1問1答 論文 歯周病

超音波の注水を替えるだけで、結果は変わるのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

非外科治療の限界は、深いポケットに器具が届き切らないことにあります。ならば器具と一緒に薬を届ければいい——そう考えて、超音波スケーラーの注水を水からポビドンヨードに替えた研究があります。223人を13年間追いかけたスウェーデンの大規模試験です。差は、12か月時点よりもむしろ、その後の12年に出ました。

論文
The use of PVP-iodine as an adjunct to non-surgical treatment of chronic periodontitis
著者
Rosling B, Hellström MK, Ramberg P, Socransky SS, Lindhe J
掲載
Journal of Clinical Periodontology 2001;28(11):1023-1031
種類
臨床比較試験(223人・13年追跡)
PMID
11686823

器具が届かないなら、薬を届ければいい

非外科治療の限界は、みな同じところにあります。深いポケットの底や根分岐部に、器具が届き切らない。徹底的にSRPをしても、残存する沈着物は浅い部位より深い部位に多いことが、繰り返し示されてきました。

だから私たちは、局所抗菌薬や消毒薬を足すことを考えます。ミノサイクリン、テトラサイクリン、メトロニダゾール、クロルヘキシジン——。

ヨーテボリ大学のRoslingらが選んだのは、もっと素朴な方法でした。超音波スケーラーの冷却水そのものを、薬液に替える。器具を当てるあいだ、1回あたり約950mLのポビドンヨード溶液がポケットの中を流れ続ける、という発想です。

先に結論: 0.1%ポビドンヨードを注水に使うと、12か月時点のアタッチメント獲得は全体で+0.4mm 対 +0.1mm、初期6mm以上の深部では+1.6mm 対 +1.1mmと有意に上回った。そして13年後の累積アタッチメント喪失は0.28mm 対 0.87mm、失った歯は1.3本 対 2.4本だった。

223人・13年という規模

集めたのは、進行した破壊性歯周炎の患者223名。組み入れの条件は厳しく、①非大臼歯が8歯以上、②各歯列象限に、PPD 6mm以上の歯が2歯以上、③その同じ歯で放射線学的骨吸収が40%超。平均年齢44歳、ベースラインのPPDは3.9mm(テスト群)と3.7mm(対照群)、骨頂はCEJから6.5〜6.7mm下がっていました。

3人に2人を対照群、1人をテスト群へ振り分けます(テスト群75名・対照群148名でスタート)。

治療は両群とも同じで、局所麻酔下に超音波スケーラー(Odontoson・42,000Hz)で行う非外科治療。1回50〜60分を4〜6セッション、間隔は1週間以内。違うのは冷却液だけです。テスト群は0.1%ポビドンヨード、対照群は水道水

ここが実務的に重要な点ですが、この方法では薬液はポケットの中だけでなく口腔全体を1時間洗い流し続けることになります。著者らは後に、これが唾液・粘膜・舌・扁桃といった口腔内の他の貯留部位の菌数も減らし、治療済み部位への再定着を遅らせたのではないかと考察しています。

その後は3〜4か月ごとのSPTを12年間。再評価は3・6・12か月(=ベースラインII)、さらに3年・5年・13年。SPT中も、BOP陽性かつPPD 5mm以上の部位には初期治療と同じ処置を行いました。

基本治療の12か月で、差がついた

まず両群に共通する成果から。プラーク付着は30%から3か月で4〜8%へ、BOP陽性部位は約70%から20〜25%へ、いずれも著明に改善し、その後も低値で維持されました。非外科治療そのものが効いている、という前提はきちんと成立しています。

そのうえで、群間差です。

12か月時点のアタッチメント獲得量(mm・ベースラインIから) 1.8 0.9 0

+0.4 +0.1 全部位の平均 p<0.001

+0.5 +0.3 初期 4〜5mm n.s.

+1.6 +1.1 初期 6mm以上 p<0.001

ポビドンヨード群(58名) 水道水群(92名)

差は深い部位ほど大きい。浅い部位(3mm以下)ではむしろ両群ともわずかにアタッチメントを失っており(−0.2mm / −0.3mm)、群間差はなかった。PPDも12か月時点で2.7mm 対 2.9mm と有意にテスト群が浅く(p<0.01)、7mm以上の部位の割合も2% 対 5%(p<0.01)だった。

3か月時点のPPDは、テスト群が3.9→2.8mm、対照群が3.7→2.9mm。どちらも有意に改善しましたが、減少幅はテスト群でより大きいという結果でした(p<0.05)。

