1問1答 論文 歯周病

縁上だけ徹底したら、縁下の菌はどうなるか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

歯肉縁上の清掃は、歯肉炎には効く。では、深いポケットの底に住んでいる細菌には届くのでしょうか。「縁上をいくらきれいにしても、縁下は別世界だ」——そう教わった方も多いはずです。1996年、Hellströmらは縁下には一切触れずに30週間、縁上だけを磨き続けるという実験で、この境界線を確かめました。

論文
The effect of supragingival plaque control on the subgingival microflora in human periodontitis
著者
Hellström MK, Ramberg P, Krok L, Lindhe J
掲載
Journal of Clinical Periodontology 1996;23(10):934-940
種類
前向き介入研究(12名/30週)
PMID
8915022

縁上と縁下は、どこまで別世界なのか

プラークの形成と歯肉炎の発生が結びついていることは、確立した事実です。歯周治療後の健康維持にも、徹底したプラーク除去が欠かせない——ここまでは誰も疑いません。

問題はその先です。縁上のプラークコントロールが、歯肉縁下の細菌叢にまで影響するのか。報告は割れていました。質的にも量的にも著明な変化を誘導すると示した研究がある一方で、深いポケット(6mm以上)の患者ではその結果を確認できなかった研究も複数あったのです。

もう一つ厄介な論点がありました。縁下のデブライドメントを行うと、歯肉が退縮してポケットが浅くなるすると縁下の細菌叢の変化は、「治療そのものの効果」ではなく「ポケットが浅くなって、縁上の環境に近づいた結果」かもしれないつまり縁上環境そのものは、縁下の菌に何の影響も与えていないのではないかという反論です。

そこで著者らは、縁下には一切触れないという設計を選びました。仮説は「縁上のプラークコントロールは、骨縁上ポケットでは進行した軟組織の収縮を起こしうるが、骨縁下ポケットや根分岐部ではプロービングデプスの有意な変化は起こらないだろう」

先に結論: 縁上を磨いただけで、5〜6mmポケットの総菌数は12.3→2.8、P. gingivalis の割合は18.8%→4.8%へ減ったただし臨床的な改善の中身は、部位のタイプで分かれた

30週間、縁下には一切触れなかった

対象は中等度〜重度の歯周炎で紹介されてきた12名(男性5名・女性7名/44〜69歳・平均55歳)過去12か月間まったく歯周治療(口腔衛生指導を含む)を受けておらず、直近3か月間は抗生物質も使っていない——手つかずの状態です。

各人につきプロービングデプス5mm以上の部位を6〜8か所選び、そのうち1〜3か所が骨縁上ポケット、1〜3か所が骨縁下ポケット、1〜3か所が根分岐部(Hamp度II)となるよう配分しました。1部位につき4面でプラーク・歯肉炎・ポケット深さ・アタッチメントレベルを記録し、すべて1名の検者が測定しています。

細菌サンプルの採り方も丁寧です。縁上のプラークと歯石をスケーラーと綿球で除去し、歯面を乾燥させてから、滅菌ペーパーポイント2本をポケットへ挿入して30秒静置嫌気的に調製した輸送培地に入れ、当日中に処理して総菌数と黒色色素産生菌(P. gingivalis)を培養で同定しました。

そして介入です。ケースプレゼンテーションを行い、徹底した歯肉縁上スケーリングを実施歯ブラシと歯磨剤によるバス法を実演し、歯間ブラシとトゥースピックの使い方も指導続く30週間、週に2〜3回のプロフェッショナル歯面清掃を行いました。毎回、歯科衛生士が担当し、所要時間は約15分頬側・舌側は回転式ラバーカップ、歯間は歯間ブラシで、研磨ペーストを使って清掃しています。

この30週間、歯肉縁下の器具操作は行われていません

結果:縁下の菌は、確かに減った

0 33.3% 66.7% 100% プロービング時に出血した部位の割合(%) 100% 20% 100% 35% 100% 32% 骨縁上ポケット 骨縁下ポケット 根分岐部 縁下には一切触れず、縁上の清掃だけで得られた変化(p<0.001・12名)
プロービング時に出血した部位の割合。縁下に触れずに、ここまで動いた

まず全体の変化です。プラークのある歯面の割合は78%から、期間中を通じて約20%前後で推移歯肉炎(プロービング時出血)のあった歯面は63%からスタートし、口腔衛生と歯肉の状態は有意に改善(p<0.001)しました。

30週の時点で、全部位の71%が3mm以下の浅いポケットになり、27%が4〜6mm、7mm以上の深いポケットの頻度は2%で変わりませんでした

選択した部位に絞ると、ベースラインでは全部位が軽いプロービングで出血していたのに対し、30週では骨縁上20%・骨縁下35%・根分岐部32%まで減少(p<0.001)プラークが目に見える部位も、20%未満まで落ちています

0 6.7 13.3 20 5〜6mmポケット内の値 12.3 2.8 18.8 4.8 総菌数(×10⁵) P. gingivalis の割合(%) 淡い棒=30週後。いずれも有意に減少(p<0.05)。縁上を磨いただけで、縁下の菌の顔ぶれが変わった
5〜6mmポケットの細菌。総菌数もP. gingivalis の割合も有意に減った

そして核心の細菌データです。5mm以上のポケットで総菌数(×10⁵)が有意に減少(p<0.01)この減少は深いポケットでも浅いポケットでも、そしてポケットが浅くならなかった部位でも起きていましたP. gingivalis の割合も、すべての部位で著明に減少

5〜6mmのポケットに限って見ると、総菌数は12.3から2.8へ、P. gingivalis の割合は18.8%から4.8%へ、いずれも有意に減少(p<0.05)しました。

