか。
1989年、イーストマン歯科センターの Caton らが、この確認を行いました。方法は直接的です。出血が止まった歯間乳頭を、実際に切り出して、顕微鏡で炎症の量を測ったのです。
②出血の指標は、何を保証していたのか
この研究の少し前から、歯間部の評価には木製歯間清掃具による出血が使われるようになっていました。EIBI(Eastman Interdental Bleeding Index)と呼ばれる方法です。
やり方は決まっています。頬側から歯間に清掃具を入れ、歯間乳頭を1〜2mm押し下げる。水平方向に、4回出し入れする。15秒以内に出血するかどうかを記録する。単純で、誰でもでき、再現しやすい。
この指標が「歯間部の炎症を反映している」ことは、以前の研究で示されていました。出血する部位は炎症性病巣を伴い、出血しない部位の結合組織は比較的正常。ここまでは分かっていたのです。
分かっていなかったのは、その次でした。治療によって出血する状態から出血しない状態へ「変えた」とき、中の組織も本当に変わっているのか。診断の指標として使えることと、治療効果のモニターとして使えることは、別の問題です。
そしてもうひとつ。患者本人のブラッシングだけで出血が止まった場合と、歯肉縁下スケーリングを足して止まった場合とで、中身に違いはあるのか。臨床的にはどちらも「出血なし」ですが、それは同じ状態なのでしょうか。
③出血が止まった乳頭を、切って測る
対象は47名(男性24名・女性23名、26〜74歳、平均43.2歳)。全身的には健康な患者で、他部位の歯周外科手術を受ける際に、隣接部の歯肉生検を1名から1つ採取しました。
選ばれた歯間部の条件は明確です。初期のポケット深さとプロービングアタッチメントロスが4mm以下、X線上の骨吸収が20%以下、歯列が正常で歯間空隙が保たれていること。つまり中等度までの部位に絞っています。そして全部位が初診時にEIBI陽性でした。
手術の1か月前に口腔衛生指導を行い、4週±1週後にもう一度EIBIを評価。この結果によって、3つの群に分かれました。
Group I(15名):指導した技術を習得できず、依然として出血していた群。
Group II(15名):技術を習得し、口腔清掃だけで出血が止まった群。
Group III(17名):口腔清掃に加えて歯肉縁下スケーリングを1回受け、出血が止まった群(生検の1か月±1週前に実施)。
採取した乳頭は近遠心方向に6μm厚で連続切片にし、144μm間隔で標本化。van Gieson ピクリン酸フクシン染色を施しました。この染色では正常なコラーゲンは赤く染まり、炎症細胞が浸潤してコラーゲンが失われた部位は黄色くなります。
評価は形態計測(ポイントカウンティング)。×125の倍率で格子を重ね、上皮/正常結合組織/炎症性結合組織のそれぞれに何点が乗るかを数えて、体積密度(%)を算出します。さらに切片を歯冠側1620μmと根尖側810μmに分けて、深さ方向の分布も見ました。
④変わったのは「炎症の中身」だけだった
結果は明快でした。炎症を起こした結合組織の体積密度は、
出血が続いた群で68.1±3.6%、口腔清掃だけで止まった群で43.3±3.3%、口腔清掃+縁下スケーリングで止まった群で25.6±2.7%。3群すべての組み合わせで有意差がありました(出血 vs 清掃 p=0.005、出血 vs 清掃+SC p<0.001、清掃 vs 清掃+SC p=0.016)。
ここで見落としてはいけないのが、差が出なかった項目です。上皮の量(42.2% / 45.3% / 48.3%)にも、全結合組織の量(56.7% / 54.7% / 51.3%)にも、有意差はありませんでした。
つまり組織の構成そのものは変わっていない。変わったのは結合組織のうち、どれだけが炎症に置き換わっているかという中身だけです。炎症細胞に置き換わっていた部分が、赤く染まるコラーゲンへ戻っていた——著者らは組織像でもこれを確認しています。
⑤ただし、根尖側にはまだ残っている
もうひとつ、実務的に重要な発見があります。炎症は一様には減らなかった。
切片を歯冠側と根尖側に分けて見ると、すべての群で根尖側のほうが炎症が多く残っていました(いずれも p<0.001)。
出血が続いた群では歯冠側46.1%/根尖側75.1%。口腔清掃のみの群では28.8%/50.4%。縁下スケーリングを足した群でも11.1%/32.6%です。臨床的には「出血なし」と判定された部位でも、根尖側にはまだ3割前後の炎症が残っていました。
理由は素直です。著者らは Waerhaug の研究を引きながらこう述べています——ブラッシングと歯間清掃で除去できる歯肉縁下プラークは、深さにして0.5〜2.5mm程度。それより深い領域には、患者の器具は届きません。だから歯冠側の炎症は口腔清掃でよく減り、根尖側には残る。
実際、口腔清掃は歯冠側・根尖側を合わせた炎症の減少のおよそ50%を担っていました。残りの半分は、術者側の器具操作の仕事です。
そして、面積で見たときの分布にも規則がありました。頬側から舌側へ向かう幅方向のグラフはどの群も山なりの曲線を描き、炎症が最も多いのは歯間部の真ん中——つまりコンタクトポイントの直下でした。最も清掃が届かない場所に、最も炎症が集まっている。
⑥明日の臨床へ
1つ目。歯間部の出血は、組織の状態を映す指標として使ってよい。この研究が示したのは、EIBIが診断だけでなく治療効果のモニターとしても機能するということです。見えない場所の中身を、非侵襲的に推し量る手段として、出血の記録には十分な根拠があります。
2つ目。出血が止まっても、根尖側にはまだ炎症が残っている。ここが最も実務的な示唆でしょう。「出血なし=完全に治った」ではありません。とくに患者の清掃だけで止まった部位は、根尖側に50%の炎症が残っていました。止まったからスケーリングは不要、という判断は成り立ちません。
3つ目。再評価は4週間を待ってから。この研究では4週で有意な修復が起きています。逆に言えば、4週より早く評価すれば、治りきる前の姿を見ることになります。初期治療の再評価時期の根拠として、この数字は覚えておく価値があります。
今日のひとこと
炎症を起こした結合組織の体積密度は、出血が続いた群で68.1%、口腔清掃だけで出血が止まった群で43.3%、口腔清掃+歯肉縁下スケーリング1回で止まった群で25.6%でした(いずれも有意差あり)。上皮と全結合組織の量には差がなく、変わったのは「炎症の中身」だけです。またどの群でも炎症は歯冠側より根尖側に多く残り、出血が止まった群でも根尖側は32.6〜50.4%を占めていました。この修復は4週間で起きています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


