ペリオ|Phase2 歯周外科
移植片は、血管のない根面の上でどうやって生き延びるのか。1985年、LangerとLangerがその答えとして示したのが「二重の血液供給」でした。いまも日常的に使うSCTG(上皮下結合組織移植)の、原典にあたる一本です。
①移植片は、血管のない根面の上でどう生きるのか
歯肉退縮の治療は、退縮が全顎的か孤立性かで手を変えてきました。とくに上顎は歯面が広く、複数の根面が露出した症例は長く審美的な難題でした。
Bernimoulinらの歯冠側移動弁は成功が限定的で、組織はしばしば短期間で後退し、根面の一部が露出したまま残る。歯冠側へ移動した弁は、しばしば歯槽粘膜の寸法や筋の牽引を侵し、長期の成功を妨げる。GrupeとWarrenの側方移動弁は、根面の裂開が狭く口腔前庭が十分深い場合に最も有効だが、隣接する供与組織が角化していて有茎弁として使える幅が必要——という具合に、それぞれ適応が狭かったのです。
遊離歯肉移植(FGG)は歯肉歯槽粘膜の問題と退縮の改善に新しい次元を加えました。ただし、上顎の広い露出根面上での移植片の生存は予知性が高いとは言えず、そこでMaynardは「まず角化歯肉の帯を作り、次の手術で歯冠側へ引き上げる」という2段階法を用いました。
そしてこの論文の問いです。血管のない根面の上に置かれた移植片は、いったいどこから栄養を受けるのか。
②二重の血液供給という設計
著者らの整理はこうです。有茎弁は根尖側の血液供給を保つため、無血管の根面上でも生存できる。遊離歯肉移植は、遺伝的な素因によって厚みと角化が担保された弾力のある結合組織を供給し、歯やクラウンの歯肉縁の受け皿としてふさわしい。この2つを組み合わせられることが、どちらの術式単独でも得られない柔軟性をもたらす。
「移植片の少なくとも1/2から2/3が弁で覆われていれば、覆われていない残りの部分は露出根面の上で生存する。二重の血液供給、すなわち下にある骨膜と上を覆う弁の内面からの供給が、移植片全体を養うのに十分と思われる」——これが本文の核心です。
移植片と根面の界面については「上皮が根面に密着した状態(close epithelial apposition)だろうと推測されるが、組織学的な裏づけは現時点では得られていない」と、著者ら自身が留保をつけています。
③術式——どこを切り、何を残すか
適応は5つ。①水平的な移動弁に適した供与部位がない ②孤立した幅の広い歯肉退縮 ③複数の根面露出 ④複数の根面露出に付着歯肉の不足を伴うもの ⑤歯槽堤増大も必要な欠損部に隣接する退縮。
受容側(第1段階)。2本の垂直切開を、退縮の幅より近遠心的に半歯〜1歯ぶん広く置いて部分層弁を作ります。弁の歯冠側は歯肉溝内の水平切開から始め、既存の歯根部歯肉をすべて温存。歯間乳頭はそのまま残します。弁の剥離は部分層で、既存骨と根面の上に結合組織を残すのが要点です。血液供給に深刻な影響を与える穿孔を作らないよう注意しながら、弁を歯槽粘膜移行部まで延ばします。根面は徹底したルートプレーニング以外に特別な処理をしません(時折、根面の膨隆を削合して平坦化する)。
供与側(口蓋)。覆う歯の幅の合計で長さを決めます。上顎歯の歯肉縁からおよそ5〜6mm離して水平切開を入れ、そのまま内斜切開として骨方向へ進める。その1.5〜2mm歯冠側に、平行な第2の水平切開を置き、第1切開の基部に達するまで根尖側へ進めます。口蓋骨に切り込み(score)を入れて結合組織のくさびを取り出しやすくし、必要なら水平切開の両端に垂直切開を加える。
2本の水平切開のあいだの結合組織と上皮を切除し、脂肪組織はすべて除去。これは歯槽堤増大術と対照的で、あちらでは脂肪を除去しません。さらに、供与結合組織とともに採れた上皮の帯は、露出根面を覆う部分にだけ残します——既存の上皮とのつながりが滑らかになるためです。採取する結合組織の厚みは通常1〜2mm。
採取後はただちに口蓋弁を元の位置へ縫合します。血餅が大きすぎると組織壊死を招きうるため、その大きさを減らすのが目的。創縁のあいだに空隙があればゼラチンスポンジ等を詰めて術後出血の可能性を下げます。
