1問1答 論文 歯周病

非外科のポケットにエムドゲイン、意味はあるのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

エムドゲインは歯周外科で骨欠損に使うもの——そう思ってきました。では、外科をせずSRPをした直後のポケットに入れたら、何が起きるのか。ヨーテボリ大学のWennströmとLindheが、28人の左右の顎で比べました。答えは「治りが速くなる。ただし追いつかれる」でした。速さそのものに価値があるかどうか、という話になります。

論文
Some effects of enamel matrix proteins on wound healing in the dento-gingival region
著者
Wennström JL, Lindhe J
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2002;29(1):9-14
種類
二重盲検・スプリットマウス・プラセボ対照試験(28人・3週間)
PMID
11846843

エムドゲインは、外科のためだけのものか

エナメルマトリックスデリバティブ(EMD・エムドゲイン)といえば、骨内欠損に対する歯周組織再生療法です。フラップを開け、根面を露出させ、EDTAで処理して塗る。そういう文脈で私たちは覚えました。

ところがEMDの働きは、セメント芽細胞や歯根膜細胞にだけ及ぶわけではありません。歯肉線維芽細胞にも作用し、増殖と遊走を促すという in vitro のデータが積み上がっていました。つまりEMDは、硬組織の再生だけでなく、軟組織の創傷治癒にも関与しうる

そこでWennströmとLindheは、こう考えました。SRPそのものが、歯肉に作られる創傷である。ならば、その創面にEMDを塗ったらどうなるか。

先に結論: 1週目、炎症所見の消えた部位は16% 対 2%、出血しない部位は57% 対 35%とEMD群が明確に上回った。だがこの差は3週目には消える(40%対36%、75%対74%)。ポケットの閉鎖率も3週目には両群61%で同じ。得られたのは上乗せではなく治癒の前倒しだった。

同じ人の左右で比べる

この研究の設計は非常にきれいです。スプリットマウス——同じ患者の左右の顎で、片側にEMD、反対側にプラセボ(担体のみ)を使います。患者側の要因がすべて相殺されるので、少人数でも差が見えます。

対象は中等度に進行した慢性歯周炎の28名。組み入れ条件が厳密で、左右対称の2つの象限それぞれに、PPD 5mm以上かつBOP陽性の部位が3つ。うち少なくとも1対はPPD 6mm以上、しかも2象限のPPD合計の差が1mm以内。左右の条件をここまで揃えています。実験歯は生活歯か、無症状で技術的問題のない失活歯に限定されました。

処置はこうです。まず口腔衛生指導と1週間のセルフケアを行い、そのうえでベースライン検査。局所麻酔下に徹底したSRPを行い、さらにポケットの軟組織壁を掻爬してポケット上皮と隣接する肉芽組織を除去します。生理食塩水で洗浄し、出血が止まったところで24%EDTAゲルを2分間作用させ、再度洗浄します。

ここで初めて封筒を開け、左右どちらにEMDを入れるかが決まります。術後は初日のブラッシングを避け、1週間0.12%クロルヘキシジンで1日2回洗口。

評価は1・2・3週。主要評価項目は4つ——①ポケット閉鎖(PPD 4mm以下)、②BOP陰性、③歯肉炎指数0、④術後不快感が軽い(VAS 20以下)。全28名が完走し、168部位が解析されました。

1週目、差ははっきり出た

治療成功の到達率(%):差は1週目に最大、3週目で消える

炎症所見の消失(GI=0) 50 0 16 2 1週 p=0.001

25 12 2週 p=0.028

40 36 3週 n.s.

出血の消失(BOP陰性) 100 0 57 35 1週 p=0.003

73 59 2週 p=0.051

75 74 3週 n.s.

エムドゲイン プラセボ(担体のみ) 左右のグラフで縦軸の目盛は異なる(左=50%まで、右=100%まで)。28名・168部位のスプリットマウス比較。 3週時点の歯肉炎指数の合計値も 2.6 対 3.0 とエムドゲイン群が低かった(p=0.011)。

EMD群は炎症の消退・出血の消失という2つの治癒指標で、対照より1週早く同じ地点に到達した。著者らの言葉を借りれば「EMD群の値は、対照群より1週早くこれらの終点に達した」。

ところが、ポケットの深さは変わらなかった

4つ目の評価項目、ポケット閉鎖(PPD 4mm以下)を見ると景色が変わります。

1週目23%対20%、2週目49%対43%、3週目61%対61%どの時点でも群間差はありませんでした。PPDの平均値も、対照群が5.9→4.4mm、EMD群が5.9→4.3mmと、ほぼ同じ動きです。

