1問1答 論文 歯周病

歯ブラシは、濡らさないほうがいいのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

「歯ブラシは濡らさずに磨いてください」——ドライブラッシングという指導があります。歯磨剤の泡や清涼感にごまかされず、バイオフィルムを指で触るように感じ取れる、という理屈です。ではその濡らす・濡らさないの一手間で、落ちるプラークの量は本当に変わるのでしょうか。

論文
Dry brushing: Does it improve plaque removal? A secondary analysis
著者
Van der Sluijs E, Slot DE, Hennequin-Hoenderdos NL, Van der Weijden GA
掲載
International Journal of Dental Hygiene 2018
種類
二次解析(同一被験者の2つの単回ブラッシング試験を突き合わせ)
PMID
30047211

「乾いたまま磨く」は、どこから来たのか

歯ブラシに歯磨剤をつけるのは、ほとんど無意識の習慣です。著者らはその理由を「多くの人が風味と爽快感を好むだけでなく、口の中がきれいになったという主観的な印象も与えるから」と説明します。歯磨剤は歯の表面になめらかな感触も加える

そこに1998年、ドライブラッシングという概念が持ち込まれました。歯磨剤を使わず、水でも濡らさずに磨く。狙いは明快で、歯磨剤の界面活性剤がもたらす表面張力低下によって、歯面がなめらかに感じられてしまうのを避けること。乾いた歯ブラシは、ブラッシング前後の歯面のバイオフィルムの違いを、患者さん自身が感じ取る能力を高めると提唱されました。

実際の指導は具体的です。下顎舌側から磨き始め、すべての歯がきれいだと感じられるまで磨き続ける。そのあと歯磨剤を足して、もう一度全体を磨く多施設の実地観察研究では、6か月のドライブラッシングで歯肉出血の有意な改善が観察されたとも報告されています。

ただし著者らは冷静です。「現時点で、ドライブラッシングが実際に優れた方法であることを示した質の高い研究は存在しない」。そして「乾いた歯ブラシによるプラーク除去は、水で濡らした歯ブラシと比較されたことがない」

先に結論: 濡らしても濡らさなくても、落ちるプラークの量は変わらなかった(57%対58%、p=0.096)。毛の硬さの感じ方も、清掃能力の感じ方も同じだった。

同じ46名を、2回呼んで比べた

この研究の巧みさは設計そのものが借り物である点にあります。研究チームはすでに2つのよく似た単回ブラッシング実験を発表していました。一方は水で濡らした歯ブラシ、もう一方は乾いた歯ブラシを対照介入として使っていた——ならばその対照群のデータどうしを突き合わせればよい、というわけです。

成立の条件は揃っていました。2つの実験は同じ被験者・同じ条件・同じ検者で行われ、どちらもスプリットマウス設計。両方を完了した46名が解析対象になりました。平均22.5歳、27名(59%)が女性、全員が右利き歯周組織は健康(DPSI≤3マイナス)で各象限に5歯以上です。

手順の統制は前作と同じです。48時間すべての口腔清掃を中止し、歯磨剤を使わない新品のOral-B indicator P35 softバス法のブラッシングを1面15秒・1象限30秒・合計2分鏡は使わずプラークは染め出さずにSilness&Löeの改変プラーク指数で評価。検査は一貫して同じ1名の訓練された検者が行っています。

そして2018年2月、アムステルダム医療センターの同じ倫理委員会が、この二次解析のためのデータ再利用を承認——手続きも正面から踏まれています。

結果:どちらでも、同じだけ落ちた

0 33.3% 66.7% 100% プラーク減少率(%) 57% 58% 水で濡らした 乾いたまま 減った量は0.90対0.98で統計学的な有意差なし(p=0.096・n=46)
1回のブラッシングによるプラーク減少率(n=46・p=0.096)

プラーク減少率は、水で濡らした歯ブラシで57%、乾いた歯ブラシで58%減った量は0.90と0.98で、統計学的な有意差はありませんでした(p=0.096)

0 0.7 1.3 2 プラーク指数(Silness&Löe改変) 1.6 1.7 0.8 0.8 ブラッシング前 ブラッシング後 濃い棒=水で濡らした歯ブラシ。前値の差(p=0.054)を共変量にしても差は検出されず(p=0.269)
ブラッシング前後のプラーク指数。前値がわずかに違ったため共分散分析でも確認された

細かく見ると、ブラッシング前の値が濡らした群1.65、乾いた群1.74で、有意差ぎりぎり(p=0.054)でした。この差が結果を歪めた可能性があるため、著者らはブラッシング前の値を共変量にした共分散分析を追加しています。それでもブラッシング後(p=0.269)にも、減少量(p=0.269)にも差は検出されませんでした

主観評価はさらに興味深いところです。「歯ブラシの毛の硬さをどう感じたか」は、濡らした場合4.87、乾いた場合3.21で、統計学的な差なし(p=0.410)「歯がきれいになったと感じるか」も6.04と6.29で差なし(p=0.449)濡らすかどうかは、患者さんの感覚も変えていないのです。

ただし共通していたことが一つあります。「歯磨剤なしで磨くこと」は、濡らしていようが乾いていようが不快と判定された(3.01と3.21、10点満点で5が中立)。48時間磨かないことも、両方の実験で不快な経験と評価されました(2.57と2.59)。

