口腔顔面痛|急に顔がしびれた42歳の女性で、左顔面の痛覚と温度覚が顔の中心を残して段階的に落ちていた。MRIで延髄下部から第2頸髄の高さに病変があり、ステロイドで改善した症例の画像報告(Das ほか 2011・Neurology)
「顔がしびれる」と訴える患者さん。歯科ではまず、下歯槽神経やオトガイ神経など、神経の枝に沿ったしびれを考えることが多いと思います。けれど、しびれの形はもう1つあります。口の周りは保たれ、顔の外側へ行くほど感覚が落ちる「玉ねぎの皮」型です。この報告の患者さんは42歳の女性で、急に顔がしびれ、左顔面の痛覚と温度覚が、顔の中心を残して段階的に落ちていました。MRIでは延髄の下部から第2頸髄の高さに病変があり、急性の脱髄が疑われ、ステロイドで改善しています。著者らは、この形が三叉神経脊髄路核の中の並び方を映していて、病変の場所を突き止める助けになると述べています。1例の、ごく短い報告です。
①「顔がしびれる」。その範囲、描いてもらっていますか
抜歯や根管治療、インプラントのあとに「唇がしびれる」と言われたら、私たちはまず下歯槽神経やオトガイ神経を思い浮かべます。三叉神経の枝に沿ったしびれです。
では、処置の心当たりがなく、しびれの範囲が枝の領域と合わないときはどうでしょう。
この論文は、神経内科の専門誌 Neurology の教育欄に載った、本文1段落と図2つのごく短い症例の画像報告です(2011年・インド)。短いけれど、顔のしびれを診るときの地図を1枚くれる報告です。
・患者さんは42歳の女性。急に顔がしびれた
・左顔面の痛覚と温度覚が、顔の中心を残して段階的に落ちていた(「玉ねぎの皮」型の分布)
・MRIで延髄の下部から第2頸髄の高さに病変。急性の脱髄が疑われ、ステロイドで改善した
・著者ら:この形は三叉神経脊髄路核の中の並び方を映していて、病変の場所を突き止める助けになる
②三叉神経の感覚の落ち方は、2通りある
著者らは図2で、顔の感覚の落ち方を2つの型に分けて示しています(教科書からの転載図)。
・枝の型(divisional pattern):三叉神経の3つの枝、第1枝(眼神経)・第2枝(上顎神経)・第3枝(下顎神経)の領域ごとに落ちる
・分節の型(segmental pattern):口と鼻の周りを中心に、同心円の輪のように落ちる。これが「玉ねぎの皮」型
筆者の見立てでは、歯科で出会うしびれの多くは前者の「枝の型」です。後者は、形そのものが違います。なお上の模式図は単純化したもので、実際の第3枝の領域は耳の前からこめかみまで及びます。
③今回の症例:顔の中心だけが、保たれていた
患者さんは42歳の女性。急に始まった顔のしびれで受診しました。
・左顔面の痛覚と温度覚が、段階的に低下していた。顔の中心は保たれ、外側ほど強く落ちていた
・角膜反射は左で鈍かった
・そのほかの診察、脳脊髄液の検査、視覚誘発電位は正常
原著の写真では、患者さんの左顔面に、感覚の落ち方の段階を示す線が描き込まれています。顔の外側でいちばん強く落ち(白い矢印)、顔の中心は保たれている(黒い矢印)、という説明です。
原著の写真では、線は額から頬、顎にかけて引かれています。第2枝だけ、第3枝だけ、という分かれ方ではなく、輪の形に落ちているように見えます(写真からの筆者の読みです。原著の文章は「枝の型と対照的な分節の型」と書いています)。
④MRIと経過:病変は、顔から離れた場所にあった
MRIで見つかった病変は、顔でも顎でもなく、脳幹から上部の頸髄にありました。
・矢状断のT2強調像:延髄の下部から第2頸髄(C2)の高さまで続く高信号の病変
・上部頸髄の高さの横断像:左の後外側に高信号の病変
・所見は急性の脱髄を疑わせるものだった
患者さんの状態は、ステロイドで改善しました。
原著に書かれているのはここまでです。最終的な診断名、改善までの期間、その後の経過は書かれていません。
⑤なぜ「玉ねぎの皮」になるのか
顔の痛覚と温度覚は、三叉神経から脳幹に入り、三叉神経脊髄路核という縦に長い神経核に届きます。原著の模式図では、この核は橋から延髄を通って脊髄の上部まで続いています。
著者らによると、この核の中には上下方向の並びがあります。
口の周りは核の上のほう(吻側)、顔の外側は下のほう(尾側)に対応する、というのが著者らの説明です。
ここからは筆者の補足です。この並びがあるので、核の下のほうが傷つくと、感覚は枝ごとではなく、外側の輪から落ちると考えられます。
この患者さんの病変は、延髄の下部から第2頸髄の高さ。核の下のほうです。顔の外側ほど強く落ち、中心が保たれていたことと、向きが合っています(ここは、原著の説明を筆者がつないだ読みです)。
著者らは、この分節の型のしびれが病変の場所を突き止める助けになる、と結んでいます。
⑥明日の臨床へ
この報告は神経内科の研修医向けで、歯科の話は出てきません。ここからは筆者の読みです。
・しびれの範囲を図に描く。患者さんに指でなぞってもらい、カルテの顔の図に境目を描き込む。言葉の記録だけでは、形は残らない
・枝の領域で説明できるかを見る。オトガイ神経の領域に収まるのか、3つの枝をまたいで輪の形になっているのか
・処置の心当たりがないしびれ、枝に沿わないしびれは、歯科で抱えない。早めに神経内科などへ紹介する
・紹介状には、いつから・どこが・どんな形でを描いた図を付ける。形の情報は、次に診る医師の助けになる
感覚の検査は痛覚と温度覚について書かれていて、触覚がどうだったかは書かれていません。核の中の並び方の説明は、著者らが教科書2冊を引いて述べたもので、この症例で新しく確かめたものではありません。図2も教科書からの転載です。
⑥の臨床への読みは筆者のもので、歯科での紹介の基準をこの報告が示したわけではありません。
それでも、しびれの「形」が病変の場所を教えてくれることを、1枚の写真とMRIで見せてくれる報告です。顔のしびれを前にしたとき、枝の地図だけでなく、輪の地図も頭に置いておきたい。そう思わせてくれる1本です。
今日のひとこと
この症例が教えてくれるのは、顔のしびれは「どこが、どんな形で」落ちているかが、病変の場所の手がかりになるということです。神経の枝に沿わず、口の周りを残して外側ほど強い「玉ねぎの皮」型は、三叉神経脊髄路核の並び方を映した形でした。歯科が持ち帰れるのは、しびれの範囲を図に描いて記録し、枝の領域で説明できない形なら、早めに神経内科などへつなぐという視点です(筆者の読み)。1例の短い報告なので、この形を見たときにどんな病気がどれくらいあるのかは、この報告からは分かりません。


