1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

顎の筋肉の痛みに、まずスプリント?——筋・筋膜痛の患者44人のランダム化試験。3か月後、自発的な筋肉の痛みの変化は「説明とセルフケア」の群がわずかに有利。開口量・咀嚼時の痛み・頭痛は差がなかった(2012年)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

口腔顔面痛|咀嚼筋の筋・筋膜痛の患者を、説明とセルフケア指導(教育)の群と、説明をほとんど付けないスタビライゼーション・スプリントの群に分け、3か月の変化を比べたランダム化比較試験(Michelotti ほか 2012・JADA)

顎の筋肉が痛いと言われたら、まずスプリント。そう考える先生は多いと思います。この試験は、咀嚼筋の筋・筋膜痛の患者さん44人を2群に分けました。一方は病気の説明とセルフケアの指導(教育)だけ、もう一方は説明をほとんど付けずにスプリントだけ(上顎・就寝時のみ)。3か月後、自発的な筋肉の痛みの変化は2群で統計的に有意に違い(P = .034、効果量 0.33)、痛みが有意に減ったのは教育の群だけでした。一方、痛みなく開けられる最大開口量・咀嚼時の痛み・頭痛は、2群で差がありませんでした。著者らの結論は、短期間では教育のほうが「わずかに」効果的、というものです。比べた相手は「説明なしのスプリント」で、ふだんの臨床のスプリント治療とは少し違います。

論文
Evaluation of the short-term effectiveness of education versus an occlusal splint for the treatment of myofascial pain of the jaw muscles
著者
Ambra Michelotti, Giorgio Iodice, Stefano Vollaro, Michel H. Steenks, Mauro Farella(イタリア・ナポリ大学フェデリコ2世 顎関節症・口腔顔面痛外来ほか)
掲載
The Journal of the American Dental Association(JADA)2012;143(1):47-53
種類
ランダム化比較試験(ブロック割り付け、2群)。対象は RDC/TMD で筋性の顎関節症(Ia・Ib)と診断され、3か月を超えて痛みが続き、自発的な筋肉の痛みが VAS で30mmを超える患者44人(完了41人)。評価者は群を知らされていない。追跡は3か月。著者らは開示すべき利益相反なしと記載
PMID
22207667

①顎の筋肉が痛い。まずスプリントを作る?

「朝、顎がだるい」「噛むとこめかみが痛い」。診査すると、関節ではなく咀嚼筋の痛み。そんなとき、まず印象を採ってスプリントを作る。歯科ではよくある流れです。

スプリントは顎関節症でいちばんよく使われる治療です。ただ、なぜ効くのかは、実はよくわかっていません。著者らは背景で、咬合面を持つスプリントと、咬合面を持たないスプリントを比べた複数の研究で、統計的な差が示されなかったことを挙げています。効いているのは、スプリントそのものより、患者さんとの関係・説明・期待かもしれない。それがこの試験の出発点です。

結論を先に書きます。
・筋・筋膜痛の患者さん44人を、教育(説明とセルフケアの指導)だけの群と、説明をほとんど付けないスプリントだけの群に分けた
・3か月後、自発的な筋肉の痛みの変化は2群で統計的に有意に違った(P = .034、効果量 0.33)。痛みが有意に減ったのは教育の群だけ
・痛みなく開けられる最大開口量、咀嚼時の痛み、頭痛は、2群で統計的な差がなかった
・著者らの結論は、短期間では教育のほうが「わずかに」効果的
・ただし、無治療やプラセボの群なし・3か月・44人の試験。長期の効果は今後の課題と著者らは書いている

②今回の一手:「説明だけ」と「スプリントだけ」を比べる

試験を行ったのは、イタリア・ナポリ大学の顎関節症・口腔顔面痛外来です。

試験の方法
・対象:RDC/TMD(顎関節症の研究用診断基準)で筋性の顎関節症と診断された患者さん。痛みが3か月を超えて続き、自発的な筋肉の痛みが VAS で30mmを超える人。関節円板の転位、関節の痛み、直前3か月のほかの治療、1年以内のスプリント使用などは除外
・教育の群(23人):病気の説明とセルフケアの指導だけ
・スプリントの群(21人):スプリントだけ。それ以上の説明はほとんどしない
・評価:開始時と3か月後。自発的な筋肉の痛み、咀嚼時の痛み、頭痛(いずれも100mmの VAS)、痛みなく開けられる最大開口量
・評価者:どちらの群か知らされていない別の歯科医師

