ペリオ|Phase2 歯周外科
フラップ手術のあと、当たり前のように歯周パックを貼ってきました。創を守り、患者さんを楽にするため——のはずです。1983年、AllenとCaffesseは、同じ患者の口の中でパックを貼る側と貼らない側をコインで決め、2か月間の治癒とアンケートを並べて比べました。
①貼るのが当たり前、の根拠はどこにあるか
歯周外科のあと、われわれは歯周パックを練ります。創を保護し、咀嚼時の痛みを和らげ、フラップを押さえる——習ったとおりの理由です。
ところが1970年代に入って、「本当に必要なのか」という問いが出はじめました。パックが治癒の質に及ぼす影響については論争があり、フラップの適合が良ければパックを省いても良好な結果が得られる、という臨床家も現れます。
そこでAllenとCaffesseは、同じ患者の口の中で、パックを貼る側と貼らない側を作るという設計で確かめにいきました。全身状態も、口腔清掃も、術者の腕も同じ——変えたのはパックの有無だけ、という条件です。
②コイントスで、片側だけパックを貼らない
対象は、ミシガン大学歯周病科で手術予定だった患者13名(男性4名・女性9名、平均46歳・24〜59歳)。全身疾患がなく、服薬もない方に限っています。
各患者から少なくとも2つ、症例によっては4つの手術部位を設定し、対側または対合の部位どうしを比較。合計30の手術部位が対象です。
手術に先立ってハイジニックフェーズ(オーバーハングの除去、スケーリング、ルートプレーニング、研磨、口腔衛生指導)を完了させ、その終了から最低1か月あけて手術しています。術式は全例が修正Widmanフラップで、同じ術者が比較する両側を手術し、フラップの適合を得ることに特に注意を払いました。
割り付けはコイントス。実験側にはパックを貼らず、対照側にはPerio Puttyを貼付します。盲検性を確保するため、パックの装着と除去は検者以外の人間が行い、術後1週で除去。抗菌薬もその他の薬剤も使っていません。
評価項目は歯肉溝滲出液量(Periotronで測定)・歯肉炎症(Löe & Silness の Gingival Index)・ポケット深さ(Hu-Friedy CP-11で1歯6点)・アタッチメントレベル(CEJを基準点に測定)、そして最後に全員へのアンケートです。
口腔清掃は、パックなし部位では術後12〜24時間から、パック部位では除去直後からブラッシングとフロスを開始。術後1週・2週・1か月・2か月にラバーカップとフロスによるプロフィラキシスを実施しました。両群とも清掃条件を揃えている点が効いています。
③ポケットもアタッチメントも、差が出ない
2か月時点で、どの部位もポケットは減っていました。頬側はパックなし0.33mm・パックあり0.53mm、舌側は1.10mm・1.27mm、隣接面は1.36mm・1.55mm。減少量はパックを貼った側のほうが一貫して大きめでしたが、いずれも統計的に有意ではありません。
アタッチメントレベルは、実験期間を通じてわずかな喪失(有意ではない)が記録され、その喪失は頬側と舌側でパック側のほうがやや大きいという結果でした。舌側と隣接面では1か月から2か月にかけてわずかな獲得に転じており、これも両群に共通しています。著者らはこれを「初期の組織の成熟不足と、その後の成熟」の反映と読んでいます。
歯肉炎症(GI)は、2週の時点でパックなし側が減少、パックあり側がわずかに増加。1か月では立場が入れ替わり、この時点のベースラインからの差は統計的に有意(P<0.05)でした。ただし2か月では両群ともベースラインを下回り、差は有意でなくなっています。
歯肉溝滲出液量は、両群とも2週で増加し、1か月・2か月と減ってベースラインを下回りました。全時点で両群に有意差はありません。
④2週目に何が起きていたか
ここで面白いのが、2週の時点で歯肉炎症と歯肉溝滲出液の動きが食い違ったことです。パックなし側では炎症が減っているのに滲出液は増え、1か月では炎症が増えて滲出液が減る。
