エンド|根尖性歯周炎の成り立ちと、根管治療の失敗(治療後も症状なく残る根尖の透過像)の原因をまとめた、著者1人による総説(ナラティブレビュー)。記事は抄録・序論・第V章「根管治療の失敗の原因」(雑誌361〜373頁)・結びを読んで書いた(Nair 2004・Critical Reviews in Oral Biology & Medicine)
根管治療をきちんとしたつもりなのに、根尖の透過像がいつまでも消えない。Nairは、そうした「失敗」の原因を、組織の観察を中心にした研究から整理しました。著者は、失敗の多くは感染の管理と除去が十分な水準に届かない手技上の問題で起こるとしたうえで、きちんと治療した歯でも透過像が残る生物学的な要因を5つ挙げ(根尖部の根管系に残った感染・根管外の感染(おもに放線菌症)・嚢胞・異物反応・瘢痕による治癒)、そのうち根尖部の根管系に残った感染が主な原因で、ほかはまれだと位置づけています。ただし著者1人による総説で、文献の探し方は書かれておらず、引用された数字の多くは著者自身の組織学的な研究です。「主な原因」「まれ」は頻度を数えた結果ではありません。
①きちんと根管治療したのに、根尖の透過像が消えないのはなぜ?
根管治療を終えて1年、2年とたっても、根尖の透過像が小さくならない。症状は無い。拡大も充填もきちんとしたはずなのに、何が残っているのだろう。根管治療をしていれば、一度は頭を抱える場面です。
スイス・チューリッヒ大学のNairは、根尖性歯周炎の成り立ちと、根管治療の「失敗」の原因を1本の総説にまとめました(Critical Reviews in Oral Biology & Medicine 2004)。この記事では、そのうち失敗の原因を扱った第V章を中心に紹介します。
・ここでいう失敗:根管治療の後も、症状なく根尖の透過像が残る(小さくならない・消えない)こと
・失敗の多くは手技上の問題:無菌操作の不足・アクセス窩洞の不備・見落とした根管・不十分な拡大・漏れる仮封や修復など、感染の管理と除去が十分な水準に届かない場合に起こる、と著者は書いている
・きちんと治療しても透過像が残る生物学的な要因は5つ:①根尖部の根管系に残った感染、②根管外の感染(おもに根尖部の放線菌症)、③嚢胞(とくに真性嚢胞)、④異物反応(コレステロール結晶・押し出したガッタパーチャ・ペーパーポイントなど)、⑤瘢痕による治癒
・著者の位置づけ:①の根尖部の根管系に残った感染が主な原因で、②〜⑤はまれ
・注意:著者1人による総説で、文献の探し方は書かれていない。「主な原因」「まれ」は著者の評価で、頻度を数えた研究の結果ではない。引用された研究の多くは著者自身のもの
②なぜこの整理が必要だったのか
著者は序論で、根尖性歯周炎は根管の感染に続いて起こる病気で、体の防御は壊死した根管の中に陣取った微生物には届かないため、自然には治らないと説明しています。治療は、根管から感染を除き、充填で再感染を防ぐことです。
それでも根管治療は失敗することがあります。著者によれば、当時の歯内療法の教科書にも失敗の原因の全体像は書かれておらず、失敗の生物学的な原因についてのデータは、比較的新しく、あちこちの雑誌に散らばっていました。そこで、失敗の原因を1か所にまとめることが、この総説の目的の1つでした。
③どんな論文か
Nair 1人による総説(ナラティブレビュー)です。文献の探し方や選び方は書かれておらず、系統的レビューではありません。全34頁で、根尖性歯周炎の原因(第II章)、宿主の応答(第III章)、病態の進み方(第IV章)、失敗の原因(第V章)、結び(第VI章)からなります。組織切片や電子顕微鏡の写真(図1〜16)が多く載っていますが、多くは著者自身の過去の研究からの転載です。
この記事は、抄録・序論・第V章(雑誌361〜373頁)・結びを読んで書きました。嚢胞(真性嚢胞とポケット嚢胞)の定義は第IV章(雑誌358〜360頁)も確かめました。それ以外の第II〜IV章の内容は記事では扱わず、断定しません。
④著者が挙げた5つの要因
① 根尖部の根管系に残った感染:著者は、昔の根尖部の生検の研究は、ふつうのパラフィン切片だけで調べたため、根管の中の微生物を見落としていたと指摘しています。そのうえで、きちんと治療して症状のないまま残った病変を、根尖を含むブロックのまま連続切片と電子顕微鏡で調べた著者らの研究(9例)を引き、6例で根管内に微生物が見つかったとしています。菌は根尖部の側枝の中や、充填材と根管壁のすき間に塊で見つかり、6例のうち2例は酵母(真菌)でした。著者は、日常の診療ではこの割合は3分の2よりずっと高いだろうと考えています。
一方、PCRで「治らない透過像のある22歯すべての根管に細菌のDNA」を見つけた別の研究については、5歯が仮封のままだったこと、PCRは生きた菌と死んだ菌を区別できないことを挙げ、「すべての失敗が根管内の感染による」といった大きすぎる結論を避けるよう注意しています。