2つの治療の中身は、こうです。

教育の群が受けたこと
・痛みの原因として考えられることと、予後の良い、良性の病気であることの説明
・顎の筋肉の使いすぎが痛みの原因の1つになりうること
・ふだんの癖や、大きく口を動かすことを避ける。軟らかい食事をとる
・歯を接触させず、下顎を安静の位置に保つ。「N」と何度か発音し、舌を上の前歯の裏に置き、唇は軽く触れる程度
・目に入る目印を使い、家や日常の中で歯の接触に気づく練習をする
・長引く痛みと心理社会的なストレスの関係
スプリントの群が受けたこと
・上顎の全歯を覆う、硬い平らなスタビライゼーション・スプリント(ミシガン型)
・咬合高径の増加は最小限。中心咬合で対合歯が均等に同時に当たるよう調整
・使うのは就寝中だけ
・治療についての説明は最小限。ほかの教育やセルフケアの指導は付けない

どちらの群も、同じ歯科医師が治療を担当し、自分の治療について書面の説明を受けました。3か月間、3週ごとに約15分の診察があり、教育の群では続けられているかを確かめて動機づけを行い、スプリントの群ではスプリントを調整しました。期間中、薬、理学療法、咬合調整など、ほかの治療は誰も受けていません。

③参加した人:スプリントの群から3人が離脱

参加者の流れ 口腔顔面痛で紹介された 198人(9か月間) 基準を満たした 44人 → ランダムに割り付け 教育の群 23人 説明とセルフケアの指導だけ スプリントの群 21人 就寝時のスプリントだけ(説明は最小限) 3か月後に評価 23人(離脱0人) 3か月後に評価 18人 離脱3人(理由:費用) 原著の方法・結果・考察の項から作図。評価者はどちらの群か知らされていない
参加者の流れ(原著の方法と結果の項から作図)。紹介された198人のうち、基準を満たした44人を2群に割り付けた

試験を最後まで終えたのは41人です。離脱した3人(6.8%)は全員スプリントの群で、理由はスプリントの費用でした。解析は、試験を終えた41人で行われています。

開始時の特徴に、2群で統計的な差はありませんでした。自発的な筋肉の痛み(VAS)の平均は、教育の群 41.6mm、スプリントの群 39.1mm。開口量は 43.2mm と 41.5mm でした。

④結果:差が出たのは、自発的な筋肉の痛みだけ

3か月の変化:教育の群 対 スプリントの群 評価項目2群の変化の差判定 自発的な筋肉の痛み 群ごと:教育 P = .017(有意に変化)     スプリント P = .540(有意な変化なし) P = .034 効果量 0.33 差あり 教育の群で痛みが減った (著者ら:わずかに有利) 痛みなく開けられる最大開口量 全体では時間とともに有意に変化(P = .001) P = .528効果量 0.20 差なし検出力 58% 咀嚼時の痛み・頭痛 (2項目まとめての記載) 時間による変化も有意でなかった P ≥ .550 効果量 0.10以下 差なし 咀嚼時の痛み・頭痛の P値・効果量は原著の抄録の記載。試験を終えた41人の解析
4つの評価項目の結果(原著の抄録と結果の項の記載)。P値と効果量は、3か月の変化が2群で違うかの検定。原著は変化の大きさを図でのみ示し、数値を本文に載せていないため、この記事では載せていない
4つの評価項目の結果(教育の群 対 スプリントの群、3か月の変化)
・自発的な筋肉の痛み:変化が2群で統計的に有意に違った(P = .034、効果量 0.33)。群ごとに見ると、教育の群では有意に変化し(P = .017)、スプリントの群では有意な変化がなかった(P = .540)
・痛みなく開けられる最大開口量:2群を合わせた全体では時間とともに有意に変化した(P = .001)が、変化の仕方に2群の差はなかった(P = .528、効果量 0.20)
・咀嚼時の痛み・頭痛:変化に2群の差はなかった(P ≥ .550、効果量 0.10以下)。時間による変化も有意ではなかった

注意したいのは、自発的な筋肉の痛みでも、2群を合わせた全体では、時間による有意な変化はなかった(P = .197)ことです。差の中身は「教育の群では減り、スプリントの群では減らなかった」という違いです。著者らも、教育のほうが「わずかに」効果的という言い方にとどめています。

また、開口量の群間比較は、事後の検出力が58%でした。差がなかったのは、差が本当にないからなのか、人数が足りずに見つけられなかったのかは、この試験だけでは区別できません(咀嚼時の痛みと頭痛の検定の検出力は70%以上と報告されています)。

