ペリオ|Phase2 歯周外科
歯周外科でポケットを減らしたあと、支台歯形成はいつからか。「2か月」「6か月」と諸説あるなか、1985年にWiseは15名の上顎前歯を24週間、0.18mm精度で追いました。歯肉頂は6週で一度歯冠側へ動き、そこから根尖側へ移動し、20週でようやく落ち着きます。
①歯周外科のあと、いつ本歯を入れるか
クラウンマージンは、炎症を避けるなら歯肉縁上が最善です。ただしリップラインの高い患者では、露出したマージンが審美上の問題になります。歯肉に炎症がなければ、ポーセレンのマージンを歯肉頂に置くことで審美的な要求を満たせる——という考え方が、この論文の出発点です。
問題は「歯肉頂がどこに落ち着くのか、術後しばらくは分からない」こと。マージンを歯肉頂に、あるいはわずかに溝内に置くには、歯肉頂が安定した位置を知る必要があります。
当時の見解はばらばらでした。LindheとNymanは、上顎切歯で歯肉弁根尖側移動術のあと、2か月の初期治癒で歯肉縁が根尖側へ移動し、最終診査では約1mmの歯冠側への戻りを示したと報告。ただし「どの時点で歯肉縁が安定した位置になったのかは分からなかった」のです。Schlugerらはクラウン装着の6か月前に待つことを提案し、Rosen&Gitnickは付着歯肉の上皮化が済んだらすぐに支台歯形成してよいとしていました。
②0.18mmの精度で、15名を24週間
31〜45歳の15名(男性9名・女性6名)。全員が上顎前歯部のクラウンを必要としており、1名につき1歯だけを対象にしました(中切歯8・側切歯4・犬歯2・第一小臼歯1)。1名から複数歯を測ると全体の結果に偏りが出るため、というのが理由です。仮冠は術前に歯肉縁上のレベルで製作されています。
全歯が初期治療後に外科的なポケット減少を必要とし、内斜切開による歯肉切除に結合組織のくさび状切除を加えたもの(7歯)か、歯肉弁根尖側移動術(8歯)が行われました。全例が6か月以上の術前処置を受け、辺縁の炎症がない状態。骨の整形は行っていません。
計測方法が、この論文のいちばんの工夫です。仮冠に3つの小さな刻みを付け、うち垂直に並ぶ2つで歯周プローブの軸を合わせ、3つ目にスプリング式ディバイダーの先端を置く。ディバイダーを開いて先端が歯肉頂に触れたところで止め、外して記録カードに孔を開ける。カードの孔と孔の距離を、後から実体顕微鏡で読み取るという方式です。
この設計の狙いは明確で、「記録の時点で術者が前回の値を参照できない=偏りのない計測」にすること。マネキンでの50回計測による再現性は96%、孔の平均径は0.18±0.05mmでした。1回の受診につき3回計測しています。
受診は術後4・6・8週、以降は4週ごと(12・16・20・24週)。術後は毎月45分の歯科衛生士によるプラークコントロール強化とラバーカップ研磨。歯の動揺が結果に影響していないことを確かめるため、切縁に石膏インデックスを作り隣接4歯との位置関係を検証しています。
③いったん歯冠側へ、そこから根尖側へ
術後4週を基準(0)とします。
6週:+0.23±0.387mm(歯冠側)。いったん歯冠側へ動きます。著者はこの初期の歯冠側への動きを術後の腫脹によるものと考え、6週から12週にかけての急速な収縮を説明できるとしています。
8週:−0.43±0.393mm(根尖側)。ここで向きが変わります。
12週:−0.76±0.123mm、16週:−0.89±0.110mm、20週:−0.90±0.210mm、24週:−0.90±0.130mm。16週以降は平均値がほとんど動きません。
そして著者が根拠にしたのは、平均値そのものよりもばらつきです。「20週以降で散らばりが小さくなるのが見て取れ、これは最終的な支台歯形成を術後少なくとも20週間は行うべきでないことを示唆する」。
プラークインデックスと歯肉インデックスは全例で1未満、溝の深さは8週以降すべて3mm未満——つまり炎症が原因で歯肉が動いたのではないことが担保されています。石膏インデックスでは、非連結の1歯だけが8週の再評価時に0.5mmの切縁方向の移動を示しました。
④明日の臨床へ
①「上皮化したらすぐ形成」は、この数字とは合わない。 4週から24週のあいだに、歯肉頂は平均で約0.9mm根尖側へ動きます。0.9mmは、前歯部のマージン位置としては見過ごせない量です。
②6〜8週の「戻り」に騙されない。 6週で歯冠側へ+0.23mm動いたあと、8週で−0.43mmへ転じます。この時期に「落ち着いた」と判断すると、その後1mm近く下がっていくことになります。
③目安は20週。ただし本命は「実測」。 著者が最も実践的な方法として挙げるのは、「仮冠から歯肉頂までの距離を実際に測り、その位置が少なくとも1か月安定してからクラウンを製作する」こと。20週という数字は、あくまでガイドとして使えるという位置づけです。
④仮冠を「計測器」として設計する。 この研究で使われたのは、仮冠に刻みを入れてプローブの軸を毎回そろえる、という素朴な工夫でした。同じ場所を同じ向きで測る仕掛けを最初に作っておく——これは今日でもそのまま使える発想です。
今日のひとこと
歯周外科後の歯肉頂が、いつ安定するのかを実測した研究(31〜45歳の15名・9名が男性・上顎前歯部のクラウンを要する歯を1名につき1歯だけ選定=中切歯8・側切歯4・犬歯2・第一小臼歯1)。全例が6か月以上の術前処置を受けて辺縁の炎症がない状態で、内斜切開による歯肉切除+結合組織のくさび状切除(7歯)または歯肉弁根尖側移動術(8歯)を受けています(骨の整形は行っていません)。計測は仮冠に付けた3つの刻みを基準に、歯周プローブで軸を合わせてスプリング式ディバイダーで歯肉頂までを測り、記録カードに孔を開けて実体顕微鏡で読む方式(1回の受診につき3回計測・再現性96%・孔の平均径0.18±0.05mm)。術後4週の値を0とすると、6週で+0.23±0.387mmと歯冠側へ動き、8週で−0.43±0.393mmと根尖側へ転じ、12週−0.76±0.123mm、16週−0.89±0.110mm、20週−0.90±0.210mm、24週−0.90±0.130mm。著者は、20週以降でばらつきが小さくなることから「最終的な支台歯形成は術後少なくとも20週間は行うべきでない」と結論。さらに実践的な方法として「仮冠から歯肉頂までを実測し、位置が少なくとも1か月安定してからクラウンを製作する」ことを推奨しています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


