1問1答 論文 歯周病

歯ブラシだけでは35%、フロスを足すと67%

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

「フロスもお使いください」と伝えます。ですが患者に「どれくらい違うんですか」と聞かれたとき、数字で答えられるでしょうか。そしてもうひとつ——ワックス付きとワックスなし、テープ。私たちが選んでいるその違いは、結果に効いているのでしょうか。1989年、ノースカロライナ大学が119名を無作為に4群へ割り付けて、2週間監督下で比べました。

論文
Comparative Effectiveness of Flossing and Brushing in Reducing Interproximal Bleeding
著者
Graves RC, Disney JA, Stamm JW
掲載
Journal of Periodontology 1989;60(5):243-247
種類
無作為化比較試験(119名・4群・2週間・監督下)
PMID
2786959

「フロスも使ってください」の、その先を聞かれたら

初期治療の説明で、必ず伝える一言があります。「歯ブラシだけでは歯と歯のあいだが磨けないので、フロスも使ってください」。

ここで患者さんに聞かれます。「どれくらい違うんですか」

そしてもうひとつ、私たち自身の疑問もあります。ワックス付きとワックスなし、そしてデンタルテープ。診療室で勧める製品を選ぶとき、この違いは結果に効いているのでしょうか。それとも、単に「使いやすさ」の問題なのでしょうか。

1989年、ノースカロライナ大学のグループが、この両方に数字で答えました。119名を無作為に4群へ割り付け、2週間、監督下で行わせるという設計です。

先に結論: 2週間で出血指数は、ワックス付きフロス群で67%、ワックスなしフロス群で66%、テープ群で69%減少。歯ブラシのみの群は35%にとどまった。フロスの種類による差はなく、効いたのは「糸を通すこと」そのものだった。

なぜ、結果がばらついていたのか

プラークと歯肉炎に因果関係があることは、当時すでに確立していました。歯間清掃具の効果を比べた研究も数多くあります。ところがその結果は一貫していませんでした。ワックスなしフロスが優れるという報告、ワックス付きが優れるという報告、可変径フロスが優れるという報告、そして差はないという報告。

著者らは、そのばらつきの一因を評価方法そのものに見ています。

従来、歯肉の状態を評価する主な手段はプロービングでした。しかしプロービングには力、圧、深さ、側方への動き、範囲という多くの変動要因があります。とくに歯間部中央へのアクセスは難しく、圧感知プローブや電子プローブが開発されてもなお、この部位の評価は不安定でした。

そこで Caton と Polson が提案したのが隣接部出血指数(interdental bleeding index)です。木製の歯間清掃具を水平方向に4回出し入れし、歯間乳頭を1〜2mm押し下げて、15秒以内の出血を見る。出血した部位数を刺激した部位数で割る。手技が標準化されているぶん、術者による揺らぎが小さい——この方法なら、製品間の小さな差も検出できるのではないか。それがこの研究の出発点でした。

119名を4群に分けて、毎日通わせる

170名をスクリーニングし、43名は出血部位が足りず除外されました。参加条件は、評価対象となる26部位(上顎13・下顎13)のうち10部位以上で出血があること。さらに20歯以上を有し、可撤性補綴がなく、抗凝固薬・抗菌薬・抗菌洗口液を使っておらず、普段フロスを使っていない人。そして10日連続の監督下セッションに通えること。

ベースライン評価の直後、参加者は別室で無作為に割り付けられた群とその材料、指導を受けました。

群1:ワックス付きフロス(30名)/群2:ワックスなしフロス(31名)/群3:デンタルテープ(28名)/群4:歯ブラシのみ(30名)。年齢・性別・喫煙率はほぼ揃っています。

全員に歯ブラシが配られ、普段どおり1日2回のブラッシングを続けます。群1〜3はさらに、平日10日間、クリニックへ通って監督下でフロスを行い、週末は自宅で実施。歯ブラシのみの群も、同じように毎日通ってブラッシングを監督されました(ここが後で効いてきます)。

評価者は2名。どの参加者がどの群かを知らされず(盲検)、指導にも日々のセッションにも関わっていません。評価はベースライン・1週後・2週後の3回です。

差は、1週目ですでについていた

0 26.7% 53.3% 80% 2週間での隣接部出血指数の減少率 (%) 67% 66% 69% 35% ワックス付きフロス ワックスなしフロス デンタルテープ 歯ブラシのみ 3種類のフロス間に統計学的な差はなく、フロス群と歯ブラシのみ群の差は有意(P=0.0003)
2週間での隣接部出血指数の減少率(%)

