口腔顔面痛|長引く痛みに対するヨガの効果を調べたランダム化試験13本を見つけ、うち9本を本文で紹介した総説。後半で効く仕組みの仮説と今後の課題を論じる(Wren ほか 2011・Pain)
「ヨガに通い始めたら、痛みが楽になった」。患者さんからそう聞いたとき、どう受け止めればいいのか。この総説は、長引く痛みに対するヨガのランダム化試験を13本見つけ、うち9本を本文で紹介しました。対象でいちばん多いのは慢性腰痛の6本で、手根管症候群・線維筋痛症・血液透析中の患者さんなどが1本ずつ。総説の記載を数えると、13本のうち12本が痛みに関わる指標で良い結果で、1本(慢性腰痛)は差がありませんでした。ただし著者らは、厳密な研究はまだ初期段階で、ヨガは「有望かもしれない」と控えめに結論しています。なお、口腔顔面痛や顎関節症を対象にした試験は、13本の中にありません。
①「ヨガで痛みが楽になった」と言われたら
顎や歯の痛みが長引いている患者さんが、ふと言うことがあります。「最近ヨガに通い始めて、少し楽なんです」。
うなずいて聞き流すか、「それは気のせいですよ」と返すか。どちらにしても、私たちはヨガと痛みについて、研究が何を示しているのかをあまり知りません。
この論文は、痛みの専門誌 Pain に載った短い総説です(2011年・米国)。著者らは冒頭で、痛みを診る医療者は患者さんからヨガの良さを耳にしているが、ランダム化試験があることは知らないかもしれない、と書いています。
・長引く痛みに対するヨガのランダム化試験は13本見つかった。いちばん多いのは慢性腰痛の6本
・総説の記載を数えると、13本のうち12本が痛みに関わる指標で良い結果、1本(慢性腰痛)は差がなかった
・著者らの結論は控えめで、ヨガは長引く痛みに「有望かもしれない」。厳密な研究はまだ初期段階
・口腔顔面痛・顎関節症を対象にした試験は、13本の中にない
②痛みのためのヨガは、体操だけではない
総説によると、ヨガはインドで生まれ、およそ4,000年のあいだ実践されてきたとされます。ヨガという言葉はサンスクリット語の「結ぶ」に由来し、心と体を結びつけて健康を促すことが目的です。
流派はいくつもありますが、多くに共通する要素は3つ。呼吸法・ポーズ・瞑想です。
一般にはヨガは運動の一種と思われがちです。けれど、痛みの研究で使われるプログラムはもっと幅が広い、と著者らは書いています。
・もとになった流派はハタヨガとアイアンガーヨガが中心
・ハタヨガの研究は、リラクセーションと、対象の患者さんに合わせた穏やかなポーズが中心
・アイアンガーヨガの典型は、患者さんに合わせたポーズ、体の部位への気づきを育てる補助具、呼吸の調整、自宅での練習
・典型的な形は、訓練を受けた指導者による約1時間の集団レッスンを週1〜2回、約12週間
③今回の一手:ランダム化試験13本を見つけ、9本を紹介する
著者らが見つけたランダム化試験は13本。総説の本文ではそのうち9本を取り上げ、13本すべての特徴を1つの表にまとめています。
本文で取り上げなかった4本について、著者らは理由を書いています。3本は痛みが主な評価項目ではなかったこと(痛みによる生活の支障などで測っていた)。2本は、1日8時間を1週間続けるなど、ふだんの診療に当てはめにくいプログラムだったことです。
13本が、どんな痛みを対象にしていたかを数えました。
半分近くが慢性腰痛です。著者らは、慢性腰痛はありふれていて、痛みをかばう姿勢のような筋骨格の問題と、心理社会的なストレスの両方が関わるため、ヨガの研究にとくに向いていると説明しています。
そして、この表に口腔顔面痛・顎関節症は出てきません。頭頸部に近いのは片頭痛の1本だけです。
④結果:慢性腰痛では、痛みと生活の支障が減った
総説が本文で紹介した慢性腰痛の試験は4本です。数値は示されておらず、「有意に改善した項目」と「差がなかった項目」が書かれています。
・Williams 2005(アイアンガーヨガ、対照は教育):痛み・生活の支障・鎮痛薬の使用が、治療後と3か月後に有意に減った。背骨の動く範囲、動くことへの恐怖、自己効力感などには差がなかった
・Williams 2009(アイアンガーヨガ):痛み・身体的な支障・抑うつが有意に減った。6か月後も効果は保たれ、ヨガ群の68%が自宅での練習を続けていた
・Sherman 2005(ヴィニヨガ):総説の記述では、有酸素運動や教育の対照より、腰痛のわずらわしさと痛みによる生活の支障が有意に減った。健康状態の質問票(SF-36)には有意な改善がなかった
・Saper 2009(ハタヨガ):参加者の83%が人種・民族的少数派という集団で、痛みの点数・腰に関わる機能・鎮痛薬が有意に改善した。SF-36には差がなかった
表には、慢性腰痛の試験がほかに2本あります。1本(集中プログラムの Tekur 2008)は痛みによる生活の支障と背骨の柔軟性が改善、1本(Galantino 2004)は対照との差がありませんでした。慢性腰痛の6本がそろって改善したわけではありません。