それでも57%は、平均を大きく上回っている

順番の研究(同じ被験者・同じ条件)と同じく、ここでも見逃せない数字が出ています。2分のブラッシングで、プラークが少なくとも57%減った

比較の物差しは2つ挙げられています。1回のブラッシング運動から期待できる平均効果は42%。そしてQuigley-Heinのプラーク指数で評価した場合の平均は30%今回の57〜58%は、そのどちらも大きく上回っています

著者らはその理由を率直に書きます。「本実験の参加者は平均を上回るブラシ使いだった。監督下でのブラッシングが、今回の実験でプラークスコアの減少を改善させた可能性がある。監督は、ブラッシング時間を含む研究手順がプロトコルどおりに行われることを保証するために実施された」

そして結論に続く一文が、この研究のいちばん実務的な部分です。「歯科医療者は、水で濡らすか乾いた歯ブラシかという一つの指示に焦点を当てるのではなく、ブラッシングの持続時間・歯ブラシの種類・系統立て方といった複数の側面に注意を向けるべきである。個別に仕立てられた助言こそが、口腔衛生指導のもっとも重要な部分である」

ここが要点: 濡らす/濡らさないは、指導の枠を使うに値しない。同じ枠を2分という時間・系統立てた順路・その人に合った道具に振り向けたほうが、数字は動く。

明日の臨床へ

1つ目。「濡らさずに磨いて」を、必須の指示から外してよい。 プラーク除去でも、患者さんの感覚でも差は出ませんでした。著者らの言葉どおり「乾いた歯ブラシを使うという推奨は、エビデンスによって支持されない」。指導の項目を1つ減らせます。

2つ目。ただし「感じ取ってもらう」目的なら、否定しなくてよい。 この研究が測ったのは1回のブラッシングでのプラーク除去量と主観評価です。6か月続けたときの歯肉出血への影響は評価していません(先行する観察研究には対照群がありませんでした)。患者さんが気に入って続けているなら、やめさせる根拠もないという位置づけです。

3つ目。歯磨剤を外すことのコストを忘れない。 著者らは明記します。「歯磨剤はもっとも効果的なフッ化物の運び手であり、う蝕予防への貢献は確立している」。加えて口臭・着色・歯石・知覚過敏に対する化学的な作用も持ちます。ドライブラッシングを勧めるなら、そのあとに歯磨剤で磨き直すという原法の手順まで含めて伝える必要があります。

4つ目。「不快だ」という声を軽く見ない。 歯磨剤なしのブラッシングは、乾いていても濡れていても不快と評価されました。1960年の報告では、歯磨剤が使えなければ50%近くの人が歯を磨かないとされています。続かない方法は、どれだけ理屈が通っていても効果ゼロです。

ここだけ、冷静に補助線。 これは2つの試験を後から突き合わせた二次解析で、「乾いた/濡らした」の割り付けそのものはランダム化されていません(各実験の中でのランダム化は行われています)。著者らは「理論上、検者はどちらの介入が行われたか知り得たため、判断に影響した可能性がある」と正直に書きつつ、比較する構想が2つの実験の完了後に生まれたため、影響は小さいと考えられると説明しています。また最大の限界として「歯磨剤なしだと人はずっと長く、より均等に磨くという先行研究の示唆があるが、本実験では時間を1象限30秒に制限し、監督下で誘導したため、その刺激効果を評価できなかった」点が挙げられています。ドライブラッシングの本当の効き目が「時間が伸びること」にあるなら、この設計ではそれが測れない——重要な留保です。対象は歯周組織が健康な若い学生46名で全員右利き、そして研究チームは歯ブラシ・歯磨剤メーカー各社から助言料・講演料・研究助成を受けた経歴を開示しています。とはいえ「よく言われる指導のうち、検証されていないものをもう1つ潰した」という価値は明確で、限られた指導時間の配分を考え直す材料になります。

今日のひとこと

アムステルダムの同じ研究チームが行った2つの単回ブラッシング実験——一方は水で濡らした歯ブラシ、もう一方は乾いた歯ブラシ——を、同一の被験者46名で突き合わせた二次解析。同じ条件・同じ検者で行われているため、比べているのは「濡らすかどうか」だけです。全員が48時間すべての口腔清掃を中止してプラークを溜め、歯磨剤を使わずバス法で、1面15秒・1象限30秒・合計2分のブラッシングを1回だけ行いました。結果、プラーク指数はブラッシング前が濡らした群1.65・乾いた群1.74(p=0.054)後が0.75と0.76(p=0.713)減った量は0.90と0.98で、統計学的な有意差なし(p=0.096)。割合にすると57%対58%です。ブラッシング前の値に差が出かかっていたため共分散分析でも確認されましたが、やはり差は検出されませんでした(p=0.269)。主観評価でも、毛の硬さの感じ方(p=0.410)にも、清掃能力の感じ方(p=0.449)にも差はなし。著者らの結論は「乾いた歯ブラシを使うという推奨は、エビデンスによって支持されない」。一方で2分のブラッシングで57%以上のプラークが減ったという事実は、こちらでも確認されています。

出典:Van der Sluijs E, Slot DE, Hennequin-Hoenderdos NL, Van der Weijden GA. Dry brushing: Does it improve plaque removal? A secondary analysis. Int J Dent Hyg 2018. PMID: 30047211
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。