ペリオ|⑥Phase4 メインテナンス
O’LearyのPlaque Control Record(PCR)は10%以下を目標にする——そう習った方は多いはずです。ただ、あの10%という数字は、もともと「治療中の指標」として示されたものでした。ではメインテナンス期には、どこまで許容できるのか。1981年、東京医科歯科大学のグループが、リコールで来院した36名を実際に染め出して調べています。
①その「10%以下」は、どこから来た数字か
1972年、O’Learyらは Plaque Control Record を考案し、口腔清掃指導の目標として「利用可能な歯面の10%以下までプラーク付着を減らすこと」を示しました。多くの医院で、いまもこの10%が目標として使われています。
ただ、この論文の著者らはこう指摘します。「この数値は主として治療中の指標として示され、メインテナンス期には、臨床家の独自の判断にゆだねられているのが現状である」。「その上10%以下のプラークコントロールをすべての患者に要求することは現実にやさしいことではない」。
では、メインテナンス期にはどこまで許容できるのか。その最小限の口腔清掃度を、実際の患者で測ったのがこの研究です。
②リコールで来た36名を、その場で染め出す
対象は、東京医科歯科大学歯学部第2歯科保存学教室で歯周治療を行い、治療が終了した、またはメインテナンスに入っていた患者のうち、1981年1月からの2か月間にリコールで来院した36名(男性8名・女性28名)。
- 年齢は22〜57歳、平均42.2歳
- メインテナンス期間は2か月から4年におよび、1年未満が約半数を占めた
- リコール時にレッドコート(バトラー社製)で歯垢を染め出し、O’LearyのPCRを算出
- 同時にGreene & VermillionのOral Hygiene Index、Löe & SilnessのGingival Index、そして各歯頬側のポケット深さを測定
- 染め出し前後の臨床写真を倍率2/3で撮影
- 疾患程度は術前のエックス線像および臨床データを基にRussellのPeriodontal Indexで分類
- 統計処理はt検定とχ²検定
疾患程度の分布は、0〜2が0例、2〜4が5例、4〜6が19例、6〜8が12例。軽症例はおらず、中等度から重度が中心の集団です。実際、36名の初診時のプラーク堆積はPCRで95%から100%がほとんどでした。
③平均は22.3%、それでも歯肉は健康だった
PCRの数値にはかなりの幅がありました。10%以下だったのは36名中5例のみ。分布のピークは10〜20%にあり、平均22.3%、標準偏差12.5でした。
この時点で、O’Learyの10%という目標は、メインテナンス期の実像とはかなり離れていることがわかります。問題は、その22.3%で歯肉がどうなっていたかです。
- Gingival Index:1〜2例で軽度の炎症が見られたが、ほとんどの症例はGI 0.5以下に分布していた
- ポケット深さ:大部分が1mmを中心に分布していた
- 歯石:2〜3例で観察されるのみだった
そして、臨床写真と突き合わせた観察が、この論文の核心です。
- PCR 10%以下:歯肉は健康であることはもとより、歯は光沢をおび、メインテナンスも良好だった
- PCR 10%台・20%台:歯肉には炎症は見られず、ポケットも再発していなかった
- PCR 30%台:歯肉の一部に浮腫がみられた
- PCR 40%台:歯肉辺縁部の一部に炎症が観察された
「リコールした36名の患者の約8割が20%台のプラークコントロールに達しており、これらの患者はいずれも健康な歯周組織であった」。ここから著者らは「メインテナンスに於ける好ましいプラークコントロールの程度として20数%まで許容されるように思われる」と述べています。
興味深いことに、Oral Hygiene IndexとPCRのあいだに統計学的に有意な相関はありませんでした。メインテナンス期間とPCRのあいだにも、有意な相関は見られていません。つまり「長く通っている人ほどプラークコントロールが上手」ではなかったということです。
④残るのは、下顎・左側・近心
この研究のもうひとつの収穫が、部位別の分析です。どこにプラークが残りやすいかを、統計的に比べています。
- 上顎 vs 下顎 → 下顎のほうが残りやすい(P<0.05)
- 左側 vs 右側 → 左側のほうが残りやすい(P<0.01)
- 前歯部 vs 臼歯部 → 有意差なし
