1問1答 論文 歯周病

フロスは、歯みがきの前か後か

1問1答 論文 歯周病

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「フロスは歯みがきの前ですか、後ですか」——患者さんに聞かれて、はっきり答えられるでしょうか。先にフロスをして食片を出しておくべきだという説明も、まずブラシで大きな汚れを落としてからフロスで隣接面を仕上げるべきだという説明も、どちらももっともらしく聞こえます。2018年のこのクロスオーバー試験は、同じ25人に両方の順番をやってもらい、隣接面のプラークとフッ化物濃度を測って比べました。

論文
The effect of toothbrushing and flossing sequence on interdental plaque reduction and fluoride retention: A randomized controlled clinical trial
著者
Mazhari F, Boskabady M, Moeintaghavi A, Habibi A
掲載
Journal of Periodontology 2018;89(7):824-832
種類
無作為化クロスオーバー臨床試験(ClinicalTrials.gov NCT02971514/イラン・マシュハド医科大学の健康な歯学生25名、20〜25歳・平均23.2±1.22歳、女性23名・男性2名/各フェーズはプロフィー後に48時間すべての口腔清掃を中止してから実施し、2週間のウォッシュアウトを挟んで順番を入れ替え/使用したのは1450ppmフッ化物配合歯磨剤(Na2PO3F)1.5gと薄いワックス付きフッ化物フロス、ブラッシング3分・30mLの水で10秒すすぎ・フロス2分/プラークはRustogi Modified Navy Plaque Index(全顎504部位・隣接面112部位・辺縁168部位)、フッ化物はイオン選択電極で測定/検者盲検・混合モデルで解析)
PMID
29741239

どちらの説明も、もっともらしい

「フロスは歯みがきの前ですか、後ですか」。診療室でよく出る質問ですが、答えは案外そろっていません。

先にフロスをする派の理屈はこうです。隣接面に詰まった食片を先に出しておけば、歯磨剤のフッ化物がそこへ届きやすい。一方、先にブラシをする派はこう言います。まず大きな汚れを落としてから、フロスで隣接面を仕上げるほうが効率的だ

どちらも筋が通っています。だからこそ、実際に測ってみる必要がありました。

先に結論: フロス→ブラッシングの順のほうが、隣接面プラークが有意に多く落ちた(減少量0.61 対 0.39、P=0.009)。隣接面プラーク中のフッ化物の増え方も、フロス先行のほうが大きかった(254.91ppm 対 130.71ppm、P=0.027)。ただし辺縁プラークには差が出なかった(P=0.2)。

同じ人に、両方の順番をやってもらう

この試験の設計上の強みは、クロスオーバーにあります。同じ人が両方の順番を経験するので、歯みがきの上手さや歯並びといった個人差が、比較から差し引かれます。

  • 対象は健康な歯学生25名(20〜25歳、平均23.2±1.22歳。女性23名・男性2名)。齲窩がなく、唾液分泌が正常で、直近4週間に抗菌薬の使用がない人に限定
  • 各フェーズはプロフィー後に48時間すべての口腔清掃を中止してから実施。プラークを一定量ためた状態から始めます
  • 2週間のウォッシュアウトを挟んで、順番を入れ替え。フェーズ1でブラッシング先行だった人は、フェーズ2でフロス先行になります
  • 条件は細かく揃えられています。1450ppmフッ化物配合歯磨剤(Na2PO3F)を1.5g、ブラッシング3分、30mLの水で10秒すすぎ、フロス2分。すすぎの水量まで規定しているのは、フッ化物の残り方に効くからです
  • 使ったフロスは薄いワックス付きのフッ化物配合フロス。フッ化物の残り方を見る研究なので、この点は結果の読み方に効きます
  • プラークはRustogi Modified Navy Plaque Indexで採点。歯面を9領域に分け、全顎504部位・隣接面112部位・辺縁168部位を数えます。フッ化物はイオン選択電極で測定
  • 検者は順番を知らない単盲検。ClinicalTrials.govに登録されています(NCT02971514。ただし実施は2014年5月で、登録は2016年11月の後ろ向き登録)

差が出たのは、隣接面だった

0 0.3 0.5 0.8 RMNPIスコアの減少量 0.35 0.42 0.39 0.61 0.59 0.61 全顎 隣接面 辺縁 25名のクロスオーバー試験。全顎P=0.001・隣接面P=0.009で有意差あり、辺縁はP=0.2で有意差なし(Mazhari 2018 Table 1)
プラークスコアの減少量。全顎と隣接面では有意差があり、辺縁は有意差なし(0.61対0.59、P=0.2)

結果は、部位によってきれいに分かれました。

  • 隣接面プラークの減少量:フロス先行0.61±0.16 対 ブラシ先行0.39±0.19(P=0.009)
  • 全顎プラークの減少量:0.42±0.13 対 0.35±0.11(P=0.001)
  • 辺縁プラークの減少量:0.61±0.17 対 0.59±0.13(P=0.2、有意差なし)

著者らは、辺縁部は隣接面に接しているので順番の影響を受けると想定していた、と書いています。ところが、そうはならなかった。理由については「辺縁部はおおむねブラシで清掃される場所なので、隣接面ほどフロスが効かないのだろう」と推測しています。全顎スコアが動いたのは、隣接面が全顎の一部として計上されているためです。

