エンド|1981〜1989年に香港の大学病院で、根管治療をしていない生活歯にメタルセラミッククラウンの単冠、または固定性ブリッジの支台装置を入れた患者を呼び戻し、診察とデンタルX線で歯髄壊死の徴候(根尖の透過像・歯根膜腔の拡大・根管治療)を調べた後ろ向きコホート研究(Cheung 2005・International Endodontic Journal)
クラウンやブリッジを入れて何年もたってから、支台歯の根尖に透過像が出てくる。Cheungらは、生活歯に入れたメタルセラミッククラウンの単冠と、固定性ブリッジの支台とで、歯髄がどうなったかを長期にさかのぼって調べました。歯髄壊死の徴候は単冠122本中19本(15.6%)、ブリッジの支台77本中25本(32.5%)で、10年の歯髄の生存の推定は84.4%と70.8%、15年では81.2%と66.2%でした(ログランク検定 P<0.005。壊死の推定割合の比は10年 約1.9・15年 約1.8=筆者の計算・調整なし)。ブリッジの支台では上顎の前歯で多い結果でした(33本中18本、それ以外の支台44本中7本との比 約3.4=観察期間全体の割合からの筆者の計算・調整なし)。ただし呼び戻しに応じたのは対象の4割弱で、歯髄の状態はX線と症状から判断しており、歯髄検査ができない歯が多かったと著者ら自身が書いています。
①ブリッジの支台歯の歯髄は、単冠より失われやすい?
生活歯にクラウンやブリッジを入れて何年もたってから、支台歯の根尖に透過像を見つける。補綴物はしっかり付いているのに、中の歯髄は失われていた。そんな経験はないでしょうか。
香港大学のCheungらは、生活歯に入れたメタルセラミッククラウンの単冠と、固定性ブリッジの支台とで、その後の歯髄がどうなったかを、長い期間さかのぼって調べました(International Endodontic Journal 2005)。
・対象:1981〜1989年に香港の大学病院で、根管治療歴の無い生活歯に入れたメタルセラミッククラウン単冠122本と、固定性ブリッジ(47ブリッジ)の生活歯の支台77本。呼び戻して診察とデンタルX線で調べた後ろ向きコホート研究。平均観察は単冠169か月・ブリッジ187か月
・歯髄壊死の徴候(歯根膜腔の拡大・根尖の透過像・根管治療が行われた):単冠122本中19本(15.6%)、ブリッジの支台77本中25本(32.5%)。差はカイ二乗検定で P=0.005
・歯髄の生存の推定(カプラン・マイヤー法):10年で単冠84.4%・支台70.8%、15年で81.2%・66.2%(ログランク検定 P<0.005)。壊死の推定割合の比は10年で約1.9(29.2÷15.6)、15年で約1.8(33.8÷18.8)(筆者の計算・調整なし)
・ブリッジの支台では上顎の前歯で多かった:33本中18本(54.5%)。歯の種類との関連は P=0.008 と報告(6歯種全体の検定(自由度5)で、上顎の前歯とそれ以外の比較の検定ではない。多重比較では P=0.005 を基準にすると書かれており、補正の扱いは原典からは分からない)
・注意:呼び戻しに応じたのは対象の4割弱。歯髄検査ができない歯が多く、歯髄の状態はX線と症状から判断した
②なぜ調べる必要があったのか
クラウンやブリッジを入れる歯は、それまでにう蝕・歯周病・修復を重ねていることが多く、さらに支台歯形成が加わります。補綴の失敗の調べ方は「作り直したかどうか」が中心で、歯髄の合併症は数えられていないことが多かった、と著者らは指摘しています。
それまでの報告(原典の表1)も、横断的な調査や平均の観察期間だけを示したものが多く、単冠とブリッジの支台とで歯髄の経過を比べた情報は乏しかったといいます。そこで著者らは、生活歯に入れた単冠とブリッジの支台で、歯髄壊死がどれくらい起き、何が関係するかを調べました。
③どんな研究か
対象は、香港の教育病院(プリンス・フィリップ歯科病院)で1981〜1989年に、根管治療歴の無い生活歯へメタルセラミッククラウンの単冠、または固定性ブリッジ(接着ブリッジは除く)を入れた患者です。記録から単冠872本・ブリッジ241個が見つかり、その約半数を登録番号の1人おきに選び、条件に合う単冠284本・ブリッジ102個の患者を呼び戻しました。
診察に来たのは、単冠が79人114本、ブリッジが33人38個です。これに、記録上すでに失敗していた単冠8本・ブリッジ9個を加え、単冠122本と、47ブリッジの生活歯の支台77本を解析しています。
診察では、打診・触診、可能なら冷刺激による検査と電気歯髄診をし、平行法のデンタルX線を撮りました。ただ、全部被覆の歯では歯髄検査ができないことが多く、歯根膜腔の拡大(側方の2倍まで)・根尖の透過像・根管治療が行われていることを、歯髄が失われた徴候として扱っています。X線は較正した2人が判定し、一致はκ=0.79でした。壊死の時期は、失敗と診断された日と、最後に問題が無かった日の中間としています。
④結果:10年で単冠84.4%、ブリッジの支台70.8%
歯髄壊死の徴候は、単冠で122本中19本(15.6%)、ブリッジの支台で77本中25本(32.5%)に見られ、差はカイ二乗検定で P=0.005 と報告されています。単冠では、壊死は装着の6か月後から188か月後まで、支台では2か月後から176か月後まで見られました。