- 近心 vs 遠心 → 近心のほうが残りやすい(P<0.001)
- 頬側 vs 舌側 → 有意差なし
- 近遠心部 vs 頬舌側部 → 近遠心部のほうが残りやすい(P<0.001)
著者らはこの傾向を「清掃用具の到達性、患者側の操作性、さらには解剖学的な要因によるもの」と考察しています。右利きの人が多ければ左側が残るのは自然ですし、下顎の舌側や近心面は、ブラシの毛先が届きにくい場所です。
そして、ここから実務的な結論が導かれます。「単なるブラッシングだけで口腔清掃を行うのではなく、歯周治療が終了した患者では歯間部清掃用具の併用が極めて重要であることが示唆される」。
参考として行われた比較も示唆に富みます。学生が治療した患者から無作為に抽出した40名で、治療前と治療直後のPCRを比べたところ、スコアは急激に減少し、治療直後の数値は大部分10%前後に分布していました。「それはメインテナンスの症例のレベルより低かった」——つまり、治療直後がいちばん良く、その後じわじわ戻っていくということです。著者らも「最初に適切なプラークコントロールが達成された患者でも、治療後はそのレベルに達することは非常に難しいようである」と書いています。
⑤明日の臨床へ
第一に、メインテナンス期の目標値を「20%台」に置き直す。10%以下を全員に求めるのは現実的でなく、達成できない目標は患者の意欲を削ぎます。この研究の36名では、20%台までなら歯肉に炎症はなく、ポケットの再発もありませんでした。逆に30%台は要注意ライン、40%台は明らかな炎症のラインです。数字に段階を持たせておくと、患者との会話がしやすくなります。
第二に、残る場所は決まっている。下顎・左側・近心・隣接面。指導のときに全体を均等に話すより、この4つに絞って伝えるほうが効きます。そして歯ブラシだけでは近遠心部に届かない以上、歯間部清掃用具の併用は必須だと著者らは明言しています。
第三に、リコール間隔の決め方を変える。著者らの提案は明快です。「従来、リコールの間隔として3か月ないし6か月が提唱されているが、今回の研究を通じて、リコールの間隔は患者のプラークコントロールレベルに基づいて決定されるのが望ましいと思われる」。暦ではなく、その人のPCRで決める。そのためには、リコールのたびに正確なPCRを記録し続けることが前提になります。
著者らはさらに、リコール時に確かめるべき3点を挙げています。「患者がプラークを除去するのに必要な方法を修得しているか」「患者自身が自分の口の中のプラークを見つけ出すことができるか」「患者が歯肉の健康状態や疾患状態を把握することができるか、患者が治療の責任分担を自覚しているか」。「その中の1つでも欠けていれば、患者教育と動機づけを再度行うべきであろう」。
今日のひとこと
リコール来院時にレッドコートで染め出し、O’LearyのPCR、Greene & VermillionのOral Hygiene Index、Löe & SilnessのGingival Index、そして各歯頬側のポケット深さを記録した。疾患程度はRussellのPeriodontal Indexで分類し、0〜2が0例、2〜4が5例、4〜6が19例、6〜8が12例だった。PCRが10%以下だったのは36名中わずか5例で、分布のピークは10〜20%、平均は22.3%(標準偏差12.5)だった。PCRが10%台・20%台であれば、歯肉に炎症は見られず、ポケットも再発していなかった。30%台になると歯肉の一部に浮腫が現れはじめ、40%台では歯肉辺縁部の一部に炎症が観察された。リコールした36名の約8割が20%台までのプラークコントロールに達しており、いずれも健康な歯周組織だった。プラークが残りやすい部位は、上顎より下顎(P<0.05)、右側より左側(P<0.01)、遠心より近心(P<0.001)、頬舌側部より近遠心部(P<0.001)で、前歯部と臼歯部・頬側と舌側には有意差がなかった。Oral Hygiene IndexとPCRのあいだにも、メインテナンス期間とPCRのあいだにも、統計学的に有意な相関は見られなかった。著者らの結論は「メインテナンスに於ける好ましいプラークコントロールの程度とはPlaque control recordで約20数%までである」。さらに「リコールの間隔は、患者のプラークコントロールレベルに基づいて決定されるのが望ましい」と述べている。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


