1問1答 論文 歯周病

喫煙は、遊離歯肉移植の何を変えるのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

喫煙者に遊離歯肉移植(FGG)を行うとき、何を覚悟すべきでしょうか。「移植片が縮みやすい」——そう考えるのが自然です。2010年、Silvaらは同じ大きさに切り出したFGGを喫煙者10名と非喫煙者12名に移植し、90日間追いました。縮み方は、意外にも大きく違いませんでした。差が出たのは、口蓋の傷のほうです。

論文
Free Gingival Grafts: Graft Shrinkage and Donor-Site Healing in Smokers and Non-Smokers
著者
Silva CO, Ribeiro EDP, Sallum AW, Tatakis DN
掲載
Journal of Periodontology 2010;81(5):692-701
種類
前向き単群・評価者盲検の臨床研究(喫煙者10名・非喫煙者12名)
PMID
20429648

喫煙者のFGG、何を覚悟すべきか

角化歯肉が足りない部位に、口蓋から採取した歯肉を移植する遊離歯肉移植(FGG)。40年以上前に確立され、いまも角化歯肉を増やす目的では第一選択の術式です。

そして粘膜歯肉の問題は、喫煙者により多く見られます喫煙は歯周形成外科の短期・長期の成績を悪くし、術後合併症のリスクも高めると報告されてきました。用量反応性も認められています

ところがFGGの成績、そしてドナー部(口蓋)の治癒について、喫煙の影響を正面から評価した研究はありませんでした喫煙者は歯周治療の現場で決して少なくないのに、です

先に結論: 移植片の縮み方に、喫煙者と非喫煙者で有意差はなかった差が出たのは、口蓋の傷の治り方だった

同じ大きさに切って、同じ場所に置く

この研究の設計で光るのは移植片の規格化です。

口蓋にカスタムメイドの金属テンプレートを当て、13.4×7mmという決まった寸法で輪郭を描いて採取します。採取後は3点(両端と中央)でキャリパーによって厚みを確認し、必要なら1〜1.5mmに調整実際に得られた移植片の厚みは、喫煙者・非喫煙者ともに平均1.5mm(範囲1.3〜1.6mm)でした。

受容側も揃えています下顎中切歯部で、歯肉幅が1mm以下・口腔清掃が困難・小帯高位付着または歯肉退縮を伴う部位歯肉粘膜境に沿って約14mmの水平切開と2本の縦切開を加え、部分層弁を挙上して骨膜床を作り、挙上した組織は破棄します。

縫合にも工夫があります移植片そのものに針を通さず、「W」字型の骨膜懸垂縫合(5-0ナイロン)で上から押さえて固定縫合による移植片への外傷を最小限にするためです。

対象は喫煙者10名(1日10本以上を5年以上・平均16±5本/日、平均23.4年)と非喫煙者12名(生涯非喫煙)臨床計測はすべて、喫煙状況を知らされていない1人の検者が実施しました。評価は7・15・30・60・90日です。

移植片の縮み方は、思ったほど違わなかった

0 23.3% 46.7% 70% 90日後の縮小率 (%) 44% 31% 25% 22% 58% 44% 長さ 面積 喫煙者のほうが一貫して大きいが、どの項目・どの時点でも統計学的な有意差はない(P>0.05)
90日後の移植片の縮小率。喫煙者のほうが一貫して大きいが、統計学的な有意差はない

90日後、移植片の幅は7.0mmから喫煙者3.9mm・非喫煙者4.8mmへ。縮小率はそれぞれ44%と31%です。長さは13.4mmから10.0mm・10.4mmで、縮小率25%と22%面積は92.9mm²から39.3mm²・52.0mm²で、縮小率58%と44%

数字だけ見れば喫煙者のほうが縮んでいますし、この傾向はすべての測定時点で一貫していましたしかし統計学的な有意差には届いていません(P≥0.08)

角化歯肉幅(KT)は、両群とも劇的に増えていますベースライン0.1mmから、90日後に喫煙者4.9mm・非喫煙者5.5mm全員が3mm以上を獲得し、群間差はありませんFGGは喫煙者でも目的を果たしたということです。

縮小の時間経過も参考になります。幅の縮小は7日時点ですでに始まっていますが、ベースラインとの差が有意になるのは15日から長さは30日を過ぎてから有意になり、その後はほとんど変わりません面積の縮小は90日間を通じて進みますが、多くは最初の21〜30日で起きるとされています。

