ペリオ|Phase2 歯周外科
遊離歯肉移植(FGG)で、口蓋から採る移植片の厚みをどうするか。薄ければ早く血が通う、厚ければ縮まない——どちらも聞く話です。1981年、Mörmannらは厚さの違う4種類の移植片を同じ患者に置き、1年間の収縮と術後7日の血管造影を並べて比べました。
①薄く採るか、厚く採るか
遊離歯肉移植(FGG)で口蓋にメスを入れる直前、毎回よぎる迷いがあります。この移植片、薄く採るか、厚く採るか。
教科書的にはどちらにも言い分があります。薄ければ血が早く通う(生着が確実)。厚ければ機能的な抵抗性が得られ、縮みにくい。実際、当時は「機能的には1.5〜2.0mmが最適」という主張があり、一方で「0.5〜0.6mmの非常に薄い移植片は周囲との色調のなじみが素晴らしい」という報告もありました。
しかも厚く採れば口蓋のドナー部に深い創ができ、大口蓋動脈を傷つけるリスクが上がる。臨床家は「生着」と「収縮」と「ドナーの安全」という3つを、同じ1回のメスさばきで決めなければなりません。
そこでMörmannらは、厚さの違う移植片を同じ患者の口の中に並べて置き、1年間の収縮と、術後7日の血管造影を同時に見にいきました。
②34人の口の中で、4つの厚みを並べる
対象は、複数部位で付着歯肉が1mm未満だった患者34名(男性11名・女性23名、18〜53歳)。全員に事前にプロフィラキシスと口腔衛生指導を行い、乳頭出血指数で「軽い探針でほとんど出血しない」状態にしてから手術に入っています。
移植片は口蓋からムコトーム(機械的に振動する刃をハンドピースに装着する器具)で採取しました。
群A(11名)は、ムコトームの3設定=「very thin(M I)」「thin(M II)」「intermediate(M III)」の3枚を1人から採取。群B(23名)は、M IIとM IIIに加えて、15番メスで採ったコントロール(S)の3枚です。実測の平均厚みはM I 0.37mm、M II 0.56mm、M III 0.76mm、メス 0.92mmで、4法のあいだに有意差がありました。
受容床は骨膜上に作製し、根尖側へ2〜3mm余分に広げ、骨膜から結合組織の塊と筋線維を丁寧に取り除いています。移植片は左右の受容部にランダムに割り付け、少量のシアノアクリレートで歯肉縁に固定。延長創(歯槽粘膜側)は縫合していません——これで手術時間が約15分短縮できたと述べています。
収縮は術後14・28・90・360日にスライドゲージで垂直的(根尖-歯冠方向)に測定。別に8名(24移植片)で術後7日にフルオレセイン蛍光血管造影を行い、蛍光を発する毛細血管の面積が移植片全体の何%を占めるかを半定量的に評価しました。
③厚いほど、縮まない
移植の日から360日までの収縮率は、M I(0.37mm)45%、M II(0.56mm)44%、M III(0.76mm)38%、メス(0.92mm)30%。厚みが増すほど、きれいに収縮が減っていきます。
もうひとつ大事なのが時間軸です。収縮はどの厚みでも術後28日までに有意に進み(P<0.01)、それ以降360日まで有意な追加収縮は起きませんでした。つまり「あと何mm縮むか」は、最初の1か月でほぼ決まるということになります。
絶対量で見ると、360日時点の収縮量はメスの1.56±0.46mmに対し、M Iが2.29±0.8mm(P<0.02)、M IIが2.13±0.67mm(P<0.05)で、メスのほうが有意に少ない。ただし群A内(M I・M II・M III)では有意差が出ておらず、著者らはこれを厚みの差が小さすぎたためと考えています。ムコトームの「intermediate(M III)」とメス(S)のあいだにも有意差はありませんでした。
ここが読みどころで、収縮を決めていたのは「器具」ではなく「厚み」だという読み方になります。ムコトームだから縮む、メスだから縮まない、ではない。
なおポケット深さも歯肉縁のレベルも、術前と術後で有意な変化はありませんでした(Table 2・3)。収縮したのは移植片の高さであって、歯肉縁が下がったわけではない、という点は押さえておきたいところです。
④薄いほど、早く血が通う——ただし床しだい