カプラン・マイヤー法で推定した歯髄の生存は、10年で単冠84.4%・ブリッジの支台70.8%、15年で81.2%・66.2%でした(ログランク検定 P<0.005)。観察期間の長さは群で違うので(平均169か月と187か月)、比は同じ時点の推定から計算しました。壊死の推定割合の比(ブリッジの支台÷単冠)は10年で約1.9、15年で約1.8です(筆者の計算・調整なし)。
ブリッジの支台を歯の種類で分けると、上顎の前歯が33本中18本(54.5%)と多く、歯の種類との関連は P=0.008 と報告されています(6歯種全体の検定(自由度5)で、上顎の前歯とそれ以外の比較の検定ではない。多重比較では P=0.005 を基準にすると書かれており、補正の扱いは原典からは分からない)。上顎の前歯以外の支台は44本中7本(15.9%、筆者の合計)で、比は約3.4です(観察期間全体の割合どうしの比で、追跡期間の違いを考慮していない記述的な計算・調整なし)。歯の種類ごとの全行は図2のとおりです。
単冠では、性別・ピン・歯の種類・もとの修復・骨の高さ・クラウンを作った理由・セメント・術者・DMFT・仮歯の期間のどれとも関連は見られませんでした。ブリッジの支台でも、歯の種類以外の項目(性別・術者・もとの修復・ピン・覆髄・理由・骨の高さ・セメント・設計・仮歯の期間)との関連は見られませんでした。支台装置の種類(原典の表5)では、メタルセラミックの支台45本中19本(42.2%)、全部鋳造金冠の支台28本中6本(21.4%)、部分被覆冠3本中0本、アンレー1本中0本でした(本数の多い2種類の比は約2.0=42.2÷21.4、観察期間全体の割合どうしの比で、追跡期間の違いを考慮していない記述的な計算・調整なし。この比較の検定は報告されていません)。
失敗の理由をみると、単冠の失敗34本のうち19本(55.9%)、ブリッジの失敗30個のうち20個(表4の件数「歯内の理由のみ14個」と「脱離を伴う6個」の14+6を筆者が合計した値。原典の本文は22個と書いており一致しない)が歯内の理由で、どちらも失敗の理由の第1位でした。
⑤結果の読み方
著者らは、単冠の生活歯髄の生存はブリッジの支台より有意に高く、ブリッジの支台では上顎の前歯で歯髄壊死が多かったと結論しています。ブリッジの支台で多い理由として、平行性をとるために形成量が増え、手技の侵襲が大きくなるのかもしれない、と考察しています。これは著者らの推測で、形成量をこの研究で測ったわけではありません。
また著者らは、歯髄の合併症は装着後の数年に限らず、ゆっくりにはなるものの長く続いて起きていたと述べています。装着の直後に壊死した歯については、術前の検査では分からない無症状の歯髄炎がすでにあったのかもしれない、と考察しています。
予防として著者らは、①術前の歯の状態を丁寧に評価する、②支台になる歯がう蝕も修復も無い健全な生活歯なら、接着ブリッジやインプラントも検討する、③削りすぎ・発熱・乾燥を避け、歯髄への侵襲を最小にする、④最終補綴が入るまでの間、歯髄を十分に保護する、の4点を挙げています。これらは著者らの提案で、この研究で効果を比べたものではありません。
⑥明日の臨床へ
ここから筆者の読みです。生活歯を支台にする補綴、とくにブリッジの支台では、この研究では10年で約3本に1本弱(原典の10年の生存の推定70.8%から筆者が計算した 100−70.8=29.2%)に歯髄の失敗の徴候が出ていました。装着後の定期検査で、補綴物だけでなく支台歯の根尖までX線で見ていく、という基本の大切さを示す数字です。
健全な歯を支台にするかどうかを患者さんと話すときにも、長い目で見た歯髄の経過の目安になります。ただし、1980年代の教育病院で入れた補綴で、呼び戻しに応じたのは4割弱、歯髄の状態はX線と症状からの判断です。今の形成や材料にそのまま当てはまるとは限りません(ここまで筆者の読み)。
⑦ここだけ補助線
・後ろ向きの研究:補綴の種類は無作為に分けたものではない。単冠は上顎の前歯が多く、支台はいろいろな部位に分かれていて、歯の種類などを同時に考慮した解析は無い
・呼び戻しに応じた割合が低い:単冠で約4割、ブリッジで約3分の1。記録上の失敗例は含めたため、失敗が多めに入った可能性があると著者ら自身が書いている。一方、症状もX線の変化も無い壊死は見逃されうるとも述べている
・歯髄の判定:歯髄検査ができない歯が多く、X線(歯根膜腔の拡大・透過像)と症状、根管治療の有無から判断した
・時代と場所:1981〜1989年に香港の教育病院で、学生から教授までが入れた補綴
・有意水準:多重比較では P=0.005 を基準にすると書かれており、歯の種類の P=0.008 を関連ありとした扱いはやや分かりにくい(筆者の読み)
・資金・利益相反:原典に記載は無い
それでも、支台歯の歯髄の経過を長く見続ける理由を、数字で示してくれる1本です。
今日のひとこと
生活歯に入れた補綴を長く追った後ろ向きの研究で、歯髄壊死の徴候はブリッジの支台で32.5%、単冠で15.6%に出て、10年の歯髄の生存の推定は70.8%と84.4%でした(10年の壊死の推定割合の比 約1.9=筆者の計算・調整なし)。壊死は装着の数か月後から15年近くたってまで起きていました。呼び戻しに応じた割合が低い、X線と症状からの判断、といった限界はありますが、生活歯を支台にするとき、何年先まで歯髄の経過を見るかを考えさせる1本です。