差が出たのは、口蓋の傷だった

0 33.3% 66.7% 100% 該当した患者の割合 (%) 30% 75% 20% 92% 採取直後に出血が見られた 15日後に上皮化が完了した ドナー部(口蓋)の所見。出血はP=0.045、上皮化はP<0.002でいずれも有意差あり。30日後には両群とも100%が上皮化した
ドナー部(口蓋)の所見。採取直後の出血と、15日後の上皮化の完了率

移植片を採取した直後、出血が見られたかどうか非喫煙者は75%で出血が確認されたのに対し、喫煙者は30%(P=0.045)でした。

そして上皮化です7日後は両群とも0%15日後、非喫煙者は92%で完全な上皮化が得られたのに対し、喫煙者はわずか20%(P<0.002)30日後には両群とも100%が上皮化しました。

ニコチンによる血管収縮が、採取直後の出血の少なさを説明しますそしてその血流の低下が、上皮化の遅れにつながっていると考えられます

2週間という期間は、患者さんにとって決して短くありません口蓋の創が開いたままである期間が長くなるということは、疼痛と食事の不自由がそれだけ続くということです。

ここが要点: 喫煙者でもFGGで角化歯肉は増やせるただし口蓋の傷は治りが遅く、そこを説明しておく必要がある

明日の臨床へ

1つ目。喫煙を理由にFGGを諦めない。 喫煙者でもベースライン0.1mmから4.9mmまで角化歯肉が増え、全員が3mm以上を獲得しました。「喫煙者だから縮んでしまう」という前提は、この研究では支持されていません

2つ目。ドナー部の説明を変える。 非喫煙者なら2週間でほぼ治る口蓋の傷が、喫煙者では1か月近くかかる術前の説明で「口蓋は2週間ほど」と伝えていた場合、喫煙者にはそのまま使えません

3つ目。移植片は最初から大きめに採る。 幅は3か月で31〜44%縮みますこれは喫煙の有無にかかわらず起きる現象で、幅の縮小は長さの縮小のおよそ2倍必要な最終幅から逆算して採取する設計が要ります。

4つ目。ドナー部の保護を厚くする。 上皮化が遅れる分、喫煙者では口蓋の被覆(ドレッシングやステント)の期間を長めに取る——この研究は歯周パックを使っていませんが、遅延が分かっている以上、対策の余地があります。

ここだけ、冷静に補助線。 喫煙者10名・非喫煙者12名という小さな規模です。研究は「縮小率に20%の差があれば83%の検出力で検出できる」設計でしたが、実際の差はそれよりはるかに小さく、著者ら自身が「統計学的有意差を得るにはもっと大きな研究が必要」と明記しています。つまり「差がなかった」ではなく「この規模では検出できなかった」と読むのが正確です。また観察は90日までで、下顎中切歯部という単一の部位に限られます。それでも、規格化した移植片で喫煙者と非喫煙者を直接比べた最初の研究であり、ドナー部の治癒という、見落とされがちな側面に光を当てたという価値があります。患者さんの体験に直結する知見です。

今日のひとこと

下顎中切歯部の角化歯肉が1mm以下という部位に、金属テンプレートで13.4×7mmに規格化したFGGを移植し、喫煙者10名(1日10本以上・5年以上)と非喫煙者12名で、90日間の移植片の縮小とドナー部(口蓋)の治癒を比較した研究。90日後の縮小率は、幅が喫煙者44%・非喫煙者31%、長さが25%・22%、面積が58%・44%すべての時点・すべての項目で、両群に統計学的な有意差はありませんでした(P>0.05)角化歯肉幅はベースライン0.1mmから90日後に喫煙者4.9mm・非喫煙者5.5mmへ有意に増加し、全員が3mm以上を獲得しています(群間差なし)。差が出たのはドナー部です採取直後の出血が見られたのは非喫煙者75%に対し喫煙者30%(P=0.045)15日後に完全な上皮化が得られたのは非喫煙者92%に対し喫煙者20%(P<0.002)ただし30日後には両群とも100%が上皮化しています。喫煙は移植片の寸法変化には見て取れる影響を与えなかったが、ドナー部の創傷治癒を変えた——これが著者らの結論です。

出典:Silva CO, Ribeiro EDP, Sallum AW, Tatakis DN. Free gingival grafts: graft shrinkage and donor-site healing in smokers and non-smokers. J Periodontol 2010;81(5):692-701. PMID: 20429648
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。