つまりこの研究が言っているのは、「順番を変えると全体がよくなる」ではなく、「隣接面という特定の場所が変わる」ということです。

フッ化物も、隣接面に多く残った

0 216.7 433.3 650 隣接面プラーク中のフッ化物濃度 (ppm) 296 551 325 446 フロス→ブラッシング ブラッシング→フロス 増加量で見ると254.91ppm 対 130.71ppmで有意差あり(P=0.027)。ばらつきは大きい。なお原著は本文と図で数値がわずかに食い違っており、ここは図の実測値を採った(Mazhari 2018 Fig.5・Table 1)
隣接面プラーク中のフッ化物濃度。増加量で比べると差が有意になる

もう一つの評価項目が、フッ化物です。

隣接面プラーク中のフッ化物濃度の増加量は、フロス先行で254.91±265.98ppm、ブラシ先行で130.71±152.02ppm(P=0.027)。倍近い差がついています。

著者らの説明は2つあります。1つはフロスを先にかけると隣接面の食片やプラークの厚みが減り、後からくる歯磨剤のフッ化物が届きやすくなること。逆にブラシを先にすると、せっかく歯磨剤で覆われたプラークの表層を、後からフロスが削ぎ落としてしまう。

もう1つはすすぎの位置です。フロス先行では、ブラッシングの後にすすぎが来て、その洗い流しがさらにプラークの除去を助ける。ところがブラシ先行では、フロスの後にすすぎを行わないのが普通——著者らは、これが隣接面にプラーク残渣が多く残った理由になりうると述べています。順番そのものではなく「最後にすすぎが来るかどうか」で説明がつく可能性がある、ということです。

プラークは、フッ化物の貯蔵庫として働くことが知られています。フッ化物がプラーク内に留まれば、エナメル質との界面で長く作用します。だからこそ「どこに、どれだけ残るか」が問われるわけです。

ただし数字をよく見ると、標準偏差が平均と同じくらい大きい(254.91±265.98)。個人差がきわめて大きいことは押さえておきたいところです。

明日の臨床へ

  • 迷ったら「フロスが先」と伝えてよい。この試験の範囲では、隣接面のプラークもフッ化物も、フロス先行が有利だった
  • ただし効くのは隣接面だという但し書きを添える。辺縁部には差が出ていない。「順番を変えれば全体がよくなる」という説明にはしない
  • すすぎの量と位置にも触れる価値がある。この試験は30mLで10秒に統一しており、普段よく使われる量のおよそ半分にあたる。大量にすすぐとフッ化物は流れてしまうし、著者らは「最後にすすぎが来るか」自体が効いている可能性も挙げている
  • そもそもフロスを使うかどうかのほうが影響は大きい。順番は、フロスを習慣にしている人への微調整として位置づける
  • 対象は歯学生であることを忘れない。フロスの扱いに慣れた人たちの結果です

ここだけ、冷静に補助線

対象は25名の歯学生で、92%が女性でした。男子学生の多くが参加に同意しなかったため、性差の比較はできていません。著者ら自身が「歯ブラシとフロスの扱いに十分な技能をもつ集団なので、一般の人を含めればより一般化できる」と限界に書いています。また見ているのは48時間ためたプラークを1回除去したときの効果であって、う蝕や歯肉炎の発生といった臨床アウトカムではありません。フッ化物濃度のばらつきも大きく、平均の差ほどには安定していない可能性があります。症例数は隣接面プラークを主要評価項目として算出されているので、辺縁で差が出なかったことは検出力不足による可能性も残ります。またフロス自体がフッ化物配合品である点も、非配合のフロスを使う患者への外挿では考慮が要ります。それでも、同じ人に両方の順番をやってもらい、部位を分けて測ったという設計は明快で、患者説明にそのまま使える形の答えを出しています。

今日のひとこと

フロスが先、ブラシが後。効くのは隣接面という限られた場所ですが、その場所こそ、いちばん取り残しが起きるところです。順番はコストゼロで変えられる——今日から使える助言としては、悪くない部類でしょう。

今日のひとこと

隣接面プラークの減少量は、フロス→ブラッシングで0.61±0.16、ブラッシング→フロスで0.39±0.19となり、フロス先行のほうが有意に大きかった(P=0.009)。全顎プラークでも0.42±0.13対0.35±0.11で有意差があった(P=0.001)。一方辺縁プラークは0.61±0.17対0.59±0.13で、両者に有意差は認められなかった(P=0.2)隣接面プラーク中のフッ化物濃度の増加も、フロス先行で254.91±265.98ppm、ブラッシング先行で130.71±152.02ppmと有意差があった(P=0.027)。著者らは「隣接面プラークを減らし、隣接面プラーク中のフッ化物濃度を高めるためには、フロスの後にブラッシングを行うほうが望ましい」と結論している。

出典:Mazhari F, Boskabady M, Moeintaghavi A, Habibi A. The effect of toothbrushing and flossing sequence on interdental plaque reduction and fluoride retention: A randomized controlled clinical trial. J Periodontol 2018;89(7):824-832. PMID: 29741239
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。