ペリオ|Phase2 歯周外科
歯肉を残したままフラップを戻すと、上皮性付着は根尖側へ降りてしまうのか。1968年、Hiattらは16頭の犬で、弁を歯から引き剥がすのに必要な力を実測しました。2〜3日で225g、1週で340g、そして2週では1,700gでも完全には剥がれませんでした。
①弁をきちんと戻せば、上皮は降りてこないのか
外科における弁の発想は、少なくとも4,000年前まで遡ります。古代ヒンドゥーの顔面変形の修復の試みに、その痕跡が見られる。16世紀の形成外科における弁法の復興はTagliacozziの功績とされ、これらの方法が後に洗練されて、今日の口腔外科で広く使われる粘膜骨膜弁になりました。
粘膜骨膜弁が提供する遮るもののない視野は、歯内療法に関わる歯、歯周欠損、それらの組み合わせ、さらには修復歯科のある側面の治療においても価値を持ってきました。そして過去数年の歯周治療の急速な進歩により、歯肉切除だけでは現在の矯正的歯周外科の要求を満たさないことが明らかになっています。
ところが、文献に膨大な数の弁法の論文が現れているにもかかわらず、粘膜骨膜性の歯周弁の治癒については、いくつかの問いが答えられないまま残っていました。
歯肉を残した場合、上皮性付着の根尖側移動は起こるのか。起こるとすればそれは問題か。初期の付着の性質は何か——上皮によるものか、それとも結合組織の再生が関与するのか。弁の根面への初期の接着はどれほど強いのか。フィブリン血餅と弁の修復の関係は。そして治癒の間、硬組織はどう反応するのか。
②16頭の犬と、テンシオメーター
ポケット形成を伴う歯周病の徴候を示す、雑種の老犬16頭が選ばれました。いずれもポケット深さは少なくとも4mmで、ポケット底はセメント-エナメル境より根尖側にあります。
術式は、上顎犬歯部に歯肉を全部残した粘膜骨膜弁を挙上。犬歯の両側に2本の垂直切開を入れ、裂けずに弁を翻転できるようにします。唇側の歯槽骨を約8mm除去し、隣接面へ側方に広げる。根面はノミで整えたのち、弁の内面を軟組織掻爬。弁を縫合し、軟組織が下の歯と骨へ適合するよう約2分間圧を維持しました。
屠殺は術後2日・3日、1週・2週・3週、1か月・4か月・6か月、そして1年。
この研究の独自性は付着の強さを力で測ったことにあります。屠殺の直前、右上顎犬歯の上で弁の接着(または付着)の強さを試験。0000絹糸のループを弁の縁に通し、弁を歯から分離するのに必要な力を計測しました。
屠殺後、上顎骨を摘出して脱灰し、上顎犬歯の領域をブロックにして組織学的に処理。歯・歯槽骨・支持軟組織を含む切片を作り、ヘマトキシリン・エオジン、van Giesonの酸性フクシン染色、またはコラーゲン用のマロリー三重染色で染めています。
③2週で、桁が変わる
2日と3日の時点では、弁の縁に通した0000絹糸に225gの張力をかけると、弁は歯と骨から分離しました。1週では340gが必要。
最大の抵抗は最初の張力で経験され、いったん上皮性付着が断ち切られると、結合組織面の下のフィブリンはほとんど抵抗を示しませんでした。
2週になると、弁を歯から完全に分離できなくなります。1,700gの力は、弁を部分的にしか剥がさないまま歯肉縁を裂いて縫合糸が抜けました。
1・4・6か月の個体では、弁が歯と支持骨にあまりに強固に付着しているため、縫合糸が組織を突き抜けても弁は完全に無傷のまま。ただし上皮性付着の領域には、組織学的にいくらかの損傷が観察されています。
④上皮は、降りてこなかった
この研究がいちばん強く主張するのは、上皮性付着の挙動です。
2日と3日の切片では、血液成分とデブリが上皮の歯への再付着を妨げていました。ところが1週までに上皮性付着は正常な外観を示し、ダウングロースや上皮細胞の増殖の増加は、この時点でも、それ以降のどの時点でも認められませんでした。
1週で歯から引き裂いた弁を顕微鏡で調べると、上皮内の裂け目はあるものの、根面に上皮細胞は残っていません。2週になると、機械的に弁を分離したあとに根面へ上皮細胞が残るようになります——上皮性付着の強さが、上皮細胞どうしの付着より強くなったということです。
そして1年後の切片。上皮性付着は脱灰切片においてエナメル基質の上にあり、新生セメント質の上へ根尖側移動していませんでした。
術後の歯肉縁の退縮は1〜3mm。いくらかのプラーク形成が根面に見られ、歯肉縁は炎症細胞に浸潤されていました。
