ペリオ / 診断・予後評価 ・ Hou & Tsai 1997
Nabersプローブが分岐部にスッと入った。「class IIですね」——カルテにはそう書く。でも、その歯はもともと何ミリで分岐部が始まる歯だったのでしょうか。同じ「分岐部に届いた」でも、CEJから3mmで届く歯と、6mmでようやく届く歯では、失われた骨の量がまるで違います。抜去大臼歯366本を電子ノギスで実測し、ルートトランクを3つの型に分けた台湾からの報告。分岐部病変の診断に「縦の物差し」を足す研究です。
分岐部にプローブが入った。でも、その歯は「何ミリで届く歯」だったのか
Nabersプローブが分岐部にスッと入る。「class II」とカルテに書く。ここまでは誰でも同じです。でもその一歩先——この歯は、CEJから何ミリ落ちた時点で分岐部に届く設計だったのか——を考えているでしょうか。分岐部病変(furcation involvement:FI)の分類は、Hampらの水平的な深さ(3mm以下/3mm超/through and through)が基本で、語られるのは「入ってから」の話ばかりです。しかし分岐部が始まる高さ=ルートトランクの長さは歯によって驚くほど違います。1997年、台湾のHouとTsaiは、抜去大臼歯366本を電子ノギスで実測し、この「縦の物差し」を分岐部診断に持ち込みました。
従来の困りごと:同じ class III でも、失われた骨の量は同じではない
分岐部病変の予後が読みにくいのは、根分岐部の形態が複雑だからだけではありません。既存の分類が、水平的なプロービング深さ(あるいは垂直的な深さ)だけで組まれているからです。著者らはここを突いています。
たとえば class III(through and through)の分岐部病変を2本並べたとします。片方はルートトランクが短い歯、もう片方は長い歯。臨床的な診断名は同じ class IIIです。しかし、分岐部が根の浅い位置から始まる歯は、ごくわずかな付着喪失でも through and through になり得る。逆に分岐部が深い位置から始まる歯が through and through になっているなら、そこに至るまでに歯根の半分以上の支持が消えているということです。同じ診断名なのに、残っている資産がまるで違う。著者らが「class III の予後は、ルートトランクの長短で大きく差が出るように見える」と書いたのはこの意味です。
ところが、ルートトランクの寸法・型と、付着喪失量や分岐部病変の関係を記述したデータはほとんど無かった。そこで著者らは、まず「大臼歯のルートトランクは実際どうなっているのか」を、片っ端から測るところから始めました。
今回の一手:抜去大臼歯366本を電子ノギスで測り、3つの型に分ける
集めたのは、成人患者から抜去された上顎大臼歯166本(第一大臼歯70本・第二大臼歯96本)と下顎大臼歯200本(第一大臼歯103本・第二大臼歯97本)、合わせて366本。根が癒合した歯(root fusion)や、クラウン・ブリッジが入っていて正確に測れない歯はあらかじめ除外しています。10%ホルマリンで固定し、キュレットと超音波スケーラーで沈着物を落としてから、電子ノギスマイクロメーターでルートトランク長と歯根長を計測しました。
測ったのは、上顎なら頬側(BRT)・近心(MRT)・遠心(DRT)の3面、下顎なら頬側(BRT)・舌側(LRT)の2面。そのうえで、ルートトランク長を歯根長に対する比率で3つの型に分類しました。ここがこの論文の肝です。
タイプA=ルートトランクが歯根長の1/3以下(歯頸側1/3に収まる)。タイプB=1/3を超え1/2以下。タイプC=1/2を超え2/3以下。絶対値(mm)ではなく比率で切ったのがポイントで、こうすると「歯根長に対してどれだけ支持を失えば分岐部に届くか」が、そのまま型から読めるようになります。
結果①:頬側のルートトランクは短い──下顎第一大臼歯は平均1.4mm
まず分布から。短いルートトランク(タイプA)は頬側に多く、長いルートトランクは上顎では近心に、下顎では舌側に多い——これが全体を貫くパターンでした。
数字で見ると、下顎第一大臼歯の頬側は98.6%(103本中101本)がタイプA。ほぼ全部です。しかも平均長は1.4mm。一方、同じ歯の舌側はタイプAが68.9%で平均3.1mm。上顎第一大臼歯では、頬側がタイプA 64.3%(平均2.8mm)なのに対し、近心はタイプBが50%を占め、タイプAでも平均4.1mm。著者は上顎について「ルートトランクの平均的な垂直的高さは近心が最も大きく、次いで遠心、頬側の順」とまとめています。
もうひとつ。長いルートトランクは第二大臼歯に多いのも一貫していました。上顎第一大臼歯ではタイプAが41.0%・タイプBが47.1%・タイプCが11.9%だったのに対し、上顎第二大臼歯ではタイプAが20.8%まで減り、タイプBが60.8%・タイプCが18.4%へ移ります。下顎はもっと極端で、第一大臼歯はタイプA 83.5%・タイプC 1.0%とほぼ短根トランク一色なのに、第二大臼歯ではタイプA 38.1%・タイプB 52.6%・タイプC 9.3%と長い側へずれ込みます。とくに上顎第二大臼歯の近心は、タイプAがたった7.3%、タイプBが65.6%、タイプCが27.1%でした。