⑤なぜ教育の群で痛みが減ったのか:著者らの2つの見方

著者らは考察で、2つの説明を挙げています。どちらも著者らの推測で、この試験で確かめたものではありません。

著者らが挙げた説明
・食いしばりが続いていた可能性:スプリントの群では、治療期間中も食いしばりが続いていたかもしれない。別の研究では、昼間の食いしばりや歯ぎしりは筋・筋膜痛と結びつくという報告があり、開口の最初の3〜4mmで咀嚼筋の活動が小さくなるという筋電図の研究もある。だから「歯を離す」助言には根拠がある、と著者らは述べる
・説明と安心の効果:教育の群は、たくさんの情報と、歯科医師とのやりとりを受けた。説明と安心が、患者さんの対処の仕方や気分に働いた可能性がある

2つめの見方は、裏返すとこの試験の弱点でもあります。教育の群が良かったのが、指導の中身のおかげなのか、関わりの多さのおかげなのかは、この試験では分けられません。

⑥明日の臨床へ

著者らの結論(原著に書かれていること)
・短期間では、教育は、説明なしのスプリントより、自発的な筋肉の痛みにわずかに効果的だった
・開口量・頭痛・咀嚼時の痛みでは、2つの治療の効果に有意な差はなかった
・筋・筋膜痛の管理には、セルフケアについての患者さんへの教育と、患者さんと歯科医師の十分なコミュニケーションが、口腔内装置より効果的かもしれない
・2つの治療の長期の効果は、今後の研究で評価すべき
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・スプリントを「渡して終わり」にしない。この試験のスプリントの群は、あえて説明を最小限にした群。スプリントを使うときも、痛みの仕組みとセルフケアの説明を一緒に行う
・最初の説明に時間を取る。予後の良い病気であること、筋肉の使いすぎ、歯を離す位置(「N」の発音で確かめる方法)、日中の歯の接触に気づく目印。どれも装置が要らない
・費用の話も大事。この試験の離脱3人は、全員がスプリントの費用を理由にしていた
・スプリントがだめという結果ではない。開口量・咀嚼時の痛み・頭痛は差がなく、比べた相手も「説明なしのスプリント」だった
ここだけ、冷静に補助線無治療の群やプラセボの群がありません。著者らも、自然に痛みが減った人がいた可能性を否定できないと書いています。人数は44人(完了41人)、追跡は3か月で、痛みの頻度を見る日誌もとっていません。
著者らが検出力の計算に使った、意味のある差の目安は VAS 28mm です。自発的な筋肉の痛みの差は統計的には有意でしたが、原著は変化の大きさを数値で示しておらず、臨床的にどれほどの大きさかは慎重に読む必要があります(原著の図の目盛りを見る限り、この目安に届く差には見えない、というのは筆者の読みです)。
対象は、自発的な筋肉の痛みが VAS 30mm を超える中等度以上の痛みの患者さんで、著者らは、軽い痛みの人を含む顎関節症全体には当てはめられないとしています。離脱はスプリントの群だけに出て、解析は試験を終えた人だけで行われました。
また、ふだんの臨床ではスプリントに説明やセルフケアの指導が添えられることが多く、この試験の「説明なしのスプリント」とは条件が違います。原著では、スプリントの群の人数・年齢・性別が、抄録(試験を終えた18人)と方法の項(割り付けた21人)で違う数字になっており、教育の群の平均年齢も本文(31.4歳)と表(30.2歳)で合いません。
それでも、「スプリントを作る前に、まず説明とセルフケア」という順番を、ランダム化試験で確かめようとした1本です。装置が要らず、体も傷つけない方法が、説明なしのスプリントに負けなかった。この結果は、日々の初診の組み立てを見直すきっかけになります。

今日のひとこと

この試験が示したのは、3か月という短い期間では、説明とセルフケアの指導だけの群のほうが、説明をほとんど付けないスプリントの群より、自発的な筋肉の痛みの変化がわずかに良かったということです。開口量・咀嚼時の痛み・頭痛は差がありませんでした。つまり、スプリントがだめという結果ではありません。歯科が持ち帰れるのは、スプリントを渡すだけで終わらせず、痛みの仕組みの説明と、歯を離す・食いしばりに気づくといったセルフケアの指導を添えたいという姿勢です(ここは筆者の読みです)。44人・3か月・中等度以上の痛みの患者さんに限った結果で、長期の効果はこの試験からは言えません。

Michelotti A, Iodice G, Vollaro S, Steenks MH, Farella M. Evaluation of the short-term effectiveness of education versus an occlusal splint for the treatment of myofascial pain of the jaw muscles. J Am Dent Assoc. 2012;143(1):47-53. PMID: 22207667
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。