痛みと生活の支障が動いた試験は多い一方、背骨の柔軟性の結果は試験によって分かれ(Williams 2005 は差なし、Tekur 2008 は改善)、全般的な健康状態の点数(SF-36)は動かなかった試験がありました。
⑤結果:腰痛以外でも、痛みが減ったという報告が並ぶ
腰痛以外で、総説が本文で紹介したのは5本です。
・手根管症候群(Garfinkel 1998、42人、対照は手首の固定装具):痛みが有意に減り、握力が増えた。神経の伝導時間や睡眠には改善の傾向があったが、有意ではなかった
・手の変形性関節症(Garfinkel 1994):動かしたときの痛み、関節の圧痛、指の動く範囲が有意に改善。安静時の痛み、手の機能、握力には差がなかった
・線維筋痛症(Carson 2010、女性):痛み・疲労・活力・気分・痛みの受け入れ・破局的な考えなどが有意に改善。圧痛や睡眠には差がなかった
・血液透析中の患者さん(Yurtkuran 2007、対照は通常のケア):椅子に座って行うヨガから始め、時間を15分から30分へ少しずつ延ばした。痛み・疲労・睡眠の問題が有意に減り、握力や血液検査の一部も改善した
・乳がんを経験した人(Carson 2009、対照は順番待ち):関節の痛み・疲労・睡眠の問題・ほてりなどが治療後に有意に改善。3か月後には、気分・リラクセーション・受け入れにも改善がみられた
乳がんの試験では、日ごとの記録を解析すると、ヨガの練習時間が長かった人ほど、痛みに関わる症状の改善が大きかったと紹介されています。
本文で取り上げなかった4本は、3本(片頭痛、慢性膵炎、慢性腰痛の集中プログラム)が痛みに関わる指標で良い結果、1本(慢性腰痛)は差なしでした。本文の9本と合わせると、13本のうち12本が、痛みに関わる何らかの指標で良い結果だったことになります(総説の記載から筆者が数えたもの。Saper 2009 は、総説に対照と比べたという書き方がありません)。
⑥なぜ効くのか:著者らが挙げた3つの道筋
ヨガがなぜ痛みに効き得るのか。著者らは、体・行動・心の3つの道筋を挙げています。どれも仮説で、この総説が確かめたものではありません。
3つ目の「心」の道筋で著者らが挙げたのは、体と心の状態への気づき、前向きな感情、そして痛みの受け入れです。受け入れとは、痛みを感じることや否定的な考え・気持ちがあることを認めながら、大切な目標に向かい続けること。痛みを自分で制御できるという感覚(自己効力感)が高まる可能性にも触れています。
著者らは結論で、ヨガは長引く痛みの生物・社会・心理の3つの面に患者さんが向き合う助けになり得る、とまとめています。
⑦明日の臨床へ
この総説は歯科の話をしていません。そこで、総説に書かれている範囲と、そこからの筆者の読みを分けて書きます。
・ヨガは補助具を使うなどして、体調の悪い人や体の動きに制限のある人にも合わせられる
・紹介するなら、認定を受けた指導者で、痛みのある病気の患者さんを教えた経験のある人が大切
・安全のために、紹介する医療者は体の制限を患者さんと指導者の両方に伝える
・費用は、多くの患者さんが地域の安い教室に自費で通っている
・顎や歯の痛みに効くとは言えない。13本の中に口腔顔面痛・顎関節症の試験はなく、歯科から「痛みの治療」として勧める根拠は、この総説にはない
・患者さんがヨガを話題にしたら、否定せずに聞く。慢性腰痛などではランダム化試験があり、痛みと生活の支障が減ったという報告が多い、と知っておくだけで返事が変わる
・体を動かす習慣と、自分でできる対処という面に目を向ける。長引く痛みでは、処置だけでなくセルフケアが治療の柱の1つになる
・もし紹介する立場になるなら、体の制限を患者さんと指導者の両方に伝える(総説の勧めのとおり)
著者ら自身も課題を挙げています。対象者は白人が86%、平均46.7歳、女性が72%で、社会経済的に恵まれた人に偏っていること。比べる相手に有酸素運動や認知行動療法のような積極的な治療を置いた試験が要ること。どれくらいの量が要るのか、長期に効果が続くのかも、これからの課題です。
13本のうち2本(Carson 2009・2010)は、この総説の著者が行った試験です(参考文献の著者名から。ここは筆者の補足です)。また、本文では Saper らの腰痛の試験に文献番号17が付いていますが、表と参考文献の題名からは文献18の試験を指しています。
それでも、患者さんの口から聞くことの多い「ヨガ」に、どんな痛みで、どこまで試験があるのかを短く見渡せる1本です。2011年の総説なので、その後の研究は含まれていません。続報を追う入口として読みたい論文です。
今日のひとこと
この総説が整理したのは、長引く痛みへのヨガについて、著者らが見つけたランダム化試験は13本で、その多くが痛みに関わる指標で良い結果だったということです。いちばん研究が多いのは慢性腰痛でした。一方で、対象は白人の中年女性に偏り、比べる相手は教育や通常のケアが中心で、長期の追跡も足りません。口腔顔面痛の試験はありません。歯科が持ち帰れるのは、患者さんがヨガの話をしたとき、腰痛などでは試験の裏づけがあると知ったうえで、頭ごなしに否定せず聞くという姿勢です。顎や歯の痛みに効くかどうかは、この総説からは言えません。