著者らの読みはこうです。Gingival Index が見ているのは歯肉辺縁の炎症であり、2週時点でパック側の炎症が上がったのは、パックのプラーク保持性と、パック自体が軟組織に与える直接の機械的刺激で説明できる。実際、パックの下にプラークが溜まることは複数の研究で示されています。
一方、パックなし側では術後12〜24時間でブラッシングとフロスが始まっており、このプラーク減少が2週時点の炎症の低さを説明できる。
そして歯肉溝滲出液のほうは、両群で同じパターンをたどりました。2週の増加は手術侵襲そのものによるもので、内部の治癒が進むにつれて減り、2か月にはベースライン以下になる——つまり滲出液が見ていたのは「創の治り」で、GIが見ていたのは「辺縁のプラーク環境」だった、という整理になります。
⑤患者はどう感じていたか
全般的な不快感は、パックなしで強かった人が33%、パックありで強かった人が33%、差がなかった人が33%。食事時の不快感は、パックなしが20%、パックありが20%、差がなかった人が60%——つまり60%の患者にとって、不快感の程度はパックの有無と無関係でした。
好みを聞くと、60%がパックなし、40%がパックありと答えています。
そして、パックを好んだ患者の理由が示唆的です。痛みのためではなく、「手術部位が傷つけられない」「縫合糸が切れない」という心理的な安心感のためだと述べました。その本人たちも、食事時の不快感の程度はパックの有無で同じだったと認めています。
パックを使わなかった部位で、縫合糸のトラブルや出血の問題は1件も起きていません。
⑥明日の臨床へ
①パックは「治りを良くする道具」ではない。 修正Widmanフラップ後の治癒(アタッチメント・ポケット・炎症)はパックの有無で変わりませんでした。使うかどうかは、術者と患者の好みの問題という位置づけです。
②パックは術後の不快感も減らさない。 6割の患者にとって不快感は同じでした。「痛みが心配だからパックを」という説明は、この研究の範囲では根拠が薄いことになります。
③代わりに効くのはフラップの適合と早期の清掃。 著者らは「適合の良いフラップ自体が細菌侵入に対する自然のバリアとして働いた可能性」を挙げています。パックを省くなら、縫合と適合により時間をかける——その交換が本筋です。
④パックなし側は、術後12〜24時間から清掃を始めている。 パックを省くことは「何もしない」ではなく、早期の清掃を可能にするということです。この清掃が2週時点の炎症の低さにつながっていました。
⑤心理的な安心感が要る患者はいる。 4割はパックを好み、その理由は痛みではなく安心でした。そこは「必要か」ではなく「望むか」で決めてよい領域です。
今日のひとこと
修正Widmanフラップ後の歯周パックの効果を、患者13名・30手術部位で検討した研究(同一患者の対側または対合部位を、コイントスでパックあり/なしに割り付け。パックの装着と除去は検者以外が行う盲検評価)。アタッチメントレベル・ポケット深さ・歯肉炎症のいずれも、パックあり・なしで有意差はありませんでした。2か月時点のポケット減少量は、頬側0.33mm対0.53mm、舌側1.10mm対1.27mm、隣接面1.36mm対1.55mm(いずれもパックなし対パックあり・すべて有意差なし)。アタッチメントは1か月時点でわずかに喪失し、1〜2か月で再び獲得に転じましたが、これも両群で有意差なし。歯肉炎症は1か月時点のみ両群の差が有意でしたが(P<0.05)、2か月では差がなくなりました。術後の不快感はパックを外しても増えず、患者の60%は「パックなし」を好みました。パックなしで縫合糸のトラブルや出血は1件も起きていません。ただし著者らは、この研究では全例でフラップの適合に細心の注意を払っており、結論は良好な軟組織適合が得られた修正Widmanフラップに限られると釘を刺しています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