ベースラインでは4群の出血指数は0.55〜0.60の狭い範囲に収まり、群間に差はありませんでした(P=0.46)。半分以上の隣接部が出血していた計算になります。

2週間後——

ワックス付きフロス:0.56 → 0.18(67%減)
ワックスなしフロス:0.61 → 0.20(66%減)
デンタルテープ:0.59 → 0.18(69%減)
歯ブラシのみ:0.56 → 0.36(35%減)

0 0.2 0.5 0.7 隣接部出血指数(出血部位の割合) 0.6 0.3 0.2 0.6 0.3 0.2 0.6 0.3 0.2 0.6 0.5 0.4 ワックス付きフロス ワックスなしフロス デンタルテープ 歯ブラシのみ 濃い棒から順に開始時・1週後・2週後。群間差は1週目ですでに有意(P=0.005)
出血指数の推移。フロス群は1週目で既に落ち、歯ブラシのみ群は緩やかにしか下がらない

注目すべきは時間の経過です。1週後の時点で、すでにフロス3群は歯ブラシのみ群より有意に低い値を示していました(P=0.005)。2週後にはその差がさらに開きます(P=0.0003)。反復測定分析でも群×時期の交互作用が有意(P=0.0001)——つまり群によって減り方の勾配が違ったということです。

そして、3種類のフロスのあいだには、どの時点でも差がありませんでした。67%、66%、69%。ほぼ同じです。

ここが要点: 2週後に残った出血部位は、歯ブラシのみ群で約36%、フロス群で20%以下。ブラッシングだけで到達できる地点は、フロスを足したときのおよそ半分だった。

ただし、歯ブラシのみでも35%減っている

この研究の誠実なところは、著者ら自身が歯ブラシのみ群の35%という減少を「予想外に大きい」と書いている点です。

理由として挙げているのがホーソン効果です。実験に参加し、毎日観察されている人は、普段より丁寧に磨きます。さらにこの群は平日毎日クリニックに来て、監督下でブラッシングをしていました。これは実質的に「昼にもう一度磨く機会」が加わったことを意味します。ブラッシングの回数が増えれば、プラークも歯肉炎も減る——これは既知の関係です。

つまり35%という数字には、通常の生活では得られない上乗せが含まれている。裏を返せば、フロス群とブラッシング群の「差」のほうが、両群に共通する観察効果を差し引いた、より確かな量だということになります。著者らはそう整理しています。

もうひとつ、この研究が触れている重要な留保があります。2週間という期間の短さです。プラークスコアは2週間で頭打ちになるという報告があり、期間としては妥当な範囲です。しかし4週間の研究では、フロス群と対照群の歯肉炎スコアが横並びになり、やや上昇したという報告もあると著者らは書いています。2週間で得られた差が、その先も続くかどうかは、この研究からは分かりません

明日の臨床へ

1つ目。製品選びで患者を迷わせない。ワックス付き、ワックスなし、テープ——どれを選んでも、出血の減り方は変わりませんでした。選ぶ基準は「効果」ではなく「その人が続けられるかどうか」でよい、ということです。コンタクトがきつければワックス付き、広い鼓形空隙にはテープ。説明はシンプルにできます

2つ目。「どれくらい違うのか」に、数字で答えられる。歯ブラシだけでは、歯間部の出血は3割強しか減らない。フロスを足すと7割近く減るほぼ倍です。この一言があるかないかで、患者さんの受け止め方は変わるでしょう。

3つ目。2週間という区切りを使う。この研究では2週間で明確な差が出ました。「2週間続けてみて、また出血を見てみましょう」——短く、達成可能で、変化が本人にも見える期間設定です。初期治療のTBIで、患者が自分の変化を実感するための目標として使えます。

ここだけ、冷静に補助線。 期間は2週間で、長期にこの差が保たれるかは分かりません。参加者は毎日クリニックに通って監督を受けるという特別な条件下にあり、日常の再現ではありません。また対象は普段フロスを使っていない人で、初診時に10部位以上の出血がある——つまり伸びしろの大きい集団です。すでにフロス習慣がある人での上乗せは、これより小さいと考えるのが自然でしょう。それでも、評価方法を標準化したうえで無作為に割り付け、盲検で測ったという設計は堅実で、「フロスの種類は問題ではない」という結論は今も実務に使えます。

今日のひとこと

2週間で、隣接部出血指数はワックス付きフロス群で67%、ワックスなしフロス群で66%、デンタルテープ群で69%減少しました。一方、歯ブラシのみの群は35%の減少にとどまり、2週後も約36%の部位が出血していました(フロス群は20%以下)。3種類のフロスのあいだに統計学的な差はなく、効いたのは「糸を通すこと」であって「どの糸か」ではありませんでした。差は1週目の時点ですでについています(P=0.005)。

出典:Graves RC, Disney JA, Stamm JW. Comparative effectiveness of flossing and brushing in reducing interproximal bleeding. J Periodontol 1989;60(5):243-247. PMID: 2786959
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。