根管充填した歯の根管からは、グラム陽性の球菌・桿菌・糸状の細菌が主に見つかり、アクチノミセス・エンテロコッカス・プロピオニバクテリウムの仲間がよく分離されると、先行研究を引いて述べています。フェカリス菌については、水酸化カルシウムへの抵抗性などの報告を紹介しつつ、失敗の多くでこの菌が問題の病原体だということは、対照のある研究ではまだ示されていないと書いています。
② 根管外の感染:主なものは根尖部の放線菌症(アクチノミセス・イスラエリ、プロピオニバクテリウム・プロピオニカム)で、根管治療の後も根尖の炎症を続けさせうるとしています。根尖の組織に定着できる仕組みは十分には分かっていないが、まとまった集落を作ることで体の防御を逃れることが関係する、と著者は考えています。一方で、「多くの失敗は根管外の感染による」という1980年代以降の主張には、瘻孔のある膿瘍の例が混ざっていた、採取のときに根管内の菌が混入した可能性がある、PCRは生死を区別できない、といった問題があったと指摘しています。著者は、根管外の感染が起こる状況として、急性の根尖性歯周炎・放線菌症・根尖に押し出された感染象牙質の破片・感染した嚢胞(とくに根管とつながったポケット嚢胞)の4つを挙げ、それ以外の充実性の肉芽腫では一般に微生物を認めない、と整理しています。
③ 嚢胞:根尖病変に占める嚢胞の割合は報告によって6〜55%と幅がありますが、著者らが256病変を連続切片で調べた研究では、上皮を含む病変は52%、嚢胞と診断された病変は15%でした(著者自身の研究の引用)。根管とつながったポケット嚢胞は根管治療で治りうる一方、根管とつながらない真性嚢胞は、根管の中の刺激とは関係なく自ら続くため、とくにコレステロール結晶を含むものは根管治療で治りにくいだろう、と著者は考えています。
④ 異物反応:根尖病変の中にできたコレステロール結晶は、マクロファージや多核巨細胞に囲まれても分解されず、異物反応を続けさせうるとし、モルモットの実験で8か月たっても結晶が除かれなかった研究を引いています。根管の外にある結晶は、根管からの再治療では取り除けないと著者は書いています。ほかに、押し出したガッタパーチャの細かい粒子やタルクで汚れたガッタパーチャ、ペーパーポイントや綿栓のセルロース、豆類などの食べ物、アマルガムやシーラーの成分も、異物反応を起こしうる例として挙げています。
⑤ 瘢痕による治癒:病変が瘢痕組織で治った場合、X線では透過像が残り、失敗と見誤られることがあるとしています。
そのうえで著者は、きちんと治療した歯の失敗の主な原因は、根尖部の根管系に残った微生物の感染で、根管外の放線菌症・嚢胞・異物反応・瘢痕による治癒による失敗はまれだとまとめています。
⑤結果の読み方
この総説の強みは、組織の連続切片と電子顕微鏡で根尖部を丁寧に調べた研究にもとづいて、「なぜ透過像が残るか」を具体的な形で示している点です。一方で、主な原因とする根拠の中心は9例の生検の研究で、「主な原因」「まれ」は著者の評価です。5つの要因がそれぞれどれくらいの割合を占めるかを数えた研究ではありません。
著者は結びで、根尖性歯周炎は根管の感染の病気であり、治療の重点は感染の管理と除去に置くべきで、近年は機械的な側面ばかりに目が向いている、と述べています。分子生物学的な方法の使い方には慎重さが要るという指摘も繰り返しています。
⑥明日の臨床へ
ここから筆者の読みです。根管治療の後に透過像が残ったとき、まず「根尖部の根管系に感染が残っていないか」を疑う。その手前で、アクセス・見落とした根管・拡大・仮封や修復の漏れといった手技の見直しを考える。この総説は、その順番を示す地図として使えます。
そのうえで、真性嚢胞・コレステロール結晶・押し出した異物のように根管の外にある要因は、著者によれば根管からの再治療では取り除けない、あるいは治りにくいものです。ただし、この総説は再治療と外科的歯内療法などの治療法を比べたものではなく、どの治療を選ぶべきかは示していません。また、X線だけでは嚢胞かどうかを見分けられないと著者自身が書いています(ここまで筆者の読み)。
⑦ここだけ補助線
・総説(ナラティブレビュー):著者1人による整理で、文献の探し方や選び方は書かれていない。新しい実験や患者の調査は含まない
・評価の根拠:「主な原因」「まれ」は著者の評価で、要因ごとの頻度を数えた研究の結果ではない。主な根拠は著者らの9例の生検の研究
・引用の偏り:引用された研究の多くは著者自身のもの。2004年の論文で、その後の研究は含まない
・読んだ範囲:この記事は抄録・序論・第V章・結びを読んで書いた。第II〜IV章(病因・宿主の応答・病態)は扱っていない
・資金・利益相反:原典に記載は無い
それでも、透過像が残ったときに何を疑うかを考える出発点として、今も読まれる1本です。
今日のひとこと
消えない根尖の透過像について、著者は、根尖部の根管系に残った感染・根管外の感染(おもに放線菌症)・嚢胞・異物反応・瘢痕による治癒の5つを挙げ、根尖部に残った感染が主な原因で、ほかはまれだと位置づけました。手技上の問題が失敗の多くを占めるという前提のうえでの整理です。著者1人の総説で、「主な」「まれ」は頻度を数えた結果ではありませんが、透過像が残ったときに何を疑うかの地図になる1本です。