収縮だけ見れば「厚く採ればいい」で終わりますが、そう単純にいかないのが生着です。
術後7日の血管造影では、薄い移植片(M I・M II)のほうが、厚い移植片(M III・S)より蛍光標識された面積が大きいという結果でした。骨膜床の上では、0.5mm厚と1.0mm厚のあいだに約30%の差が観察されています。
そしてこの研究でいちばん効いた変数は、じつは厚みではありませんでした。ある症例で、同じ0.75mm厚の移植片を、片側は骨膜床、対側は露出骨の上に置いて7日後に比べたところ、再血管化は骨膜床が約75%、露出骨が約25%。骨の上に置いた側は、血管化が著しく遅れていました。
厚さ0.5mmと1.0mmの差(約30%)より、床が骨膜か骨かの差(約50ポイント)のほうが大きい——これがこの論文の隠れた主役です。
⑤「薄すぎる」の正体は上皮だけの移植片
では薄ければ薄いほど良いのかというと、そこに落とし穴があります。
ムコトームで採れる厚みは、口蓋粘膜の弾力・口蓋の形態・切削時の指圧に左右されます。とくに口蓋粘膜が硬く、上顎第一大臼歯の口蓋根が張り出している症例では、very thin・thin設定の移植片がさらに薄くなり、組織学的に「上皮だけ」の部分ができてしまったと報告されています(論文のFigure 2a)。
移植片の術後の性格を決めるのは結合組織のほうです。移植片が上皮だけで構成されていれば上皮は壊死し、受容床は露出骨の上に置いたのと同じ条件になってしまう。
正常な口蓋上皮の厚みは約0.25mm、ばらつきを見ると0.6mmに達することもある——つまり0.5mm前後を狙って採ると、症例によっては採ったものがほぼ上皮になりかねない、ということです。
そこで著者らは、結合組織が確実に含まれるよう、ムコトームでは0.9mm設定を推奨しています。この設定で大口蓋動脈やその大枝を切断した経験はないとも明記されました。
⑥明日の臨床へ
①受容床の掃除に時間を使う。 同じ厚みでも骨膜床75%・露出骨25%という差が出ています。骨膜の上に、ゆるい結合組織の塊と筋線維を残さない床を作ることが、厚みの微調整より効きます。
②「縮む前提」で採る面積を決める。 垂直的に30〜45%縮み、そのほとんどが28日以内に起こる。角化歯肉をどれだけ残したいかから逆算して、最初に大きめに採るのが理にかなっています。
③薄さを狙いすぎない。 上皮だけの移植片は壊死します。0.9mm前後=結合組織が確実に乗る厚みを基準にし、症例によって口蓋粘膜が硬い・口蓋根が張っている場合は、薄くなりすぎていないか採取直後に厚みを確認する。
④1か月時点の見た目で、最終像をおおよそ判断できる。 28日以降は収縮が有意に進みません。「あとから縮む」より「あとから縮まない」と考えて、リカバリーの判断を早めるほうが現実に合っています。
今日のひとこと
付着歯肉が1mm未満の患者34名に、厚さの異なる遊離歯肉移植片を置き、1年間の垂直的な収縮と術後7日の再血管化を比べた研究(ムコトームの3設定=M I 0.37mm/M II 0.56mm/M III 0.76mm と、15番メスで採ったコントロール 0.92mm)。移植から360日までの収縮率は、M I 45%・M II 44%・M III 38%・メス 30%——厚いほど縮まない。収縮はどの厚みでも28日目までに有意に進み(P<0.01)、それ以降は有意な追加収縮がありませんでした。360日時点の収縮量は、メスの1.56±0.46mmが、M Iの2.29±0.8mm(P<0.02)とM IIの2.13±0.67mm(P<0.05)より有意に少ない。一方、術後7日の蛍光血管造影では、薄い移植片ほど蛍光を発する毛細血管の面積が大きく、骨膜床の上では0.5mmと1.0mmのあいだに約30%の差が出ました。さらに同じ0.75mm厚を左右に置いた症例では、骨膜床が約75%、露出骨の上が約25%と、受容床の質が厚み以上に効いています。著者らは、上皮だけの移植片は壊死して受容床が露出骨と同じ状態になるとして、ムコトームでは0.9mm設定を推奨しています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


