1問1答 論文 歯周病

ツルツルに仕上げるほど、歯を削っているのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

根面をなぞって、探針で引っかからなくなったら終わり。私たちはそう習いました。では、その「ツルツル」は、どれだけの歯質と引き換えに手に入れたものなのでしょうか。チューリッヒ大学が、放射性同位体で標識した根面を使い、削り取られたアパタイトをマイクログラム単位で量りました。滑沢さと削除量は、まったく別の物差しでした。

論文
Tooth substance loss resulting from mechanical, sonic and ultrasonic root instrumentation assessed by liquid scintillation
著者
Schmidlin PR, Beuchat M, Busslinger A, Lehmann B, Lutz F
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2001;28(11):1058-1066
種類
in vitro 研究(ウシ根面40本・液体シンチレーション法)
PMID
11686828

「ツルツル」は、何と引き換えなのか

SRPの終点は、長らく手指の感覚でした。探針でなぞって引っかからなくなったら終わり。滑沢な根面は、清潔な根面の代理指標として使われてきました。

ここに、ずっと答えの出なかった問いがあります。その滑沢さを手に入れるために、どれだけの歯質を削ったのか

従来の研究は、プロファイロメトリー曲線の面積から推定したり、SEM画像を指数化して「主観的に」評価したりするしかありませんでした。削除量そのものを客観的に量る標準的な方法が、なかったのです。

チューリッヒ大学のグループは、そこに放射化学を持ち込みました。

先に結論: 120秒で削り取られたアパタイト量は、磁歪式超音波(細径インサート)が約783μgでもっとも少なく、手用キュレットは約5302μgと約7倍だった。ところが表面の滑沢さでは手用キュレットが最良。削除量と粗さのあいだに相関はなかった

根面を放射化して、削りかすを量る

方法が独特なので、少し丁寧に見ておきます。

ウシ中切歯40本の根面を、150μm・15μm・3μmの順に研磨して条件をそろえます。これをウィーンの原子力研究所へ送り、85分間の中性子照射。ハイドロキシアパタイト中のリン(31P)が放射性の 32P に変換されます。他の同位体も生じますが、2週間待つと 32P の半減期に相当する時点になり、これらは減衰します。

この標識した根面を、蒸留水50mLの中で器具操作します。削り取られた歯質は、そのまま水の中に放射能として溶け出す。液体シンチレーション計数で1分あたりの崩壊数を測れば、μg単位でアパタイト喪失量が求まるという仕組みです。

比べたのは4つ。磁歪式超音波(Cavitron 2000 + Slimline インサート)、試作のソニックスケーラー Periosonic 1(縁上用)Periosonic 2(縁下用・細目のファイル)、そして手用キュレット(M23A)。パワー系は約40gという軽い圧で最大出力、キュレットは500gで10ストロークを1セットとして4セット。30秒ごとに区切って120秒まで測定しました。

あわせて、各30秒区間ごとにレプリカを採り、プロファイロメトリーで表面粗さ(Ra)を、SEMで形態を評価しています。

ひとつ注記: 手用キュレットは、ガラス瓶に埋め込んだ試料に対して臨床的に妥当な角度で当てられなかった(角度0°になってしまう)ため、シンチレーション値をそのまま比較に使えなかった。そこで手用キュレットについては原子吸光分析(AAS)でカルシウムを定量した値が用いられている。以下の数値はその値。

削除量:7倍の開き

120秒後の累積アパタイト喪失量(μg) 0 2000 4000

磁歪式超音波 783

ソニック(縁下用) 3115

ソニック(縁上用) 5039

手用キュレット 5302

磁歪式の喪失量は、すべての測定時点で有意に少なかった(p<0.01)。手用キュレットの値は原子吸光分析による。

30秒時点ですでに差は開いており(磁歪式168μg 対 手用1015μg)、60秒以降はどの器具もほぼ直線的に増えていく。磁歪式超音波の少なさは、すべての時点で統計学的に有意だった。縁上用のソニックチップは手用キュレットとほぼ同じ量を削っている。

1本の歯を2分間触るだけで、器具によって7倍近い差が出る。SPCで同じ根面を年に4回、10年続けたら——と考えると、この差は無視できません。

ところが、粗さの順位は逆だった

ここからがこの論文の本題です。もっとも削らなかった磁歪式が、もっとも粗い面を残しました。

SEMで見ると、磁歪式のインサートは30秒の時点ですでに小さなクレーター状の陥凹を作っています。100倍・200倍で見ると、表面はスメア層に部分的に覆われながらも多孔質な外観を呈し、操作時間が長くなるほどクレーターは深くなりました。Ra値は90〜120秒の区間で1.0を超え、手用キュレットとの差が統計学的に有意になっています。