著者らはこの点を強調します。「この減少は、ポケット深さの減少が起こらなかった部位でも観察された」——つまり「ポケットが浅くなったから菌が減った」という説明では足りない縁上の環境そのものが、縁下の細菌叢に影響していたということです。

ただし、部位のタイプで結末が違った

臨床的な改善の中身を見ると、3つの部位はきれいに分かれます。

骨縁上ポケット(25部位)では、平均ポケット深さも平均アタッチメントレベルも有意に改善(p<0.001)。ただしその主因は歯肉退縮でした。25部位中19部位で1mm以上の退縮が起き、8部位では2mm以上1mm以上のアタッチメント獲得があったのは13部位で、1mmを超える獲得は4部位のみです。

根分岐部(22部位)では、平均ポケット深さが有意に減少(p<0.003)した一方、平均アタッチメントレベルには有意な変化なし歯肉退縮は有意に増加していました。ここでもポケットが浅くなった主因は退縮です。

骨縁下ポケット(20部位)では、平均ポケット深さにも平均アタッチメントレベルにも有意な変化がありませんでした1mmを超えるポケットの減少を示した部位はゼロ著者らの仮説どおりの結果です。

そして安全性についての記述も見逃せません治療開始後10〜20週のあいだに、4名の患者さんが疼痛と腫脹を訴えましたいずれも6〜8mmのポケットで、排膿を伴う急性病変(歯周膿瘍)これらの部位には縁下デブライドメントとルートプレーニングを行い、研究から除外しています。著者らは「およそ1100部位のうち4部位で起きた」=発生率は低いと補足しつつ、「改善した自己清掃プログラムの開始後に、こうした合併症が起こりうることは注意すべきだ」と明記しました。

ここが要点: 縁上の清掃は、縁下の菌に届く。ただし骨縁下ポケットの深さは動かない。そして深い部位では膿瘍が起こりうる——縁上だけで管理し続けることの限界も、同じ研究が示している。

明日の臨床へ

1つ目。「縁上だけでは意味がない」は言いすぎ。 縁下に触れずに、総菌数もP. gingivalis も有意に減りましたSRPの前段階で行う縁上のクリーニングと指導は、それ自体が縁下の環境を動かしている——患者さんへの説明としても、術者の納得としても使える事実です。

2つ目。それでも骨縁下ポケットは、縁上では動かない。 1mmを超えるポケット減少がゼロという結果は明快です。骨縁下欠損に対しては、縁下の処置を計画に入れる必要がある「もう少し磨いてもらってから」と先延ばしする理由にはなりません

3つ目。浅くなったポケットの中身を見る。 骨縁上でも根分岐部でも、ポケットが浅くなった主因は歯肉退縮でした。数字が良くなったからといって、付着が戻ったわけではない。再評価でポケットが浅くなっていたら、退縮の量も一緒に記録しておくと、後で誤解しません。

4つ目。深い部位を放置したままの縁上強化には、膿瘍のリスクがある。 12名中4名という数字は、部位あたりでは0.4%ほどでも、患者単位では3人に1人です。深いポケットを残したまま縁上だけ強化する期間が長引くなら、痛みや腫れが出たらすぐ連絡するよう伝えておくのが安全です。

ここだけ、冷静に補助線。 12名という小規模で、対照群がありません(同じ人の前後比較)。そして何より、この研究の「縁上プラークコントロール」は、週2〜3回・30週にわたるプロフェッショナルケアです——合計70回以上。著者らも「本試験では参加者が30週にわたり週に数回のプロによる歯面清掃と、それに伴う指導を受けた」と、先行研究との違いをここに求めています。日常臨床でこの頻度は現実的ではありません。したがって読み方は「縁上を極限まで管理すれば縁下にも届く」であって、「月1回の清掃で同じことが起きる」ではありません。また細菌の同定は培養法で、現在の分子生物学的手法とは検出感度が異なります。それでも、縁上と縁下という境界が、私たちが思うほど厳密ではないことを、縁下に触れないという禁欲的な設計で示した価値は大きい一本です。

今日のひとこと

中等度〜重度の歯周炎の12名(44〜69歳・平均55歳)が対象。過去12か月間まったく歯周治療を受けておらず、直近3か月間は抗生物質も使っていない人たちです。各人につきプロービングデプス5mm以上の部位を6〜8か所選び、その内訳を「骨縁上ポケット」「骨縁下ポケット」「根分岐部(Hamp度II)」の3種類に分けました。介入は縁上だけ徹底した歯肉縁上スケーリングと、歯ブラシ・歯磨剤・歯間ブラシ・トゥースピックの指導を行ったうえで、30週にわたり週2〜3回、歯科衛生士による専門的歯面清掃(毎回約15分)を続けました。歯肉縁下の器具操作は一切行っていません。結果、プラークのある歯面は78%から約20%へプロービング時に出血する部位は、ベースラインで選択部位の100%だったものが、骨縁上20%・骨縁下35%・根分岐部32%へ減少(p<0.001)。そして肝心の縁下細菌です。5〜6mmのポケットで、総菌数(×10⁵)が12.3から2.8へ、P. gingivalis の割合が18.8%から4.8%へ、いずれも有意に減少しました。ただし臨床的な改善の中身は部位で分かれます骨縁上ポケットではポケットもアタッチメントレベルも有意に改善(主に歯肉退縮による)、根分岐部ではポケットのみ有意に減少、骨縁下ポケットではどちらも有意な変化なしでした。

出典:Hellström MK, Ramberg P, Krok L, Lindhe J. The effect of supragingival plaque control on the subgingival microflora in human periodontitis. J Clin Periodontol 1996;23(10):934-940. PMID: 8915022
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。