1問1答 論文 歯周病

病んだセメント質は、削り取る必要があるのか

1問1答 論文 歯周病

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「感染したセメント質は取り除く」——長く教えられてきた考え方です。細菌の内毒素がセメント質の内部まで入り込むのだから、そこを削らなければ治らない、と。この1986年の実験は、その前提を正面から確かめました。犬の歯周炎の歯を外科的に開き、片側はセメント質を完全に削り取り、反対側はラバーカップで磨くだけ。2か月後の治癒を組織学的に比べています。

論文
Role of “diseased” root cementum in healing following treatment of periodontal disease. An experimental study in the dog
著者
Nyman S, Sarhed G, Ericsson I, Gottlow J, Karring T
掲載
Journal of Periodontal Research 1986;21(5):496-503
種類
動物実験(1歳のビーグル犬5頭/下顎第2・第3・第4小臼歯の歯頸部に綿糸のリガチャーを置き4か月かけて実験的歯周炎を作製し、付着装置の破壊が歯根長の半分に達した時点でリガチャーを除去、さらに60日プラーク蓄積を継続/その後フラップを挙上し歯槽骨頂の高さにノッチを作製/同一顎の片側は根面をスケーリングしダイヤモンドバーでセメント質を完全除去、対側はスケーリングせずラバーカップと歯間ゴムチップと研磨ペーストで磨くのみ/弁を元の位置に戻して縫合し、2か月の治癒期間中は0.2%クロルヘキシジンを週3回局所塗布/解析はテスト27根・対照27根の組織計測(標本作製の失敗でテスト2根・対照1根を除外)。統計は犬ごとにテスト根・対照根の平均値を出したうえでの対応のあるt検定(n=5))
PMID
2946850

「感染したセメント質を取る」という前提

ルートプレーニングを教わるとき、たいてい出てくる説明があります。細菌の内毒素はセメント質の内部まで浸透しているので、その層ごと削り取らなければ治らない——という考え方です。

この前提は、1970年代の一連の研究から生まれました。歯周炎に罹患した歯根のセメント質には細胞毒性のある細菌産物が含まれる、という所見です。ある研究者は「すべての歯周炎に罹患したセメント質はルートプレーニングで除去し、細菌汚染のない表面を得るべきである」と結論しています。

ところが、その後この所見を確認できない報告も出てきました。内毒素の根面への浸透は限定的で、表面への結合も弱いという試験管内の研究です。

Nymanらは、この対立を臨床上の問いに翻訳しました。そもそも、セメント質を取るかどうかで治り方は変わるのか

先に結論: セメント質を完全に削り取った根と、ラバーカップで磨いただけの根で、2か月後の組織学的な治癒に統計的な差はなかった新生セメント質とコラーゲン線維の挿入は創の最根尖部で両群ともしばしば観察され、一部のテスト根では古いセメント質の上に新生セメント質が沈着していた(犬での実験)。

同じ口の中で、左右を比べる

設計が巧みです。

  • 1歳のビーグル犬5頭。下顎第2・第3・第4小臼歯の歯頸部に綿糸のリガチャーを置き、4か月かけて実験的な歯周炎を作製しました
  • 付着装置の破壊が歯根長の半分に達した時点でリガチャーを除去し、さらに60日間プラークの蓄積を続けます
  • 次に歯周外科。頬舌側の粘膜骨膜弁を挙上し、歯槽骨頂の高さにノッチ(切痕)を刻んで、後の組織計測の基準点にします
  • 同じ顎の片側と反対側で、根面の処理を変えました。対照側は根面をスケーリングし、ダイヤモンドバーでセメント質を完全に除去。テスト側はスケーリングを行わず、ラバーカップ・歯間ゴムチップ・研磨ペーストで磨くだけ——つまり細菌の沈着物だけを取り、「感染した」セメント質はそのまま残しました
  • 弁を元の位置に戻して縫合。2か月の治癒期間中は0.2%クロルヘキシジンを週3回局所塗布し、d-240で屠殺して組織標本を作製しています

同一個体の左右で比べているので、犬ごとの体質差が結果に混ざりません。解析対象はテスト27根・対照27根(標本作製の失敗でテスト2根・対照1根を除外)。統計は犬ごとにテスト根・対照根の平均値を出したうえで、対応のあるt検定(n=5)で比べています。

5つの指標、すべてで差が出ない

0 1.3 2.7 4 組織計測値 (mm) 2.94 3.39 0.81 0.72 0.97 0.87 1.05 1.76 2.13 2.67 歯周組織の高さ N-GM 炎症性浸潤の広がり GM-aICT 接合上皮の長さ aJE-aICT 新付着の長さ N-aJE;C 治癒した組織の高さ N-aICT 犬5頭・テスト27根/対照27根。犬ごとに平均した値で対応のあるt検定(n=5)を行い、5項目すべてで有意差は認められなかった。左(濃いティール)が研磨のみ、右(淡いティール)がセメント質除去(Nyman 1986 Table 1)
ノッチを基準にした組織計測。5項目すべてで統計的な有意差は認められなかった

刻んだノッチを基準に、5つの距離が測られました。

  • 歯周組織の高さ(N-GM):研磨のみ2.94mm 対 セメント質除去3.39mm
  • 炎症性浸潤の根尖方向への広がり(GM-aICT):0.81mm 対 0.72mm
  • 非炎症性の結合組織に接する接合上皮の長さ(aJE-aICT):0.97mm 対 0.87mm
  • 新生セメント質とコラーゲン線維の挿入の長さ(N-aJE;C):1.05mm 対 1.76mm
  • 治癒した非炎症性歯周組織の高さ(N-aICT):2.13mm 対 2.67mm

