ペリオ|Phase1 初期治療
根面をなぞって、探針で引っかからなくなったら終わり。私たちはそう習いました。では、その「ツルツル」は、どれだけの歯質と引き換えに手に入れたものなのでしょうか。チューリッヒ大学が、放射性同位体で標識した根面を使い、削り取られたアパタイトをマイクログラム単位で量りました。滑沢さと削除量は、まったく別の物差しでした。
①「ツルツル」は、何と引き換えなのか
SRPの終点は、長らく手指の感覚でした。探針でなぞって引っかからなくなったら終わり。滑沢な根面は、清潔な根面の代理指標として使われてきました。
ここに、ずっと答えの出なかった問いがあります。その滑沢さを手に入れるために、どれだけの歯質を削ったのか。
従来の研究は、プロファイロメトリー曲線の面積から推定したり、SEM画像を指数化して「主観的に」評価したりするしかありませんでした。削除量そのものを客観的に量る標準的な方法が、なかったのです。
チューリッヒ大学のグループは、そこに放射化学を持ち込みました。
②根面を放射化して、削りかすを量る
方法が独特なので、少し丁寧に見ておきます。
ウシ中切歯40本の根面を、150μm・15μm・3μmの順に研磨して条件をそろえます。これをウィーンの原子力研究所へ送り、85分間の中性子照射。ハイドロキシアパタイト中のリン(31P)が放射性の 32P に変換されます。他の同位体も生じますが、2週間待つと 32P の半減期に相当する時点になり、これらは減衰します。
この標識した根面を、蒸留水50mLの中で器具操作します。削り取られた歯質は、そのまま水の中に放射能として溶け出す。液体シンチレーション計数で1分あたりの崩壊数を測れば、μg単位でアパタイト喪失量が求まるという仕組みです。
比べたのは4つ。磁歪式超音波(Cavitron 2000 + Slimline インサート)、試作のソニックスケーラー Periosonic 1(縁上用)とPeriosonic 2(縁下用・細目のファイル)、そして手用キュレット(M23A)。パワー系は約40gという軽い圧で最大出力、キュレットは500gで10ストロークを1セットとして4セット。30秒ごとに区切って120秒まで測定しました。
あわせて、各30秒区間ごとにレプリカを採り、プロファイロメトリーで表面粗さ(Ra)を、SEMで形態を評価しています。
③削除量:7倍の開き
1本の歯を2分間触るだけで、器具によって7倍近い差が出る。SPCで同じ根面を年に4回、10年続けたら——と考えると、この差は無視できません。
④ところが、粗さの順位は逆だった
ここからがこの論文の本題です。もっとも削らなかった磁歪式が、もっとも粗い面を残しました。
SEMで見ると、磁歪式のインサートは30秒の時点ですでに小さなクレーター状の陥凹を作っています。100倍・200倍で見ると、表面はスメア層に部分的に覆われながらも多孔質な外観を呈し、操作時間が長くなるほどクレーターは深くなりました。Ra値は90〜120秒の区間で1.0を超え、手用キュレットとの差が統計学的に有意になっています。
一方、手用キュレットの面は全時点でもっとも滑沢でした。ストローク方向の典型的な擦過傷は見られるものの、Ra値の上昇はどの器具より小さく抑えられています。
この一文は、私たちの臨床感覚をひとつ壊します。「ツルツルだから削っていない」も「ザラザラだから削れている」も、成立しないということです。
⑤では、どちらを目指すのか
著者らの整理はこうです。
まず、この論文の結果からいえば磁歪式超音波(細径インサート)は根面に対して安全で保存的です。削除量が圧倒的に少ない。
次に、超音波の後に手用キュレットで再度なぞれば、より滑沢な面になる——これは1960年代から言われてきたことですが、今回のデータとも整合します。手用キュレットのRa値上昇はどの器具より小さい。
ただし、滑沢さそのものの臨床的価値については、著者らも慎重です。表面が粗いとプラーク形成に影響しうる一方で、清潔で生物学的に受け入れられる根面の指標は「歯周組織の治癒と連続的な反応」であって、粗さの絶対値ではない。日常臨床で、in vitro で測られるようなRaの差をプローブで感知することはできませんし、歯石・セメント質・象牙質を触感で区別することもできません。
⑥明日の臨床へ
この論文を臨床に持ち帰るなら、次の3点になります。
1つめ。SPCの器具選択を、初期治療と分けて考える。 初期治療は歯石とバイオフィルムを取り切ることが最優先で、多少の実質削除は許容範囲です。しかしSPCで年4回・10年触り続ける根面には、削除量の少ない器具を割り当てる。磁歪式の細径インサートが、その候補になります。
2つめ。「ツルツル」を終点にしすぎない。 探針の感触は、削除量を教えてくれません。ルートプレーニングを追い込むほど滑沢にはなりますが、その代償は触感からは読めない。終点は「滑沢さ」ではなく「炎症が消えたか」に置き直す——これは近年のデブライドメント概念の流れとも一致します。
3つめ。軽い側方圧で、掃くように動かす。 著者らは考察で、機械的器具はごく軽い圧で、水平方向に掃くような動きで、振動の向きが根面と平行になるように使うべきだと述べています。ストローク数を決めて標準化するのではなく、当て方そのものを変える。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
120秒の器具操作で削り取られたアパタイト量は、磁歪式超音波(細径インサート)が約783μgでもっとも少なく、手用キュレットは約5302μgと約7倍でした。ところが表面の滑沢さでは手用キュレットがもっとも優秀で、磁歪式は逆にクレーター状の凹凸を残しました。削除量と粗さのあいだに相関はありません。「ツルツルだから削っていない」とも「粗いから削れている」とも言えない、ということです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


