ペリオ|ペリオ論文100選
「慢性歯周炎」「侵襲性歯周炎」という呼び分けが、2018年になくなりました。代わりに来たのが、がんの分類にならったステージとグレードです。ステージは「今どれだけ壊れていて、どれだけ管理が難しいか」、グレードは「これからどれだけ速く進みそうか」。この論文は、その枠組みを提案した2017年ワールドワークショップ(公表は2018年)のケース定義論文です。
①「慢性」と「侵襲性」が、消えた
1999年の分類の中心にあったのが、慢性と侵襲性という呼び分けでした(このほかに壊死性歯周炎と、全身疾患の発現としての歯周炎があります)。若くして急速に進む人は侵襲性、そうでなければ慢性。この区別は、20年近く使われてきました。
ところが2017年のワールドワークショップ(成果の公表は2018年)で、この2つはひとつの「歯周炎」に統合されました。理由は明快です。委託された各レビューの結論として、両者が異なる病態生理をもつという証拠が示せなかった——むしろ複雑なリスク因子の相互作用が、患者ごとの見え方の違いを説明している、という理解に落ち着いたためです。
では、患者ごとの違いをどう表すのか。その答えがステージとグレードでした。
②がんの分類から借りてきた考え方
著者らが参考にしたのは、腫瘍学のステージングです。
がんのステージは「今どれだけ大きく、どこまで広がっているか」を表し、グレードは「顕微鏡で見たときにどれだけ悪性度が高いか=これからどう振る舞いそうか」を表します。現在の姿と、将来の見通しを、別々の軸で書き分ける——この構造を歯周炎に持ち込んだわけです。
診断は3つの次元で組み立てられます。
- ①症例の定義:隣接しない2歯以上で、検出可能な隣接面CAL(臨床的アタッチメントレベル)の喪失があるか。あるいは頬側/舌側でCAL 3mm以上かつプロービング深さ3mm超が2歯以上に認められるか
- ②形の同定:壊死性歯周炎か、全身疾患の発現としての歯周炎か、それとも(従来の慢性・侵襲性をまとめた)歯周炎か
- ③ステージとグレード:その病態を、重症度・複雑さ・進行速度で記述する
③ステージ:今の姿と、管理の難しさ
ステージは重症度と管理の複雑さの2つで決まります。
重症度の主役は最も喪失の大きい部位の隣接部CALです。ポケット深さでも辺縁骨吸収でもなくCALが選ばれたのは、この2つが単独では特異度に乏しいためだと説明されています。
- ステージI(初期):隣接部CAL 1〜2mm、骨吸収は歯冠側1/3(15%未満)、歯周炎による喪失歯なし。最大PD 4mm以下で、主に水平性の骨吸収
- ステージII(中等度):CAL 3〜4mm、骨吸収は歯冠側1/3(15〜33%)、喪失歯なし。最大PD 5mm以下
- ステージIII(重度・さらなる歯の喪失の恐れ):CAL 5mm以上、骨吸収は根の中1/3以上、歯周炎による喪失歯4歯以下。加えてPD 6mm以上・垂直性骨吸収3mm以上・根分岐部病変クラスII〜III・中等度の顎堤欠損のいずれか
- ステージIV(重度・歯列喪失の恐れ):喪失歯5歯以上。咀嚼機能不全、二次性咬合性外傷(動揺度2以上)、重度の顎堤欠損、咬合崩壊・歯の移動やフレアアウト、残存歯20歯未満(対合10ペア未満)など、複雑な補綴的再建を要する状態
そして範囲を記述子として添えます——限局型(罹患歯30%未満)、広汎型、または大臼歯/切歯パターン。
ここで効いてくるのが、複雑さがステージを引き上げるという設計です。CALだけならステージIIでも、クラスIIの根分岐部病変があればステージIIIになる。「どれだけ壊れたか」だけでなく「治すのがどれだけ大変か」を、診断名そのものに含めたのがこの分類の特徴です。