つまりEMDは、炎症の消退という「軟組織の反応」を速めた一方、ポケットの深さという「治療の成果」には差を生まなかったということです。

もうひとつ、患者側の指標。術後の不快感がVAS 20以下(=ごく軽い)だった患者の割合は、1週目でEMD側の顎が54%、対照側が31%と有意差がつきました(p=0.002)。3週目には65%対54%で差は消えます。

なお、根面知覚過敏は両群とも増えました。対照群は18%→37%、EMD群は19%→35%(いずれも1週時点)。3週時点では変化していません。EMDは知覚過敏を防がない——これは説明しておくべき点です。

なぜ、早くなったのか

機序はまだ確定していませんが、著者らは3つの手がかりを挙げています。

1つめ。EMDは器具操作した根面に1〜2週とどまる。 Gestreliusらの報告によれば、器具操作しEDTA処理した根面に塗布されたEMDは、1〜2週間を超えない期間その場に留まるとされます。この期間は、まさに歯肉の治癒で重要な出来事が起こる時期と重なります。

2つめ。歯肉線維芽細胞への作用。 EMDはヒト歯肉線維芽細胞にTGF-β1の放出を促し、粘膜の早期治癒に関わると考えられています。また in vitro の創傷治癒実験では、EMDが歯肉線維芽細胞を刺激し遊走速度を高めることが報告されました。

3つめ。上皮ではなく結合組織の側。 興味深いことに、上皮細胞の増殖はEMDで促進されませんでした。歯肉の治癒には新生上皮による裏装の形成と、炎症性病変の消退・結合組織の修復という2つの側面がありますが、EMDが効いたのは後者だった可能性が高いと著者らは考えています。

明日の臨床へ

この結果をどう受け取るか。整理すると3点です。

1つめ。最終結果を上乗せする道具ではない。 3週時点でポケット閉鎖率も炎症消退率も出血消失率も、両群で同じでした。「非外科にEMDを足せば治療成績が上がる」とは、この研究からは言えません

2つめ。それでも「1週早い」には価値がある場面がある。 再評価までの期間が短い場合、外科の直前に炎症を落としたい場合、患者が短期間で結果を見たい場合。そして何より、術後1週の不快感が軽いことは、治療への協力度に直結します。

3つめ。この研究の処置は、通常のSRPより侵襲的である。 ポケットの軟組織壁を掻爬してポケット上皮と肉芽組織を意図的に除去し、さらにEDTAで根面処理をしています。日常の非外科治療とは前提が違うことは押さえておく必要があります。著者ら自身、これは「EMDの臨床的有用性を評価する研究ではなく、軟組織の創傷治癒を観察するためのモデル実験」だと明言しています。

患者に伝えるなら: 「治りが1週間ほど早くなります。ただし1か月後の結果は変わりません」。そして知覚過敏は防げない(この研究では両群とも1週目に約2倍に増えた)ことも、あわせて伝えておきたい。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: 観察期間はわずか3週間で、長期のアタッチメントレベルや再発は一切見ていません。対象は28名・168部位と規模も限られます。またこれはモデル実験であり、ポケット上皮と肉芽組織を掻爬するという、通常の非外科治療では行わない処置を前提にしています。術後1週間のクロルヘキシジン洗口も、日常臨床の標準ではありません。したがって「非外科治療にEMDを足すべきか」という臨床判断に、この論文だけで答えを出すことはできません。ただ、EMDが硬組織の再生だけでなく軟組織の早期治癒にも関与することを、スプリットマウス・二重盲検という強い設計で示した点は明快で、EMDという材料の理解を一段広げてくれます。

今日のひとこと

SRPと軟組織掻爬を行ったポケットにエムドゲインを塗ると、1週目に炎症のない部位が16%対2%、出血しない部位が57%対35%と、対照を明確に上回りました。ところがこの差は3週目には消えます(40%対36%、75%対74%)。ポケットが4mm以下に閉じた割合も、3週目には両群とも61%で同じ。得られたのは最終結果の上乗せではなく、治癒の前倒しです。ただし術後の不快感は1週目で有意に軽く、そこには患者にとっての価値があります。

出典:Wennström JL, Lindhe J. Some effects of enamel matrix proteins on wound healing in the dento-gingival region. J Clin Periodontol 2002;29(1):9-14. PMID: 11846843
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。