ペリオ|Phase2 歯周外科
根面被覆の術式選びは、被覆量だけでは決まりません。2020年、Cairoらが26のRCT・1,708の退縮を統合したところ、審美スコアの総合1位はCTGでした。ただし「軟組織の質感」と「歯肉の色」の2項目では、CTGを足さないフラップ単独のほうが上でした。
①根面被覆でいちばん「きれい」なのはどれか
根面被覆の術式選びは、これまで「どれだけ覆えたか(平均根面被覆率・完全根面被覆)」で語られてきました。結合組織移植(CTG)が単独・複数の歯肉退縮に対するゴールドスタンダードとされ、フラップ単独や代替生体材料と比べて歯肉縁の長期安定にも優れると繰り返し示されています。
ただ、患者さんが最終的に評価するのは被覆量ではありません。色が合っているか、質感が周りと馴染んでいるか、傷跡が目立たないか。Cairo自身が2017年に「軟組織の最終的な質感と、それに伴う審美結果は、患者満足度と合わせて最も重要な治療目標と考えてよい」と書いています。
そこで使われるのがRES(Root coverage Esthetic Score)。2009年にCairoらが提唱した0〜10点の評価法で、①歯肉縁の位置 ②辺縁組織の輪郭 ③軟組織の質感 ④歯肉歯槽粘膜境の整列 ⑤歯肉の色、の5項目からなり、専門家だけでなく経験の異なる術者間でも信頼性が確認されています。
②26のRCT、1,708の退縮
PROSPERO登録(CRD42020142623)のうえ、PRISMAの27項目に沿って実施されたシステマティックレビューです。PubMed 147件・Embase 219件・Cochrane 478件・グレイリテラチャー14件・ハンドサーチ4件から重複を除いた416件を選別し、全文評価123件を経て26のRCTが残りました。
対象は全身的に健康で、RT1またはRT2の歯肉退縮を持つ患者(1試験あたり10名以上)。術式はCAF(歯冠側移動弁)またはTUN(トンネル法)で、単独または軟組織移植・代替材料・生物学的製剤を併用したもの。追跡は6か月以上。除外は非ランダム化研究、CAF・TUN以外の術式(側方移動弁・二重乳頭弁・遊離歯肉移植)、喫煙者のみの研究、RES以外の評価法を用いた研究です。
解析は混合モデルによるネットワークメタ解析。2つのサブ解析を走らせています。①弁のデザインと移植材の組み合わせ(CAF/CAF+CTG/CAF+移植代替材/TUN+CTG/TUN+移植代替材)でCAFを基準にしたもの ②移植材の種類(ADM・CTG・CTG+EMD・EMD・フラップ・PRF・組織工学構築物・XCM)でフラップを基準にしたもの。合計867名、1,708の歯肉退縮が組み込まれ、26試験中15試験が低バイアスリスクと評価されました。
③総合スコアはCTGが勝つ
CAF単独を基準にすると、有意に高いRESを示したのはTUN+CTG(+0.84、95%CI 0.15–1.53、p=.01)、CAF+CTG(+0.74、0.24–1.26、p=.005)、CAF+移植代替材(+0.55、0.006–1.094、p=.04)でした。
そして重要なのが、CAF+CTGとTUN+CTGのあいだに有意差がなかったこと(+0.09、−0.54–0.72、p=.77)。著者らは「CTGが用いられる場合、TUNかCAFかという術式は最終的な審美結果に影響しないようだ」「移植材のほうが弁のデザインより大きな役割を果たしていると考えられる」と読んでいます。移植片が歯肉縁の下で生物学的なフィラーとして働き、術後の収縮を減らして最終的な根面被覆を促すためではないか、というのが説明です。
移植材で見たサブ解析でも、フラップ単独を基準にCTG(+0.71、0.27–1.15、p=.003)、CTG+EMD(+0.97、0.53–1.41、p=.03)、ADM(+0.873、0.23–1.51、p=.003)が有意に高いスコア。逆にCTGを基準にすると、XCM(−1.127、p=.001)、EMD(−1.18、p=.01)、フラップ単独(−0.711、p=.003)が有意に低く、ADM・CTG+EMD・PRF・組織工学構築物には有意差がありませんでした。
④ところが「色」と「質感」では逆転する
RESの内訳を見ると、話が変わります。
歯肉縁の位置(GM)はCTG併用が強い——CAF単独に対しTUN+CTG +1.14(0.21–2.06、p=.02)、CAF+CTG +0.68(0.09–1.28、p=.03)。ここは想定どおりです。
ところが軟組織の質感(STT)では、CAF+CTGだけが有意に低い(−0.22、−0.34–−0.08、p=.002)。移植材で見てもCTGだけが有意にマイナス(−0.20、−0.34–−0.05、p=.01)でした。
歯肉の色(GC)でも同じ向き。TUN+CTGが有意に低く(−0.12、−0.21–−0.03、p<.01)、移植材で見てもCTGが唯一有意にマイナス(−0.06、−0.12–−0.03、p=.03)。
