ペリオ|Phase2 歯周外科
フラップを閉じれば、歯肉が根面にくっついてくれる——そう思いたくなります。1980年、Nymanらは歯周炎に罹患した歯根を抜き、半分を骨に埋め、半分を歯肉結合組織で覆うという実験で、その期待を正面から否定しました。GTRという発想が生まれる直前の一本です。
①フラップを閉じたあと、根面には誰が来るのか
歯周外科でフラップを開き、根面を徹底的に清掃して、閉じる。そのあと根面に何が起きるかを、われわれはあまり具体的に想像していません。
漠然と期待するのは「歯肉が根にくっついてくれる」ことです。結合組織性の新付着(new connective tissue attachment)——そう呼ばれるものが起きてほしい。
当時、それを妨げる要因として2つが挙げられていました。①上皮が根面に沿って根尖側へ下方増殖すること、②縁下プラークが再び付いてくることです。裏を返せば、この2つを止めれば新付着が得られるはず——そういう見通しです。
ところが1980年、Karringらはこの2つを効果的に排除しても、以前に「露出」した根面に新付着は生じなかったと報告します。彼らは、支持組織の50%を失った歯根を人工的に作った歯槽窩に埋入したところ、歯周炎に罹患していた部分では根吸収とアンキローシスが起き、残りの部分では機能的に配向した付着装置が一貫して再形成されたことを示しました。
ここで残る問いが、「では、根面に接する結合組織が”骨由来”ではなく”歯肉由来”だったら、結果は変わるのか」。本研究はそれを直接確かめにいきます。
②1本の根を、4つの環境に同時に置く
実験動物はビーグル犬1頭とカニクイザル2頭、合計28歯を用いています。
まず実験的に歯周破壊を作ります。犬の下顎小臼歯には綿糸のリガチャーを、犬とサルの下顎・上顎の切歯と大臼歯には矯正用エラスティックを装着。リガチャーは毎週交換し、より縁下の位置に入れ直しながら、支持組織のおよそ50%が失われるまで留置しました。
リガチャー除去から9〜12週後、実験歯を次のように処理します。
歯冠を切除し、複根歯は分割して単根に。歯髄を除去して根管をクロロホルム+ガッタパーチャで無菌的に充填。全層弁を挙上し、根面を徹底的にスケーリング・ルートプレーニング。辺縁骨頂のレベルにノッチを付与してから、根尖側2〜3mmをダイヤモンドディスクで切除して抜去します。
移植先は顎の無歯顎部です。頬側の骨面に、根の大きさに合う溝を形成し、根をそこに埋め、フラップを戻して完全に被覆しました。
ここが設計の肝で、各根は円周のちょうど半分が骨に埋まり、残りの半分は歯肉結合組織で覆われるという配置になります。
合計48根を移植し、治癒期間2か月と3か月で各24根。8μmの連続切片をヘマトキシリン・エオジンまたはMalloryの結合組織染色で観察しました。
③同じ1本の根で、結果が正反対になる
各根は4つのゾーンに分けて評価されました。
Aゾーン=歯冠側(歯周炎に罹患していた「露出」部)で歯肉結合組織に面する/Bゾーン=根尖側(「非露出」)で歯肉結合組織に面する/Cゾーン=根尖側で歯槽骨に面する/Dゾーン=歯冠側(「露出」)で歯槽骨に面する。
なお、2か月と3か月のあいだには、時間とともに根吸収がより広範になること以外に差は見られず、犬とサルのあいだにも治癒特性の根本的な差はありませんでした。
根尖側(B・Cゾーン)=歯根膜が保存されていた部分では、根面と周囲組織のあいだのコラーゲン線維による付着が支配的な所見でした。Bゾーンでは、新しく形成されたセメント質に線維が挿入され、歯肉結合組織へと伸びている。Cゾーンでは、新生セメント質と隣接する骨の双方に線維が挿入され、機能的に配向した付着装置が再確立しています。ただしB・Cゾーンにも、根吸収とアンキローシスを伴う修復領域が認められ、多核細胞を含む吸収窩は、切断端に隣接する炎症性細胞浸潤の近くに多く見られました。
対して歯冠側(A・Dゾーン)=以前に歯周破壊を受けていた「露出」部では、適切な再生の兆候がありません。
Aゾーン(歯肉結合組織に面する)では、隣接する結合組織にコラーゲン線維は見られるものの、その主方向は根面と平行。これらの線維は、移植した根にまったく付着していませんでした。根と隣接結合組織のあいだにはしばしば裂隙(split)が見られ、結合組織細胞の層が根面近くに残ることが多い。多核細胞を含む吸収窩がAゾーンの根面に沿ってよく見られ、そして新生セメント質のde novo形成は一度も観察されませんでした。
