ペリオ|Phase2 歯周外科
骨縁下欠損の再生療法では、エムドゲインや骨移植材を「足す」ことが当たり前になっています。では、術式そのものを極限まで低侵襲に磨いたら、材料は要らなくなるのでしょうか。2011年、CortelliniとTonettiは45症例を3群に分け、M-MIST単独・EMD併用・EMD+骨補填材併用を正面から比べました。3群は、驚くほどよく似た結果を出しています。
①再生医療の25年は、2本の道を歩いてきた
歯周組織再生の研究は、大きく2つの方向に進んできました。1つは材料と製品の開発(膜・移植材・成長因子)、もう1つは術式そのものの革新です。
そして術式の側の進歩は、想像以上に大きなものでした。従来のフラップでは軟組織の創閉鎖が100%失敗していたのに対し、近年の術式では10%未満まで低下——著者らはそう書いています。
M-MIST(modified minimally invasive surgical technique)は、その到達点のひとつです。設計思想は3つ。①弁の安定性を高める、②再生のためのスペースを維持する、③歯槽頂と乳頭の血液供給をできるだけ残す。
そのために頬側に小さな三角弁を作るだけで、欠損に隣接する歯間乳頭には一切触れません。乳頭は歯槽頂側の歯根のセメント質に、歯槽頂上線維でつながったまま残されます。口蓋・舌側の組織も手術に関与しません。
ここで疑問が生まれます。術式がこれだけ洗練されたなら、材料を足す意味はどれだけ残っているのか。
②3群に分けて、同じ術式で入る
対象は進行した歯周炎で、孤立した深い歯間部の骨縁下欠損を1つ以上持つ患者45名。原因除去療法(SRP・動機づけ・口腔衛生指導)を終えて3か月後に登録されました。1人につき1つの欠損を治療します。
全例がまずM-MISTでアクセスされ、肉芽組織を鋭利に除去して根面を器械的に清掃、EDTAゲルで2分間処理。ここで初めてランダム化の封筒が開けられ、群が決まります。
M-MIST単独(15名)は、何も置かずに縫合。M-MIST+EMD(15名)は、洗浄・乾燥した根面にEMDを塗布。M-MIST+EMD+BMDX(15名)は、EMDと骨ミネラル由来異種骨を混ぜて欠損に置きます(詰め込まず、過剰充填もしない)。
縫合は歯間部に1本の内側マットレス縫合のみ。手術はすべて手術用顕微鏡(4〜16倍)とマイクロ器具で行われました。ベースラインの欠損条件(PPD・CAL・骨縁下成分の深さ・骨壁数)は3群でよく揃っています。
術後は6週間の週1回リコール、その後は3か月ごとのメインテナンス。評価は1年後です。
③3群の数字が、ほとんど重なった
1年後のCAL獲得は、M-MIST単独 4.1±1.4mm、EMD 4.1±1.2mm、EMD+BMDX 3.7±1.3mm。群間比較はp=0.639で差がありません。
PPDの減少は4.4±1.6mm、4.4±1.2mm、4.0±1.3mm(p=0.657)。残存ポケットは3.1mm、3.4mm、3.3mmまで浅くなっています。
エックス線的な骨の充填率は、M-MIST単独 77±19%、EMD 71±18%、EMD+BMDX 78±27%(p=0.603)。骨の獲得量は3.5mm、3.3mm、3.3mmでした。
そして歯肉退縮です。3群とも増加は平均0.3mmにとどまりました。ベースラインとの差が統計学的に有意になったのはEMD群のみ(p=0.02)で、他の2群では有意ではありません。低侵襲な術式が、歯肉縁の位置をほぼそのまま保ったということです。
CAL獲得の分布を見ると、さらに印象的です。2mm未満しか獲得できなかった部位は、45部位中1つもありません。4mm以上を獲得したのは、M-MIST単独で73.3%、EMDで60%、EMD+BMDXで46.6%でした。
④患者さんの負担も、ごく小さい
この研究のもう一つの読みどころは、患者さん側のアウトカムです。
一次閉鎖は45部位すべてで達成され、6週間の早期治癒期間を通じて閉鎖が保たれなかったのは1部位のみ(EMD+BMDX群・2.2%)。その1部位も、抜糸時にわずかな不連続が見られただけで、2週目には閉じていました。浮腫や血腫はどの部位にも生じていません。
術中・術後の疼痛を訴えた患者はゼロ。軽度の不快感を報告したのは各群3〜4名で、鎮痛薬を必要としたのも同程度(服用量は平均0.3〜0.5錠、最大でも3錠)でした。
手術時間は、M-MIST単独が平均52.9±5.6分で最も短く、EMD 54.2±7.4分、EMD+BMDX 58.9±6.2分。この差は統計学的に有意(p=0.036)です。材料を足すほど時間がかかるが、それに見合う成績の差は出なかった——という構図になります。
⑤明日の臨床へ
1つ目。乳頭を触らないという選択肢を知っておく。 M-MISTは、歯間乳頭を挙上せず頬側だけからアクセスします。孤立した歯間部の骨縁下欠損という条件に合えば、歯肉退縮を0.3mmに抑えながら4mmのCAL獲得が狙えます。
2つ目。適応は限られる。 著者ら自身が「M-MISTは常に適用できるわけではない」と明記しています。欠損が歯の舌側に回り込んでいる場合は、歯間軟組織の挙上が必要になり、通常のMISTが選択される——ここは押さえておくべき線引きです。
3つ目。材料の判断は、術式の完成度とセットで考える。 この結果は「EMDが無効」という意味ではありません。顕微鏡下でここまで低侵襲に、弁を安定させ血餅を守れる術式においては、材料の上乗せ分が見えなくなったと読むべきものです。
4つ目。患者さんに伝えられることが増える。 「痛みを訴えた患者はゼロ、鎮痛薬もほとんど不要」。再生療法に踏み切れない患者さんへの説明材料として、この数字は使えます。
今日のひとこと
孤立した歯間部の骨縁下欠損を持つ45名を、M-MIST単独/M-MIST+EMD/M-MIST+EMD+骨ミネラル由来異種骨(BMDX)の3群に15名ずつランダムに割り付け、1年後の臨床・エックス線所見を比べた研究。M-MISTは、欠損に隣接する歯間乳頭を一切挙上せず、頬側だけに小さな三角弁を作る術式で、手術用顕微鏡(4〜16倍)とマイクロ器具を使って行われます。1年後のCAL獲得はM-MIST単独 4.1±1.4mm、EMD 4.1±1.2mm、EMD+BMDX 3.7±1.3mm(p=0.639)。エックス線的な骨欠損の充填率は77±19%、71±18%、78±27%(p=0.603)。PPD減少は4.4mm、4.4mm、4.0mm(p=0.657)——どの項目でも3群に統計学的な差はありませんでした。歯肉退縮の増加はいずれも平均0.3mmにとどまり、一次閉鎖は45部位中44部位(97.8%)で維持、術中・術後の疼痛を訴えた患者はゼロでした。2mm未満のCAL獲得しか得られなかった部位は1つもありません。ただしこの規模では0.96mm未満の差は検出できず、著者らも「材料が不要と証明したわけではない」という慎重な立場を取っています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