本当の差は、その後の12年に出た

この研究の値打ちは、ここから先の追跡にあります。

SPTに入って1〜3年の間に、年間2mm以上のアタッチメント喪失が4歯以上で起きた人——著者らが「loser」と呼ぶ、進行が止まらなかった患者——が出ます。その数は、対照群25.2%に対しテスト群13.4%。統計学的にはぎりぎり届かない差でした(p=0.057)が、実数では対照群31名に対しテスト群9名。約半分です。

13年後、差はここまで開いた

累積アタッチメント喪失(mm) 0.28 ヨード群 0.87 水道水群 p<0.001

12年間に失った歯(本) 1.3 ヨード群 2.4 水道水群 p<0.05

最終評価時の平均PPDは 2.9mm 対 3.3mm(p<0.01)。6mm以上の深いポケットの割合は、対照群でベースラインIIの5%から8%へ増加した。 SPT中の年間アタッチメント喪失は 0.06mm 対 0.08mm。1年ごとの差はごく小さいが、12年で積み上がった。

13年間(ベースラインIから最終評価まで)の累積アタッチメント喪失は、テスト群0.28mmに対し対照群0.87mm(p<0.001)。12年のSPT期間中に失われた歯はテスト群1.3本、対照群2.4本(p<0.05)。

年あたりで見れば0.06mmと0.08mm。1年では誤差にしか見えない差です。それが12年積み上がると、3倍の開きになりました。

なぜ効いたと考えられているか

著者らの説明は2段構えです。

1つめ。ポケット内の細菌を直接叩いた。 0.1%という濃度は、先行研究で A. actinomycetemcomitansP. gingivalisP. intermedia といった歯周病原菌に対し、5分の曝露で殺菌効果を示した濃度に基づいて選ばれています。ポビドンヨードはヨウ素をゆっくり放出するため、非毒性の濃度で殺菌レベルを保てるのが利点です。加えて、細菌が耐性を獲得しない・知覚過敏を起こさないという性質も、長期の反復使用に向いています。

2つめ。口腔全体の菌数を下げた。 1回のセッションで950mLが流れる以上、洗われるのはポケットだけではありません。唾液・粘膜・舌・扁桃といった治療対象外の貯留部位からの再定着(トランスロケーション)を抑えたことが、長期の差につながったのではないか——これはQuirynenらの「ワンステージ・フルマウス消毒」の考え方と重なります。

明日の臨床へ

この方法の魅力は、追加のコストと手間がほとんどないことです。局所徐放性抗菌薬のように部位ごとに製剤を買う必要がなく、注水タンクの中身を替えるだけ。著者ら自身が「費用対効果の高い手段になりうる」と書いています。

使いどころもはっきりしています。差が出たのは初期6mm以上の深い部位だけで、3mm以下の浅い部位では両群とも差がありませんでした。つまり、器具が届きにくいと分かっている症例——重度・広汎型・再SRPを繰り返している患者——にこそ検討する価値があります。

実施前に必ず確認すること: ヨードはヨードアレルギー甲状腺疾患の患者には使えない。妊娠中・授乳中も原則避ける。長時間の口腔内洗浄になるため、問診でこの3点を確認してから適応を判断する。また本邦の保険診療の枠組みや、使用する超音波装置が薬液の通水に対応しているか(金属腐食・流路の管理)も、導入前に確認が要る。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの注意: 割り付けは3人に1人がテスト群という2対1の層別割付で、ランダム化の詳細や盲検化の記載は限定的です。また223名で始まりながら、最終解析はテスト群58名・対照群92名。脱落者73名のうち、進行が止まらず離脱した「loser」は対照群に31名、テスト群に9名と群間で偏っています。悪化した人が抜けた集団どうしを比べているため、残った人の差は実際より控えめに見えている可能性も、逆に選択の影響を受けている可能性も、どちらもあります。結果は前向きに読める内容ですが、13年という追跡の長さが最大の価値であり、単一施設・単一の薬液濃度の知見であることは押さえておきたいところです。

今日のひとこと

超音波の冷却水を0.1%ポビドンヨードに替えるだけで、12か月時点のアタッチメント獲得は全体で+0.4mm対+0.1mm、初期6mm以上の深いポケットでは+1.6mm対+1.1mmと、有意に上回りました。さらに13年間の累積アタッチメント喪失は0.28mm対0.87mm、失った歯は1.3本対2.4本。器具が届かない場所へ薬液を届けるという発想は、深いポケットほど報われます。

出典:Rosling B, Hellström MK, Ramberg P, Socransky SS, Lindhe J. The use of PVP-iodine as an adjunct to non-surgical treatment of chronic periodontitis. J Clin Periodontol 2001;28(11):1023-1031. PMID: 11686823
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。