ペリオ|Phase2 歯周外科
歯肉退縮の診断といえばMiller分類です。ただしあれは「歯周組織がどれだけ失われたか」を見る物差しで、露出した根面そのものの状態は見ていません。CEJが摩耗で消えていたら、退縮量はどう測るのか。完全被覆できたかを、何を基準に判定するのか。2010年、Pini Pratoらは1,010部位を調べ、その答えになる分類を提案しました。
①Miller分類が見ていないもの
歯肉退縮の診断は、長らくMiller分類が担ってきました。歯間部の歯周組織がどれだけ残っているか、歯肉粘膜境を越えているか——軟組織と骨の側から、被覆の予後を読む物差しです。臨床的に有用で、いまも使われ続けています。
ですがMiller分類は、露出した根面そのものの状態を見ていません。ここに実務上の困りごとがあります。
1つ目。CEJが判別できないことがある。ブラッシング外傷や歯頸部う蝕によって、CEJそのものが摩耗で消えてしまうのです。CEJは退縮量を測る基準点であり、術後に完全被覆が得られたかを判定する基準点でもあります。それが無ければ、深さも幅も正確に測れず、結果の評価もできません。実際、多くの根面被覆の論文では「CEJが判別できない症例」を除外基準にしています。
2つ目。歯頸部に段差(step)があると、手技そのものが難しくなる。摩耗やエロージョンで硬組織に窪みができていると、弁や結合組織移植片を根面に安定させにくくなります。Miller I級・II級でも、根面や歯冠に摩耗があれば完全被覆が得られないことがあるのはこのためです。
②2つの質問に答えるだけ
提案された分類は、驚くほどシンプルです。
質問1:頬側全面でCEJが判別できるか。できれば Class A、全部または一部が判別できなければ Class B。
質問2:歯頸部に段差があるか。歯の長軸に垂直にプローブを当て、摩耗の最も深い点で測って0.5mmを超える段差があれば(+)、なければ(−)。段差は根面だけのこともあれば、歯冠と根面にまたがることもあります。
0.5mmという閾値には根拠があります。弁の厚みが0.8mmを超えると完全根面被覆が得られやすいという先行研究があり、厚い弁なら0.5mm程度の窪みは埋められる——だから0.5mmを超えるものを「段差あり」としたという設計です。
評価は4倍の拡大鏡、歯周プローブ(PCP UNC 15)、探針を使って、正面と側面の両方から行います。
③1,010部位を数えてみると
まず信頼性の検証から。10年以上の経験を持つ3名の歯周病専門医が、46部位の退縮を1時間の間隔をあけて2回、独立かつ盲検で評価しました。
同じ人が2回評価したときの一致(検者内)は、κ 0.74〜0.95。Landis and Kochの基準では「ほぼ完全な一致」にあたります。一方、別々の人の評価を比べたとき(検者間)は κ 0.26〜0.59 で「中等度の一致」でした。この検者間の数値は、根面被覆の臨床評価に関する他の報告と同程度とされています。
次に分布です。2008年1月から2009年5月にフィレンツェ大学歯周病科を受診し、退縮を1部位以上持っていた359名(男性175・女性184、10〜64歳、平均33.7歳)から、連続する1,010部位を集めました(上顎612・下顎398)。
結果は、A−(CEJ見える・段差なし)が469部位で46%。B+(CEJ見えない・段差あり)が244部位で24%。B−(CEJ見えない・段差なし)が153部位で15%。A+(CEJ見える・段差あり)が144部位で14%でした。
④この数字が意味すること
1つ目。「正確に診断・評価できる」のは46%にすぎない。A−、つまりCEJが見えて段差もない症例だけが、退縮量を正確に測り、術後に完全被覆が得られたかを明確に判定できます。
2つ目。39%ではCEJが判別できない。B+とB−を合わせた4割弱では、正確な診断も、治療結果の適切な評価も難しいと著者らは述べています。この症例群を除外基準にしてきた研究の外側に、実際の臨床の4割があるということです。
3つ目。38%で段差を伴う。A+とB+の合計です。そのうち14%(A+)は摩耗が根面に限局し、24%(B+)は歯冠と根面の両方にまたがっています。著者らは「これらは異なる条件であり、異なる治療アプローチを要する可能性がある」と明記しています。
4つ目。厚い弁は、段差を埋める側に働く。歯冠側に置いた弁が厚ければ、歯頸部の窪みを充填しうる——0.5mmという閾値の背景にある考え方が、そのまま術式選択のヒントになります。
⑤明日の臨床へ
1つ目。診査で2つ質問する習慣をつくる。 「CEJは見えるか」「段差はあるか」。拡大鏡とプローブがあれば、追加の器具は要りません。カルテにA+/A−/B+/B−と記録するだけで、術式選択と説明の精度が上がります。
2つ目。CEJが見えない症例では、術前に「判定基準」を決めておく。 B群では、術後に「完全に被覆できたか」を客観的に言えません。術前に写真とプローブで基準点を仮に定めておく、あるいは患者さんへの説明で「完全被覆」という言葉の使い方を変える——先回りできる工夫があります。
3つ目。段差のある症例は、予後の説明を変える。 Miller I級・II級であっても、深い段差があれば完全被覆の予測性は下がります。「クラスは良いのに覆えなかった」を減らすには、術前にこの因子を伝えておくことです。
4つ目。修復との連携を考える。 歯冠と根面にまたがる摩耗(B+)が24%を占めます。被覆だけで解決しない症例が4分の1あると分かれば、修復と外科をどう組み合わせるかを、最初から設計に入れられます。
今日のひとこと
歯肉退縮部の露出根面を、2つの因子だけで分類する提案。①CEJが頬側全面で判別できるか(Class A)/できないか(Class B)、②歯頸部に0.5mmを超える段差(step)があるか(+)/ないか(−)。組み合わせでA+・A−・B+・B−の4クラスになります。3名の検者が46部位を1時間あけて2回、盲検で評価したところ、検者内の一致はκ 0.74〜0.95(ほぼ完全一致)、検者間の一致はκ 0.26〜0.59(中等度)でした。359名・1,010部位での分布は、A−が469部位(46%)、B+が244部位(24%)、B−が153部位(15%)、A+が144部位(14%)。ここから読めることが2つあります。CEJが判別できない症例が39%(B+とB−)——この4割弱では、退縮量の正確な計測も、完全被覆が得られたかの判定も難しい。そして段差を伴う症例が38%(A+とB+)——そのうち14%は根面だけ、24%は歯冠と根面にまたがる摩耗で、弁や移植片を根面に安定させるうえで条件が異なります。Miller分類に「硬組織の側の物差し」を足す——それがこの分類の役割です。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