結果②:型が変われば、分岐部までの距離が2〜3mm変わる
型ごとの実測値を並べると、ルートトランク長はきれいに階段状に並びます。上顎第一大臼歯ではタイプA 3.3mm・タイプB 4.9mm・タイプC 6.1mm。上顎第二大臼歯では3.1・4.6・6.6mm。下顎第二大臼歯では2.8・5.2・6.7mm。AとCでは2〜3mmの差——分岐部に届くかどうかを分けるには十分すぎる幅です。
著者はここから、臨床にそのまま置ける一文を導いています。上顎第一大臼歯では、CEJから根尖側へ約3.3mm(タイプA)・4.9mm(タイプB)・6.1mm(タイプC)の垂直的付着喪失が起きた時点で、その面は through and through の分岐部病変になる、と。プローブの目盛りを、そのまま「分岐部到達までの残り」として読める、ということです。
そしてもう一つ、地味ですが重要な所見。長いルートトランクは、短い歯根と結びついていた。つまりタイプCの歯は「トランクが長いうえに根も短い」——分岐部の下に残る根の量が二重に少ない歯だということです。
結果③:分岐部に届いた時、その歯はどれだけ失われているか
この論文がいちばん光るのがここです。著者らはPAL(%)=ルートトランク長 ÷ 歯根長 × 100 という単純な式を立てました。分岐部に到達した瞬間、その歯は歯根長の何%を失っているか、という指標です。
結果は明快でした。上顎第一大臼歯でタイプA 27.2%に対しタイプC 54.3%。上顎第二大臼歯で28.4%対58.7%。下顎第一大臼歯では17.0%対54.9%と3倍以上。下顎第二大臼歯で23.7%対54.9%。タイプAとタイプCでは、同じ「分岐部到達」でも失われている支持量が1〜3倍違うのです。
言い換えれば、タイプAの歯の class III は「早期のサイン」——まだ歯根の7〜8割が骨に支えられている段階で分岐部が露出しただけ。一方タイプCの歯の class III は「終盤のサイン」——そこに至った時点で支持の半分以上がもう無い。診断名は同じでも、手元に残っている資産が違います。
この見方の意味:ルートトランクは「分岐部のスタートライン」
なぜ型で分けると見通しが良くなるのか。ルートトランクとは要するに、その歯の分岐部病変が始まる高さ=スタートラインだからです。歯周炎の進行は根面を上から下へ進みます。スタートラインが浅い位置にあれば、進行のごく初期に分岐部という「掃除しにくい構造」に到達してしまう。深い位置にあれば、そこまでは単純な骨欠損として扱えるが、いざ到達した時には残りの根が心もとない。
短いルートトランクは「早く分岐部に届くが、届いた時にはまだ資産がある」。長いルートトランクは「なかなか届かないが、届いた時には手遅れに近い」——このトレードオフを、型という3段階のラベルで一言にできるのがこの分類の値打ちです。
しかも実装コストはほぼゼロ。著者は「歯頸側1/3・歯頸側1/2・歯頸側2/3のどれにルートトランクが収まるかはデンタルX線(根尖部X線写真)で判定できる」と述べています。特別な器材も、追加の被曝も要りません。すでに撮ってあるデンタルを、そういう目で見るだけです。
明日の臨床へ:デンタルに「縦の物差し」を1本足す
①分岐部病変の記録に、型を1文字足す。「16 頬側 class II」で止めず、「16 頬側 class II/タイプA」と書く。それだけで、次に見る自分(あるいは次の担当者)が、この歯があとどれだけ持ちこたえられるかを読めるようになります。著者らが提案したのも、まさに従来の水平的分類(class I/II/III)とルートトランクの型を組み合わせて記録するという形でした。
②下顎第一大臼歯の頬側は、最初から分岐部を疑う。98.6%がタイプAで平均1.4mm。PPDが浅くても、付着喪失が数ミリあればもう分岐部に入っている可能性がある部位です。逆にここで分岐部を触れても、それだけで悲観する話ではない——PALはまだ17%程度、という読み方ができます。
③上顎第二大臼歯の近心は、届いた時が勝負どころ。タイプAが7.3%しかない=多くが深いスタートラインを持つ部位です。ここでプローブが分岐部に入ったなら、すでに支持の半分近くが失われていると考えて、SPTの間隔や外科の適応、あるいは分割・抜歯の判断を早めに構える材料になります。
④「垂直的な深さ4〜6mm」の物差しを鵜呑みにしない。Tarnow & Fletcherらのサブクラス分類は、分岐部の天井から根尖方向への垂直的な深さ(1〜3mm/4〜6mm/7mm以上)で分けますが、著者はこれがルートトランクの長い歯にはそのまま当てはまらないと注意を促しています。根間の骨の高さ自体が歯によって違うからです。ここでも「その歯の設計を先に読む」が効いてきます。
今日のひとこと
ルートトランクの長さは「分岐部が始まる高さ」=分岐部病変のスタートラインそのもの。短ければ(タイプA)浅い付着喪失でもすぐ分岐部に届き、長ければ(タイプC)届くまでは時間が稼げるが、届いた時には歯根の半分以上の支持がもう失われている。同じ class III でも意味がまったく違う。デンタルでルートトランクの型を読む習慣をつけると、分岐部病変の診断と予後の解像度が一段上がる。