Dゾーン(骨に面する)では、治癒は一貫して広範な根吸収とアンキローシス(置換性吸収)に終わりました。多核細胞を含む吸収窩は、根の切断面に隣接する炎症性細胞浸潤の近くによく見られています。
④「根面が悪い」のか「組織に力がない」のか
当時の有力な説明は「根面のせい」でした。in vitroの実験結果は、プラーク由来の毒性物質や炎症過程で根に残されたものが、結合組織細胞の再付着・新生セメント質形成・de novo付着を危うくする、と解釈されていたのです(Aleoら 1975)。
ところが本研究では、実験歯の歯冠側部分は、抜歯・移植の前に徹底的にスケーリングとルートプレーニングを受けています。感染した「病的」セメント質は取り除かれている。
それでも新付着は得られなかった。だから著者らはこう考えます。
「これらの面で新しい結合組織性付着が得られなかったのは、根面が細胞の付着を受け入れられないためというより、治癒組織のほうが付着を産生できないためかもしれない」。
そして、この仮定が正しければ、本実験の所見は『歯槽骨由来の肉芽組織にも、歯肉結合組織にも、根面への新しい結合組織性付着に有利な条件を確立する能力がない』ことを明らかにしている——そう結論づけました。
整理すると、こうなります。骨由来の組織は、根吸収とアンキローシスを誘導した。歯肉結合組織由来の細胞は、「露出」根面と接触はしたが、セメント質形成も結合組織性付着も誘導しなかった。そして歯根膜が残っていた部分だけが、付着を作った。
ここから先は、この論文自身は書いていません。しかし読者はもう気づいているはずです。「根面に最初に到達する細胞を選べたらどうなるか」——この問いが、数年のうちにGTR(組織再生誘導法)という技術になっていきます。
⑤明日の臨床へ
①「きれいに閉じれば付いてくれる」は成り立たない。 上皮の下方増殖もプラークも排除された条件で、それでも歯肉結合組織は根面に付着しませんでした。フラップ手術で得られるのは、主に「ポケットの減少」であって「付着の再生」ではない——そこは分けて患者に説明したいところです。
②根面清掃の目的を取り違えない。 スケーリング・ルートプレーニングをどれだけ徹底しても、それだけで新付着は生まれませんでした。清掃は「炎症を止めるため」であって「新付着を作るため」ではない。
③再生を狙うなら、細胞の由来を設計する必要がある。 歯根膜が残っている部分だけが付着を作りました。膜やメカニズムで「どの組織を根面に届かせるか」を制御する——この論文が示した方向が、その後の再生療法の骨格になります。
④骨と根面が直接触れると、癒着する。 Dゾーンの結果です。意図せず骨が根面に密着する状況(自家歯牙移植・再植・骨移植材の充填)では、置換性吸収のリスクが常に背中にあることを意識しておく価値があります。
今日のひとこと
実験的に支持組織の約50%を失わせた歯を抜き、歯冠を切除して根管充填したうえで、根の周囲の半分を顎骨の溝に埋め、残り半分を歯肉結合組織で覆うように移植した研究(ビーグル犬1頭とカニクイザル2頭の28歯・計48根。治癒期間2か月と3か月で各24根)。各根は4つのゾーンに分けて評価されました=A:歯冠側(歯周炎に罹患した「露出」部)で歯肉結合組織に面する/B:根尖側(「非露出」)で歯肉結合組織に面する/C:根尖側で歯槽骨に面する/D:歯冠側(「露出」)で歯槽骨に面する。歯根膜が保存されていた根尖側(B・C)では、新生セメント質にコラーゲン線維が挿入され、機能的に配向した付着装置が再確立しました。一方、歯周破壊を受けていた歯冠側(A)では、隣接する結合組織のコラーゲン線維は根面と平行に走り、根に付着しません。根と結合組織のあいだにはしばしば裂隙が見られ、新生セメント質のde novo形成は一度も観察されませんでした。骨に面した歯冠側(D)では、一貫して広範な根吸収とアンキローシス(置換性吸収)が起きています。結論は「歯肉結合組織には、根面への新しい結合組織性付着に有利な条件を確立する能力がない」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