治療後の扱いも明記されています。ステージを引き上げていた複雑さの因子が治療で解消されても、ステージは下がりません。元の複雑さは、メインテナンス期でも常に考慮されるべきものだからです。ただし例外が1つ挙げられています——歯周組織再生が奏功して歯の支持そのものが改善し、その歯のCALとX線的骨レベルが実際に良くなった場合です。
④グレード:これからどう進みそうか
グレードは、進行の速さを表します。判定の主要基準は2つです。
- 直接証拠:過去のX線写真やCALの記録から、5年間の変化を見る。喪失なし=A、2mm未満=B、2mm以上=C
- 間接証拠:直接証拠がなければ、最も進行した歯のX線的骨吸収(歯根長に対する%)を年齢で割る。0.25未満=A、0.25〜1.0=B、1.0超=C
もう一つ、症例フェノタイプという見方も併記されています。バイオフィルムの量に対して破壊が少なければA、見合っていればB、予想以上に破壊が進んでいればC。標準的な細菌コントロール治療への反応が乏しい場合もCの根拠になります。
そのうえで、リスク因子がグレードを修飾します。
- 喫煙:非喫煙=A、1日10本未満=B、1日10本以上=C
- 糖尿病:正常血糖または糖尿病の診断なし=A、糖尿病患者でHbA1c 7.0%未満=B、糖尿病患者で7.0%以上=C
実務的にありがたいのは、著者らが手順まで書いていることです。まずグレードBと想定し、AまたはCへ動かす直接・間接の証拠を探す。過去の資料が揃わない初診でも、この順序なら止まりません。
さらに全身への影響のリスクという行も置かれています。高感度CRPが1mg/L未満=A、1〜3mg/L=B、3mg/L超=C。ただしこの行の灰色は「今後、特定の証拠による裏づけが必要であること」を示すもので、歯周炎の生物学のこの側面に注意を向けるために表へ置かれたと脚注に説明されています。バイオマーカーの欄に至っては、A・B・Cのすべてが「?」のままです。
⑤明日の臨床へ
- 初診時のカルテに、ステージとグレードを書く欄を作る。「広汎型ステージIII グレードB」のように、severity・extent・rate が1行で伝わる
- 過去のX線写真の価値が上がる。5年前の1枚があれば直接証拠でグレードを決められる。無い場合の代替が「骨吸収率÷年齢」だと知っておく
- 喫煙本数とHbA1cを、診断の一部として聞く。この2つはグレードを動かす公式の修飾因子になった
- 治療後もステージは下がらないことを、説明にも記録にも織り込む(例外は、歯周組織再生が奏功してCALと骨レベル自体が改善した場合)
- 紹介状・院内の申し送りで用語を揃える。この分類の狙いの一つは、患者・他職種・第三者との共通言語を作ることでした
⑥ここだけ、冷静に補助線
⑦今日のひとこと
診断名が、治療計画とリスク説明を兼ねるようになった。ステージは今の姿、グレードは行き先。この2つを毎回カルテに書く習慣が、いちばん確実な導入の仕方かもしれません。
今日のひとこと
歯周炎の診断は3つの次元で行う——①隣接しない2歯以上で検出可能な隣接面CALの喪失があるか(あるいは頬舌側でCAL3mm以上かつPD3mm超が2歯以上)で症例を定義し、②壊死性歯周炎・全身疾患の発現としての歯周炎・歯周炎のどの形かを同定し、③ステージとグレードで病態を記述する。ステージI〜IVは、重症度(最も喪失の大きい部位の隣接部CAL、X線的骨吸収、歯周炎による喪失歯数)と管理の複雑さで決まる。グレードA〜Cは進行の速さで、直接証拠(5年間のCAL/骨吸収の変化)が使えなければ、骨吸収率÷年齢という間接証拠で判定する。喫煙と糖尿病はグレードの修飾因子として扱われ、1日10本以上の喫煙、または糖尿病患者でHbA1c 7.0%以上はグレードCへ引き上げる。臨床医はまずグレードBと想定し、AまたはCへ動かす証拠を探すことが推奨されている。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


