ペリオ|Phase1 初期治療
咬耗の強い患者さんを前にして、「ブラキシズムですね」で止まっていないでしょうか。摩耗の原因は機械的なものと化学的なものがあり、しかも多くは複合しています。テキサス大学の補綴科が、摩耗の「性状」→「部位」→「症状と問診」という3段階の決定木を示しました。挙上する前に、まず犯人を特定する話です。
①「ブラキシズムですね」で止まっていないか
広範囲にすり減った歯列。咬合高径も落ちていそうな顔貌。補綴で立て直す前に、私たちはひとつ答えを出さなければなりません。なぜ、ここまですり減ったのか。
原因を特定しないまま形態だけ回復すると、同じことがもう一度起こります。それも、今度は高価な補綴物の上で。
ところが実際には、重度の摩耗は多くが多因子性です。テキサス大学の補綴科は、この混沌を整理する順序を示しました。性状 → 部位 → 症状と問診という3段の決定木です。
②用語を、原因で整理し直す
表面の喪失は4つに分けられます。用語は原因で定義されている点が肝心です。
- 咬耗(attrition):咀嚼やパラファンクションによる機械的摩耗。歯どうしが接触する面に限られる。
- 摩耗(abrasion):歯どうしの接触以外の異常な機械的過程による喪失。
- 侵蝕(erosion):細菌が関与しない化学的過程による進行性の喪失。
- アブフラクション(abfraction):歯の撓みに起因するとされる、歯頸部の楔状欠損。理論としては議論が続いており、この総説では扱われていません。
これらは3つの原因カテゴリー——機械的(咬耗+摩耗)、化学的(侵蝕)、そして提案されている生体力学的——にまとまります。
そして重要な前提がひとつ。部位だけでは原因は特定できません。多くの報告が、表面喪失の原因が多因子性であることを確認しています。部位は、性状で当たりをつけたあとに使う第2の手がかりです。
③第1段:性状で見分ける
④第2段:機械的なら、部位でパターンを読む
機械的だと決まったら、次はどこがすり減っているかです。4つのパターンが挙げられています。
パターン1|前歯の摩耗が臼歯より強い。 臼歯部の支持が不十分・不安定なことが原因として挙げられます。臼歯の喪失は外傷性の前方咬合を生む主要因と報告されており、臼歯部の早期接触も前歯の機能量を増やします。
パターン2|後方から前方へ、進むほど摩耗が強くなる。 慢性のブラキシズムに典型的な像です。確定診断は模型を手で咬合させ、ファセットが一致するかを見ること。あわせて舌側縁の圧痕・頬粘膜の咬傷・ポーセレン修復物の破折が支持所見になります。エナメル質が穿孔すると、咬合面にカッピングが生じることもあります(この時点では化学的な像と混同しやすい)。
パターン3|犬歯・小臼歯の唇頬側面がすり減る。 過度のブラッシングによる摩耗です。解剖学的な細部が失われ、「サンドブラストをかけたような」外観を呈します。診断は簡単で、患者さんに実際に磨いてみせてもらう。摩耗の部位とブラッシングの動きが一致すれば確定です。喪失量は、技術・時間・歯ブラシの硬さ・歯磨剤の研磨性に左右されます。
パターン4|部位がばらばらで、咬合面と切縁が中心。 異物によるパラファンクションを疑います。報告されているものは、パイプの吸い口、ピン、針、ヘアピン、クリップ、ひまわりの種、缶飲料。職業上の要請・習癖・ストレスが背景にあります。
⑤第2段:化学的なら、酸の出どころを探す
侵蝕は近年その重要性が増しています。摩耗の評価のために紹介された100名の患者を調べた研究では、89%で侵蝕が関与因子と判定されました。英国の1993年の小児歯科健康調査では、5歳児の52%に明らかな侵蝕の所見が見られています。
ここでも部位がパターンを分けます。
前歯の喪失が臼歯より強いとき——上顎前歯の口蓋側が主役なら、まず慢性の嘔吐・胃食道逆流を疑います。胃内容物の平均pHは3.8。後方から前方へ進むほど侵蝕が強くなり、口蓋側面は非常に平滑になります。上顎大臼歯・小臼歯の舌側にシャンファー状の欠損が出ることもあります。下顎歯は舌と頬粘膜に守られて、影響が最小——この左右差ならぬ上下差が、決定的な手がかりです。
GERDは、げっぷ・口中の酸味・起床時の胃痛・胸やけ・知覚過敏で示唆されますが、自覚症状がまったくない患者も多く、確定には24時間pHモニタリングが要ることもあります。
アルコール依存も見逃せません。胃炎に伴う慢性の嘔吐・逆流を生み、西欧諸国では男性の10%にのぼるとも推定されています。慢性アルコール依存で入院した37名を調べた報告では、92%に化学的侵蝕が認められました。しかも、まとめ飲みをする人より日常的に飲む人のほうが重症でした。
一方、柑橘類をしゃぶる習慣は、上顎前歯の唇側面に侵蝕を作ります。臼歯はほぼ無傷のまま、前歯から臼歯への明瞭な移行が観察されます。
臼歯の喪失が前歯より強いときは、食事由来を考えます。106名を調べた研究では、柑橘類を1日2回超、またはソフトドリンクを1日1回以上摂る人で有意にリスクが上がりました。18種の酸性飲料を調べた研究では、エナメル質の侵蝕はpHの低下とともに対数的に増加します。ただし炭酸ミネラルウォーターは注いだ時点でpHが0.5近く上昇し、侵蝕作用はごく小さいとされました。
そして特徴的なのが、炭酸飲料を口に含んで転がす習慣。この場合、喪失が最大になるのは下顎第一大臼歯と第二小臼歯の領域です。頬粘膜と舌縁が液の広がりを制限するためで、部位そのものが習癖を語ります。
⑥明日の臨床へ
この総説を1枚の手順に畳むと、こうなります。
そして、忘れてはならない第4の可能性があります。遺伝性の形成異常です。エナメル質形成不全症はエナメル質を薄く脆くし、化学的侵蝕と機械的摩耗の両方に対する抵抗性を落とします。象牙質形成不全症はエナメル象牙境の結合が弱く、早期の咬耗と急速な摩耗、う蝕感受性の亢進を招きます。若年で不釣り合いに強い摩耗を見たら、この線も考える。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
摩耗の原因究明は、①機械的か化学的かを性状で見分ける → ②どこがすり減っているかを見る → ③随伴症状と問診で habits を詰める、という順で進みます。機械的摩耗はファセットの稜線が鋭く、修復物が歯質と同じ速度で摩耗し、無症状。化学的侵蝕は辺縁が丸いカッピングで、対合歯とは適合せず、修復物が島のように浮き上がり、しみやすい。この見分けが最初の分岐点です。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