結合組織の側も見ておきましょう。2〜3日では、弁の縁と歯のあいだにごく薄いフィブリン層が介在し、より根尖側では結合組織がずっと厚いフィブリンの集積で隔てられています。2日目には、歯槽骨と歯根膜から血餅へ毛細血管が入り込むのが観察されました。2週までに、弁・歯根膜・骨から新生結合組織の増殖が進み、フィブリン血餅の大部分が置き換わってコラーゲン線維を含むように。4週には新生結合組織性付着の形成が順調に進行し、弁の結合組織内の炎症は最小限でした。
硬組織はどうか。破骨細胞は術後3週まで辺縁の骨に見られますが、他の弁法と比べて辺縁骨の喪失は最小限。最大でも約1mmで、しかも半数未満の個体でのみ起こり、いずれの症例でも1か月までに回復していました。最も早い骨の修復は2週で観察され、3週のある個体では、翻転した弁の中で元の切開線を越えた位置に新生骨の形成が見られています。新生骨の形成はすべて骨縁から始まりました。
新生セメント質の形成は3週より前には見られません。掻爬された象牙質の活発な吸収は全個体で起こり、早いものでは2週から観察。4週目以降6か月まで新生セメント質の形成が続き、結合組織性付着の確立と象牙質面の修復に至りました。
⑤明日の臨床へ
①「適切に再適合すれば、ダウングロースは起こらない」。 著者らの結論の第2項がそのまま「準備した根面の上に歯肉を全部残して適切に再適合した粘膜骨膜性の歯周弁は、上皮性付着の増殖とダウングロースをもたらさない」です。逆に言えば、適合が甘ければフィブリンによる封鎖が期待できず、上皮は弁が根面に近接している位置まで根尖側へ増殖しうる——著者らはそう考察しています。
②フィブリンは「多いほうがいい」わけではない。 「治癒は、フィブリンの大量の集積によって遅延した」のが結論の第6項。弁が根面に強く適合しているところでは修復が加速し、弁の下のフィブリンの量が多いところでは、それを吸収して新生結合組織に置き換えるのに余分な時間がかかる。圧接して2分待つ、という記述はここに直結しています。
③生きたセメント質を残す価値。 「根面に残存する生活セメント質は、弁の治癒過程で有益かもしれない。セメント質が根から削り取られた領域では、新生セメント質の形成と結合組織性付着に先立って吸収が起こった」——結論の第5項です。ルートプレーニングを「どこまでやるか」を考えるときの、根拠のひとつになります。
④弁は骨頂を守る。 骨の喪失は最大1mm、半数未満、1か月で回復。著者らは、これを犬の他の弁法で見られるより大きな骨喪失・より少ない修復と対比させています。
⑤時計は「日」ではなく「週」で動く。 上皮の再付着が1週、結合組織の置き換えが2〜4週、セメント質は3週以降で6か月まで。術後の管理と再評価の設計を、この時間軸に合わせると辻褄が合います。
今日のひとこと
「歯肉を全部残したまま粘膜骨膜弁を戻したとき、上皮性付着は根尖側へ移動するのか」を、力の実測と組織像の両方で調べた研究(ポケット深さ4mm以上でポケット底がセメント-エナメル境より根尖側にある、歯周病に罹患した雑種老犬16頭。上顎犬歯部に2本の垂直切開で弁を作り、唇側の歯槽骨を約8mm除去して隣接面へ広げ、ノミで根面を整えたうえで弁の内面を軟組織掻爬し、縫合して約2分間圧接)。屠殺は術後2日・3日・1週・2週・3週・1か月・4か月・6か月・1年。弁を歯から引き離すのに必要な力は、2〜3日で225g、1週で340g。2週になると完全には分離できず、1,700gの力は弁を部分的にしか剥がさないまま歯肉縁を裂いて縫合糸が抜けました。1・4・6か月の個体では、縫合糸が組織を突き抜けても弁は完全に無傷のまま。そして最も重要な所見——1週の時点で上皮性付着は正常な外観を示し、その後のどの時点でもダウングロースや上皮細胞の増殖の増加は認められませんでした。術後1年の切片でも、上皮性付着はエナメル基質の上にあり、新生セメント質の上へ根尖側移動していません。骨の吸収は最大でも約1mm、しかも半数未満の個体でのみ起こり、いずれも1か月までに回復。新生セメント質の形成は3週より前には見られず、4週から6か月にかけて続いて結合組織性付着が確立されました。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