一方、手用キュレットの面は全時点でもっとも滑沢でした。ストローク方向の典型的な擦過傷は見られるものの、Ra値の上昇はどの器具より小さく抑えられています。

削除量と粗さは、別々に動く

削除量(多い →) 粗い →

削らないのに粗い 磁歪式超音波

削るのに滑沢 手用キュレット

ソニック(縁上用) ソニック(縁下用)

原著Fig.4に基づく概念図。4器具の位置関係を示すもので、軸の目盛は省いてある。

著者らの結論は明確です。「ある器具の歯質削除量は、その器具が作る表面粗さと直接には相関しない。その逆もまた然り」。削除量が多くても滑沢な面を作る器具(キュレット)があり、削除量が少なくても粗い面を作る器具(磁歪式)がある。

この一文は、私たちの臨床感覚をひとつ壊します。「ツルツルだから削っていない」も「ザラザラだから削れている」も、成立しないということです。

では、どちらを目指すのか

著者らの整理はこうです。

まず、この論文の結果からいえば磁歪式超音波(細径インサート)は根面に対して安全で保存的です。削除量が圧倒的に少ない。

次に、超音波の後に手用キュレットで再度なぞれば、より滑沢な面になる——これは1960年代から言われてきたことですが、今回のデータとも整合します。手用キュレットのRa値上昇はどの器具より小さい。

ただし、滑沢さそのものの臨床的価値については、著者らも慎重です。表面が粗いとプラーク形成に影響しうる一方で、清潔で生物学的に受け入れられる根面の指標は「歯周組織の治癒と連続的な反応」であって、粗さの絶対値ではない。日常臨床で、in vitro で測られるようなRaの差をプローブで感知することはできませんし、歯石・セメント質・象牙質を触感で区別することもできません。

著者らの実務的な線引き: 初期の原因除去療法では、丁寧なスケーリング・ルートプレーニングを行う。しかしメインテナンスでは、より保存的なアプローチが推奨される。同じ面を何度も触る局面では、1回あたりの削除量の少なさが効いてくる。

明日の臨床へ

この論文を臨床に持ち帰るなら、次の3点になります。

1つめ。SPCの器具選択を、初期治療と分けて考える。 初期治療は歯石とバイオフィルムを取り切ることが最優先で、多少の実質削除は許容範囲です。しかしSPCで年4回・10年触り続ける根面には、削除量の少ない器具を割り当てる。磁歪式の細径インサートが、その候補になります。

2つめ。「ツルツル」を終点にしすぎない。 探針の感触は、削除量を教えてくれません。ルートプレーニングを追い込むほど滑沢にはなりますが、その代償は触感からは読めない。終点は「滑沢さ」ではなく「炎症が消えたか」に置き直す——これは近年のデブライドメント概念の流れとも一致します。

3つめ。軽い側方圧で、掃くように動かす。 著者らは考察で、機械的器具はごく軽い圧で、水平方向に掃くような動きで、振動の向きが根面と平行になるように使うべきだと述べています。ストローク数を決めて標準化するのではなく、当て方そのものを変える。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: これはウシの研磨した根面を使った in vitro 研究で、歯石も付着物もない平滑面が対象です。実際の臨床では、器具は歯石という硬い障害物を相手にしており、削除量の意味合いは変わります。また手用キュレットは器具角度の制約からシンチレーション法が使えず、別の測定法(原子吸光分析)の値を並べて比較している点は割り引いて読む必要があります。ソニックスケーラー2種は市販前の試作機で、現在の製品と同じではありません。それでも、歯質の削除量をμg単位で客観的に測る方法を確立し、「削除量と粗さは独立の指標である」と実証した意義は大きく、器具の”やさしさ”を語るときに、私たちがどの物差しを見ているのかを自覚させてくれます。

今日のひとこと

120秒の器具操作で削り取られたアパタイト量は、磁歪式超音波(細径インサート)が約783μgでもっとも少なく、手用キュレットは約5302μgと約7倍でした。ところが表面の滑沢さでは手用キュレットがもっとも優秀で、磁歪式は逆にクレーター状の凹凸を残しました。削除量と粗さのあいだに相関はありません。「ツルツルだから削っていない」とも「粗いから削れている」とも言えない、ということです。

出典:Schmidlin PR, Beuchat M, Busslinger A, Lehmann B, Lutz F. Tooth substance loss resulting from mechanical, sonic and ultrasonic root instrumentation assessed by liquid scintillation. J Clin Periodontol 2001;28(11):1058-1066. PMID: 11686828
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。