ペリオ|Phase2 歯周外科
上皮下結合組織移植(SCTG)を歯冠側移動弁と併用するとき、弁は部分層で起こすのが定石でした。移植片への血流を確保するためです。ただし部分層弁には、穿孔や薄くなりすぎるリスクがつきまといます。2011年、Mazzoccoらは20名52歯で、全層弁と部分層弁を正面から比べました。結果は、術式選択の幅を広げるものでした。
①「部分層で起こす」は、なぜ定石だったか
上皮下結合組織移植(SCTG)は、1985年にLangerとLangerが根面被覆へ応用して以来、信頼性と汎用性の高い術式として定着しました。移植片を弁と骨膜床の両方から栄養する「二層性の血管環境」——これが成功の鍵とされています。
そのオリジナル術式では、受容側を部分層弁で挙上し、骨膜床の上に移植片を置いて骨膜縫合で固定します。部分層にすることで、弁の内面からの再血管化を促すという考え方です。
ただし部分層弁には難しさがあります。薄い歯周組織バイオタイプの患者では、部分層弁の作製そのものが困難。剥離の途中で穿孔したり、弁を薄くしすぎたりするリスクがあります。そして弁の厚みが1mmを下回ると、CAFでの根面被覆率が下がるという報告もあります。移植片を守るために薄い弁を作り、その薄さが結果を損なう——ここに矛盾がありました。
一方で骨も血管に富む面であり、露出骨の上に置いた遊離歯肉移植片も、骨膜上に置いたものと同等の長期生存率を示したという報告があります。全層弁でも、移植片は生きられるのではないか。
②20名52歯を、2つの起こし方で
対象はパドヴァ大学歯学部を受診した20名(男性9・女性11、21〜57歳)の52歯。Miller I級またはII級の退縮で、深さは4mm以下、CEJが判別でき、歯頸部のエロージョン・歯周炎・咬合性外傷・喫煙習慣がないことが条件です。
術前に口腔衛生指導・超音波スケーリング・研磨を行い、視覚的プラーク指数20%未満を達成してから手術に入ります。
手術はいずれも縦切開を加えず、歯肉溝内切開のみ。乳頭部の頬側上皮を除去して、弁を戻したときの創面から十分な血液供給が得られるようにします。根面は手用キュレットで滑沢に整えます。
対照群は部分層弁——鋭利な剥離で挙上し、張力なく歯冠側へ動かせるところまで伸ばします。テスト群は全層弁——骨膜起子で鈍的に剥離し、歯肉粘膜境を越えて挙上、最も根尖側の部分だけ鋭利に剥離してCEJまで受動的に動かせるようにします。
ランダム化は手術の直前。口蓋からシングルインシジョン法で採取した移植片を露出根面に完全に被せ、吸収性の連続縫合で固定。弁はCEJよりわずかに歯冠側へ置いて連続縫合します。歯周パックは使用しません。
計測は切縁を基準点にして、訓練を受けた1名の検者がキャリパーで実施。評価は6か月後です。
③被覆率も角化歯肉も、ほぼ並んだ
平均根面被覆率は、全層弁97%・部分層弁95%(P=0.67)。全体では96%です。
完全根面被覆が得られたのは、全層弁で25歯中20歯(80%)、部分層弁で27歯中17歯(62.9%)。数字としては全層弁が上回っていますが、統計学的な検定は行われていません。
歯肉退縮は、全層弁で2.36mmから0.10mmへ(減少2.27±1.15mm)、部分層弁で1.77mmから0.09mmへ(減少1.68±0.74mm)。どちらもベースラインから有意に改善(P<0.05)していますが、群間の差は0.58mm・P=0.07で有意ではありません。減少量の差は、ベースラインの退縮が全層弁側で深かったことを反映しています。
角化歯肉幅は、全層弁で3.05mmから3.51mm(増加0.46±1.47mm)、部分層弁で2.40mmから2.90mm(増加0.49±1.37mm)。群間差はわずか0.03mm(P=0.91)でした。
ポケット深さは、全層弁1.33→1.55mm、部分層弁1.32→1.64mm。どちらもごく浅い範囲にとどまり、群間差はありません。術後の治癒経過はすべての患者で順調で、脱落者もいません。
④なぜ全層弁でも生着したのか
著者らの説明は明快です。弁の内面からの血液供給と、骨からの血液供給を合わせれば、移植片の生存には十分だった。
骨は血管に富む面です。露出した骨の上に直接置かれた遊離歯肉移植片が、骨膜上に置いたものと同等の長期生存率を示した——先行研究が示していたことが、ここでも成り立ちました。
そして手技上の利点があります。全層弁は部分層弁よりも術者の技量に左右されにくい(less sensitive technique)。術中の穿孔や、弁が薄くなりすぎて周囲組織が壊死するリスクを減らせます。
角化歯肉の増加についても、先行研究と一致しています。移植片を弁で完全に覆った場合の増加量は0.9mm、部分的に露出させた場合は1.5mmという報告や、全層弁+SCTGで上皮性のカラーを露出させたまま残すと1.1mm増えるという報告があります。この研究では移植片を完全に被覆しているため、増加が0.5mm前後にとどまったのは筋の通った結果です。
⑤明日の臨床へ
1つ目。薄いバイオタイプでは、全層弁を選択肢に入れる。 部分層弁の作製が難しい症例こそ、この結果の使いどころです。穿孔のリスクを負って薄い弁を作るより、全層で確実に起こすほうが安全な場面があります。
2つ目。縦切開なしで足りる。 この研究は全例で縦切開を加えていません。それでもCEJへ受動的に到達し、96%の被覆率を得ています。乳頭部の脱上皮で創面からの血流を確保する——ここが効いています。
3つ目。角化歯肉を増やしたいなら、移植片の扱いを変える。 弁で完全に覆えば増加は0.5mm前後。もっと増やしたいなら、移植片の一部を露出させたまま治癒させる方法があると先行研究は示しています。目的によって被覆の仕方を変えるという発想です。
4つ目。患者さんへの数字が持てる。 Miller I級・II級で4mm以下の退縮なら、平均96%の被覆、完全被覆は6〜8割。現実的で、かつ十分に前向きな説明ができます。
今日のひとこと
Miller I級・II級で4mm以下の歯肉退縮を持つ非喫煙者20名(52歯)を、CAF+SCTGを全層弁で行う群(25歯)と部分層弁で行う群(27歯)にランダムに割り付け、6か月後の成績を比べた研究。縦切開は加えず、乳頭部の頬側上皮を除去して弁の血流を確保する術式です。平均根面被覆率は全層弁97%・部分層弁95%(P=0.67)。完全根面被覆が得られたのは全層弁で25歯中20歯(80%)、部分層弁で27歯中17歯(62.9%)。角化歯肉幅の増加は0.46mmと0.49mmで、群間差は0.03mm(P=0.91)——どのパラメータでも統計学的な差はありませんでした。歯肉退縮の減少は全層弁2.27mm・部分層弁1.68mmですが、ベースラインの退縮量が全層弁側で大きかった(2.36mm対1.77mm)ことを踏まえて読む必要があります(被覆率の群間差は0.58mm・P=0.07で有意ではありません)。結論は「全層弁での挙上は、部分層弁と同等に有効であり、角化歯肉の獲得量も根面被覆率も損なわない」。弁の内面と骨からの血液供給だけで、移植片の生着には十分だったという読み方になります。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