いずれも統計的に有意な差はありませんでした。屠殺日の臨床所見でも、両群のあいだに違いは観察されていません。歯肉はどちらも健康か、ごく軽微な歯肉炎の徴候を示す程度でした。

組織学的に見えたのはこうです。治癒は、非炎症性の結合組織の上に接合上皮が伸びる形(長い接合上皮)で起こりました。そして新生セメント質とコラーゲン線維の挿入は、創の最根尖部(ノッチの周囲)で、テスト根・対照根のいずれでもしばしば観察されています。重要なのは、一部のテスト根では、新生セメント質が古いセメント質の上に沈着していたこと。古い層の存在が、新しい付着の形成を妨げていなかったわけです。

効いていたのは、何だったのか

著者らの解釈はこうです。治療後に歯周組織の健康を得るために不可欠なのは、根面からの軟らかい細菌沈着物の除去であって、セメント質の除去ではない

ここは丁寧に読む必要があります。著者らは「この結果を、歯周治療にルートプレーニングを行うべきでないという意味に解釈すべきではない」と明記しています。歯石や石灰化した沈着物を取る以上、実務上どうしてもセメント質の除去は伴う。彼らが正当化されないとしたのは、内毒素の除去を目的とした「意図的で過剰な」セメント質の削り込みです。

そして正直に、答えられないことも書いています。この研究は、内毒素が実際にセメント質の内部にあるのか、表面にあるのかという問いには答えていない——結果が示すのは、その所在がどちらであれ、細菌沈着物さえ除かれれば治癒を妨げなかった、ということだけです。

その理由として2つの可能性が挙げられています。研磨によって表面の内毒素が取り除かれたのかもしれないし、セメント質内に残った内毒素が、宿主の炎症反応によって中和されたのかもしれない。どちらかは分かりません。

もう一点、見落とせない記述があります。両群とも、歯肉の最も歯冠側の部分には炎症性浸潤が認められました。著者らはこれを「クロルヘキシジンの週3回の局所塗布では、実験歯を完全にプラークフリーに保つには不十分だったため」と説明しています。術後の縁上プラークコントロールが不完全であれば、辺縁の炎症は残るということです。

明日の臨床へ

  • 目的を「面を削ること」から「沈着物を取ること」へ置き換える。この研究が支持しているのは後者です
  • セメント質を削り込むことの代償を思い出す。象牙質の露出、知覚過敏、そして限りある歯質。得られる利益が示されていないなら、代償だけが残ります
  • 歯石と細菌沈着物の除去は、依然として必須。この研究は「磨くだけでよい」とも「ルートプレーニングをやめよ」とも言っていません。テスト側でも沈着物は丁寧に除去されています
  • 術後のプラークコントロールが結果を左右する。クロルヘキシジン週3回でも辺縁に炎症が残った、という所見はそのまま患者説明に使えます
  • ただし、これは犬の実験である。ヒトでそのまま同じ結果になると決めつけない。著者ら自身が、対応する研究をヒトで開始したと書いています

ここだけ、冷静に補助線

犬5頭・54根の動物実験で、観察期間は2か月です。実験的歯周炎はリガチャーで短期間に作ったもので、ヒトの慢性歯周炎とは成り立ちが異なります。統計は犬ごとに平均した値で対応のあるt検定を行っており、実質的な標本数は5です。「差がなかった」という結果は、これだけ標本数が少ないときには「差を示せなかった」と読むのが正しい姿勢です(新付着の長さは1.05mm対1.76mmと、数字としては小さくない開きがあります)。それでも、同一個体の左右で条件を分け、基準点となるノッチまで刻んで組織学的に比べたという設計の丁寧さは、この結果に相応の重みを与えています。以後の歯周治療の考え方を動かした一本です。

今日のひとこと

治癒に不可欠なのは、セメント質の除去ではなく沈着物の除去だった。少なくともこの実験では、古いセメント質の上にも新しいセメント質が乗り、線維が入っていきました。ルートプレーニングそのものを否定した論文ではなく、内毒素を狙った過剰な削り込みに根拠がないと示した論文です。根面を薄くすることが目的化していないか——器具を持つ手に、時々問い直したい問いです。

今日のひとこと

組織計測の5項目——歯周組織の高さ(N-GM)、炎症性浸潤の広がり(GM-aICT)、接合上皮の長さ(aJE-aICT)、新生セメント質と挿入コラーゲン線維の長さ(N-aJE;C)、治癒した非炎症性歯周組織の高さ(N-aICT)——のすべてで、統計的に有意な差は認められなかった新生セメント質とコラーゲン線維の挿入は、テスト根・対照根のいずれでもしばしば観察され、一部のテスト根では新生セメント質が古いセメント質の上に沈着していた著者らは「セメント質内に存在しうる内毒素を除去する目的での歯根セメント質の除去は、歯周組織の健康を得るために必要ではない」と述べている(原文は「結果が示唆する」という書き方)。ただし著者らはこの結果を「ルートプレーニングを行うべきでない」という意味に解釈すべきではないと明記し、歯石や石灰化した沈着物の除去は実務上しばしばセメント質の除去を伴うと述べたうえで、「意図的で過剰な」セメント質除去が正当化されないと限定している。また本研究は内毒素がセメント質の内部にあるのか表面にあるのかという問いには答えていないとも書かれている。

出典:Nyman S, Sarhed G, Ericsson I, Gottlow J, Karring T. Role of “diseased” root cementum in healing following treatment of periodontal disease. An experimental study in the dog. J Periodontal Res 1986;21(5):496-503. PMID: 2946850
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。