受容側(第2段階)。上皮と結合組織の複合移植片を露出根面の上に置いて縫合。供与結合組織と上皮を、隣接部で下床の結合組織へ4-0絹糸または5-0クロミックガットで縫合します。部分層の受容弁は、移植片をできるだけ多く覆う位置へ歯冠側移動して縫合。ただし移植片を完全に覆おうとはしません——歯槽粘膜移行部に過度の牽引を生むためです。抜糸と歯周パックの除去は術後7日目。
④4年・56症例の実績と、その読み方
「この術式は過去4年間、56症例に用いられ、安定した位置を維持してきた。根面被覆の増加は2〜6mmの幅であった」。術後のプロービング深さは、5mmの根面被覆を得た症例でも1〜3mmの範囲で、退縮の再発はありませんでした。
ただし、ここは正直に押さえておきたいところ。「根面被覆の割合(%)は記録されなかったことを付記しておく」と、著者ら自身が本文に書いています。
歯肉縁の位置は安定して見え、時間の経過とともにむしろ線維性となり、隣接組織と色調・質感で馴染む。ただし望ましい結果を得るために歯肉形成(gingivoplasty)が必要になることはある。多くの遊離歯肉移植で見られる入れ墨様・ケロイド様の外観は、この術式では起こりにくい——これが審美面での主張です。
供与側の比較も明確です。遊離歯肉移植と比べ、この術式の供与側は不快感が少なく、創が小さく、本質的に一次治癒で治り、通常は歯周パックを必要としない。ただし一次供与弁の過度の剥離は組織壊死と術後の不快感を招きうるという注意も添えられています。
もうひとつ、実務的な小ワザ。さらに歯冠側の高さが欲しい場合、新しくできた厚い角化歯肉の帯を6週後に外科的に分割し、内側の部分を歯冠側へ移動できる。既存クラウンのマージン付近に退縮が残った症例では、この二次手術で分層弁を作り、下の結合組織を歯冠側へ運んでクラウンマージンを覆うという使い方が図示されています。
⑤明日の臨床へ
①「全部覆おう」としない。 移植片を完全に覆おうとすると歯槽粘膜移行部に過度の牽引がかかります。1/2〜2/3が覆われていればよいという設計思想は、いまも弁の位置決めの基準として使えます。
②歯肉溝内切開と歯間乳頭が、血液供給の土台。 既存の歯根部歯肉をすべて温存し、乳頭を残す。ここを削ると「下からの供給」が細くなります。
③口蓋の採取は、閉じられる創にする。 5〜6mm離した第1切開+1.5〜2mm歯冠側の第2切開、脂肪の除去、採取後すぐの縫合。供与側の不快感の少なさは、この閉鎖創の設計から来ています。
④色の馴染みを売りにできる。 FGGの「当て布」のような見え方が問題になる前歯部で、SCTGを選ぶ理由がここにあります。
⑤足りなければ6週後に二段目がある。 一度で完璧を狙わず、厚みを作ってから歯冠側へ運ぶ、という発想を持っておくと選択肢が増えます。
今日のひとこと
上皮下結合組織移植(SCTG)を根面被覆の術式として記述した原典。要点は「二重の血液供給(double-blood supply)」——移植片は、下床側の非露出部に残した結合組織と、上を覆う受容弁の内面という2方向から栄養を受けるため、血管のない根面の上でも生存できる。著者らは「移植片の少なくとも1/2〜2/3が弁で覆われていれば、覆われていない残りの部分は露出根面の上で生存する」としています。受容側は歯肉溝内切開で既存の歯肉をすべて温存し、歯間乳頭を残したまま、退縮の幅より近遠心的に半歯〜1歯ぶん広い2本の垂直切開で部分層弁を形成。供与側は口蓋で、歯肉縁から5〜6mm根尖側に第1の水平切開を入れて内斜切開として骨方向へ進め、その1.5〜2mm歯冠側に第2の水平切開を平行に置いて結合組織のくさびを取り出す(採取する結合組織の厚みは通常1〜2mm)。脂肪組織は除去し、露出根面を覆う部分にだけ上皮の帯を残す。成績は4年間・56症例で2〜6mmの根面被覆の増加、退縮の再発なし、術後のプロービング深さは5mmの被覆を得た症例でも1〜3mm。ただし著者らは「根面被覆の割合(%)は記録していない」と明記しています。遊離歯肉移植と比べた利点は、供与側が一次治癒に近い閉鎖創となり術後の不快感が少ないこと、そして隣接組織との色調の馴染みがよく、遊離歯肉移植で見られる「ケロイド様」の治癒を避けられること。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


