ペリオ|Phase2 歯周外科
喫煙者に遊離歯肉移植(FGG)を行うとき、何を覚悟すべきでしょうか。「移植片が縮みやすい」——そう考えるのが自然です。2010年、Silvaらは同じ大きさに切り出したFGGを喫煙者10名と非喫煙者12名に移植し、90日間追いました。縮み方は、意外にも大きく違いませんでした。差が出たのは、口蓋の傷のほうです。
①喫煙者のFGG、何を覚悟すべきか
角化歯肉が足りない部位に、口蓋から採取した歯肉を移植する遊離歯肉移植(FGG)。40年以上前に確立され、いまも角化歯肉を増やす目的では第一選択の術式です。
そして粘膜歯肉の問題は、喫煙者により多く見られます。喫煙は歯周形成外科の短期・長期の成績を悪くし、術後合併症のリスクも高めると報告されてきました。用量反応性も認められています。
ところがFGGの成績、そしてドナー部(口蓋)の治癒について、喫煙の影響を正面から評価した研究はありませんでした。喫煙者は歯周治療の現場で決して少なくないのに、です。
②同じ大きさに切って、同じ場所に置く
この研究の設計で光るのは移植片の規格化です。
口蓋にカスタムメイドの金属テンプレートを当て、13.4×7mmという決まった寸法で輪郭を描いて採取します。採取後は3点(両端と中央)でキャリパーによって厚みを確認し、必要なら1〜1.5mmに調整。実際に得られた移植片の厚みは、喫煙者・非喫煙者ともに平均1.5mm(範囲1.3〜1.6mm)でした。
受容側も揃えています。下顎中切歯部で、歯肉幅が1mm以下・口腔清掃が困難・小帯高位付着または歯肉退縮を伴う部位。歯肉粘膜境に沿って約14mmの水平切開と2本の縦切開を加え、部分層弁を挙上して骨膜床を作り、挙上した組織は破棄します。
縫合にも工夫があります。移植片そのものに針を通さず、「W」字型の骨膜懸垂縫合(5-0ナイロン)で上から押さえて固定。縫合による移植片への外傷を最小限にするためです。
対象は喫煙者10名(1日10本以上を5年以上・平均16±5本/日、平均23.4年)と非喫煙者12名(生涯非喫煙)。臨床計測はすべて、喫煙状況を知らされていない1人の検者が実施しました。評価は7・15・30・60・90日です。
③移植片の縮み方は、思ったほど違わなかった
90日後、移植片の幅は7.0mmから喫煙者3.9mm・非喫煙者4.8mmへ。縮小率はそれぞれ44%と31%です。長さは13.4mmから10.0mm・10.4mmで、縮小率25%と22%。面積は92.9mm²から39.3mm²・52.0mm²で、縮小率58%と44%。
数字だけ見れば喫煙者のほうが縮んでいますし、この傾向はすべての測定時点で一貫していました。しかし統計学的な有意差には届いていません(P≥0.08)。
角化歯肉幅(KT)は、両群とも劇的に増えています。ベースライン0.1mmから、90日後に喫煙者4.9mm・非喫煙者5.5mm。全員が3mm以上を獲得し、群間差はありません。FGGは喫煙者でも目的を果たしたということです。
縮小の時間経過も参考になります。幅の縮小は7日時点ですでに始まっていますが、ベースラインとの差が有意になるのは15日から。長さは30日を過ぎてから有意になり、その後はほとんど変わりません。面積の縮小は90日間を通じて進みますが、多くは最初の21〜30日で起きるとされています。
④差が出たのは、口蓋の傷だった
移植片を採取した直後、出血が見られたかどうか。非喫煙者は75%で出血が確認されたのに対し、喫煙者は30%(P=0.045)でした。
そして上皮化です。7日後は両群とも0%。15日後、非喫煙者は92%で完全な上皮化が得られたのに対し、喫煙者はわずか20%(P<0.002)。30日後には両群とも100%が上皮化しました。
ニコチンによる血管収縮が、採取直後の出血の少なさを説明します。そしてその血流の低下が、上皮化の遅れにつながっていると考えられます。
2週間という期間は、患者さんにとって決して短くありません。口蓋の創が開いたままである期間が長くなるということは、疼痛と食事の不自由がそれだけ続くということです。
⑤明日の臨床へ
1つ目。喫煙を理由にFGGを諦めない。 喫煙者でもベースライン0.1mmから4.9mmまで角化歯肉が増え、全員が3mm以上を獲得しました。「喫煙者だから縮んでしまう」という前提は、この研究では支持されていません。
2つ目。ドナー部の説明を変える。 非喫煙者なら2週間でほぼ治る口蓋の傷が、喫煙者では1か月近くかかる。術前の説明で「口蓋は2週間ほど」と伝えていた場合、喫煙者にはそのまま使えません。
3つ目。移植片は最初から大きめに採る。 幅は3か月で31〜44%縮みます。これは喫煙の有無にかかわらず起きる現象で、幅の縮小は長さの縮小のおよそ2倍。必要な最終幅から逆算して採取する設計が要ります。
4つ目。ドナー部の保護を厚くする。 上皮化が遅れる分、喫煙者では口蓋の被覆(ドレッシングやステント)の期間を長めに取る——この研究は歯周パックを使っていませんが、遅延が分かっている以上、対策の余地があります。
今日のひとこと
下顎中切歯部の角化歯肉が1mm以下という部位に、金属テンプレートで13.4×7mmに規格化したFGGを移植し、喫煙者10名(1日10本以上・5年以上)と非喫煙者12名で、90日間の移植片の縮小とドナー部(口蓋)の治癒を比較した研究。90日後の縮小率は、幅が喫煙者44%・非喫煙者31%、長さが25%・22%、面積が58%・44%。すべての時点・すべての項目で、両群に統計学的な有意差はありませんでした(P>0.05)。角化歯肉幅はベースライン0.1mmから90日後に喫煙者4.9mm・非喫煙者5.5mmへ有意に増加し、全員が3mm以上を獲得しています(群間差なし)。差が出たのはドナー部です。採取直後の出血が見られたのは非喫煙者75%に対し喫煙者30%(P=0.045)。15日後に完全な上皮化が得られたのは非喫煙者92%に対し喫煙者20%(P<0.002)。ただし30日後には両群とも100%が上皮化しています。喫煙は移植片の寸法変化には見て取れる影響を与えなかったが、ドナー部の創傷治癒を変えた——これが著者らの結論です。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