つまり「よく覆えるが、色と質感は自然さで劣る」。著者らの結論にも「CAFはCTGより高い軟組織の質感と歯肉の色のスコアを達成した」とはっきり書かれています。移植片の生着(graft integration)が、軟組織の色と見た目を損ないうるという読みです。
ちなみに辺縁組織の輪郭(MTC)ではCAF+移植代替材が有意に高く(+0.121、0.01–0.22、p=.02)、移植材で見てもADMが有意に高い(+0.33、0.21–0.45、p=.007)。XCMやADMの足場としての性質が、歯肉縁の安定に寄与していると考察されています。
⑤満足度は上がり、負担も上がる
患者満足度は、CAF単独に対しCAF+CTGが有意に高い(VASで+5.91、0.87–10.95、p=.01)。移植材で見ると、フラップ単独に対しCTGが+8.12(2.9–13.34、p=.004)、CTG+EMDが+4.31(0.27–12.35、p=.02)。
一方で術後の不快感(morbidity)も増えます。CAF単独に対しCAF+CTG +10.41(2.71–18.11、p=.01)、TUN+CTG +10.67(2.03–19.31、p=.02)。移植材で見てもCTG系が+9.609(2.26–16.94、p=.01)。
興味深いのは、TUNはCAFより低侵襲と考えられてきたのに、TUN+CTGでも不快感が増えたこと。著者らは「CTGの採取を伴う場合、不快感の差はもはや目立たなくなるのかもしれない」と推測しています。
そしてADMやXCMを足した群では、不快感の増加は認められませんでした。Tonettiらの報告では、移植代替材を使うほうが患者自身の痛みスコア・鎮痛薬の消費・回復までの時間で有利だったとも紹介されています。
⑥明日の臨床へ
①「よく覆えること」と「きれいに見えること」は別軸で評価する。 総合RESはCTGが勝ちますが、それはRESの総合点が根面被覆量に大きく左右される(10点中6点まで)ためでもあります。色と質感だけを見ればCAF単独が上です。
②CTGを足すかどうかは、術前の歯肉の厚みで決める。 著者らは考察で、「ベースラインの歯肉の厚みが0.82mmを超える場合、CAF単独のほうが最終RESが良かった」という自身の別のRCTを引き、厚い歯肉フェノタイプにCTGを足すと、隣接部位に比べて歯肉が不自然に見える結果になりうると注意を促しています。Stefaniniらの「歯肉の厚み1mm未満または角化組織幅1mm以下」への選択的な使用も紹介されています。
③TUNかCAFかは、審美結果を左右しない。 CTGを使うなら、術式は術者の得意・症例の条件で選んでよい領域です。
④負担の増加を、事前に言葉にする。 CTGで満足度は上がりますが、術後の不快感も同じくらい上がります。ADMやXCMなら不快感は増えません——「覆う量」を少し譲って負担を下げる選択肢が、数字として存在します。
⑤コストと患者背景も判断材料に。 著者らは「CTGは歯肉退縮治療の万能薬(panacea)と考えるべきではない」「厚い歯肉フェノタイプがあればフラップ単独でも同等の被覆が得られる」とし、患者ごとに費用対効果の評価を行うべき、さらに不安・抑うつ・ストレスといった心理社会的因子も、術後の負担感や鎮痛薬消費に影響するので考慮すべきとしています。
今日のひとこと
RT1・RT2の歯肉退縮に対する根面被覆を、審美(RES:Root coverage Esthetic Score・0〜10点)と患者報告アウトカムで比較したネットワークメタ解析(26RCT・867名・1,708退縮・26試験中15試験が低バイアスリスク)。CAF単独を基準にすると、総合RESが有意に高かったのはTUN+CTG(+0.84、95%CI 0.15–1.53)、CAF+CTG(+0.74、0.24–1.26)、CAF+移植代替材(+0.55、0.006–1.094)。CAF+CTGとTUN+CTGのあいだに差はありませんでした(+0.09、−0.54–0.72)——つまり術式(弁のデザイン)ではなく、移植材のほうが審美結果を左右していた。ところがRESの内訳を見ると逆転が起きます。CTGを足すと軟組織の質感(STT)が下がり(−0.22、−0.34–−0.08)、歯肉の色(GC)も下がりました(TUN+CTGで−0.12、−0.21–−0.03)。一方で歯肉縁の位置(GM)はTUN+CTGで+1.14、CAF+CTGで+0.68と大きく改善。患者満足度はCAF+CTGがCAF単独より高く(VASで+5.91)、CTGはフラップ単独より+8.12。ただし術後の不快感もCAF+CTGで+10.41、TUN+CTGで+10.67と増えました。ADMやXCMをCAFに足しても不快感は増えていません。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


